レッドデータブックのこれまでこれから

フィリピンワシの分布図
絶滅危惧種フィリピンワシの分布図。分布データからこのような分布図を種ごとに作成する。
分布記録は2万点にものぼり、すべてがデータベース化されている



国際保護鳥からレッドデータブック(RDB)へ

 バードライフ・インターナショナル(以下BLI)の前身である国際鳥類保護会議(以下ICBP)では、かねてより、絶滅の危機に瀕している野鳥を国際保護鳥に指定して各国が保護に取り組むことを呼びかけていました。レッドデータブック(以下RDB)の思想のルーツをここに見ることができます。この国際保護鳥には1960年に東京で開かれたICBP大会でトキやコウノトリなどが加えられ、合計13種が指定されていました。その後、1963年に国際自然保護連合(以下IUCN)が鳥類も含む動植物のRDBを出版しました。これが世界で初めてのRDBです。鳥類を専門に調査したRDBは1980年にICBPが初めて出版しています。これは世界版でしたが、ICBPは、その後、地域別により詳しいデータを編纂したアフリカ版を1985年に、アメリカ版を1992年に出版し、今回ついにBLIからアジア版RDBの刊行を行うことがでました。一方、全世界の絶滅危惧種リストの更新も1988年と1994年にBLIによって行われており、2000年には本誌4月号でもご紹介した「Threatened Bird of the World (絶滅に瀕する世界の野鳥)」として一般向けにも読みやすい形で最新のリストが出版されました。

アフリカ版とアメリカ版
アフリカ版レッドデータブック(左)と南北アメリカ版レッドデータブック(右)



アジアの野鳥情報の集大成がデータベースに

 アジア版RDBを作成するため、日本野鳥の会では1995〜1996年にBLI加盟NGOなどを招いた国際ワークショップを、南アジア、東南アジア、北東アジアの三地域で開催してRDBの目的説明と調査方法の検討を行いました。次にBLI加盟NGOがそれぞれの国で国内ワークショップを開き、さらに多くの関係者にRDBへの参加を求めました。このようにして各国の野鳥保護・研究の現場から最新の情報が寄せられたのに加えて、日本野鳥の会とBLI本部では過去に出版された文献や博物館標本を丹念に調査し、すべての絶滅危惧種について今までに記録があった地点を可能な限り調べ上げ、2万地点にも上る分布記録をデータベース化しました。RDBにはこれらの情報から明らかになった絶滅危惧種の分布図、個体数、生態、減少要因、保護対策の提言などが詳細に記されています。



7年の期間と1000名の参加者 アジアに育った保護ネットワーク

 アジア版RDB作成事業では、アジアの人々自身の手でRDBを作り上げることを目指したため、アジア地域のほとんどの国からNGOスタッフや科学者など約130名がデータ収集に加わり、レビューを含めるとおよそ1000名もの人々が参加しました。このため7年という期間がかかりましたが、アジア全域からの詳細な情報を集めることができました。そしてこのように現地の人々の手で完成させたRDBだからこそ、彼ら自身が野鳥保護活動を行う中で活用されていくことができるのです。また編纂作業を進める過程でアジア各国の野鳥保護NGOのスタッフが経験を積みながら保護活動のためのネットワークを広げてきており、今後RDBに記載された野鳥を守るプロジェクトを進めるための人材を育てるという意味でも、現地参加型の編纂作業は大きく役立っています。日本国内のデータを集めるにあたっても、日本野鳥の会各支部、(財)山階鳥類研究所のほか多くの皆さまにご協力をいただきました。誌面を借りて深く感謝申し上げます。



これからの野鳥保護

 日本野鳥の会とBLIでは、RDBの出版に合わせ、鳥と緑の国際センター(愛称WING:東京都日野市)で国際ワークショップを開き、どのようにして絶滅危惧種を保護していくかを検討する予定です。残念ながら絶滅危惧種の数は非常に多いため、すべてを一度に守ることはできません。そこで、特に危険な状況にある種や自然保護のシンボル的な種を守ることを当初の目標とすることになるでしょう。たとえば、ワシタカ類のような広大な生息地を必要とする種を守ることで、その生息地に生きるすべての生物を守っていこうというものです。
 前半でもご紹介したように、本会では絶滅危惧種を守る活動に力を注いできましたが、人と野鳥が共存する豊かな世界を作ることが私たちの使命です。これからも日本とアジアの各地で積極的な保護活動に取り組んでいきたいと思います。



(国際センター 神山和夫)

日本野鳥の会機関誌『野鳥』 2001年6月号より
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