公益財団法人 日本野鳥の会 SDGs達成に向けた取り組み

日本野鳥の会とSDGs

日本野鳥の会は、文学者・仏教者でもあった中西悟堂が1934(昭和9)年に創設しました。悟堂は、東洋的自然観を元に、あるがままの野鳥に親しみ、あるがままの自然を知り、野鳥や自然環境を守る信念のもと、狩猟法を鳥獣保護法に変え、自然保護思想を一般化するなど、生涯自然保護に力を尽くした人でした。

その後、1970(昭和45)年に財団法人化し、日本全国の会員とともに野鳥の全国一斉調査を始め、渡り鳥条約・ワシントン条約・ラムサール条約などの締結にも推進役となってきました。また、アジアではレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)作成の原動力になり、世界規模の国際的環境保全ネットワーク、バードライフ・インターナショナルのパートナーとして、重要野鳥生息地(IBA:Important Bird Areas)の選定や絶滅危惧種の生息地保全でも成果をあげています。

持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)がわが国でも広く認知され、産業界や自治体も積極的に取り組む姿勢を見せはじめた今、日本野鳥の会も2030年を目標年として『絶滅危惧種の保護と野鳥の生息地保全』『地域の自然が地域の手で守られる社会』『生きものや自然に配慮したエネルギーシフトの実現』『自然への理解者の増加』『自然保護を担う次世代の育成』というビジョンを設定しました。

そのめざすところはSDGsのゴール、ターゲットと多くの点で重なっています。当会の強みである会員・連携団体並びに支援者(寄付者)とさらに連携を深め、持続可能な社会の実現に取り組むことを宣言します。

1.絶滅危惧種の保護と野鳥の生息地保全

生態系の上位にいる野鳥の保護は、生物多様性の保全につながる重要な課題です。

絶滅を回避する

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個体数が少ない野鳥、減りつつある野鳥が、絶滅の危機を脱することが目標です。当会をはじめ、多くの方々が努力を続けてきたことで、かつて絶滅が危ぶまれたタンチョウ Grus japonensis やオオタカ Accipiter gentilis などが個体数を回復させたことは、大いに勇気づけられました。一方で、シマフクロウ Ketupa blakistoni を筆頭に、予断を許さない種もたくさんあり、さらにシマアオジ Emberiza aureola のように急激に個体数を減らす種もあり、長いスパンで継続が必要です。

(1)ロードマップの作成
絶滅の恐れのある種の保護については、その種の生息状況や繁殖状況とともに、生息地や繁殖地周辺の環境変化や開発問題などの有無も把握して、保護事業の道筋とゴールを設定したロードマップを作成することが必要です。そのためには、その地域で活動をしている当会支部やその他の保護グループと連携しつつ、必要な知識や技能を習得することが大切です。並行して、生物多様性の保護上の成果と社会的インパクトを評価できるしくみづくりを進めます。

(2)独自の保護地域の設定
当会は日本に初めてサンクチュアリという概念を導入しました。また、絶滅危惧種の繁殖地や生息地を買い上げ、当会独自の野鳥保護区(以下「野鳥保護区」という。)を設置してきました。今後も必要に応じてそれらの面積を増やし、適切な管理と利用を進めていきます。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット

2-4: 生態系を維持し、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭 (レジリエント)な農業を実践する。
4-7: 全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。
6-6: 山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼を含む水に関連する生態系の保護・回復を行う。
14-1: 海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。
14-2: 海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。
14-4: 漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。
14-5: 最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全する。
15-1: 森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する。
15-4: 山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う。
15-5: 自然生息地の劣化を抑制し、生物多様性の損失を阻止し、絶滅危惧種を保護し、また絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる。
15-7: 違法な野生生物製品の需要と供給の両面に対処する。
15-8: 外来種の侵入を防止するとともに、これらの種による陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入し、さらに優先種の駆除または根絶を行う。
15-9: 生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む。a) あらゆる資金源からの資金の 動員及び大幅な増額を行う。c)保護種の密猟及び違法な取引に対処するための努力に対する世界的な支援を強化する。
17-16: 持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップを強化する。
17-17: 効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する。

重要な生息地を保全していく

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(1)IBA保全対策の推進
国際自然保護連合(IUCN:International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)が選定している国内の重要な野鳥生息地(IBA:Important Bird Areas)、このデータベースの精度を向上させるよう取り組んでいきます。鳥類以外の生物群も含んだ生物多様性を保全するための重要地域(KBA:Key Biodiversity Areas)のサイト選定にも参加します。

(2)ラムサール条約関連ネットワークへの参加と保全活動の推進
湿地の保存に関する国際的な取り決めであるラムサール条約の湿地登録を推進します。また、登録後の保全と利用について協議するネットワークへ参加し、湿地の保全を推進します。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット(前掲の6-6、14-1,2,5、15-1,4,5、17-16,17に加え、以下の項目)

13-1: すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。
13-2: 気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。

2.地域の自然が地域の手で守られる地域づくり

生物多様性の保全や自然共存社会の実現には、それぞれの地域での合意形成が不可欠です。

地域で活動している人々と連携する

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全国各地で、当会会員が地域ごとに支部(連携団体)を組織しています。公益財団法人と支部は「野鳥に親しみ、野鳥を守る」という同じ価値観のもとでさまざまに協働しています。この独自の関係性を強みとしてさらに発展させ、地域の自然保護を推進します。

上記実現のためにめざすSDGsのターゲット(前掲の15-1,4,5、17-16,17に加え、以下の項目)

11-a: 経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する。

情報を集め発信する

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(1)野鳥生息情報の収集と発信
地域の自然保護活動を進めるための基礎的な情報として、全国の支部と協力して、野鳥の生息や繁殖についての情報を集め、積極的に発信していきます。支部以外のNPO、大学、学生ネットワークとも連携します。

(2)野外鳥類論文集の発行
当会発行の野外鳥類論文集『Strix』では、全国の会員が自然保護活動、観察記録等の成果を発表することができます。発表の場があることが地域の自然環境の調査を担う人材育成を後押しします。

(3)法制度の改善への取り組み
地域の里地や農地の生物多様性の保全のための法制度について、情報の収集等を行います。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット(前掲の17-16,17に加え、以下の項目)

4-3: すべての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。
4-4: 技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。

地域の拠点として施設を運営する

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(1)自然系受託施設の管理運営
地方自治体からの委託を受けて、都立東京港野鳥公園、横浜自然観察の森、根室市春国岱原生野鳥公園ネイチャーセンター、ウトナイ湖野生鳥獣保護センター(苫小牧市)及び三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館(三宅村)など、地域の自然拠点の管理運営に関わります。レンジャーを配置し、当会のもつノウハウを提供することで、地域の生物多様性保全に貢献するとともに、担当施設の周辺地域の保全活動を進めます。

(2)直営施設の適切な運営・管理
直営のウトナイ湖サンクチュアリ及び鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリでは、地域の自然環境の重要性や保全の必要性について、市民に伝える普及活動を行います。

(3)全国の受託・直営施設における環境管理・モニタリング活動
(1)(2)の施設と地域では、環境づくりやモニタリング調査を行います。それを基に地域の環境保全に向けての提案等を行政等へ働きかけます。また、支部が行う鳥類調査、環境保全活動を支援します。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット(前掲の4-3,4、6-6、 15-1,4,5、17-16,17に加え、以下の項目)

8-9: 雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
11-7: 人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。

3.生きものや自然に配慮したエネルギーシフトの実現

再生可能エネルギーでも、環境や野鳥に悪影響を及ぼす場合があります。

より自然にやさしいエネルギーを

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(1)自然エネルギー発電施設への取り組み
風力発電、太陽光発電等の施設が鳥類に及ぼす影響(バードストライク等)を調査し、得られた情報を基にした科学的な知見から、利害関係者間のコミュニケーション促進、政策提言等を通じて、自然エネルギーの適正な導入に向けた検討を進めます。また、各地域の支部の対応を支援します。

(2)原発事故による鳥類への放射性物質の影響モニタリング
福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の鳥類への影響に関して、野鳥の繁殖状況、巣材への放射性物質の蓄積状況、小鳥類の異状の有無を継続して調査します。

(3)ライフスタイルや意識の転換
野鳥保護と絡めて、エネルギーの大量消費を前提とした大量生産、大量消費、大量廃棄の社会システムを転換すべく、企業との連携、ロビー活動や政策提言を積極的に行います。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット(前掲の4-3、17-16,17に加え、以下の項目)

3-9: 有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。 
7-a: エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進する。
12-4: 合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。
12-5: 廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。

4.自然への理解者を増やす

自然への理解者を増やすことは、継続して取り組むべき自然保護上の課題です。

科学的な知識や保護思想を伝える

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(1)支部の探鳥会の運営支援
探鳥会リーダーを対象に研修や情報交換の場を設定するなど、全国の支部が行う探鳥会を支援します。

(2)書籍、教材、ウェブサイトなどの制作
野鳥観察や自然全般への関心を高めるため、図鑑、小冊子、電子書籍等を制作し普及を行います。

(3)自然にふれる機会を多様に
ツバメなど身近な野鳥に目を向ける探鳥会、障がい者の方向け探鳥会、3世代で楽しめる探鳥会など、多様なテーマで、多様な参加者に自然への理解を深めてもらう機会を創出します。

(4)受託・直営施設からの発信
受託施設及び直営のサンクチュアリにおいて、絶滅のおそれのある野鳥の現状、地域の自然、野鳥の魅力や大切さを伝えます。自然ガイドの育成など、地域のエコツーリズムを推進します。地域の小中学校の学習プログラム作成に協力します。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット(前掲の4-3,4,7、8-9、17-16,17に加え、以下の項目)

4-5: 教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。

野鳥と人間の関係を改善する

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(1)鳥インフルエンザ感染や油汚染事故等への緊急対応
高病原性鳥インフルエンザの情報収集を行い、関係者と共有を図ります。感染症の流行や油に汚染された野鳥の野生復帰とその生息環境の保全を行います。

(2)海鳥の混獲対策
漁による海鳥の混獲について情報収集を行い、混獲される海鳥がいなくなるよう取り組みます。

(3)海洋プラスチックゴミ削減への取り組み
海鳥への影響が懸念されている海洋プラスチックゴミへの対策として、関係団体と共同でシンポジウムの開催など社会への働きかけを行います。

(4)野鳥密猟対策の取り組み
「野の鳥は野に」という当会創設時の思想に基づき、野鳥のありのままの姿を観察する楽しみを広めることと並行して、法や制度を改善して密猟や違法飼育の根絶をめざします。

(5)文化的アプローチ
文芸、美術、音楽、演劇など、作品や芸術の訴求力を生かして人々の自然への興味・関心を高めます。

(6)「ひなを拾わないでキャンペーン」など
野鳥を慈しむ感情を大切にしつつ野生生物との正しい接し方を広めます。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット(前掲の2-4、4-3、12-5、14-1,2、17-16,17に加え、以下の項目)

3-3: 伝染病を根絶するとともに、その他の感染症に対処する。
15-7: 保護の対象となっている動植物種の密猟及び違法取引を撲滅するための緊急対策を講じるとともに、違法な野生生物製品の需要と供給の両面に対処する。

5.自然保護を担う次世代の育成

次世代の育成は、永続的な自然保護活動に必須の課題です。

子どもたちの自然体験を増やす

SDGアイコン4質の高い教育をみんなにSDGアイコン8働きがいも経済成長もSDGアイコン11住み続けれれるまちづくりを

未就学児を含む地域の子どもたちに、自然観察会や学習プログラム、野外調査に参加する機会を提供します。書籍や小冊子、動画など、あらゆるメディアを通じて、子どもたちの自然に関する興味を引き出すコンテンツを提供します。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット(前掲の8-9,11-aに加え、以下の項目)

4-a: 子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。

◆会の運営における取り組み

持続可能な物品・サービス販売を行います

SDGアイコン2飢餓をゼロにSDGアイコン9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGアイコン12つくる責任つかう責任SDGアイコン14海の豊かさを守ろうSDGアイコン16平和と構成をすべての人に

独自の自然保護活動を進めるために、バードウォッチャーの知見から開発された商品や当会の専門性に基づいたサービスを販売し、財源を確保します。商品については、フェアトレード、グリーン購入、児童労働などに配慮し、持続可能な生産や消費を推進します。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット(前掲の2-4,5、12-5、14-1,2に加え、以下の項目)

9-b: 開発途上国の技術開発、商品への付加価値創造におけるイノベーションを支援する。
12-2: 天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。
12-3: 食料の廃棄を半減させ、食品ロスを減少させる。
12-4: 化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。
12-6: 大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する。
16-2: 子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。

労働環境を整備します

SDGアイコン4質の高い教育をみんなにSDGアイコン5ジェンダー平等を実現しようSDGアイコン8働きがいも経済成長も

働きやすい労働環境を整備し、ワーク・ライフ・バランスの実現に取り組みます。コンプライアンスを重視した労働時間の短縮、労働災害の撲滅、ハラスメント対策を図るほか、人材教育や職員の健康増進に取り組むなど、職員が生き生きと働ける職場づくりを推進します。意欲と能力のある女性の積極的登用のほか、男女を問わず育児休暇等の積極的な取得を職員に促し、男女共同参画の取り組みを進めます。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット

4-4: 技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
5-5: 意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。
8-5: 若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。

法人経営を透明に

SDGアイコン12つくる責任つかう責任SDGアイコン16平和と構成をすべての人に

「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」等に基づき、公益財団法人として透明性の高い法人経営を行います。

上記実現のために関連するSDGsのターゲット

16-6: 有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。