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2024年5月9日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

初夏の山散歩

東秩父の森で

今年の春はあっという間に過ぎさり、季節はもうすっかり初夏の雰囲気を漂わせています。この冬はあまり山に行けませんでしたが、四月に入って「山散歩」と称して私の住んでいる鳩山町に近い東秩父の低山をよく歩いています。標高800~900mの低山ですが、林床にはカタクリやニリンソウが咲き、いろんな種類のスミレ類が咲いています。木々の花は、キブシはすでに終わり、ヤマザクラも散って、ミツバツツジとヤマツツジ、それとウワミズザクラが満開です。そろそろエゴノキの花も咲き始めます。柔らかい若葉がいっせいに萌え出すこの季節、山が一番美しいときです。

巣箱を設置するようす

東秩父の山に、研究用の巣箱を設置

ヒガラの繁殖生態の研究を開始

夏鳥たちの渡来も最盛期。東秩父の低山でも、オオルリ、キビタキ、クロツグミ、センダイムシクイ、ツツドリの声が聞こえはじめ、トラツグミやアオバトもよく鳴いています。

ここ数年、この地域で巣箱をかけてカラ類の調査をしています。カラ類用の巣箱に入るのは主にヤマガラとシジュウカラですが、標高が高いのでヒガラも繁殖しています。そこで今年は東海大学のM先生との共同研究でヒガラの調査を始めました。穴の狭いヒガラ用の巣箱の天井に、自動撮影カメラを仕掛け、一定間隔で巣箱内を撮影できるようにしてあります。これまで国内ではほとんど研究されてこなかったヒガラの繁殖生態を明らかにするのがこの研究の目的です。

ヤマガラ
抱卵中のヤマガラ(調査資料として撮影)
ヒガラ
巣材を運ぶヒガラ

日本野鳥の会の存在意義

さて日本野鳥の会は今年設立90周年を迎えます。昭和9年、中西悟堂による会の設立から90年、あの大戦を乗り越え、戦後、かすみ網の禁止や野鳥飼育の禁止をはじめ、ガン類を狩猟鳥から外し、天然記念物に指定させるなど、我が国の野鳥保護、自然保護に大きな足跡を残して来ました。

これらの活動はすべて全国津々浦々にある支部・連携団体のみなさんの地域での地道な活動に支えられています。支部が全国にあることによって、地域でのさまざまな開発や自然破壊の問題が本部に伝えられ、会として意見書を出したり、議員や省庁に働きかけるロビー活動が可能になります。だから国も自治体も、さらに風力発電やメガソーラーの開発会社も、野鳥の会の存在を無視しては、事業を進められないのです。日本野鳥の会の底力は、日頃、私たちが思っている以上に大きなものだと思っています。

会員であることの誇りを胸に、これからも地域における野鳥保護、自然保護の活動に力を注いで頂けますよう、お願いいたします。


過去のメッセージ

プロフィール

日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

「国際サシバサミット フィリピン」に参加して

サシバが渡来するアジア各地の代表が集結

3月24日、25日の2日間、フィリピンのルソン島の北端に位置するサンチェスミラ市で「第4回国際サシバサミット フィリピン」が開催され、日本野鳥の会・オオタカ保護基金、加えてサシバの里づくりを進める栃木県市貝町の町長の代理として参加してきました。

サシバサミットは、渡り鳥であるサシバの繁殖地・中継地・越冬地が連携しながらサシバ保護を推進することを目的に、第1回が2019年に繁殖地の市貝町で、第2回と第3回は、いずれも中継地である沖縄県宮古島市(2021年)と台湾(2023年)で開催されました。そして今回の第4回は、さらに南下して越冬地(中継地でもある)のフィリピンでの開催となりました。

サシバサミットは、熱烈歓迎で始まりました。市役所前の大通りを200mに渡って通行止めにし、学生たちを中心に千人以上(?)の人が道路の両側に並び、踊りと歌で出迎えてくれました。間違いなく、人生で最大の歓迎です。

サンチェスミラ市役所前での歓迎セレモニー

サンチェスミラ市役所前での歓迎セレモニー

保護に向けての情報共有と連携を図る

サミットでは基調講演として、国鳥で絶滅危惧種であるフィリピンワシを中心に、「フィリピンの留鳥性のワシタカ類と、渡り性のワシタカ類の生息地の重複」、そして「これらが保全にどのように役立つか」などについての講演があり、その後、台湾・日本・フィリピン・マレーシア・韓国(ビデオメッセージ)からの報告がありました。

日本からは東京大学の藤田剛氏が「日本におけるサシバ研究の概要」、「同所的に生息するノスリとの比較を通した、地域における環境選択の違いとその要因」などについて発表されました。会場の壁面にはポスターが貼られ、その中には日本野鳥の会三重の「メガソーラー建設がサシバの繁殖に与える影響」もありました。

ポスター発表を行なう日本野鳥の会三重のメンバー

ポスター発表を行なう日本野鳥の会三重のメンバー

また、今回もすばらしいサシバの渡りを見ることができました。サンチェスミラ市は春の渡りの時期に北に渡るサシバが集結する中継地で、台湾や日本に向かうサシバが最後にフィリピンを飛び立つ場所です。会議開催前の朝、山の尾根上を数十羽から百数十羽の群れが次々とタカ柱を作って上昇し、青空をバックに渡っていく姿を堪能することができました。

たくさんの参加者がサシバの渡りを観察するようす

観察サイトでサシバの渡りを観察

次回は来年2025年の秋、サシバの中継地・越冬地である奄美大島・宇検村(うけんそん)で開催されます。2021年の宮古島市以来の日本開催なので、たくさんの方に参加していただき盛り上げていければと思います。ご協力・ご支援よろしくお願いします。

集合写真

参加地域の代表が壇上に集合し、サシバサミット宣言を発表
(中央が次回開催地の宇検村長、右隣が今回開催のサンチェスミラ市長、左隣りが遠藤)


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