プレスリリース 2013.10.18

報道関係各位

2013年10月18日

苫小牧東部開発地域(苫東地域)で7種の希少鳥類を確認
同地域の重要性が改めて示された

 日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリでは、今年の繁殖期(4~8月)に実施した苫東地域での調査で、国内レッドリストの絶滅危惧ⅠB類を3種、同Ⅱ類を2種、準絶滅危惧を2種、計7種もの絶滅のおそれのある鳥類の生息を確認しました。
 このうちⅠB類はシマクイナ、アカモズ、チュウヒの3種です。このうちシマクイナは、繁殖期には釧路湿原と青森県仏沼の2カ所だけでしか確認されていない、非常に希少な水鳥です。今回の調査では2年連続3回目の確認となり、さらに2地点で少なくとも4羽確認できたことから、本地域で繁殖している可能性がかなり高いと考えられます。またアカモズは同地域で5つがいの繁殖を確認しました。その一方で昨年末に開通した道道(上厚真苫小牧線)沿いでは、工事前に2か所で最大3あった営巣地が、開通後は全てなくなったことが明らかになりました。Ⅱ類では、弁天沼で初めてタンチョウのつがいを確認しました。その他の種については、別紙資料をご参照ください。
 このように多くの絶滅危惧種を含む希少鳥類が確認されたことから、苫東地域が釧路湿原や仏沼などのラムサール条約登録湿地に勝るとも劣らない、重要な野鳥生息地であることが改めて分かりました。当会では同地域の自然環境保全の必要性をかねてより訴えておりますが、この調査結果をもとに同地域の保全を関係者へより一層働きかけて参ります。
 なお、情報公表により希少鳥類の繁殖へ悪影響が出ないように、発表をこの時期にいたしました。また詳しい確認位置等の公表は控えさせていただきますのでご了承ください。

絶滅危惧ⅠB類

シマクイナ(ツル目クイナ科 全長12 .5cm)

  • シベリア南東部やモンゴルなどで繁殖し,日本には冬鳥として水田や湿地に渡来すると思われているが、生息状況は良く分かっていない。


アカモズ(スズメ目モズ科 全長20cm)

  • もともと生息が局所的で個体数が少ないうえに近年減少し、2006年の環境省第3次レッドリストで、ランクが2段階上がっている。
  • 夏鳥として九州~北海道の原野、灌木のある草原、河川敷等で繁殖し、東南アジア等で越冬する。
  • 近縁種のモズより自然度の高い場所に生育するため、生息地や個体数が少ない。


(画像はデジタルデータで提供可能です)

問い合わせ先
日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリ
担当:原田 修(はらだ おさむ) 電話:0144-58-2505 携帯:080-2872-2709

別紙資料

確認されたその他の希少鳥類

絶滅危惧ⅠB類

チュウヒ(タカ目タカ科 全長:オス48cm、メス58cm)

  • 繁殖地のヨシ原が開発等で減少し、現在全国での推定生息つがい数は約80。
  • 北日本で主に夏鳥として、平地の草原、湖沼や河川敷周辺の湿原で繁殖し、本州中部以南で越冬する。
  • 当地域内では2000年代以降6つがい前後が繁殖していると推定され、まとまった繁殖つがい数および生息数を維持していることから、日本の重要な繁殖地のひとつと考えられる。


絶滅危惧Ⅱ類

タンチョウ(ツル目ツル科 全長:140cm)

  • 北海道東部の湿原で繁殖し、冬は鶴居村などの給餌場に集まる。
  • かつては道内全域に生息していたと思われるが、一時は絶滅したと考えられ、1924年の再発見以来、地元の方の保護活動が奏功し、現在は約1500羽まで回復している。
  • 個体数回復に伴い、近年サロベツ原野でも繁殖するなど、分布域も回復しつつある.近い将来当地で繁殖する可能性が高く、当地域は北海道西部における個体数や分布域回復の基盤となる可能性がある。


オジロワシ(タカ目タカ科 全長:オス80cm、メス90cm)

  • 北海道北部と東部で少数が繁殖するが、多くは冬鳥としてユーラシア大陸東部より渡来し海岸、河口、湖沼に生息する。
  • 近年、苫小牧地方で周年観察されるようになり、繁殖している可能性がある。


準絶滅危惧

マキノセンニュウ(スズメ目ウグイス科 全長12cm)

  • 2012年8月の環境省第4次レッドリストで新たにランクインした。
  • 繁殖環境である低茎湿生草原が減少する中、当地域は道内でも特筆すべき生息密度と推察される。
  • 夏鳥として北海道の海岸草原、湿原、牧草地で繁殖する。越冬地は東南アジア。


オオジシギ(チドリ目シギ科 全長30cm)

  • 同地域弁天沼では2001年8月に400羽以上調査捕獲された実績があり、秋の渡りの前に集結し栄養補給する場所として知られている。
  • 北海道の草原では夏鳥として普通に繁殖するが、国内でも世界的にも分布が局所的で個体数が少ない。越冬地はオーストラリア。


写真提供)シマクイナ:宮彰男氏  アカモズ、チュウヒ:新谷幸嗣氏  
    マキノセンニュウ:渡邉智子氏  タンチョウ、オジロワシ、オオジシギ:ウトナイ湖サンクチュアリ

■参考
今回確認された希少種の、環境省のレッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)におけるカテゴリー(ランク)の概要  ※環境省HPより

  • 絶滅危惧ⅠB類(EN) :近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
  • 絶滅危惧Ⅱ類(VU) :絶滅の危険が増大している種
  • 準絶滅危惧(NT)  :現時点での絶滅の危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種

苫東地域での日本野鳥の会の環境保全活動

 勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられています。原野を構成する湿原の面積は、過去90年で約8分の1に著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしています。一方同所では1960年代の高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートしました。しかしその後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700haの土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっています。
 当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめ、2006年に「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を発行しました。以来、希少種の調査や弁天沼周辺での自然観察会を通じ、同所一帯の保全活動を行っています。
 近年の主な活動は以下の通りです

・2006年 苫東地域におけるアカモズ生息状況調査を実施し、同地域がアカモズの国内有数の
繁殖地である可能性が明らかになった。
・2006年 弁天沼周辺のブロッコリー畑等の土地利用の変化が鳥類相に与える影響調査を実施
し、同所における耕作地化は、草原性鳥類の繁殖を阻害し個体数を減少させるだけ
でなく、一帯の鳥類相をも変化させてしまう可能性があることが明らかになった。
・2006年~ 弁天沼周辺での自然観察会「勇払原野ネイチャーウォーク」を毎年実施
・2007年~ 苫東地域におけるシマアオジの生息状況調査を毎年実施し、道内各地の生息記録が途絶える中、同地域は継続して渡来していることが明らかになった。
・2008年1月 北海道知事宛てに「弁天沼周辺の土地利用に関する要望書」を提出
・2009年 勇払原野で衛星電波発信機によるチュウヒの行動圏追跡調査を実施し、チュウヒの繁殖期の行動範囲や、チュウヒにとって重要な環境が明らかになった。
・2012年2月 北海道知事宛てに「苫小牧東部工業開発地域内の鳥獣保護区指定に関する要望書」を提出

 この他、「安平川下流域の土地利用に関する連絡協議会」(北海道主催。2008年5月設置)委員として、安平川下流域の治水対策としての遊水地(河道内調整地)計画に対し、希少鳥類の生息環境保全の観点から意見を述べています。

以上

自然保護活動のご支援を お願いします!
  • 入会
  • 寄付