人の暮らしと共にある、ツバメの子育てを見守ろう

ツバメの子育て状況調査 2013~2015年結果報告

文=荒 哲平 自然保護室

はるか東南アジアから、繁殖のために、毎春、日本にやって来るツバメ

①はるか東南アジアから、繁殖のために、毎春、日本にやって来るツバメ。

都市部での巣立ちヒナの減少が明らかに

人家の軒先に巣を作り、子育てをするツバメは、日本人にはとても身近な野鳥です。しかし近年の人の暮らしの変化が、ツバメにも影響を与えていることがわかってきました。
2012年に当会が全国で行なった「わたしの町のツバメ情報調査」では、約4割の方が「ツバメが減っている」と感じていました。その原因を探るため、翌13 年から3年間、全国の皆さんにツバメの子育て状況を観察・記録していただく「ツバメの子育て状況調査」(※)を実施した結果、環境省が1970年代と90 年代に実施した調査と比較すると、今も全国各地でツバメは目撃されており、分布域自体の縮小はみられませんでした。しかし、「子育て状況調査」では、このままではツバメが減少していく可能性が高いことを示す結果が得られました。
ツバメは1年にほぼ2回子育てをします(1番子、2番子)。「子育て状況調査」では、1巣あたりの巣立ちヒナ数は、全国平均で1番子が4羽/巣、2番子が3羽/巣でした。さらに「都市部」と「郊外や農村部」に大別し、1番子の巣立ちヒナ数の平均を比較すると、都市部では約3.9 羽/ 巣、郊外や農村部では約4.3 羽/巣と、都市部のほうが巣立ち数が少ないことがわかりました(図1)。
過去の事例をもとに、将来のツバメの個体数の変化を予測すると、1・2番子ともに巣立ちヒナ数が4羽/巣の場合は、年数が経過すると個体数は増加していきます。一方、1・2番子ともに巣立ちヒナ数が3羽/巣だった場合、個体数は激減し、将来的に絶滅してしまいます。
今回の「巣立ちヒナは1番子が4羽、2番子が3羽」という全国平均数をこの計算式に当てはめると、個体数はゆるやかに減少するという予測になります。特に、都市部で1 番子の巣立ちヒナ数が4羽を下回る数値であることは、非常に危険な状態にあるといえます。

ツバメの子育て状況調査

②天敵から卵やヒナを守るため、軒先、ガレージのひさしなど、人の出入りの多い場所で子育てをする。
③ツバメは、春から夏にかけてユーラシア大陸と北米の広い範囲で繁殖し、冬には東南アジアで越冬する。日本では害虫を食べる「益鳥」とされ、軒先に巣を作れば「商売繁盛」の兆しとして、「幸福の鳥」と考えられてきた。
(写真:佐藤信敏)

ツバメと人のつながりが消失しつつある

ツバメが子育てに失敗した原因では、天敵(カラス、ネコ、ヘビなど)に襲われた割合が30 %と最も高く、人間が巣を落としたり、巣を作らせなかったりしたケースが8%を占めました。さらにこれを土地区分別に見ると、郊外や農村部の1.5 %に対し、都市部は10 ・6%と約7倍もの数値となりました(図2)。「糞が汚い」などの理由で巣が落とされるケースが増えており、本来、天敵から守ってくれるはずの人間が、都市部では脅威の一つとなりつつあります。
過酷になってきた都市部での子育てに、必要な条件も調べてみました。東京23 区内では、川や池などエサとなる昆虫が生息する水辺の存在が最も重要であり、次いで巣作りに必要な土と草を採取できる緑地の存在が、重要であることがわかりました。一方、そういった環境が多い農村部でも過疎化が進み農業が衰退すると、巣をかける家屋やエサを得る田畑などが失われる恐れがあり、安泰であるとはいいきれません。
益鳥として親しまれてきたツバメと人とのつながりが、今、消えつつあります。地域の環境を改善していくには長い時間と労力が必要ですが、私たち一人ひとりが、毎年日本にやって来るツバメを温かく迎え、子育てを見守ることはできるはずです。当会は今後も市民参加による調査を継続し、日本のツバメの現状をより詳細に明らかにしていきます。


※ツバメの子育て状況調査… 2013年~ 15 年までの3年間にのべ約2千500名が参加、のべ5千巣以上の情報を収集


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