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2024年3月4日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

アフリカで考えたこと

タンザニアのサファリツアーへ

2月はじめに鳥をメインとした7泊8日のサファリツアーで、タンザニア(アフリカ)に行ってきました。タンザニアはケニアの南にある国で両国ともかつては英国の植民地で、スワヒリ語と英語が公用語になっています。

タンザニアは国民の年間総所得(GNI)で下から数えて世界で26番目の貧しい国ではありながら、安定した政権のもとで、観光を重視した政策を実現しています。国内にはセレンゲティやンゴロンゴロなどの有名な国立公園をはじめ、たくさんの国立公園、保護区があり、サファリを楽しむたくさんの観光客が訪れています。

セレンゲティもンゴロンゴロも国立公園の入り口にはゲートがあり、入園料が徴収され、サファリカーの入園台数には制限があります。国立公園内は人の居住は認められていませんが、ンゴロンゴロの外輪山にはマサイの人々が暮らしており、そこだけは国立公園ではなく、保護区に指定されて人の居住が許されています。鳥に詳しいコーディネーターとドライバーがついてくれたので、ゾウやキリンなどの大型動物だけでなく、小鳥もたくさん見ることができました。とてもエキサイティングなツアーでした。

オルドヴァイ渓谷の入り口モニュメント

オルドヴァイ渓谷の入り口で。モニュメントは、この渓谷で発見された化石人類「ジンジャントロプス」と「ホモハビリス」の頭骨化石を模したもの

今も影を落とす植民地政策

しかし、アフリカにいるとどうしてもアフリカの抱える深刻な問題を考えてしまいます。アフリカのイメージといえば、まず貧困や飢餓、感染症、民族紛争などが思い浮かびます。ルワンダで100万人以上が殺された民族大虐殺はごく最近の出来事ですし、私の世代なら南アフリカの人種隔離政策(アパルトヘイト)に心を痛めていた人もいたでしょう。こうしたマイナスイメージばかりがつきまといますが、なぜアフリカはこうなのでしょう。

それはイギリス、フランス、ドイツ、ベルギー、オランダなど、今ではヨーロッパの先進国といわれる国々が、16世紀から20世紀にかけて、アフリカを植民地にして、搾取と収奪の植民地支配を延々と続けてきたからです。アフリカをこういう状況にしたのは、はっきり言って、過去におけるヨーロッパ諸国の植民地政策です。

たとえば世界地図を開いて、アフリカ諸国の国境線を見てみましょう。何百キロにもわたってまっすぐに引かれた国境線は、幾何学的な形の国々を形作っています。アフリカ諸国の国の形はそこに住んでいる民族のことなど何も考えずに、ヨーロッパ諸国が領土獲得の野心のためにだけ、自分勝手にアフリカを分割した結果なのです。この国境線が同じ民族を2つの国に分割し、それぞれの国でお互いに憎しみ、争い合う原因を作ってしまったことが、まさにルワンダでの悲惨な大虐殺につながったのです。

貧困や飢餓の原因も過去の植民地支配の産物です。アフリカの人々に自分たちが食べる主食の農作物を作るより、コーヒーやカカオなどのヨーロッパへの輸出農産物を作らせてきたから、旱魃(かんばつ)やバッタの大発生などが起こったときなどに飢餓が広がるのです。さらにロシアのウクライナ侵攻で明らかになったように、穀物輸入の途絶(とぜつ)は、食料を輸入に頼っているアフリカの貧しい国の人々を、飢餓に追い込む大きな危険を孕んでいます。

イギリスやフランスやドイツが、アフリカや中東諸国からの大勢の難民に頭を悩ませているのは、みなこの植民地支配のツケです。日本にも中国や朝鮮半島、東南アジアでのまだまだ未解決な問題がありますが、少なくとも先進民主主義国と名乗りたいなら、これら過去の過ちに、最後まで真摯に向き合わねばならないでしょう。

アフリカの生物多様性と文化を未来へ

何かアフリカの暗い側面ばかり述べてきましたが、アフリカのすばらしいところはその生物多様性の高さです。たとえば大型動物。アフリカに行くとゾウやキリンがいるのは当たり前と、多くの人はそこになんの疑問も抱いていないでしょうが、これは奇跡的なことです。
ユーラシア大陸、北米大陸、南米大陸、オーストラリア大陸と、南極を除く他のすべての大陸では、アフリカを出た現生人類が世界に広がるとともに、そこに住んでいたすべての(!)大型動物を絶滅させてしまいました。

ユーラシアのマンモスやケナガサイ、北米大陸のマンモスを含む数種のゾウや巨大バイソン、南米のオオナマケモノ(メガテリウム)やオオアルマジロ(グリプトドン)、オーストラリアのディプティロドン(巨大なウオンバット)やプロコプトドン(3mもある巨大カンガルー)などは、すべて人類が滅ぼしたと考えられています。なのになぜ、アフリカにはゾウやサイ、カバ、キリンなどの巨大な動物が生き残っているのでしょう。いろんなことが考えられると思います。みなさんも考えてみてください。

ゾウとキリン。タランギレ国立公園にて撮影

鳥の多様性もすばらしいものです。アフリカには日本にはいないハタオリドリ科、サイチョウ科、カエデチョウ科、ネズミドリ科、エボシドリ科など、固有の科に属する鳥たちがたくさん生息しています。ヘビクイワシやシュモクドリのように1科1属1種という鳥もいます。ヒバリ科やセッカ科はアフリカ大陸全体で、それぞれ50種類以上の種を有するサバンナ起源の大きなグループに種分化しています。この神が残してくれたような(私は無神論者ですが)生物多様性の高さこそ、アフリカの大きな財産であり、我々はそれを未来に残すための努力を傾けねばならないと思っています。

シャローエボシドリ
シャローエボシドリ。ンゴロンゴロ国立公園にて
ルリガシラセイキチョウ
ルリガシラセイキチョウ

今後、アフリカはどうなっていくのでしょう。今の状況を見ていると、まだまだ道は遠いなというのが、正直な感想です。けれど理想的には、教育と医療を充実させ、計画的な人口政策を採用し、農業に基盤をおいて、自然資源を目玉にした観光による立国という形が最も望ましい形でしょう。さらにもっともっと未来の夢として、ロシアや中国、アメリカなど、アフリカに利権のみを求める大国の影響を根本から排除して、国連が統治する部族・宗教・言語に配慮した小さな国家の連合体のような国の形が望ましいと思っています(国連に力があればですが)。

アフリカに幸あれ!


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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

原野・湿地のタカ「チュウヒ」を守る

渡良瀬遊水地でワシタカ類の生息状況を調査

2月4日、今冬も栃木県南部の渡良瀬遊水地(以下、遊水地)でワシタカ類のカウント調査が行われ、私も参加しました。これは、原野・湿地のタカで絶滅危惧種である「チュウヒ」を中心に遊水地のワシタカ類の生息状況を把握し、保護の基礎資料にするために、毎年1回2月上旬に日本野鳥の会栃木県支部(以下、支部)が主催して実施されているものです。

スコープや双眼鏡を使い調査をするようす

2月4日に行なわれたワシタカカウントのようす

遊水地は面積3,300ha 、山手線の内側半分がすっぽり入るほどの広大な面積を有する湿地です。一部に大きな調整池がある以外は大部分がヨシ原に覆われており、東日本で最大のワシタカ類の越冬地とも言われています。その全域を把握するために、土手上などに9つの観察定点を置いて支部のメンバーが張りつき、トランシーバーを使って情報共有しながら、ワシタカ類の数を重複しないようにカウントします。その結果、チュウヒ13個体、ノスリ10個体など、10種のワシタカ類を確認することができました。

スコープで観察をするようす

土手上からワシタカ類を観察する(カウントとは別の日)

開発の危機を乗り越え、保全区域に

遊水地では、過去にはさまざまな大規模開発の計画がありましたが、支部も加盟している「渡良瀬遊水地を守る利根川流域住民協議会」などの粘り強い活動の成果が実り、2002年には最後まで残っていた第2貯水池計画が正式に中止されました。その後2012年にはラムサール条約登録湿地に指定され、今では治水・利水と生物多様性保全の両立をめざす国指定の鳥獣保護区になっています。この冬もチュウヒをはじめ多くのワシタカ類が遊水地を越冬地として利用している状況が確認され、保全の成果を実感することができました。

5か年の「チュウヒ保護プロジェクト」スタート

さて、このチュウヒ。実は越冬だけでなく、北海道や本州北部を中心に繁殖も確認されています。国内推定繁殖数は135つがいと、日本のワシタカ類のなかでは最も絶滅の危険性が高い状況にあります。そこで、日本野鳥の会(以下、当会)ではチュウヒをオオジシギに続く原野・湿地の代表種として位置づけ、創立90周年に当たる本年、5か年(2024~2028年)の保護プロジェクトを展開することとしました。原野・湿地の生態系の頂点捕食者であるチュウヒの生息地保全を促進することは、同じ環境に生息するオオジシギやオオジュリン、ノゴマ、ノビタキなども守ることになり、原野・湿地の生物多様性の保全にもつながります。

プロジェクトでは、これまで当会が調査や保護活動を行なってきた北海道のサロベツ原野と勇払原野で繁殖状況調査を継続しつつ、当会独自の野鳥保護区の設置や繁殖地の公的保護を行政などに働きかけていきます。プロジェクトの成功に向けて、ぜひ皆様からの温かいご支援をよろしくお願いいたします。

チュウヒ

絶滅危惧種で原野・湿地の代表種のチュウヒ


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