野鳥は運ぶか? 鳥インフルエンザ

(財)日本野鳥の会 主任研究員 金井裕
2006年2月6日掲載

またまたアジアを中心としたユーラシア大陸各地で、強毒の鳥インフルエンザが猛威をふるっている。タイでは数百羽のスキハシコウというコウノトリの仲間が、そして今年は5月に中国の青海湖でインドガンが、数千羽死亡し、野鳥にとっても大きな脅威となりつつある。世間一般では、洋の東西を問わずこの凶悪ウイルスを渡り鳥が運んでいるのではないかと、疑われている。ヨーロッパへの侵入でも、中国国内の発生でもニュース報道や政府発表ではまず渡り鳥が上げられて来た。しかし、野鳥の生態を考えると渡り鳥が運んだのではおかしいことがたくさんある。インドガンは渡り鳥だが、この鳥を含めて青海湖のメインの渡りルートは鳥インフルエンザの発生していないインド方面から来た鳥である。西シベリアからヨーロッパへの西進は、まだ渡りが始まる前の夏の間だし、西シベリアからの主要な渡り先であるパキスタンやインドでは発生していない。中国では、内モンゴル自治区の首都フフホト、西域の交易路の主要都市、ウルムチ、ホータン、トルファンとなぜか大都市の近くで発生が多かったり、渡り鳥が既に南へ去った後の11月の内モンゴル北東部で発生したりと、妙なことがたくさんあるのだ。野鳥、特に水鳥と称されるガン類やカモ類は、鳥インフルエンザのウイルスは普通に持っている。しかし、これは今問題になっている強毒の高病原性鳥インフルエンザウイルスではない。強毒のウイルスは、家きんの間で感染を繰り返すうちに突然変異で生じた、半ば人為的に作られたウイルスであり、野鳥は長く保持しないであろうということが、2004年の日本国内の発生でわかっている。この時は、全国で死体が拾われるなどで1万羽以上の野鳥でウイルスの検出調査が行われたが、京都の養鶏場で感染して死んだニワトリを食べたと考えられるハシブトガラスからしかウイルスがみつからず、カラス間の感染も起こらなかった。この時は隣接する韓国で大規模に発生していたことも考えると、そうそう野鳥が感染してウイルスが広まることはないことが示される。とはいえ、元々鳥の病気であるため、野鳥が運び手となる可能性はまったくないとは言えないので、農水省も野鳥対策が必要であるとした。養鶏場で野鳥対策をしっかりしてもらうことは野鳥にも益がある。養鶏場で強毒鳥インフルエンザが発生した場合に、ニワトリから野鳥にウイルスがうつされる恐れが減るからだ。

(株)農林出版社発行 週刊農林第1939号(2005年12月25日)
特集・世界を震撼させる鳥インフルエンザの予防と対策 より許可をいただいて転載
農林出版社ホームページ:http://nourin.vis.ne.jp/