プレスリリース 2011.12.14

2011年12月14日

絶滅危惧の海鳥・カンムリウミスズメ
伊豆諸島海域の3年にわたる調査の結果、
世界的に重要な生息地(国内第2位)であると判明!

(公財)日本野鳥の会(本部:東京、会長:柳生博、会員・サポーター数約5万人)は、国の天然記念物で絶滅の恐れのある海鳥・カンムリウミスズメの保護に取り組んでいます。2009年より3年にわたり、伊豆諸島海域で本種の生息状況を調査しました。その結果、次のことがわかりました。

  1. 伊豆諸島は世界でも重要な生息地(国内第2位)、推定生息数は1千羽以上
    伊豆諸島海域での3年間にわたる計26回の洋上調査の結果、2011年5月に547羽(過去最大)をはじめ、毎年500羽前後を確認しました。この結果から、推定生息数は1千羽以上と考えられ、生息数国内2位と世界的に重要な生息地であることがわかりました。
  2. 同一海域における繁殖地の数は国内最大
    伊豆諸島海域の無人島への上陸調査を行い、6島でカンムリウミスズメの繁殖を確認しました。1つの海域において6島もの繁殖地がある例は他になく、国内最大です。
  3. 繁殖地を中心とした10km圏内の海域に集中して生息
    洋上における分布状況を調査した結果、繁殖をしている島を中心に半径10km圏内の海域に分布が集中しており、この範囲が特にカンムリウミスズメの生息に重要な海域であることがわかりました。
    また、三宅島、神津島、新島を結ぶ海域に多数が生息していることも明らかになりました。

本種の生息地としての伊豆諸島海域の重要性は国にも認知され、2010年には繁殖地の無人島2島が国指定鳥獣保護区に指定されました。当会では、今後も本種を絶滅の危機から救うために、調査の結果を活かして未指定の繁殖地および生息海域の鳥獣保護区への指定や、人工巣の設置など生息数の増加にむけた保護活動、また、地元自治体や住民の理解と協力に向けた普及活動を進めてまいります。

本件に関するお問い合わせは
公益財団法人 日本野鳥の会
担当:会員室 会員室長          安藤 康弘 [email protected]
サンクチュアリ室 三宅島グループ 江崎 逸郎 [email protected]
〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
TEL:03-5436-2634, 080-2003-7632(江崎携帯)
FAX:03-5436-2635  http://www.wbsj.org

補足資料

1.調査の内容と結果
2.カンムリウミスズメについて
3.日本野鳥の会のカンムリウミスズメにかかるこれまでの取り組み
4.海洋における生物多様性の危機
5.調査の資金、協力者など

1.調査の内容と結果

推定生息数1千羽以上と推定、国内第2位、世界的に重要な生息域
本種の繁殖最盛期である4月~5月の間に、伊豆諸島北部の4島(新島、神津島、三宅島、御蔵島)周辺及び伊豆半島の神子元島(みこもとじま)周辺海域で、複数の調査船を用いた洋上調査を、2009年から2011年の3年間に26回実施しました。このうち2010年と2011年には、本種の洋上調査では世界初、同一海域で同時に複数の調査船を出す、洋上での一斉カウント調査を計6回行ないました(写真3)。その結果、毎年500羽前後が確認され、2011年5月の調査では過去最高の547羽を記録しました。
抱卵中や未調査域の個体がいることを考慮すると、この海域には1千羽を超える本種が生息していると考えられます。その規模は、国内最大の繁殖地である枇榔島(びろうじま、宮崎県門川町)に次ぐ大きさであり、国内第2位となります。本種は世界的にも日本近海にしか生息しておらず、伊豆諸島海域は世界的に見ても重要な海域であるといえます。

繁殖を6か所で確認、同一海域としては国内最大
2009-2011年の3年間で、伊豆諸島の既知の繁殖地10か所と未踏査の島2か所のうち、7か所の島で上陸調査を行いました。その結果、新島の根浮岬(ねぶさき)、神津島の祗苗島(ただなえじま)、恩馳島(おんばせじま)、三宅島の大野原島(おおのはらじま)、八丈島の小池根(こじね)、伊豆半島の神子元島の6島で確実に繁殖していることが確認できました。同一海域に6島もの繁殖地がある例は他になく、国内最大です(図1)。
繁殖地には実際に上陸し、巣穴と考えられる岩の隙間や草の根元等を可能な限り探索し繁殖の有無を確認しました(写真2)。抱卵中の親鳥を観察したり、放棄された卵や及び巣立ち後の卵殻などを確認することで、繁殖しているかどうかを判断しました(写真4)。

生息海域として重要な繁殖地10km圏内の海域
本種のような海鳥にとって、洋上は餌を採ったり休息したりするために不可欠な環境です。洋上調査での分布密度の結果と、繁殖地とされる無人島への上陸調査の結果を合わせてみると、本種は繁殖地を中心とした周囲約10km圏内に多く生息していることがわかりました。数多く出現する洋上は、本種の生息上重要な海域といえます。
また、三宅島、神津島、新島を結ぶ海域には5か所の繁殖地が点在しており、ここには多数が集中して生息していることも明らかになりました(図2)。

2.カンムリウミスズメについて

生息数と危機状況
カンムリウミスズメは、世界でも日本近海のみに分布が限定されている海鳥で、推定生息数は5千羽、多くとも1万羽と推定されており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)にあげられ、国の天然記念物に指定されています(写真1)。日本近海にしか生息していないため、我が国が保護活動を行わなければ絶滅するおそれがあり、具体的な保護対策が急務とされています。減少要因としては、繁殖地に入り込んだネズミ類や釣り人が放置するゴミやまき餌に誘引されたカラス類による捕食、漁網による混獲、油汚染による死亡などがあります。

分布
日本で繁殖するウミスズメ科の鳥は7種類です。このうち6種類は北日本の亜寒帯を主な分布域としており、カンムリウミスズメだけが黒潮や対馬海流がある暖帯海域に生息しています。知られている繁殖地の北限は、石川県の七ツ島、南限は東京都の鳥島。最大の繁殖地は宮崎県の枇椰島で、約3千羽と推定されています。今回調査を行った伊豆諸島以外の繁殖地としては、福岡県の筑前沖ノ島の小屋島(こやしま)、三重県の耳穴島(みみあなじま)などが知られており、国外では韓国南部の島において繁殖が確認されていますが、枇榔島と伊豆諸島以外での生息数は、これまでのところはっきりとわかっていません。

繁殖
本種の繁殖地は、無人島の崖や岩の隙間、草木の根元などです。繁殖地となる島の周辺海域に12月~1月には戻り、3月中旬から下旬にかけて、ニワトリよりもやや小さな卵を1ないし2個産み、雌雄交代で約1か月間抱卵します。ヒナは孵化後すぐに親鳥とともに海へ向かい、そのまま海上で暮らします。親鳥からヒナへの給餌も海上で行われ、次に陸へ上がるのは繁殖地に戻る時と考えられています。枇榔島や伊豆諸島では5月下旬になると姿を消し、非繁殖期をどの海域で過ごしているのかは、情報が限られていました。

3.日本野鳥の会のカンムリウミスズメにかかるこれまでの取り組み

1995年~2008年
1995年から東京都三宅村の施設で当会が業務を受託している「三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館」を拠点に、大野原島を含む三宅島南西部の海域において、漁船を用いての集中的な洋上調査を継続して実施しており、1995年から2000年までの6年間に27回の調査を行いました。また1994年と1995年には三宅島の属島である大野原島に上陸し、繁殖の確認調査も行っています。
2000年夏の噴火で三宅島は全島避難となり、三宅島から出船しての調査は実施できなくなりました。このため翌2001年から2004年の期間には約40km離れた神津島や式根島から年に1回、漁船を出して調査を継続しました。この間、2003年5月6日に式根島~三宅島往復の洋上調査で、当時、過去最大の237羽を記録しました。三宅島海域では1995年5月11日に205羽を記録したのが最大でした。

2009年
創立75周年を迎えた2009年には、カンムリウミスズメの保護に重点的に取り組むことになりました。洋上調査は三宅島海域で9回、神津島海域で2回、八丈島海域で1回、伊豆半島海域で2回と4海域計14回行ないました。その結果、三宅島海域で5月12日に383羽の生息数を記録しました。上陸調査も三宅島の属島である大野原島、神津島の属島である祗苗島(ただなえじま)、八丈小島の属島である小池根の3島に上陸し、大野原島では15年ぶり、祗苗島では9年ぶりに繁殖確認をすることができました。

2010年
伊豆諸島海域にどのくらい生息しているかを調べるため、三宅島をはじめとした伊豆諸島北部の4島(新島、神津島、三宅島、御蔵島)周辺及び伊豆半島の神子元島周辺海域で、複数の調査船を同時に使い、洋上における一斉調査を3回行いました。この結果、洋上で441羽の生息数を記録しました。また、神津島の恩馳島と八丈島の小池根と伊豆半島の神子元島に上陸し、恩馳島では16年ぶり、小池根では18年ぶり、神子元島では27年ぶりに繁殖を確認することができました。
さらに11月には当会の働きかけなどにより、繁殖地である祗苗島及び大野原島が国指定鳥獣保護区に指定されました。保護区に指定されることで、その範囲での鳥獣の捕獲や開発行為は規制され、本種の保護が一歩前進することになりました。

2011年
2010年に引き続き、伊豆諸島北部海域で洋上一斉調査を3回行いました。この結果、5月9日に547羽の生息数を確認しました。また、新島の根浮岬に上陸し、1980年代の記録以来の繁殖を確認することができました。

4.海洋における生物多様性の危機

現在、世界的にも海洋における生物多様性の危機が深刻な状況です。昨年、名古屋で開催された「生物多様性条約第10回締結国会議」でも、海洋における生物多様性の危機が議論され、議長国である我が国は加盟国とともに2020年までの目標の一つとして、陸域の17%、沿岸及び海域の10%を保護地域とすることを定めました。生態系の中でも上位を占める野鳥は、環境の豊かさを計るバロメーターです。野鳥を指標に生息地を守ることは、生態系全体を守ることにつながります。当会はカンムリウミスズメの保護を通じて海洋の生物多様性を守っていきます。

5.調査の資金・協力者など

調査への資金協力
この調査の資金は、日本財団助成金、学生バードソン寄付金、日本野鳥の会の会員・サポーターからの会費、ご寄付及び一般からのご寄付によって賄われています。

調査の協力者
伊豆諸島の調査では、以下の団体と船にご協力いただきました。

○フィールド・アシスタント・ネットワーク
○三宅島:北洋丸、大和丸、金丸、三野丸、「ディープ イン」
○神津島:萬作丸
○新島:浜庄丸、小澤丸、三郷丸、利丸
○八丈島:優宝丸
○下田市:第2七島丸、みこもと丸、重郎平丸、喜久丸、かねよ丸(以上、「株式会社 伊豆下田フィッシング」)
○伊東市:光海丸

6.公益財団法人 日本野鳥の会について

(詳しくは当会ホームページをご参照ください)
自然と人が共存する豊かな社会の実現を目指し、野鳥や自然のすばらしさを伝えながら、自然保護を進めている民間団体です。全国約5万人の会員・サポーターが、自然を楽しみつつ、自然を守る活動を支えています。

  • 創設:1934年 ・創始者:中西悟堂 ・連携団体:全国90団体
  • 1970年 財団法人に改組。 ・2011年4月 「公益財団法人日本野鳥の会」として登記

<野鳥や自然を大切に思う心を伝える普及活動>

  • 全国10か所のサンクチュアリやバードプラザを訪れる、年間約30万人に野鳥や自然のすばらしさを伝えています。
  • 東京バードフェスティバルなどの大規模イベントへの参加や野鳥図鑑などの発行を通して、バードウォッチングの楽しさを伝えています。
  • バードウォッチングの指導・案内のできる人材の育成を進めています。

<野鳥や自然を守る保護活動>

  • 北海道東部のタンチョウの営巣地を中心に、土地の買い取りや協定により野鳥保護区として生息地の保全を進めています。現在、野鳥保護区の面積は33か所、2938.9haで、自然保護団体としては国内最大級です。
  • 国際的に重要な鳥類等を指標にした重要度の基準(ⅠBA基準)を満たした野鳥の重要な生息地の選定、リストの公表を行い、保全の推進、ネットワーク化を行っています。

<公益財団法人に登記>

  • 日本野鳥の会は、内閣総理大臣より「公益財団法人」に認定されており、個人や法人が支出した寄付金に対し、「特定公益増進法人」として税制上の優遇措置が設定されています。


図1 当会の調査で確認した繁殖地


図2 三宅島、神津島、新島を結ぶ本種の重要生息海域


写真 1 カンムリウミスズメ(成鳥、繁殖羽)


写真 2 営巣地の環境(神津島・恩馳島)


写真 3 洋上調査の様子(神子元島周辺)


写真 4 孵化後の卵殻(新島・根浮岬)
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