財団法人 日本野鳥の会
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Activity

当会の活動

絶滅危惧種の保護

出水における斃死ツル剖検例に見られた疾病-播種性内臓コクシジウム症(DVC)を中心に-


鹿児島大学名誉教授 清水 孜
1982年12月に約20羽のナベツル幼鳥が死に、うち3羽が鹿児島大学家畜病理学教室で剖検され、翌年1月に赴任した私はこの切片を検査し、トリマラリア様疾患として報告した1)。以後、県ツル保護会の委託を受けて、年平均約12羽の斃死ツルを剖検、総計230羽を観察できた。83?87年に平川動物公園で斃死した5羽のナベヅル雛と幼鳥を病理学的に検索し、全身的な無性世代の細胞内増殖による肝脾の腫大は米国で報告された播種性内臓コクシジウム症2・3)(DVC)によく似ているが、有性世代が肺や気管では認められず、腸では陽性例が稀なので、別の病気であると考えて、1987年にヘパトゾーン様原虫感染症として発表した4)。
1995年横浜の世界獣医学大会では90?94年度のツル約70羽の疾病について報告した。出水のツルのDVC関連病態には(1)ヘパトゾーン様原虫症、(2)多核巨細胞様原虫症、(3)口腔食道原虫性小結節症の3形態があり、それらはDVCの病原体であるEimeria gruisとE.reichenowiを実験感染したカナダヅル3)における全身性無性世代増殖期、寄生虫血症、オーシスト排出後の安定期の肉芽腫病変にそれぞれ一致すると思われた。腸管の上皮にメロゾイトが入って有性世代に変わる像も確認された。唯1例だが、メロゾイトが食道粘膜上皮と気嚢開口部上皮に入り込むのを観察した。出水のツルの糞便からもEimeria gruisとE.reichenowiによく似た形態とサイズのオーシストが検出された。自然例はほとんどがこの2種の混合感染であるため、形態学的に病理発生を研究するには種特異性マーカーの開発が望まれる。
1996年以降、腸病変がよく観察できる新鮮な死体のお陰で、DVC同様に全身病変と腸病変が重複する例が多数確認され、新たに食道上皮、胆管上皮、F嚢被蓋上皮に寄生する有性世代も発見された。今や、米国のDVCと異るのは気道上皮内有性世代が認められない点だけである。
この病気が12月頃に多発する原因として、渡りのストレスや越冬地の環境因子に関連する抵抗力の低下から潜伏感染が発症して重度感染に至ること及びオーシスト大量摂取の可能性が推定された。
他に、出水のツルの死因として重要なものは骨折、偽膜性腸炎、テトラメレス胃虫症、アスペルギルス症、痘瘡などである。
References
  1. Shimizu, T. et al. Avian malaria-like disease found in young crane (Grus monacha), Mem. Fac. Agr. Kagoshima Univ. 20: 127-136, 1984.
  2. Carpenter, J. W. et al. Disseminated granuloma caused by an unidentified protozoan in sandhill cranes. JAVMA, 175:948?951,1979.
  3. Carpenter, J. W. et al. Disseminated visceral coccidiosis in shooping cranes. JAVMA, 177:845?848, 1980.
  4. Shimizu, T. et al. Fatal infection of Hepatozoon-like organisms in the young captive cranes (Grus monacha). Mem. Fac. Agr. Kagoshima Univ. 23: 99-107, 1987.
  5. Novilla, M. N. et al. Pulmonary lesions indisseminated visceral coccidiosis of sandhill and whooping cranes. J.Wildl. Dis. 25: 527-533, 1989.

北海道における野生タンチョウの事故状況


釧路市動物園  井上 雅子
釧路市動物園では、1976年12月から野生タンチョウの保護収容事業を開始し、2003年12月までの28年間に293羽の野生個体を収容した。
100羽が生体で保護され、21羽が1年以上生存し2羽が野生に戻った。また、収容数の30%が1歳未満の幼鳥であり、全体の幼鳥率10−14%に比べ非常に高い。
収容数はタンチョウが給餌場に集り出す9月から増え始め、12月にピークとなり、この間に6割近くを占める。また、降雪で電線が識別しやすくなる1月には急減する。
死因は、4分の3が何らかの衝突によるもので、半分は電線事故だが、最近は列車事故と、特に交通事故が増加が目立つ。
地域別では、2つの給餌場がある鶴居村で電線・交通事故の4割を占め、列車事故は釧路湿原を控える標茶町と、厚岸湖および別寒辺牛湿原を控える厚岸町で、また、十勝管内豊頃町・浜中町では交通事故の割合が高い。
今後の課題として、
  1. 標識鳥の回収率は20-25%で、収容数の4倍が死亡している計算になり、このままでは年間の死亡数が繁殖数を上回る。回収率を上げて死亡原因の実態を把握したい。
  2. 間接的な内因として重金属等の蓄積が考えられるのでこれらの測定を行ない、事故現場の検証等、死亡原因について多面的に調査する。
  3. 生息数の増大とともに人馴れによる危険意識の低下が考えられ、給餌体制の見直しを含めた人馴れ防止策を考える必要がある。

ツルのコクシジウム遺伝子解析−その目的と意義


中井裕
横山徹志
佐藤正明
佐々木貴子
清水孜*
(東北大・院・農、鹿児島大・農*)
【目的】われわれは鹿児島県出水市のナベヅルおよびマナヅル、北海道阿寒町のタンチョウの糞便よりコクシジウムのオーシストを検出しており、遺伝子解析によるツルのコクシジウム原虫の同定を試みた。
【材料と方法】出水市のツルの越冬地の落下糞便を採取し、ショ糖浮遊法により、コクシジジウムのオーシストを分離した。倒立顕微鏡下でオーシストを1個ずつ単離し、ゲノムDNAを抽出した後、PCR法により増幅を試み、増幅産物を直接、またはクローニングすることによって、DNA配列決定を行った。プライマーはGeneBankに登録されたEimeria原虫の18S rDNA配列を比較して、種間で共通な領域を選んで設計した配列を使用した。
【結果】オーシストは洋梨型のもの(Eimeria gruis様)と、円型のもの(E. reichenowi様)の2種類が観察された。洋梨型と丸型の決定された塩基配列は、99.8%と高かい相同性を示した。両者ともE. necatrixと最も高い相同性を示し、続いてE. tenellaE. mivatiE. acervulinaの順で高い相同性を示した。これらはすべてニワトリを宿主とするコクシジウム種であった。
【考察】現時点での情報は不十分であるが、今後、遺伝子解析により当該のツル群を汚染するコクシジウム種を明確にし、投薬などの対策を的確に行うことができる。また、離れた群の汚染原虫種を比較することにより、ツル群の渡りの過程での接触の可能性を類推することもできる。さらに、原虫の遺伝的多様性を指標にすることによって、ツルの進化および歴史的な地理的分布・分散を考察することも可能と考えられる。

北海道のタンチョウのコクシジウム症、及びツルの保護とコクシジウムについて


阿寒国際ツルセンター 渡辺ユキ

 2002年夏、北海道阿寒郡阿寒町の当タンチョウ飼育施設にて、ふ化させたヒナ3羽のすべてに、コクシジウムによるDVC(播種性内臓型ツルコクシジウム症)と考えられる症例が発生し治療した。ツルのコクシジウム症は飼育下では管理の難しい重要な感染症の一つである。この治療の経過や、米国から得た治療や管理の情報を報告する。
また、それまで道内にこのコクシジウムの感染報告がなかったため、隣接する野外群について同年中に感染状況調査を実施した。その結果を報告し、現在のタンチョウのおかれた状況との関係の解説と、今後のツル保護において必要な調査や考え方について述べる。

ツルの保護における、このコクシジウムの問題点は、人間のもたらすツルの生活環境の変化が、DVC発症を増加させる可能性が強いことである。ツル本来の生息地が減少あるいは変化する事は、本来目立たずツルと折り合いをつけていた寄生虫症が重症型発症の機会を増やす事につながる。それらは個体数や種の存続に影響しうるし、生態系維持の観点からも脅威である。これらの可能性について具体的に考察した。コクシジウム症は群れの密度や温度と関係が深く、発症の特徴は感染閾値(限界値)を越えると、群れ全体が一遍に影響を受けることである。現在発症が少ないことを安易に捉えてはならない。道東は元より出水のような温帯のツル集合の危険性について、関係者が検討を始める事を提案したい。

道内の野生タンチョウ感染状況調査は、主たる冬季給餌場である4ヶ所のうち3ヶ所と、飼育施設すべての2ヶ所で、12月から4月に糞便検査を実施した。感染は広く見られ、現在の感染状況は、どの群も大きな違いはないと考えられた。この感染症が野生群に与えている影響の有無や程度を判断するには本調査は不充分であり、それらは今後の課題である。

当飼育施設での発症例の年令は、60日齢2羽80日齢1羽であった。適切な種類と期間の抗コクシジウム薬投与の他、対症療法が重要であった。抗生剤や予防的抗真菌薬投与、適切な輸液療法、貧血や肝機能低下への補助療法、強制給餌等である。現在は発症予防と付近の野外群に悪影響を与えないために、予防薬の飼料中投与をしており予後はよい。
米国の管理や治療の情報の要点は、DVC発症の際には積極的な治療を推奨している点と、予防薬使用やケージ汚染の軽減策により環境中オーシスト数を減少させて発症の防止をしている点である。野外放鳥に際しては、最も警戒すべき感染症として対応している。以上を鑑みると、我国の飼育施設や研究保護増殖でも、今後一定のガイドラインが望まれる。

この内容は、平成14年度環境省事業報告書 野生タンチョウにおけるツルコクシジウム原虫感染に関する予備的調査報告書(2003)環境省自然環境局 東北海道地区自然保護事務所 にあり、同事務所で入手可。


飼育下でのツル類の管理


大阪市天王寺動植物公園事務所 飼育課 高見 一利
 現在、国内ではおよそ700羽のツルが飼育されている。種ごとの飼育個体数にはかなりのばらつきがあり、日本産の種をとっても、タンチョウの飼育数は非常に多く、ナベヅルは非常に少ない。世界的にも、野生での希少性と、飼育下での希少性は必ずしも一致していない。飼育個体数が少ない種ほど、飼育が技術的に難しい種である場合が多い。飼育下での今後の課題は、飼育個体数が少ない種において飼育技術を確立し、さらには個体数を確保することである。
野生動物を飼育下に置く場合には、独自の配慮が必要となる。飼育動物は完全に人間の管理下に置かれるため、その状態や行動を容易に把握できる。しかし、一方では動物自身が環境を選択できないため、人間が動物の生活環境を最適に保つよう努力する必要が生じる。そのため、多くの飼育施設では、野外調査の結果をフィードバックして、その種本来の生活を再現するよう努力している。具体的には、可能な限り生息地の条件を考慮して施設レイアウトや植栽の配置などを行ったり、野生個体の生態調査に基づいて飼育方針や給餌内容を決定したりしている。一方、これまでの飼育経験によって得られた情報をフィードバックして、より健康、安全に過ごせるための飼育下独自の配慮も行っている。外敵の排除や自然界に無い餌の給与、医学的管理、遺伝的管理、さらには人工繁殖技術の適用などである。飼育管理の一評価例として死亡原因を比較検討すると、外傷による死亡が最も多い点については野生、飼育下に変わりは無いが、野生個体群では重要視されている寄生虫感染に関しては、飼育下では予防治療件数が非常に多い結果、死亡例が非常に少なくなっているなど、飼育下での医学的管理が一定の効果を挙げていることがわかる。
飼育下で適切な管理を行い、健全な個体群を維持していくことは、希少種の保全を考える上で重要な取り組みである。今後は、動物を飼育下に置く有効性をより高めることができるよう検討するとともに、課題の解決に積極的に取り組む必要があると考えられる。
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