(株)斐太工務店に対し、「(仮称)八の沢風力発電事業 」について、環境影響評価方法書へ意見書を提出しました

日 野 鳥 発 第 66 号
平成26年11月18日

株式会社斐太工務店
代表取締役 岩佐昭彦 様

日本野鳥の会札幌支部
支部長  山田 三夫
北海道札幌市中央区南1条西17丁目
1-14シェール松岡203

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長  佐藤 仁志
東京都品川区西五反3-9-23 丸和ビル

「(仮称)八の沢風力発電事業に係る環境影響評価方法書」に係る意見書

 本方法書に記載されている対象事業実施区域は、春と秋におけるマガンとコハクチョウの重要な渡りコース上にあります。対象事業実施区域から南東に250メートルほど離れた五の沢地区の田んぼには毎春、必ずコハクチョウの群れが飛来し、採餌する姿を確認しています。
 コハクチョウは昼夜を問わずに飛行するものが多いですが、特に夜間は飛行中に風車のブレードが見にくくなり、事前に風車を回避する行動が取りにくいことから、バードストライクが生じる危険性が高いと考えます。
 また、対象事業実施区域から東北東に20キロほどの宮島沼を中継地とするマガン(2011年4月29日記録時最大羽数73,085羽)が同様に毎春、対象事業実施区域の周辺田畑で採餌する姿を確認しています。一方、マガンは採餌場所の周辺に風車が建つと、その利用を避けるようになる生息地放棄が生じやすい鳥種です。
 さらに、対象事業実施区域の周辺ではオジロワシの生息が確認されています。オジロワシは日本だけでなく世界的にも希少な鳥類でありながら、行動生態的にバードストライクが生じてしまうことが多い鳥で、実際に日本でもこれまでに約40羽のオジロワシが犠牲になっています。
 以上のことから、上記のような希少鳥類が本計画によって設置される発電用風車による影響を受けないよう対象事業実施区域の位置の見直しを求めつつ、当該環境影響評価方法書に対して下記のように意見を述べるものです。

(1)対象事業実施区域で確認されている希少鳥類について
 対象事業実施区域(以下、計画区域という。)周辺で、下記の希少鳥類の生息が確認されており、それぞれ種の保存法および文化財保護法に指定され、また、レッドリスト(環境省 2012)およびレッドデータブック(北海道 2001)に掲載されている。そのことから、一般鳥類のみならず、下記の希少鳥類についても、風力発電施設の建設が与える影響を評価、予測するための調査計画が必要である。

  • マガン
    • 文化財保護法 天然記念物指定種
    • 環境省 レッドリスト 準絶滅危惧種
    • 北海道 RDB 希少種
  • コハクチョウ
    • 北海道 RDB 希少種
  • オジロワシ
    • 種の保存法 国内希少野生動植物種
    • 文化財保護法 天然記念物指定種
    • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧IB類
    • 北海道 RDB 絶滅危惧種

参考資料:

  • 文化財保護法(法律 第214号)
  • 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(法律第75号)
  • 環境省.2006.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生動物-レッドリスト-鳥類.東京
    http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=8929&hou_id=7849
  • 北海道.2001.北海道の希少野生動物 北海道レッドデータブック2001.北海道

(2)7.2.7動物 表7.2-14(1)(2)動物に係る調査、予測及び評価の手法のうち、
調査2.調査の手法(1)動物の状況.現地調査[鳥類]について

  1. 全体的に大まかな鳥類調査の方法を示しているが、調査回数および観察幅を示していないので、それらを明確に記載すべきである。調査期間は「春季、初夏期、夏季、秋季、冬季及び希少猛禽類(繁殖期、越冬期)、渡り鳥(春季、秋季)」と示されているが、計画地における鳥の情報が少ないため、その他の時期も対象としてできるだけ毎月調査するものとし、それを最低でも2年間実施して、鳥類の情報を詳しく把握すべきである。
  2. ラインセンサス法について
     計画区域周辺には森林、住宅地、農耕地、田圃、草地、農業用水池などの環境が存在する。鳥類の繁殖状況を把握するためには、現存する環境要素をできるだけセンサスコースに含める必要があるが、方法書に記されている4ルートには住宅地や田圃の一部分が含まれていない。そのため、すべての環境要素を網羅できるようにルートの設定を見直すべきである。なお、1年間を通じて、毎月調査を実施し、1つのコースにつき、6回のセンサスを行うことで1回の調査とし、2年間実施すること。
  3. 定点センサス法について
     ルートの設定は上記と同様に見直しを行うこと。1ルートにつき200m間隔で地点を設定して、10分間ポイントセンサスを行う。(例えば、1ルートが2㎞の場合、10地点)。確認種数が飽和した時点で1回の調査とすることとし、観察幅を明記しておくこと。なお、調査は2年間実施すること。
  4. 任意調査について
     調査回数、観察幅が示されていないので、明確に記載すべきである。調査期間は「春季、初夏期、夏季、秋季、冬季及び希少猛禽類(繁殖期、越冬期)、渡り鳥(春季、秋季)」と示しているが、計画地における鳥の情報が少ないため、その他の時期も対象としてできるだけ毎月調査するようにし、それを最低でも2年間実施して、鳥類の情報を詳しく把握すべきである。
  5. 希少猛禽類の調査について
     繁殖の可能性があると判断した場合において調査すると記されている。一方、これまでにバードストライクの事例があるオジロワシやオオワシが計画地周辺で越冬することを確認している。特にオジロワシはバードストライクの影響を大きく受ける鳥種である。そのため、「猛禽類保護の進め方」(環境省自然保護局野生生物課編、2012年)や環境省の野生生物保護対策検討会オオワシ・オジロワシ保護増殖分科会資料を参考に、2営巣期を含めた2年間はそれぞれの種の生息状況を網羅できる調査を行うべきである。
  6. 渡り鳥調査について
     渡り鳥調査については具体的な時期が示されていないが、春季は3~5月、秋季は8~11月とし、この期間は1週間連続した観察を1回の調査として月2回、または3日間連続した観察を1回の調査として月4回、2年間実施すること。なお、観察幅は対象種に応じて設定する。
     また、空間飛翔調査を行い、出現種、個体数、高度、時刻、行動状況等を記録すべきである。詳しくは当会で出版している「野鳥保護資料集第26集」を参考に、調査の目的や対象種に応じた適切な調査時間、観察幅等を設定する。高度区分は風力発電機の規模に応じて具体的に明示する。飛翔高度については、正確に把握するためにレーザー距離計を使用する。

(3)7.2.7動物 表7.2-14(1)(2)動物に係る調査、予測及び評価の手法のうち、6.予測の手法について
 分布または生息環境の改変の程度を予測する方法が、方法書には詳細に記載されていない。どのような手法を用いて予測を行うのか、具体的に記載すべきである。その際に引用した文献などについてもあわせて記載する。
 また、重要な種及び地域個体群へ影響について、その種類、箇所、程度を具体的に記載する。さらに、環境保全対策についても具体的に明記する。なお、鳥類にとって回避が難しいと考えられる影響が予測される場合、建設を中止することが最善の保全対策であることを明言すべきである。

(4)7.2.7動物 表7.2-14(1)(2)動物に係る調査、予測及び評価の手法のうち、9.評価の手法について
 鳥類にとって回避が難しいと考えられる影響が予測される場合、建設を中止することが最善の保全対策であることを明言すべきである。

以上