ナベヅル・マナヅル分散プロジェクトの紹介


現在出水では1万羽を越えるツルが
集中して越冬している

ナベヅル・マナヅルの分散プロジェクトは,出水に一極集中して越冬しているツル類を国内外の広範囲に分散して越冬するようにすることを目的としています。
ナベヅルは世界中の8~9割が,マナヅルは5割前後が出水で越冬しています。このように多くの個体が出水に一極集中し,狭い場所に多くの個体がひしめきあってねぐらをとっているので,伝染病が発生した場合に病気が一気に蔓延してしまう危険性が高まっています。多くの越冬地があれば,ある1つの越冬地が大きな打撃をうけても,ほかの越冬地で個体数を回復することができますが,特定の越冬地に集中しているとその打撃がそのまま絶滅につながってしまうことが危惧されているのです。


韓国浅水湾でトモエガモ10,000羽以上が鳥コレラで死亡した。もしこのようなことが出水のツル類でおきれば,ナベヅル・マナヅルが絶滅に向かってしまうおそれもある(写真: Kim Hyun-Tae)

大量死のリスクを小さくするためには,給餌に依存しないツル類の小群が,広い範囲に分散して越冬するようになるのが望ましいと考えている
(イラスト:宮坂克己)

最近,それを実証するかのような大量死が相次いで起こりました。2000年10月には韓国の浅水湾で10,000羽以上のトモエガモが鳥コレラにより死亡しました(詳細はこちら)。2002年12月には、総個体数が1,000羽ほどしかいないクロツラヘラサギのうち73羽が,やはり集中越冬地の台南でボツリヌス菌による中毒で死亡したのです。
このようなにツルと同じく集中して越冬しているほかの水鳥で大量死がおきている以上,ツル類でも起きる危険性は高いといえます。早急にツル類を出水からほかの地域へ分散させる必要がでてきたのです。

とはいえ,相手は野生動物のツルです。こちらの意図どおりに動いてはくれません。人間側としてできることは,地権者との合意を図りながらツルが越冬できる環境をつくり,そこにツルを誘導していくなど地道な取組みが必要になります。日本野鳥の会では,環境省,農林水産省,文化庁など関連する省庁と連携しながら,ツル類の越冬分散地をつくることを検討している自治体や住民の皆さんとともに分散候補地の整備とツルの誘引を試みることにしました。そして,分散候補地を各地に広げていくために,パンフレット作成やシンポジウムの開催などの普及活動を2003年度から開始しました(詳細はこちら)。