プレスリリース 2008.01.08

日本野鳥の会が苫小牧東部工業開発地域弁天沼周辺の土地利用に関する要望書を提出

2008.1.8

 (財)日本野鳥の会(本部:東京、会長:柳生博 会員・サポーター数5万1千人)は、北海道知事宛に苫小牧東部工業開発地域(以下「苫東地域」)内の弁天沼周辺の土地利用に関する要望書を提出した。弁天沼周辺は工業開発地域にありながら未利用地として残され、かつての勇払原野の面影を残す北海道独特の景観として、また絶滅のおそれのある鳥類の生息地として、生態系保全の観点からも大変重要な地域である。
要望書の概要は以下の3点。現在北海道がこの地域で策定中の安平川河川整備計画における遊水地構想に対しては、治水効果と環境保全の両立を、そして特に現地形を生かしたできる限り大面積での遊水地の設置を要望している。また弁天沼を中心とした低湿地は、絶滅のおそれのある鳥類25種類の生息地として、鳥獣保護区特別保護地区の指定を要望している。

背景

 勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられている。約3万6千haの原野を構成する湿原の面積は過去50年で著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約登録湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしている。一方同所では1960年代の高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートした。しかしその後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700haの土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっている。
当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめ、2005年に「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を発行した。

弁天沼周辺の鳥類について

当会の調査結果より、弁天沼周辺がウトナイ湖に匹敵する希少な野生鳥獣の生息域であり、かつての勇払原野の面影を残す景観的にも優れた、豊かな自然環境であることを確認した。具体的には、絶滅のおそれのある希少鳥類が25種類確認された(参考資料1参照)。このうちシマアオジ、チュウヒ、アカモズ、オオジシギにとって重要な繁殖地であること、サンカノゴイについては周年生息し繁殖の可能性もあること、オオワシやオジロワシは合わせて50羽以上が冬期に利用すること、ガン類やオオジシギについてはラムサール条約湿地の登録基準となる生息数を満たしていること、オオジシギの生息個体数は国際的な水鳥保護ネットワークの参加基準を満たしていること等が明らかになっている。

要望書の内容

  1. 安平川河川整備計画において、治水効果とともに原野の環境保全を両立させることを念頭とした計画を策定すること

      苫小牧東部開発新計画(苫小牧東部開発連絡協議会1995)で示された2020年代までの地域全体の開発構想の理念「豊かな自然環境と共生した開発」の具現化には、弁天沼周辺がもともと原野であり、今なお豊かな湿地環境を備えていることを踏まえ、景観面からも弁天沼周辺のみならず、湿地環境を広く一体として緑地に位置づけることが必要不可欠である。
    このことは苫東地域にとっても、他地域には見られない魅力として企業誘致の大きな付加価値となると考える。

  2. 遊水地は、現地形を生かし面積をできるだけ大きく設定し湿地環境を保全すること

      遊水地設置にあたり、現地形を生かして築堤や埋立等の新たな土地造成を行わない方法は、 治水と自然環境保全の両立を図る優れた対策と言える。安平川の場合、計画中の道道上厚真苫小牧線を堤防として利用することにより、経済的な負担も軽減できる。
    安平川右岸のいすず自動車の工場南側の湿性草地は、旧安平川の氾濫原だった場所で、シマアオジやチュウヒが生息している。埋立等により乾燥化が進めば、ハンノキ群落の侵入等で草原環境が減少し、繁殖地の消滅が懸念される。遊水地を極力広く設定することは、乾燥化防止とこれらの絶滅危惧種の生息環境も合わせて保全できる。

  3. 弁天沼を中心とした低湿地について、絶滅危惧鳥類の保全策を講じること

      今後の土地利用にあたり、前述した絶滅危惧種の鳥類の生息環境をできる限り改変せず、保全を考慮した計画とすることとして、具体的にはこれらの地域を鳥獣保護区特別保護地区に指定し、狩猟禁止だけでなく環境そのものを保全することも合わせて検討いただきたい。

今後について

 今後はこの要望書や当会の勇払原野保全構想に基づき、安平川の治水計画においても、苫東地域全体の土地利用計画においても、弁天の前浜の豊かな漁場を守るとともに、北海道独特の原野景観とその生態系の保全を目指し、現在ある貴重な財産を失うことのないよう、また新たな価値を付け加えて、産業と自然環境の保全が両立していけるよう、関係者への働きかけを行っていく。




日野鳥発第66号
平成19年12月19日

北海道知事
高橋はるみ様

財団法人 日本野鳥の会
会長 柳生 博

要望書
苫小牧東部工業開発地域弁天沼周辺の土地利用について

 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素より当会の自然保護事業に格段のご理解を賜り厚くお礼申し上げます。
当会では、1981年以来、全国的な野鳥保護についての視点から、ウトナイ湖サンクチュアリを拠点として、地域の自然環境の保全のための活動を行って来ました。そしてラムサール条約湿地であるウトナイ湖の長期的な保全のためには、周辺に残されている勇払原野を一体として保全することが重要との視点に立ち、2000年より保全構想策定のための調査を行いました。この中で、原野を構成する湿原は、過去50年間で著しく減少しているものの、残された自然環境はウトナイ湖以外の地域も水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある希少鳥類の生息地として重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
現在の勇払原野でウトナイ湖以外に比較的まとまった自然環境が残されているのは、苫小牧東部工業開発地域(以下「苫東地域」)です。苫東地域はご承知のように工業開発地域でありながら、社会情勢の変化により1万700haの土地の多くが未利用地として残されており、これらは私どもの調査によれば多くの部分が鳥類の良好な生息地となっております。
特に安平川を挟む弁天地区は、左岸に弁天沼、右岸にいすず自動車の工場の南側で湿性の草原(以下「いすず南草原」)が広がっており、原野の景観と生態系を代表し、しかも近年減少の著しいシマアオジやチュウヒが繁殖するなど、25種類もの絶滅のおそれのある希少鳥類が確認されています。ガン類やオオジシギの生息数はラムサール条約の登録基準を満たしており、ウトナイ湖に匹敵する野生鳥獣の重要な生息地となっているのは間違いありません。

これらの状況を踏まえ、弁天沼周辺の土地利用に関して、以下の通り要望いたします。

  1. 安平川河川整備計画においては、治水効果とともに原野の環境保全を両立させることを念頭に計画を策定してください。

     1995年に策定された「苫小牧東部開発新計画」(以下「苫東新計画」)で示された2020年代までの地域全体の開発構想の理念には「豊かな自然環境と共生した開発」が掲げられています。この理念の具現化には、この地域がもともと原野であって今なお豊かな湿地環境を備えていることを踏まえて、かつての勇払原野の面影を残す景観的にも優れた地域として、弁天沼の周辺のみならず、湿地環境を広く一体として緑地に位置づけ、保全することが必要不可欠です。
    このことは苫東地域にとっても、他地域には見られない魅力として、企業誘致の大きな付加価値となります。

  2. 遊水地の設置にあたっては、現地形を生かし、面積をできるだけ大きく設定して湿地環境を保全してください。

     遊水地の設置にあたり、築堤や埋め立て等の新たな土地造成を行わない、現地形を生かした方法をとることは、洪水対策と自然環境保全の両立を図る優れた対策といえます。安平川の場合、計画中の道道上厚真苫小牧線を堤防として利用することにより、経済的な負担も軽減することができます。
    いすず南草原の湿性環境は、旧安平川の氾濫原であった場所で、現在は絶滅のおそれのある種であるチュウヒ、シマアオジ等が生息しております。埋め立て等により乾燥化が進めばハンノキ群落の侵入など草原環境が減少し、繁殖地が消滅してしまうことが予想されます。遊水地計画の範囲を極力広く設定することで、遊水地という特性を生かして乾燥化を防止し、これら絶滅のおそれのある種の生息環境も合わせて保全することができます。

  3. 弁天沼を中心とした低湿地について、絶滅のおそれのある鳥類の保全策を講じてください。

     弁天沼の水域は、秋から春にかけては渡り途中のガン類が多数利用するほか、オオワシやオジロワシも50羽前後が利用しています。弁天沼の周辺のヨシ原では、絶滅のおそれのある種としてチュウヒ2つがいが繁殖している可能性が高く、またサンカノゴイは周年生息しています。またその周辺の低木林や草地には、近年減少が著しくレッドリストにおいて絶滅危惧のランクが悪化しているシマアオジとアカモズの繁殖地があります。またオオジシギの繁殖場所は湿地周辺の草地や藪に広く分布しています。こうした多くの絶滅のおそれのある種にとって良好な環境を保つためには、弁天沼の水面だけではなく、ヨシ原や草地、低木林等も合わせて保全する必要があります。今後の土地利用にあたっては、これらの絶滅の恐れのある種の生息環境をできる限り改変せず、保全を考慮した計画とするようお願いいたします。
    これらの地域を鳥獣保護区特別保護地区に指定して、狩猟禁止だけでなく、環境そのものを保全することも合わせてご検討ください。

貴職におかれましては、安平川の治水計画においても、苫東地域全体の土地利用計画においても、弁天の前浜の豊かな漁場を守るとともに、北海道独特の原野景観とその生態系の保全も視野に入れ、現在ある貴重な財産を失うことのないように計画していただきますようお願いいたします。

以上


資料1

苫小牧東部開発地域 弁天地区で記録のある希少鳥類

No 種 名 種の保存法 文化財保護法 環境省 北海道レッドリスト
1 サンカノゴイ     EN EN
2 オオヨシゴイ     EN R
3 コウノトリ 国内希少種 特別天然記念物 CR EN
4 マガン   天然記念物 NT R
5 ヒシクイ   天然記念物   R
(亜種ヒシクイ)※     VU  
6 (亜種オオヒシクイ)※     NT  
7 ミコアイサ       VU
8 ミサゴ     NT VU
9 ハチクマ     NT R
10 オジロワシ 国内希少種 天然記念物 EN EN
11 オオワシ 国内希少種 天然記念物 VU EN
12 オオタカ 国内希少種   NT VU
13 ハイタカ     NT VU
14 ケアシノスリ       R
15 ハイイロチュウヒ       R
16 チュウヒ     EN VU
17 ハヤブサ 国内希少種   VU VU
18 エゾライチョウ     DD R
19 ウズラ     NT R
20 タンチョウ 国内希少種 特別天然記念物 VU EN
21 クイナ       R
22 ヒメクイナ       R
23 オオジシギ     NT R
24 アカモズ     EN R
25 シマアオジ     CR R

CR:絶滅危惧IA類,EN:絶滅危惧IB類,VU:絶滅危惧II類,NT:準絶滅危惧,DD:情報不足, R:希少種
(※環境省レッドリストは亜種によってランクが分かれているため亜種別に記述)

 

資料2


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