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2026年7月2日 更新
日本野鳥の会 会長 上田恵介

有明海へシギ・チドリを見に!
緑が濃くなる季節、夏鳥の渡来の季節です。同じ頃、シギ・チドリ類の春の渡りも始まります。私の住んでいる埼玉県には海がないので、もう40年近くシギ・チドリとはすっかりごぶさたしていました。大阪にいた頃は大阪南港埋立地でかなりの種類を見ていて、識別には自信があるのですが、ヒメハマシギとかヨーロッパトウネンとか、当時の図鑑に載っていなかった種類はまったくわかりません。
そんなわけで4月、久しぶりに有明海の干潟にシギ・チドリを見にいってきました。有明海に行くこと自体、もうかれこれ50数年ぶりです。学生の頃に鳥栖駅で駅弁のムツゴロウ弁当を買って食べた記憶はあるのですが、何かの学会のついでだったのか、なんでそんなところまで行ったのか、全然記憶にありません。そのときの有明海は干潮だったのでシギ・チドリは遠くにいて、干潟の泥の上のムツゴロウとトビハゼを見て、帰ってきただけでした。
さて、有明海のラムサール条約湿地には東よか干潟、肥前鹿島干潟、荒尾干潟の3か所があります。今回はこの3か所を回ってきました。1日目の泊まりは、たら竹崎温泉。竹崎漁港がすぐ窓の下に見える旅館に泊まりました。お料理は大きなワタリガニ(一人1匹)に、ヒラメのお造り、タイラギの貝柱、フグの唐揚げなど、有明海らしい豪華メニューでした。

ワタリガニ

ヒラメのお造り
肥前鹿島干潟(佐賀県)
次の日、まず肥前鹿島干潟を訪ねました。満潮からちょうど潮が引き始める時間帯で、ツクシガモの200羽近い群れとズグロカモメの20羽ほどの群れが海面に浮かんでいました。ツクシガモも、ズグロカモメも、こんなに大きな群れを見たのは初めてで、さすがに有明海だなと感動しました。シギはチュウシャクシギが100羽ほどとオオソリハシシギが4羽だけでしたが……。
ツクシガモの群れ
東よか干潟(佐賀県)
3日目はいよいよ東よか干潟。さすがに広い干潟で、2キロ近くにわたって、海辺の柵越しに歩くことができて、シギ・チドリの数も半端ではありませんでした。ホウロクシギの100羽近い群れがいましたが、ダイシャクシギは1羽しかいませんでした。
オオソリハシシギ、チュウシャクシギ、ダイゼンはそれぞれ500羽くらい。ハマシギは3000羽くらいかな? ウズラシギ、オバシギ、コオバシギ、アオアシシギ、メダイチドリ、ムナグロなど賑やかでした。19年ぶりに我が国2度目の渡来というアメリカオグロシギ1羽はまだいました。ヘラサギやクロツラヘラサギ、セグロカモメ(たぶん亜種のタイミルセグロカモメ)などもいました。アメリカオグロシギを見ようと、おそらく150人くらいのバードウォッチャーとカメラマンが集まっていました。
ヘラサギ、クロツラヘラサギ、奥には採餌中のハマシギも
セグロカモメ
荒尾干潟(熊本県)
次の日は朝から熊本の荒尾干潟を訪ねました。ちょうどこの日は熊本県支部の探鳥会。あいにくの雨でしたが、満潮時だったので、砂地の浜にオオソリハシシギ、ダイゼン、ハマシギなど、合計300〜400羽が休んでいました。ミユビシギが1羽、キアシシギ、シロチドリ、キョウジョシギ、メダイチドリなども降りていました。おもしろかったのは、アオバトの群れがいたことでした。アオバトというと神奈川の大磯海岸が有名ですが、この海岸にも塩水を飲みにきているのですね。

オオソリハシシギ、ダイゼン、ハマシギなどが集まって羽を休める

雨でもこの時期にしか見られない渡り鳥たちを熱心に観察している
世界的に減少傾向にあるシギ・チドリ類
さて、日本のシギ・チドリ類が置かれている現状はどうなのでしょうか。IUCN(国際自然保護連合)は昨年、シロハラチュウシャクシギが絶滅したことを正式に発表しました。シロハラチュウシャクシギは1995年に最後に目撃されて以降、確実な記録はなく、ついに絶滅宣言に至ってしまいました。日本では山階鳥類研究所に産地、採集年月不明の2標本があるだけで、本当に日本に渡来していたかどうかはわかりませんが、昔から小林図鑑(『原色日本鳥類図鑑』(小林桂助 著、保育社)に載っていたので、私もいつか見れるかなと思っていたシギでした。悲しいことにもうその生きた姿は永久に見ることができなくなってしまいました。実はシロハラチュウシャクシギについての情報はほとんどなく、ロシア北部のステップと森林地帯の境界付近が繁殖地として確認されており、アフリカ北部から西アジアで越冬していたとされています。絶滅の原因は明らかではありませんが、農業のための広範囲な土地の乾燥化や中継地、越冬地での生息地の喪失、狩猟による捕獲がおもな原因ではないかと推測されています。
2024年の生物多様性条約の第16回締約会議(COP16)でIUCN(国際自然保護連合)が公表した新しいレッドリストでは、日本産鳥類のいくつかの種がランクアップ(絶滅の危険が高くなった)されました。低懸念種から危急種になったのがダイゼン、キリアイ、コキアシシギ、準絶滅危惧種から危急種になったのがサルハマシギとコモンシギ、そして低懸念種から準絶滅危惧種になったのがキョウジョシギ、アシナガシギ、ハマシギ、オオハシシギ、アメリカオオハシシギ、オオキアシシギです。じつはこれらすべてがシギ・チドリの仲間です。
また3月に改定された環境省のレッドリストでは、ヘラシギとカラフトアオアシシギ、アカアシシギが絶滅危惧IA類(CR)、コシャクシギとツルシギが絶滅危惧IB類(EN)、ムナグロ、シロチドリ、ホウロクシギ、オオソリハシシギ、ハマシギ、タカブシギが絶滅危惧II類(VU)、キョウジョシギ、トウネン、オオジシギ、アマミヤマシギが準絶滅危惧(NT)にリストアップされています。ヘラシギやカラフトアオアシシギは世界的に見ても、分布が局所的で、個体数も極端に少なく、いつ絶滅してもおかしくない種類ですが、ムナグロやハマシギといった、バードウォッチャーがごく普通にいると思っていた種類がリストアップされたのは衝撃でした。日本にやってくるシギ・チドリ類はかなり危機的な状況だということです。
日本を越冬地または渡りの中継地として利用するシギ・チドリ類の減少要因として、生息地である湿地の消失が指摘されています。日本では明治・大正時代に存在した湿地の約6割が1999年までに消失しました。東京湾、大阪湾、伊勢湾、博多湾……、大都市に近い海辺の干潟は軒並み開発の波にさらされ、臨海工業地帯や港湾施設、護岸堤防に姿を変えていきました。当時、各地の野鳥の会会員が干潟を守るための運動を繰り広げて、東京や大阪、名古屋、仙台などいくつかの地域では小さな聖域が残されましたが、もうどこの海辺にも、往時の干潟の風景はありません。シギ・チドリが生息する湿地を守る運動は、私たち日本野鳥の会にとっても、最重要な保護活動です。日本の水辺からシギ・チドリを絶やさないための当会の取り組みに、ぜひ、ご支援をお願いいたします。

日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
美々川流域の開発規制緩和にストップを
北海道の原風景を彷彿させる美々川
日本野鳥の会のサンクチュアリがあり、ラムサール条約にも登録されているウトナイ湖。そこに流れ込む美々川とその周辺の湿原・河畔林は、北海道でも特に豊かな生態系が残る地域です。タンチョウやオジロワシといった希少な鳥類に加え、多くの渡り鳥が利用する、国際的にも重要な自然環境となっています。さらにこの地域では、北海道による「美々川自然再生事業」が進められており、苫小牧市の「生物多様性地域戦略」においても、ウトナイ湖と一体となって生物多様性を守るべき重要な場所と位置づけられています。
私自身も昨年9月にカヌーで美々川を下りましたが、北海道の原風景を思わせる美しい自然河川と湿原に深く感動しました。
美々川をカヌーで下る(後姿は葉山常務理事)
しかし現在、苫小牧市は、美々川周辺の美沢地区において、これまで市街地調整区域として厳しく制限されてきた開発規制を緩和し、半導体関連の物流倉庫や事務所などの建設を可能にする方針を進めようとしています。この方針が認められて開発が進めば、これまで鳥たちを騒音や光から守ってきた河畔林が失われ、警戒心の強いタンチョウや渡り鳥が利用しにくくなるおそれがあります。また、計画地には上下水道が整備されていないため、開発に伴う排水や土砂が美々川を通じてウトナイ湖へ流れ込み、水質悪化や湿地生態系への影響も懸念されます。これは、北海道や苫小牧市が進めてきた自然再生や生物多様性保全の方針とも大きく矛盾するものです。
北海道へ要望書を受け渡す
こうした状況を受けて、日本野鳥の会は4月8日に苫小牧市へ、さらに4月24日には、日本自然保護協会やWWFジャパンと連名で、北海道および道の都市計画審議会に対し、規制緩和方針の撤回や差し戻し、慎重な審議、そして情報公開の徹底を求める要望書を提出しました。また、道が実施したパブリックコメントには、全国から700件を超える意見が寄せられ、その多くが規制緩和に対する懸念や反対の声だったと伝えられています。

記者発表の様子

美々川を利用する鳥や植物について説明をする和歌月レンジャー
その結果、苫小牧市は4月30日、この規制緩和方針を見直す考えを示しました。今後は、自然保護や生物多様性の専門家の意見を取り入れながら、改めて市の都市計画審議会で検討するとのことです。ただし、方針が完全に撤回されたわけではありません。当会では、引き続き方針の白紙撤回を目指して取り組んでまいります。会員や支援者の皆さまにおかれましても、変わらぬご支援を心よりお願い申し上げます。
当日、要望書を提出した各団体(日本野鳥の会苫小牧支部、日本野鳥の会札幌支部、北海道Gateway Tours、自然文化団体ノノオト)の代表者と当会レンジャー







