被災地で冬を過ごす野鳥たち―福島県南相馬市小高地区


水田跡で採餌するコハクチョウの群れ


福島第一原発と南相馬市小高地区

東日本大震災から2年。この2月、東京電力福島第一原子力発電所から20km圏内にある福島県南相馬市小高地区を訪ねました。事故直後から指定されていた警戒区域が昨年4月に解除されたものの、復旧作業の遅れから、いまだ壊れた家屋や流された車両がそのまま残されていました。地盤沈下により浸水し、湿地環境に変わった海岸近くの水田地帯には、コハクチョウの群れや天然記念物のマガンをはじめとした水鳥たちが多数飛来し、採餌・休息していました。そのほかハヤブサやノスリといった猛禽類も確認されるなど、野鳥の生息地へと変貌していました。
津波被害を受けた被災地では、現在、復興計画が進んでいます。なかでも津波防災対策についてはその大半が、高さ十数メートルもの防潮堤を建設しようとするものです。
一方で、宮城県気仙沼市では住民らが、高い防潮堤だけが津波防災機能ではないとの認識から、環境・景観・文化を残すために、地域の実情や住民意見を反映した形での防潮堤の整備を市に要望する動きがあります。すでに岩手県の釜石市の漁村・花露辺(けろべ)地区や大槌(おおつち)町の波板地区などでは、海とともに生きる暮らしを守るために新たな防潮堤の建設は行なわないとしています。
海と陸とをつなぐ湿地のような環境は「エコトーン」と呼ばれ、多様な生き物が暮らす場所です。防潮堤以外の防災システムの構築や避難体制の徹底なども含め、必要以上に生態系を壊さない工夫についても検討する必要があるのではないでしょうか。
南相馬市によると、小高地区の復興計画は現時点で立っていないとのことです。野鳥の生息地としての変化を活用し、これを観光資源として地域の活性化を目指す、そしてその上で実情にあった防災対策を講ずるのもまた一計ではないかと思います。


調査中の当会職員


甚大な津波被害を受けた海岸部

(文・写真=山本 裕 自然保護室)