北海道根室フレシマでの風力発電所計画建設計画に対し意見書を提出しました

北海道根室フレシマでの風力発電所計画建設計画に対し意見書を提出しました

2012.05.11

公益財団法人日本野鳥の会(事務局:東京、会長:柳生博、会員・サポーター数約5万人)は2012年5月10日、絶滅のおそれのある鳥類の生息に対して影響を与えると懸念される、根室市フレシマにおける風力発電所建設計画に関して、適切な環境影響評価が行われるための調査手法を提案する観点から、事業者である電源開発株式会社に対して意見書を提出しました。

今回の計画は、電源開発株式会社が北海道根室市別当賀と初田牛を結ぶ太平洋岸の海岸段丘上に風力発電施設(以下、風車という)を設けようとするものですが、同計画地は、日本野鳥の会が所有する渡邊野鳥保護区フレシマ(面積203.7ha)に近接する、湿原と草原、湖沼からなる、数少ない北海道的な原風景が残された希少な場所です。

また、当会は同計画地において、

  • オジロワシ(国内希少野生動植物種、天然記念物、絶滅危惧ⅠB類)
  • オオワシ(国内希少野生動植物種、天然記念物、絶滅危惧Ⅱ類)
  • タンチョウ(国内希少野生動植物種、特別天然記念物、絶滅危惧Ⅱ類)
  • オオジシギ(準絶滅危惧種)

など、希少な鳥類の生息をこれまでに確認しています。

特に、オジロワシは風車への衝突事故が多く(添付資料を参照)、計画地に近い根室市昆布盛及び浜中町でも、過去に複数の衝突死が起きており、本計画地でも、風車の存在はオジロワシへの脅威となります。

また、オオワシについては北海道せたな町で、オオジシギも福島県郡山市で、風車への衝突死が発生しています。

さらに、タンチョウを含むツル類でも、長崎県生月町において、風車が設置されたことで、ツル類の渡りの飛行コースが変化したという影響も出ています。

以上のようなことから、フレシマ周辺での風車の建設は、絶滅のおそれのある鳥類の生息に対して多大なる影響を与える恐れがあり、不適切であると当会は考えており、立地選定から本計画を見直す必要があると判断しています。

加えて、当会は、本日、併せて電源開発株式会社による環境影響評価方法書で示されている内容では、鳥類への影響を十分に評価できないとの観点から、必要な影響回避の判断に資するため、同社に対し別添のとおり意見書を提出し、調査手法を提案しました。

<意見書で提案した内容(骨子)>

  1. 計画されている「鳥類調査」では、調査地点の設定場所、調査箇所数が十分でなく、見直す必要があること。また、悪天候時にも調査を行う必要があること。
  2. 「鳥類の渡り時の移動経路に関する調査」については、同計画地は多くの鳥類が渡るため、ガン、カモ、ハクチョウ類など特定鳥類に限定せずに、すべての渡り鳥を対象に行う必要があること。
  3. 「希少猛禽類の生息状況に関する調査」については、調査地点が鳥から目立つ位置にあり、調査の実施自体、猛禽類の行動を攪乱しかねないことから、調査地点の設定(場所)を見直す必要があること。
  4. 影響予測の手法について、「分布または生息環境の改変の程度」を予測する方法が方法書に明記されておらず、どのような手法を用いて予測を行うのか、具体的に記載すべきであること。

要望書提出先

電源開発株式会社

本件問合せ連絡先

公益財団法人日本野鳥の会(保全プロジェクト推進室・松本 潤慶、手嶋 洋子) Tel 0153-25-8911

公益財団法人日本野鳥の会(自然保護室・浦 達也) Tel 03-5436-2633

添付資料:日本における鳥類の風力発電施設への衝突事故死の発見事例

図1.建設予定地(点線部)と、隣接する渡邊野鳥保護区フレシマ(実線部)の位置

図2.根室フレシマ風力発電所(仮称)建設予定地の風景。点線部分が想定建設区域

図3.2004年12月、根室市昆布盛の風車に衝突死したオジロワシ

図4.2008年10月、厚岸郡浜中町の風車に衝突死したオジロワシ。死体は周辺に散乱していた

日野鳥発第 10 号

平成24年5月10日

電源開発株式会社

取締役社長 北村 雅良 様

公益財団法人 日本野鳥の会

理事長  佐藤 仁志

東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

 

「根室フレシマ風力発電所(仮称)環境影響評価方法書」に対する意見書

 

この度、貴社が作成された「根室フレシマ風力発電所(仮称)」事業に係る環境影響評価方法書について、次のとおり意見を提出します。

    1. 対象事業計画区域で確認されている希少鳥類についてこれまでに公益財団法人日本野鳥の会(以下、当会という。)は、対象事業計画区域(以下、計画区域といい、方法書にある地図中の対象事業実施区域も指すものとする。)周辺で、下記の希少鳥類の生息を確認しており、それぞれ種の保存法および文化財保護法に指定され、また、レッドリスト(環境省 2006)およびレッドデータブック(北海道 2001)に掲載されている。そのことから、一般鳥類のみならず、下記の希少鳥類についても、風力発電施設の建設が与える影響を評価、予測するための調査計画が必要である。
      • オジロワシ
        • 種の保存法 国内希少野生動植物種
        • 文化財保護法 天然記念物指定種
        • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧IB類
        • 北海道 RDB 絶滅危惧種
      • オオワシ
        • 種の保存法 国内希少野生動植物
        • 文化財保護法 天然記念物指定種
        • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧Ⅱ類
        • 北海道 RDB 絶滅危惧種
      • タンチョウ
        • 種の保存法 国内希少野生動物種
        • 文化財保護法 特別天然記念物指定種
        • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧種Ⅱ類
        • 北海道 RDB 絶滅危惧種
      • オオジシギ
        • 環境省 レッドリスト 準絶滅危惧種
        • 北海道 RDB 希少種

参考資料:

      • 文化財保護法(法律 第214号)
      • 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(法律第75号)
      • 環境省.2006.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生動物-レッドリスト-鳥類.東京
        http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=8929&hou_id=7849
      • 北海道.2001.北海道の希少野生動物 北海道レッドデータブック2001.北海道

 

  1. 方法書の内容、特に鳥類調査に対する意見について①【4.2.5動物(2)(a)(ア)(ⅰ)ラインセンサス法】について

    方法書では計画区域及びその周辺の代表的な環境に3ルート(R1、R2、R3)を設定したとあるが、計画区域周辺には森林・湖沼・湿地・草原などの環境が存在する。鳥類の繁殖状況を把握するためには、現存する環境要素をできるだけセンサスコースに含める必要があるが、方法書にあるR1~R3の3つのルートにはそれらの環境が十分に含まれていない。そのため、すべての環境要素を網羅できるようにルートの設定を見直すべきである。調査は毎月 1回行い、最低でも2年間実施すべきである。なお、毎月の調査では、1つのコースにつき6回のセンサスを行うことで、月1回の調査とする。

    ②【4.2.5動物(2)(a)(ア)(ⅱ)定点センサス法】について

    方法書では見通しの良い定点として2地点(P1、P2)を設定しているが、鳥類は環境によって生息する種が大きく異なるため、ラインセンサス法と同様に、計画区域内の環境要素をすべて網羅するように定点を設定するように見直すべきである。また、定点からの視野図を作成し、実際に見通しの良い定点かどうかを示す必要がある。調査時間は1回30分では不十分なため、調査の目的や対象種に応じた調査時間や頻度の設定を見直す必要がある。調査は3日間を1回とし、月2回を2年間行うべきである。なお、調査時には観察幅を設定しないとあるが、調査の目的や対象種に応じて設定すべきである。

    ③【4.2.5動物(2)(a)(ア)(ⅲ)任意踏査】について

    計画区域内はどこでも自由に踏査できる植生環境や地形とは考えられないため、現実的に踏査可能な範囲を示し、調査時期、調査回数、観察幅を明確に記載すべきである。

    ④【4.2.5動物(2)(a)(ア)(ⅳ)空間飛翔調査】について

    方法書では、計画区域内に1地点(P1)、比較対照地点として計画区域外に1地点(P2)を定点に設定したとあるが、地図上では2地点とも計画区域内となっている。P2を対照区として設定するのであれば、計画区域外に定点の位置を変更すべきである。また、定点の数も十分ではないため、定点を増やすべきである。定点を設定する際は視野図を作成し、設定した定点が調査地点として適切か評価するべきである。

    オジロワシの繁殖期である5~8月は霧に覆われる日が多く、越冬期は風雪の伴う日が多い。悪天候と晴天時では鳥類の行動に違いがあることが考えられ、実際に、近隣の昆布盛ウィンドファームでは霧の日にオジロワシのバードストライクが発生している。そのため、霧の発生時や降雪時など、悪天候時にも調査を実施する必要がある。なお、この調査は2年間行うべきである。

    計画区域内での鳥類の飛翔行動を把握するには、30分間では不十分である。当会で出版している野鳥保護資料集第26集を参考に、調査の目的や対象種に応じた適切な調査時間、観察幅等を設定すべきである。飛翔高度については、正確に把握するためにレーザー距離計を使用すべきである。

    ⑤【4.2.5動物(2)(b)(ア)鳥類の渡り時の移動経路に関する調査】について

    計画区域では、ガン、カモ、ハクチョウ類以外にも多くの鳥類が渡るため、すべての渡り鳥を対象にした調査を実施する必要がある。方法書では6地点から調査地点を選定するとあるが、特に海側の3つの調査地点は鳥から目立つ位置にあり、調査の実施が鳥類を攪乱する可能性があるため、調査地点の設定位置を見直すべきである。また、調査地点からの視野図を作成し、調査実施にあたり適切な調査地点か評価するべきである。

    ⑥【4.2.5動物(3)(b)(イ)希少猛禽類の生息状況に関する調査】について

    方法書で示された調査地点のうち、特に海側のものは鳥から目立つ位置にあるため、調査の実施が猛禽類を攪乱する可能性がある。また、道路沿いの調査地点は視界が狭く、十分な調査できないと考えられるため、調査地点の設定を見直すべきである。そして、調査地点からの視野図を作成し、調査にあたり適切な調査地点か評価するべきである。

    その他、当会は計画区域でタンチョウとオオジシギの生息を確認しているが、方法書では、それらに関する調査方法の記述が一切ない。そのため、タンチョウとオオジシギの2種の生息状況を網羅できる調査計画を方法書に組み入れ、希少鳥類全般を対象とした調査(営巣地・繁殖場所・冬ねぐら・エサ資源調査等)を行うべきである。

    ⑦【4.2.5動物(4)(b)(ア)渡り時の移動経路に関する調査】について

    渡り時の移動経路に関する調査期間について、方法書に記載されている期間では、渡りの状況を十分に把握することはできないと考える。そのため調査期間については、秋季は8~11月、春季は3月~5月とし、目視だけでなくレーダー調査および捕獲調査を並行して行うべきである。また、方法書では秋季、春季それぞれ3日間の調査を行うことになっているが、それでは十分ではないため、2週間に1回(1回=3日間)は行うべきである。

    ⑧【4.2.5動物(4)(b)(イ)希少猛禽類の生息状況に関する調査】について

    越冬期から繁殖期における希少猛禽類の生息状況を把握するには、方法書にある調査期間は十分ではない。調査期間は2年間とし、調査は毎月3日間以上行う必要がある。【4.2.5動物(2)(a)(ア)(ⅳ)空間飛翔調査】についてでも述べたように、霧の発生時や降雪など悪天候時にも調査を実施する必要がある。

    ⑨【4.2.5動物(5)予測の手法】について

    分布または生息環境の改変の程度を予測する方法が、方法書には詳細に記載されていない。どのような手法を用いて予測を行うのか、具体的に記載するべきである。また、その際に引用した文献などについても記載すべきである。なお、鳥類にとって回避が難しいと考えられる影響が予測される場合、建設を中止することが最善の保全対策であることを明言すべきである。

    ⑩【4.2.8景観(1)調査すべき情報】について

    景観を評価するためには、根室フレシマ風力発電所(仮称)建設予定地周辺の住民、地権者、根室市民等に広く、景観が変化することへの意見をヒアリングすべきである。

    ⑪【4.2.8景観(3)調査地域】について

    根室フレシマ風力発電所(仮称)の隣接地には、当会の渡邊野鳥保護区フレシマが設置されている。根室市民だけでなく全国から人が訪れる当会のシンボルであるが、風力発電施設の設置が野鳥保護区の景観に影響することが考えられる。そのため、野鳥保護区からの眺望も調査対象とすべきである。

 

以上

図1.建設予定地(点線部)と、隣接する渡邊野鳥保護区フレシマ(実線部)の位置

図2.根室フレシマ風力発電所(仮称)建設予定地の風景。点線部分が想定建設区域

図3.2004年12月、根室市昆布盛の風車に衝突死したオジロワシ

図4.2008年10月、厚岸郡浜中町の風車に衝突死したオジロワシ。死体は周辺に散乱していた

写真提供: 日本野鳥の会 根室支部

報 道

本件が以下の新聞に掲載されました。