カンムリウミスズメ人工巣設置実験

カンムリウミスズメ人工巣設置実験

設置後の経過と現状

背景と目的

カンムリウミスズメは、過去には伊豆諸島のほとんどの島で繁殖していたらしいとされています。しかし1980年代以降も繁殖しているとされるのは、新島(にいじま)の根浮岬(ねぶざき)と早島(はんしま)、神津島(こうづしま)の祗苗島(ただなえじま)と恩馳島(おんばせじま)、三宅島(みやけじま)の大野原島(おおのはらじま)、御蔵島(みくらじま)の元根(もとね)、八丈島(はちじょうじま)の小池根(こじね)、それに鳥島(とりしま)の8ヶ所です。昔から比べると、繁殖地は限られた島だけに減少しています。
こうしたことから、繁殖地の減少をくい止めるとともに、繁殖数の増加を図るため人工巣の設置実験に着手しました。
本種の人工巣設置はこれまでにあまり例が無く、成功した事例もありません。また伊豆諸島とその周辺においては、今回が初めての試みとなります。

▲先頭へ

実験地の神子元島

◎神子元島の概要

神子元島(みこもとじま)は伊豆諸島に隣接する伊豆半島にあり、伊豆諸島の最寄りの繁殖地である新島の根浮岬から約35kmの距離があります。静岡県下田市に属しており、下田港から南へ約11kmの沖合です。
島の周囲は約2km、標高約30mで北西から南東にやや長細い形の無人島です。樹木は生えていなく、一部にスゲ類などの草本類が茂っています。島の中央には日本最古の石造り灯台で文化財にもなっている神子元島灯台があります。この灯台は1871年に点灯しており、1976年までは職員が常駐していましたが現在は無人となっています。


神子元島全景

◎過去の営巣状況

神子元島では1940年頃からカンムリウミスズメの繁殖が知られており、1983年の調査では、灯台周辺の石垣2か所で卵殻3個、岩の割れ目で1巣が確認されています。これより昔の営巣数を伺うデータはありませんが、灯台の建設にともない島中央部の地形は改変されたと思われます。また建設やその後の運用のための物資搬入にともない、ネズミ類も侵入した可能性があります。これらのことから、古くはカンムリウミスズメが多く営巣していた可能性も考えられます。


神子元島中央部の灯台関係施設

◎近年の営巣状況

83年以降では、95年に調査が行われていますが繁殖は確認されませんでした。その後の調査は行われず、2010年になり当会が2月から5月に5回の上陸をして、夜間滞在も含めて延べ30時間の踏査を行いました。その結果、3月23日に卵殻1個を発見したものの、巣を確認することはできませんでした。このことから、83年に比べ、繁殖数は少なくなっていると考えられます。


2010年3月23日に発見した卵殻

◎周辺海域の生息状況

2010年の2月から6月にかけて、神子元島の周辺海域でチャーター漁船を用いた洋上の個体数調査を6回、延べ35時間行いました。その結果、4月20日に最大の90羽を確認しました。洋上の個体数調査では、ダブルカウントを避けるように調査船のコースを設定しています。また洋上にいるすべての個体を発見することは難しいため、神子元島の周辺海域には、百羽以上のカンムリウミスズメが生息していると推測されます。


神子元島周辺での洋上調査

◎捕食者の状況

過去にネズミ類やは虫類が生息していたという記録はありません。しかし灯台建設以降にネズミ類の侵入が疑われるため、2010年4月から5月に無人pカメラやフットプリントによる調査を行いました。その結果、生息は確認できず、ネズミ類はいないかいたとしても非常に少ないと考えられました。また2010年の5回の上陸調査で、は虫類の生息も確認していません。
その他の捕食者としては、ハヤブサ、ハシブトガラス、カモメ類を確認しています。


フットプリントの回収と確認作業

◎営巣場所の状況

現在の神子元島には、巣をかけそうな岩の隙間や割れ目、穴を作れそうな草地がほとんどありません。また83年に営巣が確認されている灯台周辺の石垣は、あちこちで崩れてきています。
周辺海域には生息していながら、捕食者のネズミ類がいない中で営巣数も少ないのは、営巣に適した場所が少ないためではと推測されます。


卵殻を発見した岩場

◎上陸や資材運搬の状況

無人島ですので港はありませんが、灯台があるため東側と西側に小さな船着き場があり、上陸や荷揚げが可能です。西側の船着き場は入り江の中にあり、波がやや高くても比較的安全に揚陸ができます。下田港から専用の渡船「みこもと丸」が出ており、約30分で到達できます。渡船の利用者は釣り客が中心ですが、灯台保守の作業員や資材の運搬も行っています。船着き場から灯台までは歩道も整備されています。


西側の船着き場とみこもと丸

◎実施地の選定

以上のように、神子元島では以前には営巣数が多かったが近年は減少していると考えられること、周辺の海上には生息していること、捕食者のネズミ類が確認できないこと、現在は営巣に適した場所が少ないこと、伊豆諸島の他の繁殖地に比べ上陸や資材運搬が容易であることから、この神子元島を実験地として選定しました。

▲先頭へ

人工巣の資材

◎資材選択の条件

カンムリウミスズメは岩の割れ目や隙間、草の根元の穴などに巣を作りますので、人工巣も岩の割れ目や土の穴に似たようなものが適していると考えられます。また神子元島には電気も自動車もありませんから、すべて人力で陸揚げし、島の上部に担ぎ上げ、手作業で設置できるものでなければなりません。
一方で洋上の離島ですから風は強く、波しぶきもかぶりますので、暴風にも飛ばされることが無く、しかも耐候性も必要です。さらに神子元島は富士箱根伊豆国立公園内であり、文化財の指定もされていますので、土木工事や工作物の設置は規制を受けます。当然ながら、廃棄物を出すようではいけません。


神子元島の船着き場から続く階段

◎ケーブルトラフを使用

これらを勘案していろいろ探した結果、鉄道の線路沿いにケーブルを敷設するために使うコンクリート製U字溝「ケーブルトラフ」を使うことにしました。U字溝を裏返して地面に置き、片側をコンクリートブロックで塞げば岩穴のようになります。暴風にも強く耐候性もあり、土木工事も必要ありませんし、余計な廃棄物も出ません。
またケーブルトラフは道路の側溝用のU字溝に比べ軽く、一人でも担ぎ上げられます。長さや幅も幾つかあり、直線やT字分岐用など形も選べます。これを利用し、穴の長さを変えたり、入り口は狭く奥は広いなど幅にも変化をつけることも可能です。


ケーブルトラフ

ケーブルトラフのサイズの違いを利用し、穴の長さや幅が違う巣穴を5種類、各2基ずつで計10基準備しました。直線型の巣穴が次の1~3、奥側がT字形に拡がる巣穴が4~5の2タイプです。U字溝の数としては18個で、総重量は390kgになります。それぞれのサイズは、以下のとおりです。
(1)幅20cm×高さ17cm×奥行き100cm
(2)幅30cm×高さ25cm×奥行き100cm
(3)入り口は幅15cm×高さ12cm×奥行き90cmで、奥は幅30cm×高さ25cm×奥行き40cm
(4)入り口は幅20cm×高さ17cm×奥行き100cmで、奥が幅50cm×高さ17cm×奥行き36cm
(5)入り口は幅30cm×高さ25cm×奥行き50cmで、奥が幅60cm×高さ25cm×奥行き47cm

▲先頭へ

人工巣の設置場所

◎用地と許認可

神子元島の土地所有は、灯台のある中央部が海上保安庁、岸近くの周辺部は下田市になります。今回の人工巣設置予定地はちょうど中央部と周辺部の境界付近でしたので、下田海上保安部と下田市それぞれに土地使用を申請して許可をいただいています。
文化財の指定地内へ設置については、下田市教育委員会に現状変更願を提出して許可いただきました。また国立公園内への設置では、静岡県賀茂農林事務所に了解をいただきました。この他、環境省関東地方環境事務所、文化庁記念物課、静岡県教育員会からご助言をいただきました。

◎設置位置

5種類の巣穴を1基ずつ、南北に直線距離で約100m離れた2ヶ所に分けて設置しました。どちらの設置位置も風当たりが比較的弱い島の東側で、標高は約20m。草本類が生えているところで、しぶきはかかるかもしれませんが、波をかぶることはほぼ無さそうなところです。
南側の設置位置は海岸の崖まで約30m、北側の設置位置は海岸の崖まで約15mで、どちらも海岸の崖までに障害物はありません。南側の設置位置は開けた斜面下の平坦地で、北側の設置位置は小さな谷間の平坦地です。どちらもわずかに海側に向けて傾斜しています。


画像:国土画像情報〔カラー空中写真〕
(国土交通省)

▲先頭へ

人工巣の設置作業

◎実施時期

伊豆諸島や伊豆半島海域へカンムリウミスズメが渡来するのは2月からで、営巣期は3~5月です。またU字溝で簡単に設置できるとはいえ、隙間ができたりぐらつかないように地面を整えたりしますので、作業は渡来期よりだいぶ前に完了させておいた方がよいと考えられます。設置後に風雨などで不具合が生じないか確認する期間も必要と考えられました。
一方、冬になると季節風が強くなり、海が荒れる日が多くなります。海が荒れると神子元島に渡ることができません。これらの条件を勘案して、設置作業は2010年9月15日に実施しました。

◎資材の搬入

設置作業前日に、無人島上陸や磯場での経験がある当会職員7名が下田市に到着。夕方、メーカーからU字溝が下田港の岸壁に配達されてきました。その重量は390kg。それにコンクリートブロックや運搬のための背負子、さらにスコップ、クワなどの道具類と7人分の飲料水や食料などを加えると、船積みする総重量は500キロ近くです。これを当日早朝に手渡し作業でみこもと丸に積み込みました。
作業当日は東の風が強く、海上は2mぐらいの波が立ち、荒れ模様でしたが、神子元島の西の入り江はちょうど風下になり穏やかでした。みこもと丸の舳先から手渡しで資材を陸揚げし、その後は背負子でU字溝を担いで設置場所まで運搬を行いました。

【動画】資材搬入の様子 ※風の音が激しいのでご注意ください

◎設置

設置場所はほぼ平坦ですが、いくらか傾斜があり石も多いので凹凸もあります。そのため、まずクワとスコップでU字溝を置いても隙間やがたつきが出ないように石を取り除き整地しました。使用許可を受けている面積は広くないので、隣り合うU字溝で側面の開口部を塞げるように密接して配置します。巣穴の向きは、風があまり吹き込まないように南北方向とし、交互に南向き、北向きと振り分けました。
配置後は、整地の際に取り除いた石をU字溝の上や周囲に並べ、自然の岩場に近づくように配慮しました。また巣穴の入り口も、カラス類やカモメ類が入らないように石を並べて狭くしました。
最後に、時折上陸する釣り人などへ優しく見守るように呼びかける表示板を設置し、作業は完了です。陸揚げから完了まで4時間ほどの工程でした。

【動画】南側での設置の様子※風の音が激しいのでご注意ください

▲先頭へ

経過観察と評価

設置後は定期的に人工巣を巡回し、巣として利用されているか、修繕の必要があるかなどを点検しています。2013年まで利用状況を調査し、その結果をもとに今回の実験を評価し人工巣の設置場所や構造を改善していく予定です。
今回の人工巣設置は、下田市教育委員会と下田海上保安部のご協力によりに実現しました。また資材の運搬には(株)伊豆下田フィッシングのご協力をいただきました。

▲先頭へ