山口県下関市での洋上風力発電計画に対し要望書を提出

日本野鳥の会山口県支部、(公財)日本野鳥の会は、下関市安岡沖の大規模な洋上風力発電施設建設計画に関して要望書を提出しました

2011.06.23

日本野鳥の会山口県支部(事務局:山口県長門市、会員数:472名)と公益財団法人日本野鳥の会(事務局:東京都品川区、会員サポーター数5万人)は、下関市沖に洋上風力発電施設を建設計画中の㈱アイ・エス・シー山口(代表取締役 大澤一夫氏)に対して、建設により野鳥の生息環境への影響が危惧されることから、充分な事前環境調査を要請する要望書を提出しました。要望事項の概要は次の3点です。

  1. 年間にわたる鳥類の分布生息状況を最低2年以上実施し、環境影響について予測評価を行うこと。その結果回避することのできないマイナスの影響があると考えられる場合、事業の見直しをすること。
  2. 1の調査の方法について、適切な調査実施のために公益財団法人日本野鳥の会及び日本野鳥の会山口県支部と協議すること。
  3. 実施した調査結果について、調査実施毎にすみやかに取りまとめ、日本野鳥の会山口県支部及び公益財団法人日本野鳥の会に報告すること。
  • 建設予定地(下関市安岡村崎ノ鼻付近から沖合の来留見ノ瀬)周辺の環境について:春期と秋期は渡り鳥の重要な渡りの通過経路になっており、冬期は多数の海鳥が越冬のために集まる場所となっています。この地域では、海域においてシロエリオオハム・ウミウ・ウミアイサ・シノリガモ・カンムリウミスズメなどの海鳥の記録があり、国指定天然記念物である「壁島のウ渡来地」(下関市和久沖)で越冬するウミウの生息とも関係している可能性があります。また陸域はハチクマやヒヨドリなどの渡り鳥が北九州との間を移動する重要な通過経路となっており、ヤツガシラ・タカサゴモズ・ハギマシコなど国内では記録の少ない渡り鳥も観察されています。この中には、国や県のレッドデータブックに絶滅のおそれがあるとして記載されている複数の種を含んでいます。
  • 洋上風力発電の影響について:海外における洋上風力発電施設では、アビ類やカモ類で生息妨害、カモメ類・ウ類・小鳥類で衝突死、ガンカモ類・猛禽類で障壁効果(渡りの妨害)といったマイナスの影響が指摘・報告されており、特に海鳥は影響を受けやすく、生息妨害と衝突死の強い懸念があります。
  • 日本における洋上風力発電の現状:日本には洋上風力発電所が3ヵ所(北海道瀬棚町、山形県酒田市、茨城県神栖市)あり、瀬棚と酒田は港湾内、神栖は海岸から50mに設置されていますが、欧州にあるような海岸から数km沖など、本格的な沖合型洋上風力発電はまだ存在していません。現在、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、国内での本格的な沖合型洋上風力発電の設置技術や環境影響評価手法を確立するための実証実験を行なっているところです。
  • 風力発電について:日本野鳥の会は風力発電について、既存のエネルギー源を自然エネルギーへ転換していくために、生物多様性の保全上も重要な事業と考えています。しかし自然エネルギーの導入が鳥類等の生息環境を破壊し、生物多様性を損ねることは本末転倒であり、生息環境の保護あっての自然エネルギーの開発活用との立場をとっています。

要望書提出先

㈱アイ・エス・シー山口、山口県知事、下関市長

本件問合せ連絡先

日本野鳥の会山口県支部(支部長 上野俊士郎)
公益財団法人日本野鳥の会(自然保護室 浦達也)Tel 03-5436-2633

記者発表先

山口県政記者クラブ

添付資料

  1. 下関市安岡村崎ノ鼻付近から沖合の来留見ノ瀬周辺で現在までに記録のある
    絶滅のおそれのある種

日野鳥発第 13 号
平成23年6月23日

(株)アイ・エス・シー山口
代表取締役 大澤 一夫 様

日本野鳥の会 山口県支部
支部長  上野 俊士郎

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長  佐藤 仁志

山口県下関市安岡沖における
洋上風力発電施設建設事業に対する要望書

 過日は私どもに対し、貴社の山口県下関市安岡沖に建設する洋上風力発電施設建設事業について、ご説明の機会を作ってくださったことに感謝いたします。
貴社が洋上風力発電施設建設を計画されている下関市安岡村崎ノ鼻付近から沖合の来留見ノ瀬周辺は、春期と秋期には重要な渡りの通過経路であり、また冬期には多数の海鳥が越冬のために集まる場所となっております。この地域では海域においてシロエリオオハム・ウミウ・ウミアイサ・シノリガモ・カンムリウミスズメなどの記録があり、国指定天然記念物である「壁島のウ渡来地」(下関市和久沖)に越冬するウミウの生息とも関係している可能性があります。また陸域はハチクマやヒヨドリなどの北九州とを結ぶ重要な通過経路となっており、ヤツガシラ・タカサゴモズ・ハギマシコなど国内では記録の少ない渡り鳥も観察されています。この中には別紙のように、国や県のレッドデータブックに絶滅のおそれがあるとして記載されている種を複数、含んでいます。
海外事例では、洋上風力発電施設ではアビ類やカモ類で生息妨害、カモメ類・ウ類・小鳥類で衝突死、ガンカモ類・猛禽類で障壁効果(渡りの妨害)といったマイナスの影響が指摘・報告されています。特に海鳥は影響を受けやすく、生息妨害と衝突死の強い懸念がありますが、日本では洋上風力発電施設の建設事例が未だ極めて少ないため、その対策はまったく未知数であるのが現状です。
私どもは風力発電の導入について、既存のエネルギーを自然エネルギーへ転換していくために、生物多様性の保全上も重要な事業と考えております。しかし自然エネルギーの導入が鳥類等の生息環境を破壊し、生物多様性を損ねることは本末転倒であり、生息環境の保護あっての自然エネルギーの開発活用と考えているところです。
こうした点を踏まえ、貴社の事業にあたって以下の3点について要望いたします。当該地域の鳥類及び生物多様性について、将来に禍根を残さぬよう、十分なご配慮をいただきますことを強くお願い申し上げます。

  1. 洋上風力発電施設の建設により、当該地域及び周辺地域に生息する鳥類の行動と生息が妨害されるのを防ぐため、年間にわたる鳥類の分布生息状況を最低2年以上実施し、環境影響について予測評価を行うこと。特にマイナスの影響が強く懸念されるアビ類やカモ類などの鳥類について細心の予測評価を行うこと。また、渡りの時期には夜間を含めた調査を実施すること。予測評価の結果、鳥類にとって回避することのできないマイナスの影響があると考えられる場合、事業の見直しをされること。
  2. 前項1の調査の方法について、適切な調査実施のために公益財団法人日本野鳥の会及び日本野鳥の会山口県支部と協議されること。
  3. 前項1及び2により実施した結果について、調査実施毎にすみやかに取り纏め、日本野鳥の会山口県支部及び公益財団法人日本野鳥の会に報告されること。

以上

日野鳥発第 14 号
平成23年6月23日

山口県知事
二井 関成 様
(山口県環境生活部自然保護課
及び同土木建築部河川課気付)

日本野鳥の会 山口県支部
支部長  上野 俊士郎

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長  佐藤 仁志

山口県下関市安岡沖に生息する鳥類の保全に関する要望書

 日ごろより、私どもの自然環境保全活動についてご理解・ご協力をいただき、深く感謝申し上げます。
さて、山口県下関市安岡沖に洋上風力発電施設の建設が(株)アイ・エス・シー山口により進められていることは、すでにご承知のことと存じます。私ども日本野鳥の会山口県支部及び公益財団法人日本野鳥の会は、風力発電の導入について、既存のエネルギーを自然エネルギーへ転換していくために重要な事業と考えております。しかし鳥類の重要な生息地に建設された場合に、絶滅危惧種等に悪影響を与え、生物多様性に脅威となる事例もあるため、そのような場所を避けて建設することが重要と考えております。
同社が洋上風力発電施設建設を計画されている下関市安岡村崎ノ鼻付近から沖合の来留見ノ瀬周辺は、春期と秋期には重要な渡りの通過経路であり、また冬期には多数の海鳥が越冬のために集まる場所となっております。この地域では海域においてシロエリオオハム・ウミウ・ウミアイサ・シノリガモ・カンムリウミスズメなどの記録があり、国指定天然記念物である「壁島のウ渡来地」(下関市和久沖)に越冬するウミウの生息とも関係している可能性があります。また陸域はハチクマやヒヨドリなどの北九州とを結ぶ重要な通過経路となっており、ヤツガシラ・タカサゴモズ・ハギマシコなど国内では記録の少ない渡り鳥も観察されています。この中には別紙のように、国や県のレッドデータブックに絶滅のおそれがあるとして記載されている種を複数、含んでいます。
海外事例では、洋上風力発電施設ではアビ類やカモ類で生息妨害、カモメ類・ウ類・小鳥類で衝突死、ガンカモ類・猛禽類で障壁効果(渡りの妨害)といったマイナスの影響が指摘・報告されています。特に海鳥は影響を受けやすく、生息妨害と衝突死の強い懸念がありますが、日本では洋上風力発電施設の建設事例が未だ極めて少ないため、その対策はまったく未知数であるのが現状です。
鳥類保護の観点からこのたびの(株)アイ・エス・シー山口による洋上風力発電施設の建設計画については、鳥類の行動及び生息に影響が出ないと断言するだけの情報を私どもは現状で得ておりません。そこでこのほど、別紙のように、野鳥への詳細な影響調査と事業の見直しも含めた予測評価を実施し、調査結果を速やかに公開されたい旨の要望書を同社に提出いたしました。
つきましては、当該洋上風力発電施設の建設が野鳥の行動及び生息環境に対して極力少ない影響にとどまるよう、関係行政機関として(株)アイ・エス・シー山口に対して適切なご指導をとられるよう要望いたします。

以上

日野鳥発第 15 号
平成23年6月24日

下関市長
中尾 友昭 様
(下関市環境部環境政策課気付)

日本野鳥の会 山口県支部
支部長  上野 俊士郎

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長  佐藤 仁志

山口県下関市安岡沖に生息する鳥類の保全に関する要望書

 日ごろより、私どもの自然環境保全活動についてご理解・ご協力をいただき、深く感謝申し上げます。
さて、山口県下関市安岡沖に洋上風力発電施設の建設が(株)アイ・エス・シー山口により進められていることは、すでにご承知のことと存じます。私ども日本野鳥の会山口県支部及び公益財団法人日本野鳥の会は、風力発電の導入について、既存のエネルギーを自然エネルギーへ転換していくために重要な事業と考えております。しかし鳥類の重要な生息地に建設された場合に、絶滅危惧種等に悪影響を与え、生物多様性に脅威となる事例もあるため、そのような場所を避けて建設することが重要と考えております。
同社が洋上風力発電施設建設を計画されている下関市安岡村崎ノ鼻付近から沖合の来留見ノ瀬周辺は、春期と秋期には重要な渡りの通過経路であり、また冬期には多数の海鳥が越冬のために集まる場所となっております。この地域では海域においてシロエリオオハム・ウミウ・ウミアイサ・シノリガモ・カンムリウミスズメなどの記録があり、国指定天然記念物である「壁島のウ渡来地」(下関市和久沖)に越冬するウミウの生息とも関係している可能性があります。また陸域はハチクマやヒヨドリなどの北九州とを結ぶ重要な通過経路となっており、ヤツガシラ・タカサゴモズ・ハギマシコなど国内では記録の少ない渡り鳥も観察されています。この中には別紙のように、国や県のレッドデータブックに絶滅のおそれがあるとして記載されている種を複数、含んでいます。
海外事例では、洋上風力発電施設ではアビ類やカモ類で生息妨害、カモメ類・ウ類・小鳥類で衝突死、ガンカモ類・猛禽類で障壁効果(渡りの妨害)といったマイナスの影響が指摘・報告されています。特に海鳥は影響を受けやすく、生息妨害と衝突死の強い懸念がありますが、日本では洋上風力発電施設の建設事例が未だ極めて少ないため、その対策はまったく未知数であるのが現状です。
鳥類保護の観点からこのたびの(株)アイ・エス・シー山口による洋上風力発電施設の建設計画については、鳥類の行動及び生息に影響が出ないと断言するだけの情報を私どもは現状で得ておりません。そこでこのほど、別紙のように、野鳥への詳細な影響調査と事業の見直しも含めた予測評価を実施し、調査結果を速やかに公開されたい旨の要望書を同社に提出いたしました。
つきましては、当該洋上風力発電施設の建設が野鳥の行動及び生息環境に対して極力少ない影響にとどまるよう、関係行政機関として(株)アイ・エス・シー山口に対して適切なご指導をとられるよう要望いたします。

以上

別紙

下関市安岡村崎ノ鼻付近から沖合の来留見ノ瀬周辺で現在までに記録のある
絶滅のおそれのある種

シノリガモ 環境省 絶滅の恐れのある地域個体群(東北地方以北の繁殖個体群)
ミサゴ  環境省 絶滅危惧II類、県 絶滅危惧ⅠA類
ハチクマ  環境省 準絶滅危惧、県 準絶滅危惧
ハヤブサ  環境省 絶滅危惧II類、県 絶滅危惧II類
チョウゲンボウ 県 準絶滅危惧
ミヤコドリ 県 準絶滅危惧
ウミネコ 県 準絶滅危惧
カンムリウミスズメ 環境省 絶滅危惧II類、県 絶滅危惧ⅠA類

環境省:鳥類のレッドリスト(2006)
県:レッドデータブックやまぐち 山口県の絶滅のおそれのある野生生物(2002)