公益財団法人日本野鳥の会
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当会の活動

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第23巻 掲載論文 (2005年3月発行)

栃木県におけるオオジシギの減少

平野敏明・君島昌夫・小堀政一郎・小堀脩男・野中純・志賀陽一

  • 筆者らは,1986年の 5月から 6月に調査を実施した場所で,2003年と2004年の繁殖期に再び調査を行なうことで,栃木県におけるオオジシギの生息状況の変化を調査した.2003年には26か所88地点,2004年には16か所56地点で定点調査を実施した.その結果,2003年には 7か所,2004年には 6か所でオオジシギの生息を確認した.1986年と2003年を比較すると,生息状況は有意に変化した(P=0.035).生息個体数は,2004年には合計14羽,2003年には合計12羽を記録した.1986年には2003年と同じ範囲で41羽が確認されていたので,生息数は著しく減少した.特に,1986年の調査で生息数の多かった西那須野町や黒磯市,那須町で著しい個体数の減少がみられた.生息状況の悪化の理由の 1つは,1986年当時伐採跡地や工業団地造成地だった場所で,樹木が成長したり建物の建設などによる生息環境の消失があげられる.しかし,牧草地では著しい環境の変化がないにもかかわらず,オオジシギの生息数が減少していた.

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エナガの卵や巣内ビナの捕食者

赤塚隆幸

  • 中部地方にある岐阜県羽島郡川島町を中心とした木曽川河川敷で,2000〜2004年にかけてエナガの卵や巣内ビナに対する捕食者について調査した.

    営巣結果が判断できた178巣のうち,繁殖成功は51巣(28.7%),繁殖失敗は127巣であった.失敗の原因は,悪天候によるものが11.8%,捕食によるものが31.5%,その他の放棄が28.1%だった.

    調査地におけるエナガの営巣失敗の原因では,長野県やイギリスなど他地域の調査に比べると,捕食による失敗の比率が低かった.調査地の捕食者は主にカラス類と考えられ,全捕食数の66.1%だった.以下イタチと思われるものが12.5%,ヘビと思われるものが16.1%,捕食種不明5.4%だった.

    エナガの生息環境の違いが,営巣失敗する原因の相違や,繁殖成功率の差に影響すると考えられた.

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冬期のエナガの捕食者とそれに対する警戒反応

赤塚隆幸

  • 冬期から繁殖初期にかけてのエナガ群に対する捕食者の襲撃は,約68分に 1回の割合で起こり,モズの襲撃頻度が最も高かった.調査期間の群れの個体数の増減も調査したが,年によって減少の幅が違い,捕食者による影響の大きさは確定できなかった.またエナガが捕食者に対して警戒発声した 4段階のレベル分けからは,ハイタカ属やハヤブサ属への警戒レベルが高かったのに対し,モズに対する警戒レベルは低かった.エナガにとっては,ハイタカ属やハヤブサ属がより警戒を要する対象であることが予測された.

冬期の越後平野水田におけるコハクチョウの食物内容

渡辺朝一

  • 越後平野の西蒲原地区に位置する水田地帯において,食痕観察法と糞分析法により越冬期のコハクチョウの食物内容を調査した.食物内容としてはイネの落ち籾が大半を占め,越冬期の後半には越年生の草本も採食されていた.コハクチョウの第一の食物資源であるイネの落ち籾と,第二の食物資源である越年生の草本は,圃場整備の進んだ,近代的な大規模水田に特徴的な資源だった.

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全国的な鳥類調査「鳥の生息環境モニタリング調査」で明らかになった繁殖期の鳥類群集の種構成

福井晶子・安田雅俊・神山和夫・金井裕

  1. 日本全国の森林を対象としたモニタリング調査で得られた繁殖期の鳥種の在不在情報から類似度を算出し,クラスター分析を行なったところ,鳥種の組み合わせの類似性が高い調査地点のグループ(クラスター)が 5つ抽出された.これら 5つのグループには,緯度,標高および植生といった共通の環境要因が見い出された.これらの環境要因は,生物の分布の決定要因として知られている要因であり,大規模なモニタリング調査により,日本の鳥類でもこれらの要因が分布の決定に重要であることが裏付けられた.
  2. 鳥種ごとの出現地点数をみると,シジュウカラ,ウグイス,コゲラの 3種が最も出現頻度が高かった.ついで,ヒヨドリ,エナガ,ハシブトガラス,キジバトの4種の出現頻度が高く,これら 7種はさまざまな環境に広く生息している種であった.さらに,高標高でまれなメジロ,カワラヒワ,逆に低標高の開けた林でまれなヤマガラ,キビタキ,ヤブサメ,オオルリ,ホトトギスも,比較的広い生息域を示した.
  3. 夏鳥は高緯度(グループ 1)と高標高(グループ 6)の調査地点で出現頻度が高く,これらの場所が夏鳥の繁殖場所として重要であることが明らかとなった.また,低緯度や低標高の場所は,高緯度や高標高の場所に至る渡りの経路として重要であると考えられる.近年その減少が懸念されている夏鳥の保護のためには,繁殖場所だけでなく,渡りの経路の環境も保全すべきであり,まずその経路の解明が急務である.
  4. 5年間の間隔をあけて同一の調査地点で実施された 2回のセンサスは同じグループに分類されたことから,繁殖期の鳥類群集の種構成が安定していることが明らかとなった.これまでの研究では,繁殖期の鳥類群集は種と個体数の両方を考慮した類似度指数でみて安定していることが知られているが,本研究によって鳥種の在不在情報からも群集の安定性を裏付けることができた.このモニタリングをさらに長期間継続することにより,全国規模で鳥類群集の変化を検出することが可能となり,鳥類の保全に貢献することができるだろう.

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オオクチバス急増にともなう魚類群集の変化が水鳥群集に与えた影響

嶋田哲郎・進東健太郎・高橋清孝・Aaron Bowman

  1. 1996 年以降にオオクチバスが急増した宮城県北部の伊豆沼・内沼において,オオクチバスの侵入前後の1994 年から2001 年の8 年間について,魚類群集の変化にともなう水鳥群集の変化を分析し,オオクチバスの水鳥群集への影響を評価した.
  2. オオクチバスは1996 年に0.7t が漁獲された後,急激に増加した. 魚類全体の総漁獲量は1990 年から1995 年にかけて28t から37t であったが,1996 年以降オオクチバス漁獲以前の3 分の1 に減少した. サイズ別漁獲量をみると,タナゴ類,モツゴ,タモロコなどを含む小型魚種の減少が著しかった.
  3. 主要水鳥類10 種であるカイツブリ,カンムリカイツブリ,ダイサギ,コサギ,ホシハジロ,キンクロハジロ,ホオジロガモ,ミコアイサ,カワアイサ,オオバンの1994 年から2000 年における個体数の経年変化をみると,年ごとに増減はあるものの,増加傾向の種はなく,個体数は全体的に減少した.
  4. 水鳥類の個体数変化に対するオオクチバスの影響を評価するため,オオクチバス侵入前後の個体数から種ごとに減少率を求め,魚類に依存しない種(ホシハジロ,キンクロハジロ,オオバン)とそれ以外の魚食性水鳥類7種で減少率を比較したところ,カイツブリ,ミコアイサ,コサギの減少率は魚類に依存しない種の減少率より有意に高かった. また減少率の高かったこれら3 種のくちばしの長さはその他の種より短い傾向があった.
  5. 魚食性水鳥類7 種の平均個体数とサイズ別漁獲量の関係をみると,小型魚種の漁獲量とコサギの個体数でのみ有意な正の相関が認められ,中・大型魚種の漁獲量とコサギ,サイズ別漁獲量とその他6 種の個体数には有意な相関は認められなかった.
  6. 魚食性水鳥類7 種のうち,カイツブリのみは沼を繁殖場所としても利用する. 繁殖期のカイツブリの個体数は,オオクチバス侵入後に減少した一方で,バス釣り人の人数は増加した.
  7. オオクチバスの捕食による小型魚種の減少によってもっとも大きな影響を受けたのが,コサギ,次いでカイツブリ,ミコアイサであると考えられる. 沼で繁殖もするカイツブリの減少にはバス釣り人による繁殖妨害も影響していると考えられる.

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サギ類の餌生物を誘引・撹乱する採食行動 −波紋をつくる漁法を中心に

濱尾章二・井田俊明・渡辺浩・樋口広芳

サギ類には嘴の先端を水面につけ素早く開閉して波紋を起こし,それに誘引された餌生物を捕らえる行動がある(ここでは波紋漁法と呼ぶ).コサギの波紋漁法について観察を行なうとともに,餌生物を誘引あるいは撹乱して捕らえるサギ類の採食行動について文献やメーリングリストから情報を収集した.

  1. 東京都上野公園で波紋漁法を行なうコサギと歩いて餌生物を捕らえるコサギの採食効率を比較したところ,採食効率は観察日によって決まっており,採食方法による差はみられなかった.
  2. コサギの波紋漁法は全国の 5か所で観察されていた.いずれも水深が深く,水の流れがほとんどない場所であった.通常の方法で餌生物を捕らえにくい場合,このような場所では波紋漁法によって採食効率が高くなることが考えられた.
  3. 日本のゴイサギでは初めて,波紋漁法が東京都石神井公園とそこから2.4km離れた善福寺公園で観察された.
  4. 観察情報によると,三重県津市でコサギが前方に出した足を藻くずの中でゆっくりと揺らし,微小な餌生物を捕らえていた.この行動は,海外で知られている Foot-probing(足さぐり)に当たると思われた.
  5. カワウの採食による餌生物の撹乱を利用したコサギの採食,同様にカワアイサを利用したダイサギの採食が観察されていた.
  6. コサギは多様な採食方法をもつことにより,微小な動物を含む多様な食物を利用可能となり,留鳥として通年生息することが可能なものと考えられた.

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知床半島におけるオジロワシの繁殖状況

白木彩子・中川 元

  • 知床半島の斜里町と羅臼町で繁殖するオジロワシを対象として,現地調査の結果と既存の文献のデータをもちいて,1988-2003年の繁殖状況について検討した.16年間の繁殖成功率の平均は76.4%,生産力は1.00と算出され,海外の個体群の値との比較から,知床半島の繁殖つがいは比較的良好な繁殖力を維持していると考えられた.しかし,長期的に営巣の確認されている 4か所の営巣地において,調査の前期(1988-1995)と後期(1996-2002)で繁殖成績を比較したところ,繁殖成功率の平均は92.9%から61.7%,生産力は1.36から0.87となり,後期における低下傾向がみられた.また,これら 4か所における繁殖の不成功は,前期では 2回(10%)だったが,後期では 7回(35%)と増加した.今回,繁殖成績に影響した要因について明らかにすることはできなかったが,営巣地周辺で行なわれた工事などによる,人為的な撹乱も要因のひとつになり得ると考えられた.

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