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(財)日本野鳥の会(会長 小杉隆;会員数5万5千人)は、2001年10月24日に東京都知事本部政策課が意見を募集している「カラス対策プロジェクトチーム報告書」に対して、都市におけるカラス問題はごみ問題解決の起爆剤という観点に立ち、東京のカラスを減らすための対策として以下のような意見書を提出しました。

日野鳥発第91号
2001年10月24日

東京都知事 石原慎太郎様

財団法人 日本野鳥の会
会 長 小杉 隆



東京都「カラス対策プロジェクトチーム報告書」に対する意見書

 拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。知事におかれては東京都の環境行政に日夜ご尽力のこと、誠に感謝に堪えません。

 さて、知事本部政策課が9月28日に公表された「カラス対策プロジェクトチーム報告書」への意見を募集について、下記のとおり意見を申し述べますのでご査収ください。

敬具



―東京においてカラスと人との軋轢を減らすための都知事への提言―


  1. 都市のカラス対策に関する(財)日本野鳥の会の基本的な視点

     はじめに、昨年来、都知事がカラス被害問題を重視され、全庁を挙げてこの問題に取り組まれていることに対し敬意を表します。首都圏市街地においてカラス(特にハシブトガラス)は自然環境下には見られないほど高い密度で生息するようになってきており、これによって人とカラスの間に多くの軋轢が生じています。「野鳥と人との共存」を活動の目的として掲げる小会もこの現状を憂慮しており、現在よりも低いカラスの生息密度が望ましいと考えております。

     「カラス対策プロジェクトチーム報告書」でも指摘されているとおり、私たちも、東京都においてカラスが増加したのは、人の出す大量の生ごみが路上等に放置され、カラスがこれを食物として十分な栄養を得て多くのひなを育てて数を増やした結果ではないかと考えています。そして、その増加したカラスが人との間で軋轢を起こしているのです。つまりカラスが増えたのは人の振る舞いの結果です。都市におけるカラス問題とは、都市問題の結果であって原因ではありません。
     従ってその対策としては、カラスの増えた一番の原因を無くす、すなわちカラスの食べる生ごみを減らすのが基本です。具体的にはリサイクルなどの促進により生ごみの量を減らす、あるいはごみ収集方法の改善によって生ごみとカラスを遮断することによって、カラスの食物量をコントロールするのが最も早く効果的な対策と考えられます。

     カラスの被害が大きくなり都民からの苦情が急増し、マスコミにも頻繁に取り上げられている目下の状況は、カラス対策としてのゴミ対策に取り組む上ではかえって好機といえます。それは、上述の生ごみ対策を実行するにおいて最も要となる個人の行動、つまり生ごみ減量やごみ出しマナーの向上といった都民ひとりひとりの行動の向上を訴えるための格好のPR材料とすることができるからです。この機会を利用して都知事がリーダーシップを取られ、広く都民に学習と行動を促し、また市区町村や企業、研究者などと連携してカラス対策のモデルとなるような施策を実施され、同時にごみ対策を実行されれば、ごみとカラスにあふれていた街の様相は一変し、千客万来の街並みが実現するものと確信します。


  2. 捕獲策を優先させないほうがよい理由

     カラス対策について同報告書で緊急対策として「トラップによる捕獲」によって半年程度でカラスを数千羽減少させるとされている部分は、その効果において大いに疑問があります。現在、東京都にいるハシブトガラスの個体数はおよそ3万5〜6千羽、また都心から半径約50km圏内ではおよそ8万羽と考えられています。
     一般に鳥類は、経験が浅いその年生まれの個体は冬を乗り越えることができなくて死亡する場合が非常に多いことが知られています。捕獲檻などのトラップにかかるのもこうした若鳥が多いことが上野公園や自然教育園などの例からわかっています。東京での問題点の一つに冬でも食物が十分にあるため、生き延びることができる若鳥の数が多いことが考えられます。また、カラスの個体数が増加するのは、繁殖期に生まれるひなの巣立ち率が親鳥の数を上回る時におこります。食物が十分あって親鳥の栄養状態がよければ、繁殖期に生まれるひなの数も多くなります。こうした理由から、カラスなどの個体数を見るときには、冬の個体数と繁殖期を過ぎての個体数の違いを見る必要があり、一年のサイクルを念頭におく必要があります。
     さらに、捕獲檻の管理は人手がかかり、周辺の住民には臭い、騒音、教育上の配慮などを考慮して設置場所を考慮しなければなりません。こうして見ると、莫大な費用と労力をかけて、毎年、駆除しつづけても、食料を減らさなければ、実際に個体数を削減することには結びつきません。実際、日本でも滋賀県のカワウ駆除、川崎市や都知事が言及されている千葉県のカラス駆除などの例をみても、毎年続けるだけで、個体数を減らすのに成功した例は海外を含めてほとんどありません。
     また、カラスの行動範囲として、通常半径10km程度が知られていますから、カラスの食物対策を十分に行わないままに捕獲を行っても、周辺都市からの流入を招くだけとなってしまうでしょう。これは、ドバトを駆除で減らすことには失敗したスイスのバーゼル市が、餌やりを断って数の削減に成功したの事例でも明らかです。このように捕獲により急激に数を減らそうとしても、結局は税金の無駄遣いに終わる可能性が高いわけです。

     行政が行う捕獲策が大きくクローズアップされることにより、多くの都民の意識がそちらに奪われ、ごみ対策に自らの責任を感じなくなることも考えられます。昨年度、一昨年度の労働経済局による緊急捕獲モデル事業の結果、電話1本で安易な駆除依頼を行う人が増えているということを担当の部署の方からはお聞きしております。捕獲を都内各所で大々的に行えば、カラスが多いのは自らの生活のつけである、ということを都民自身が学習する機会が奪われ、反面「カラスは行政に殺してもらえばよいのだ」という短絡的な依存心を育ててしまうでしょう。これは、究極のカラス対策であるごみ対策を行うにあたって、マイナスにこそなれ、推進力になるものではありません。また、東京の将来を担う子どもたちに命を軽視するようなこの対策をどのように説明し、教育上の配慮をとっていくのかが、まだ示されていないことも危惧を抱く事情になります。


  3. 究極のカラス対策:ごみ対策への提案

     カラスの研究者の多くが指摘する究極のカラス対策は、やはりカラスの食物、すなわち生ごみを戸外に出さない、残さないことです。出す場合は、簡単に取られないように、人が工夫することです。本会の調査では、幸いなことに東京都下の区市町村においてすでに、カラス対策にも有効なごみ回収方法の模索が始まっています。
     品川区では駅前繁華街では早朝収集、ポリバケツの貸与を行ない、また区内の業者と共同で折畳式ごみ集積所ケースを開発して使用しました。またモデル事業として、ごみの収集車が来る時間を表示して、それに合わせてごみを出してもらう時間別収集も試行しています。さらに、2001年9月にはモデル事業として、一部の住宅街で3か月の個別収集実験を行っています。初期段階で、すでに2割ていどのごみ減量効果がみられたといいます。
     世田谷区では、ごみ集積所の管理者にネットを無償で貸与する対策を1997年(平成9年)より始め、5年間で区内の7割の集積所にネットを普及することを計画しました。また2000年冬には、環境省のモデル事業に協力してチェーン付きネットを試用しました。使用した住民にアンケートをとった結果、ほとんどの住民が散乱を防止できたと満足していました。
     三鷹市では、従来戸別にごみ収集を行なっていましたが、駅前繁華街ではごみの量が多く、散乱もひどかったので、夜間・早朝収集を試行しました。メリットとしては、ごみ収集の効率が上がる、ごみがなくなり、散乱もしないので街がきれいになることがあげられる一方、デメリットとして、夜中の清掃車の騒音、人件費の増加、マンションのごみ出し体制の変更をする必要性などがありました。市のごみ対策課でデメリットを一つ一つ解決していき、本格実施をしてアンケートをとった所、ごみの散乱がほとんどなくなり、住民の満足度は高いという結果が出ました。
     日野市では、ごみのリサイクル率を上げて、ごみ減量を行なうために、それまでのダストボックスを廃止して有料化に踏み切り、戸別収集を始めました。結果として、ポリ袋にして出しても中のごみの量が少ないため、カラスにあらされることも少なくなりました。さらにごみ散乱防止のために、環境省のモデル事業でチェーン付きネット、分別用折畳みボックスなどを業者と開発して市民に試用してもらったところ、ごみの散乱防止に効果ありとして住民に好評でした。
     こうした取り組みは、現在のところ個々に行われています。また体系的な検証や専門家の協力は部分的なものにとどまっています。しかし、東京都が広域自治体の立場で、区市町村の情報を共有し、都内の企業やカラスの研究者、ごみ減量の専門家、マスメディアといった異なる分野の人々の間で協働の場を用意し、有効な施策を開発し促進してゆけば、短期間で飛躍的な前進が可能ではないでしょうか。
     都県境を越えて移動可能なカラスに対し広域的な対策をとる上で、周辺自治体との協力は中長期的には不可欠となってきますが、生ごみ減量とカラス被害は首都圏の他都市にも共通する悩みでもあります。そこで東京都がリーダーシップを発揮してカラスとごみという大きな都市問題を同時に解決するモデルをいち早く打ち立てれば、7都県市首脳会議といった場を通じて近隣自治体との間に広範な協力体制を敷くことも可能かと考えます。


  4. 具体的な対策案

     以上を踏まえ、以下いくつかの具体策を提案します。私どもはこうした提案を実行するにあたって都の施策に協力を惜しまぬ所存です。

    ●緊急対策(年度内に達成可能なこと):
    • 「カラス・生ごみブレイン会議」の召集(カラス研究者とごみ・リサイクル対策の専門家の力を結集する)
    • 区市町村のごみ対策フォーラムを開催(基礎自治体の連携の基盤を用意する)
    • 公園・緑地・駅前広場などでごみと餌やりの徹底管理(雇用の促進、都市環境の整備、生態系の知識を徹底する)
    • 繁華街などのモデル地区で新規ごみ収集方法の実験(夜間収集や効果のある回収方法の徹底的な実施)
    • 対策前調査、モニタリング調査(効果測定のため)

    ●中期対策(2〜3年度内に達成可能なこと):
    • カラス被害の実態分析(ごみ散乱、人への攻撃)
    • カラスの基礎生態の研究(対象をよく知るための;ねぐら調査、生息密度調査、行動圏調査、個体群動態と増加要因の解析等)
    • ごみ収集方法の開発・実施促進(補助金制度など)
    • 継続的な効果測定(モニタリング)
    • カラスとごみ対策のための普及・教育プログラム(マスメディア、出版、学校における総合学習など)
    • 地域におけるごみ減量モニターや調査ボランティア制度
    • ごみ出し方法検討委員会(市民参加でアイディアを募る)
    • 七都県市による「ごみ・カラスサミット」の開催(広域連携)

    ●長期対策(数年以上をかけて実現していくこと):
    • 生ごみリサイクル促進(補助金制度、プラント建設、農家との提携など)
    • 都立野生生物保護管理センター(仮称)を設置(普及・教育・調査の拠点施設)

以上

   
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