●要点
バードライフは、生態系からH5N1型ウイルスが迅速かつ完全に除去されることを求めています。鳥インフルエンザ・ウイルスにより甚大な経済的損失を被った方々には心を痛めています。鳥インフルエンザの感染により、すでに人命が失われたことに対しては言うまでもなく、今後の流行の可能性をバードライフも深く憂慮しています。
H5N1型ウイルスの感染経路はいくつか考えられますが、感染した家禽およびその加工製品の移動、商取引を対象に捕獲された野鳥の移動、野鳥の渡りが3つが代表とされています。この3大経路を中心に、有効な感染防止策を講じる必要があります。
ヨーロッパおよび中東で、H5N1型ウイルスが野鳥の間に大流行したことは、野鳥がインフルエンザ・ウイルスを遠い地域まで運ぶ可能性のあることを示しています。屋内農場で飼われていた七面鳥がH5N1型ウイルスの犠牲になる出来事がフランスのエンで起きたが、その10日前に、付近でH5N1型に感染したホシハジロが1羽、発見されています。このことは、たとえ屋内の養鶏場でも、感染防止策を講じる必要性を示しています。野鳥に対するH5N1型ウイルスの影響をはじめ、野鳥間や家禽への感染力に関してはまだわかっていない点が多々あります。
一方、インド、ナイジェリア、エジプトで最近発生したH5N1型ウイルスの感染には、野鳥は関わっていません。ここでは、家禽およびその加工品の移動が感染の原因になっていることを示す有力な状況証拠があります。
H5N1型ウイルスの感染拡大にともない、有効な防止策を冷静に講じることが急務です。バードライフは以下のことを特に提言します。
- 野生の渡り鳥に対する監視の強化。感染が確認された場合は、生態学的な情報の収集に努める。
- 養鶏場等の家禽産業施設における感染防止体制の強化。
- 家禽の排泄物を原料とした肥料や飼料を含め、加工製品の移動の規制強化。
- 感染地域からの野鳥の商取引停止措置の延長。
- 関連する獣医学、医学、農業、環境の研究者や専門家の協力や情報の共有
野生の渡り鳥の死亡原因はH5N1型ウイルスだけではありません。死亡した野鳥の検査は迅速に行なう必要がありますが、パニックを起こさせてはなりません。野鳥の駆除や生息地の破壊は適切な感染防止策ではないからです。少なくとも有効な手段とは言えません。適切な対策を講じる妨げとなり、むしろ逆効果となったり、環境に悪影響を与える可能性があります。
H5N1型ウイルスに感染した鳥に触れない限り、人が感染する危険性はきわめて低いものです。
鳥インフルエンザ対策の効果を挙げるには、獣医師、家禽産業、食品、農業、保健衛生、環境保護団体の関係者の協力が重要であると考えています。鳥インフルエンザ対策委員会にバードライフは積極的に参加する用意があります。この委員会には、国連環境計画の「移動性野生動物の保護条約」(CMS)が召集した国連の4団体を含む、9つの国際組織の研究者や環境保護活動家が加わっています。また、2006年3月にブラジルで開催される生物多様性会議の関係者会議の第8回会合で、鳥インフルエンザが野生生物と生物多様性に及ぼす影響の科学的評価を行なうと発表されましたが、バードライフはこの発表を歓迎します。
●最近のH5N1型ウイルスの感染
家禽に起源を持つ高病原性の鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスのH5N1型により、すでにアジアの数カ所で野生の水鳥が死亡していますが、最近、中東やヨーロッパでも死亡が確認されました。さらに、アフリカ、インド、ヨーロッパでも、家禽がこのウイルスの犠牲になりました。
野生の水鳥がH5Nウイルスの保有者の最有力候補と考えられているので、2005年の後半に、野生の水鳥が東南および南アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカ、オーストララシアの非繁殖地へウイルスを広めるのではないかと、もっぱら予測されました。
しかし、2006年2月現在、家禽における鳥インフルエンザ発生地以外の東南アジアで野鳥の死体からH5N1ウイルスが検出された例はわずかしかありません。犠牲となった野鳥は香港の留鳥です。ちなみに、香港では違法に輸入された家禽がウイルスに感染していた例が見つかっています。フィリピン、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、アフリカの非繁殖地で、H5N1型ウイルスに感染した渡り鳥は発見されていません。
しかし、アフリカで、大規模な感染が家禽で2件起きています。一カ所はナイジェリアで、おそらく中国かトルコからと思われますが、違法に輸入された家禽が感染源であることを示す有力な状況証拠があります。もう一カ所はエジプトですが、やはり家禽が感染源であり、野鳥へは感染していません。2月の中旬に、インドで、裏庭で飼っていた家禽にウイルスの感染が起きましたが、商業用の孵化場で購入した鳥にウイルスが感染していたようです。今の段階では、孵化場にウイルスが入った経路を特定できていません。
一方、ヨーロッパや中東では、各地で、野鳥、おもにコブハクチョウをはじめとする水鳥の死亡が多数報告されています。アゼルバイジャンの数千羽を筆頭に、ボスニア・ヘルツエゴビナ、ブルガリア、クロアチア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、イラン、ルーマニア、スロべニア、トルコでも少数が死亡しています。こうした国々で、ほぼ同じ時期にウイルスによる野鳥の死亡が確認されたのは、東の地域が寒かったので、野鳥が暖かい地域へ移動したからでしょう。黒海地方でウイルスに感染したと思われます。家禽の群れの中に数ヶ月間いたことがわかっているからです。
ギリシャのエブロス・デルタで回収されたハクチョウを検屍解剖した結果、死因は内部寄生にともなう餓死と判明しました。さらに、20羽のハクチョウと1羽のアオガンを検査したところ、陽性反応がみられました。しかし、直接の死因はH5N1型ウイルスではなかったのではないかと考えられています。ウイルスに感染していた野鳥が、発症せずにウイルスを運んでいたのか、ウイルスの潜伏期間で、いずれ発症して死に到る(あるいは治癒する)ことになったのかどうかは不明です。
ドイツの北部でも、大規模なウイルスの感染が水鳥に発生しました。犠牲になったのはおもにハクチョウ類ですが、2月24日現在で、100羽以上の水鳥に陽性反応が出ています。感染は近隣の地域にも広がっている模様です。ドイツの感染は冬鳥に発生したようで、南ヨーロッパで発生した感染とは無関係と思われます。
感染源は今のところ不明ですが、徹底的な調査を行なうことを決めたドイツ政府の対応を歓迎します。
西ヨーロッパで発生した家禽のウイルス感染はフランスのエンにある屋内の七面鳥農園が最初でした。ちなみに、その10日前に付近で、H5N1型ウイルスに感染したホシハジロが1羽、見つかっています。フランスの事例は屋内施設で飼育しても、感染を免れることはできないことを如実に示しています。屋内の施設にウイルスが侵入した状況はまだ解明されていません。感染源を特定するためには、あらゆる種類の調査を実施することが重要でしょう。
●野鳥の役割
ヨーロッパの事例から、感染した野鳥は、潜伏期間(数日)にウイルスを新たな場所に運ぶことができることがわかりました。しかし、野鳥におけるH5N1型ウイルスの疫学的理解と生態系の中での行動の理解はまだきわめて不十分です。例えば、野鳥間や野鳥と家禽の間に生じるウイルスの感染力は重要な問題ですが、まだわかっていません。クロアチアの調査結果では、感染したハクチョウと同じ池にいた水鳥は感染を免れていますが、オーストリアの動物救護センターで、感染したハクチョウと一緒に収容されたニワトリは感染したことが明らかになりました。
初期のころに発生した感染は、ヨーロッパで最近になって起こった感染とはパターンが大きく異なっています。渡り鳥が感染を広めていたのであれば、犠牲となった野鳥の屍体が渡り経路に沿って点々と見つかったはずだというバードライフの見解をこのことは支持しています。例えば、アジアでハクチョウの死体が多数発見されてはいないように、実際には、野鳥の屍体が渡り経路に沿って、見つかってはいません。さらに、H5N1型ウイルスを野鳥が広めているという説では、アジアからの渡り経路に当たる国の中に、インフルエンザの発生していない国がある一方で、その近隣の国でくり返し感染が起きている理由を説明できません。また、家禽に感染が広まった時期やパターンに野鳥の渡りとの関連が見られない理由も説明できません。
高病原性H5N1型ウイルスは野鳥に広く感染しているというデータも、まだ数は少ないものの、この結論を支持しています。中国で、13,000羽を越える野鳥を検査したところ、3%の個体がH5N1型ウイルスの抗体を持っていましたが、陽性反応を示した個体は6羽に過ぎませんでした。世界全体では100,000羽を越える野鳥の検査が行われていますが、健康な渡り鳥にはウイルスの感染は認められませんでした。この数には、香港でこの10年間に検査された16,000羽も含まれています。中国本土の家禽に感染が広がっている地域に極めて近い位置にあることを考えると、生きている野鳥に感染した個体が1羽もいなかったことは驚くべきことです。ウイルスの感染が認められていないニュージーランド、オーストラリア、カナダで、数千羽の渡り鳥(水鳥)の検査が最近、行なわれましたが、すべての個体が高病原性H5N1型ウイルスに対して陰性反応を示しました。世界の各地でこのような検査が行なわれていると思われますが、検査結果が公表されていません。高病原性H5N1型ウイルスの感染防止策を実効あるものにするためには、どのような結果であっても、検査結果を公表して、研究者が自由に利用できる環境を整えるべきだと考えます。
ヨーロッパの事例から、野鳥がウイルスを遠い地域まで運び、ばら撒く可能性を持っているのは明らかです。初期のころの感染事例からは、野鳥以外の感染経路も重要なことがわかります。例えば、野鳥の商取引、未処理の家禽およびその加工製品の移動、衛生管理が不十分な輸送用器具の再使用、感染した家禽の排泄物を農業用肥料や家畜の飼料として使用することなどが感染経路として考えられます。
●家禽およびその加工製品の移動
東南アジアで発生したウイルス感染の大部分は、家禽やその加工製品もしくは、水、土や泥、運搬車両、人の衣服や靴など、養鶏場に関連する感染物質の移動と関係があります。世界的には、規制のない家禽の移動がまだ重要な感染経路になっています。2006年2月21日に発行された論文では、ウイルスの系統分析の結果、東南アジアで発生した大規模感染の原因は家禽の移動にあると結論が出されました(チェンら、「アジアにおけるH5N1型インフルエンザ・ウイルスの多亜系の特定:感染防止の展望」、国立科学院報告、2006年2月21日)。
国連食糧農業機関(FAO)、世界動物保健機関(OIE)、および世界保健機関(WHO)によると、東南アジアで発生したウイルス感染に大きな役を果たしたのは、生きた鳥の売買市場(生鳥市場)と思われます:1992年、アメリカの生鳥市場は「インフルエンザの疫学におけるミッシングリンク」と考えられています。1997年に香港の養鶏場で発生したH5N1型ウイルス感染の感染源となった市場が特定されました。この年、市場の鶏の約20%がウイルスに感染していました。ベトナムも状況は同じでした。ハノイの市場のガチョウがH5N1型ウイルスに感染していることが、2004年に養鶏場で発生した大規模感染の3年前に報告されていたのです(鳥インフルエンザおよび人の健康に関するFAO/OIE/WHOの諮問:アジアにおける動物の増殖、売買および同居の危険削減策、クアラランプール、マレーシア、2005年7月)。
さらに、家禽に関しては、違法なものも含め、大規模な国際取引が存在しています。合法的な取引では家禽が文字通り、何百万単位で世界の各地へ輸送されています。具体例を挙げると、ウイルスの大規模感染が発生する前のエジプトは、年間、1億8千万羽の1日齢の雛鳥と50万羽の成鳥を輸出していました。2004年に、ウクライナは鶏を1千2百万羽、ルーマニアは1千6百万羽、輸入しています。トルコでは、1つの農場に年間、1億個以上の孵化卵を生産する能力があり、主に東欧と中東に輸出されています。インド、ナイジェリア、エジプトで最近発生したウイルスの大規模感染は家禽産業がその
感染源で、家禽及びその加工製品の移動が感染を広めた疑いが強いのです。
家禽類の違法取引に関する情報は当然のことながら、入手困難ですが、家禽の肉がアジアからアメリカに違法に輸入されたことが最近明るみに出ました。2005年10月に、中国から密輸された3,000羽の鶏をイタリア当局が押収しました。2005年の11月には、おそらく何百トンにもおよぶと思われますが、大量の鶏の肉が中国から密輸されたことを英国当局が明らかにしました。国内の食品製造業者に売り渡す前に、ラベルが不正に張り替えられていました。2006年2月には、中国から密輸された20キロの鶏の舌がリオデジャネイロで、ブラジル当局に発見されました。また、中国から密輸された21トンの家禽の肉がスペインの南部で押収されました。こうした密輸事件は、危険性が広く公表されているにもかかわらず、国境の取り締まりがまだ十分でないこと示しています。違法な家禽の輸送が中央アジアでは横行していることも報告されています。第3国から輸入された肉がロシアに再輸出されているケースがかなりあると、2005年にウクライナの獣医学局は発表しています。
●飼鳥の違法取引
飼鳥の違法取引の横行により、H5N1型ウイルスに感染した鳥が遠い地域にまで運ばれています。例を挙げると、台湾当局はこれまでに感染した鳥が中国本土から密輸されるのを2度取り押さえています。英国の鳥類検疫所で発生したH5N1型ウイルスの感染も合法的に見せかけて、違法に輸入された鳥が感染源と思われます。2004年に、台湾からベルギーに手荷物として密輸されたクマタカがウイルスに感染していることが判明しました。飼い鳥の感染源は生きた動物の市場が一番可能性が高いのです。捕獲された野鳥も狭いところに押し込められて、売られています。排泄物で相互に汚染し合う危険が高い環境なのです。
●肥料や家畜の飼料に使用される排泄物
危惧されるだけでなく、詳しい調査を行なう必要があるのは、鶏やアヒルなどの家禽の排泄物が未処理の状態で、農業や水産養殖で肥料や飼料として広く利用されていることです。H5N1型ウイルスに感染した鳥は糞と一緒にウイルスを排泄します。ウイルスに感染した鳥が排泄した糞を未処理のまま、養殖池や畑に撒くと、新たな感染源になる可能性があります。1988年にすでに、その危険性が認識されていたにもかかわらず、ほとんど調査が行なわれていないのが現状です。
ロシアの養魚場で肥料として鶏の糞を最近使用し始めたことが初期の調査で判明しました。家禽の糞を農地に撒いている東ヨーロッパも、ロシアのあとを追って、養魚場での使用を始めました。農地に撒かれた糞の1部は必ず、河川に流れ込みます。未処理の家禽の糞を集めて、輸送し、販売することは、ウイルスを広めるのにきわめて有効な方法です。国連食糧農業機関(FAO)の勧告では、鳥インフルエンザを経験した国や危険のある国では、たとえ熱処理を施し、適切に堆肥にしたり、サイロに貯蔵したりしても、家禽の糞や養鶏施設で使用した藁を飼料として利用することは禁止するのが望ましいとしています。2006年の冬にセルビアで使用された、排泄物を原料にした肥料は、中国原産であったことが最近、判明しました。
●予防と規制
野鳥の監視と野鳥の個体群におけるウイルスの行動の研究がきわめて重要です。しかし、H5N1型ウイルスの防止策としては、総合的な安全管理を徹底することの方がはるかに重要です。家禽の監視と検査、家禽およびその加工製品や飼い鳥の流通の規制、家禽の糞の肥料としての使用規制、家禽や捕獲野生鳥類の違法取引の規制強化を実施すべきです。
屋内飼育や予防接種等の問題に関しては、獣医師の指導に従うことが望ましい。十分な抗原が含まれているのであれば、予防接種は効果があるかも知れません。しかし、質の劣るワクチンは病気の発症を押さえても、ウイルスの増殖、感染、進化を許してしまいます。予防接種の利点に関しては、ウイルスの研究者、獣医師、政治家の間で、議論が続けられています。
野鳥の役割は、世界全体を視野に入れた家禽産業や家禽製品の流通という大きな枠組みの中で考える必要があります。野鳥だけを考えるのは誤りであるだけでなく、時間やお金を無駄にする危険があります。渡り鳥の駆除や生息地の破壊は大きな誤りです。こうしたやり方は全く効果がないばかりか、状況を悪化させかねません。
●人への危険性
H5N1型ウイルスは人に重大な病気を引き起こす可能性がありますが、感染力は弱いものです。家禽から人へはまだ感染しにくい状態です。通常は長時間かつ濃密な接触がなければ、感染しません。今のところ人から人への感染は認められていません。問題は、人から人へたやすく感染して、大流行を引き起こす形に進化する可能性があることです。
この100年間に、A型のインフルエンザが少なくとも3回大流行し、世界中で多くの人命が失われました。こうした危険なウイルスの系統は、ブタを介して変化すると思われますが、鳥と人のインフルエンザウイルスが出会い、遺伝物質を入れ替えたときに、生まれたと考えられています。H5N1型ウイルスは中間宿主を介さずに、鳥から人へ直接感染できる、珍しい種類なので、H5N1型ウイルスの感染があとを絶たないと、人に容易に感染するウイルスの発生が再び起こる確率が高まります。
しかし、感染して死亡した野鳥を処理したときに使用した手袋をいじっていた子どもが感染した、トルコの1例を除き、H5N1型ウイルスが野鳥が原因で人へ感染したことを示す証拠はありません。人の感染は家禽と接触を持つ人の中で起きています。家禽や水鳥で発生した感染の規模を考えると、人の感染件数はきわめて少ないです。家禽から人へ感染する能力がまだ低いことを示しています。
バードウォッチングをしたり、庭にバードフィーダーを設置したりしても、感染することはありません。しかし、野鳥の死体にはさわらない、バードフィーダーの清掃や餌出しを行なった後は石鹸で手を洗う、といった常識的な注意事項を守る必要はあります。いずれにしても、こうした注意事項を守るのは望ましいことです。野鳥は、H5N1型ウイルスに限らず、人体に害を及ぼす危険性のある病原体を持っている可能性があるからです。H5N1型ウイルスの感染が発生した地域には行かない方がいいのは言うまでもありません。
H5N1型ウイルスの感染が発生した国では、家禽や他の飼い鳥を扱う人に対しては、予防措置を徹底させ、野鳥との接触をできるかぎり避けさせる必要があります。
●対策が野鳥の保護に及ぼす影響
H5N1型ウイルスは野鳥に対して、高い病原性(死亡率)を持っています。野鳥を駆除したら感染を防止できるのではないかという誤った考えから、駆除が行なわれたならば、保護の必要のある種に悪影響を与えかねません。世界保健機関、
食糧農業機関、および世界動物保健機関(OIE)はすべて、野鳥の駆除による鳥インフルエンザの防止は現実的でないことを認めています。駆除をしようとすれば、逃げ出した個体が駆除の行なわれていない地域へ分散して、かえってウイルスを広めることになるだけでなく、健康な個体もストレスを受けて体力が低下し、感染しやすくなるからです。
マスコミで野鳥が悪者扱いされる事例が報告されています。政治家がハンターに、渡ってくる渡り鳥を1羽残らず打ち落とすように要請した国もあるそうです。水鳥の飛来地と繁殖地をなくすという口実のもとに、湿地の干拓計画を復活させた政府もあると報道されています。鳥インフルエンザの感染を防ぐのに役立つという誤った思いこみから、ツバメのように、人の近くで繁殖している野鳥の巣落としが行なわれています。このようなことをしても、感染防止に役立つどころか、野鳥をふくめ生物の多様性を損なうことになります。
世界的に絶滅が危惧されている2つ鳥類種がすでに影響を受けているかも知れません。ギリシャでアオガンからH5N1型ウイルスが最近検出され、2羽目の個体から検出されたサンプルの検査が目下行なわれているが、これは重大な問題です。世界中のアオガン(総個体数、88,000羽)の90%が、ウイルス感染が発生しているルーマニアとブルガリアの5カ所の塒に集まるからです。ブルガリアで、数羽のハイイロペリカンの死体について、目下検査が行なわれていますが、このペリカンは淡水湿地や沿岸の潟で集団繁殖をするので、感染の危険が高いのです。世界の総個体数は15,000羽ですが、バルト海と黒海地方に分布が集中しています。繁殖地になっている国の多くはすでにH5N1型ウイルスの感染を経験しています。2005年の春に中国の青海湖(Qinghai)で発生したウイルス感染で、インドガンの全個体群の5%ないし10%が犠牲になったと推測されています。
バードライフは、先にも述べたように、鳥インフルエンザ対策委員会のメンバーです。委員会はウイルス感染の原因に関して、詳細なデータと情報を求めています。鳥インフルエンザに関する最新の情報を分析するために、一流の研究者を招聘して、4月の上旬に会合を開く予定です。
H5N1型ウイルスの野鳥に及ぼす影響
飼育下の野鳥は別にして、ウイルスに感染した野生鳥類種は3つのタイプに分けられる。
- 家禽農場の付近で採食していたと思われる、カラスやカササギなどのスカベンジャー種および猛禽類(最近のヨーロッパ)
- 町や農場の付近を流れる汚染された河川(養魚場も含む)で採食する、サギやカモメの仲間
- 水域や付近の農耕地で採食し、集団繁殖または群れを形成する水鳥
渡り鳥に与えるH5N1型ウイルスの影響については、いくつかの可能性が考えられる。
飼育下のマガモに対して、ある特定の遺伝子型を持つウイルスを用いて行なわれた実験結果に基づく想定では、H5N1型ウイルスに感染しても、ほとんど発症しない。この場合、感染した個体は死に到らないが、繁殖地、渡り途中、および非繁殖地にウイルスを持ち込むだろう。それにともない、家禽の感染が発生することが考えられる。繁殖地や越冬地で、数は少ないが、野鳥の死亡が確認されている。しかし、渡りの主要経路沿いで、家禽の感染が発生した証拠はない。
大部分の鳥類種にとって、H5N1型ウイルスが危険であっても、中には感染しても、発症しない種がいる場合を想定すると、多少異なる可能性が考えられる。繁殖地や非繁殖地、さらにウイルスのキャリア種が利用する渡り経路で、ウイルスの犠牲になる野鳥が出るであろう。家禽も野鳥と同じ時期に同じ地域で、ウイルスに感染すると思われる。家禽のいない場所で、死亡する野鳥が出るかも知れない。野鳥が死亡しないところでは、家禽も死なないはずである。こうした予測に該当する事例は、今のところまだ確認されていない。モンゴルのエルヘル湖やヨーロッパでは、家禽農場から遠く離れたところで、野鳥の死亡が確認されている。しかし、モンゴルの場合は、感染源として家禽を除外することはできない。一方、ヨーロッパの事例は、おそらく家禽の糞で汚染された農地や河川等が感染源と考えられるが、そこからほぼ同時に感染が広がることを示している。
野鳥が死亡するまでの短い期間にウイルスを運ぶとすると、状況はまた少しちがってくる。渡り個体が次々にウイルスに感染して、死亡する場合は、ウイルスは渡り経路に沿って拡散すると予想される。野鳥の犠牲も家禽の犠牲も、こうした渡り経路に沿って出るはずで、飛び地のような形で、野鳥や家禽の大量死が起こることはないだろう。ヨーロッパで発生したウイルス感染がこの状況に該当する。しかし、注目すべきは、目下調査が行なわれているフランス東部で発生したものを除き、今のところまだ、野鳥が感染源となったと考えられる家禽の大規模感染は発生していない。フランス東部で起きた家禽の感染は、感染したハクチョウが持ち込んだ低量のウイルスが原因であったと疑われ、調査が進められている。
ウイルスに感染した野鳥が短時間で死亡する場合は、野鳥や家禽の死亡は渡り経路に沿ってではなく、局地的に発生し、短期間で終息するであろう。これは大方の感染事例に当てはまっている。
訳:黒沢隆・令子
オリジナルアドレス:http://www.birdlife.org/action/science/species/avian_flu/index.html