鳥インフルエンザと水鳥への給餌中止について

2008年12月24日掲載

高病原性鳥インフルエンザ対策として、水鳥類への給餌中止や自粛が広がっています。この結果、給餌場所で野鳥から人に鳥インフルエンザが容易に感染するかのような印象や、給餌は全て悪いことかのような誤解も生じています。
野鳥から人に鳥インフルエンザが感染したことはありませんし、ニワトリなど家禽への鳥インフルエンザ感染防止は養鶏場などでの防疫措置が重要です。

1.野鳥への給餌についての基本的な認識

(1)野生動物はペットではない
野鳥も含め野生動物は、自然の中で食べ物を探し生活しています。食べ物が見つからなかったり、気候の影響などで食べ物が少なかったりして死んでしまう動物もいますが、それも自然の営みです。日常的に給餌に依存し、まるで飼われているように生活するような状況は、野生動物本来の姿ではありません。

(2)絶滅のおそれがある場合には有効
野生動物にとって給餌が有効なのは、自然状態での採食が困難な場合、食物不足あるいは食物があっても実際に利用が困難な場合です。特に絶滅のおそれのある野鳥がこのような状態に陥っている場合に、保護のための一つの手段として給餌を行うことがあります。

(3)教育目的ではその後のステップが必要
環境教育の目的で、間近に野鳥の採食行動を見る手段として給餌を行う場合、野生動物の本来の生態を理解するための最初のステップと位置づけ、その後の道筋を用意しておくことが必要です。給餌によって野生動物と人の距離が縮まることは、観察が容易になる上に楽しいことでもありますが、給餌自体が目的とならないよう気をつけなければなりません。

(4)衛生管理と季節の限定、給餌量の制限が基本
自宅で個人的に野鳥に親しむための餌台も含め、衛生管理は重要です。野鳥を病気から守るためにも、給餌場所の食べ残しや糞はこまめに掃除し、餌も傷んだりしないように清潔に管理することが必要です。また餌台など野鳥に親しむための給餌は、自然界に食物が乏しくなる冬季に限り、餌の量も過剰にならないよう制限することが基本です。

(5)食害の防除では注意が必要
農作物の食害への対策として、給餌を行う場合があります。廃棄されるような穀物などを与えることで、高価な作物が食べられないようにする効果がありますが、生息密度の増大や人なれを引き起こし、被害を大きくする要因にもなるので注意が必要です。

2.給餌が引き起こす問題

(1)環境負荷の増大
同一の場所で継続的に大量に給餌すると、食べ残しや野鳥の糞により、有機物や栄養塩類の過度な蓄積、水質汚濁を引き起こします。

(2)栄養の偏り
人工的な餌には、自然の餌が備えているべき栄養素が欠けており、これに強く依存することで結果として野鳥が不健康な状態に陥ることがあります。

(3)野鳥の生態をゆがめる
質的・量的な把握や統制ができない場所で行う給餌は、狭い地域に特定の種や個体を集中させてしまい、野鳥の生態、行動をゆがめてしまうおそれがあります。

(4)事故や密猟の増加
給餌を受けた野鳥が、人や人間環境に対する危険認識を低下させるおそれがあります。交通事故の発生や人なれした野鳥が密猟された事例もあります。

(5)感染症のリスク拡大
北海道で2006年冬季に発生したスズメの大量死は、サルモネラ菌の一種の感染が原因である可能性が指摘されており、給餌によってこのような感染症が広がることも懸念されます。

(6)ペット化の進行
給餌する人が野生動物の本来の生態を見失い、野生動物をペットと同一視するようになってしまうおそれがあります。

(7)食害の増大
人を恐れなくなることによって、農地への侵入を容易に起こすことになり、農作物被害が増えることがあります。

3.鳥インフルエンザと野鳥への給餌

(1)鳥インフルエンザは家禽で変異
世界各地で被害が出ている鳥インフルエンザは「強毒の高病原性」タイプで、これはニワトリなど家禽の間で感染を繰り返すうちに突然変異で生じたと考えられています。野生の水鳥などが普通に持っているのは「低病原性」という違うタイプで、これは古来から自然界に存在していたと考えられます。

(2)野鳥から人への感染例はない
野鳥から人へ鳥インフルエンザが感染した例は、世界でもありません。ウイルスと適合するたんぱく質が鳥とは違うため簡単には感染しないのです。尊い人命が失われたのは、ニワトリを飼っていて糞の粉塵を吸い込んだり、食用に処理する時に血液がかかるなどして、ウイルスを大量に取り込んだ特殊な例と考えられています。人への鳥インフルエンザ感染防止として、野鳥への給餌を中止することは意味がありません。

(3)ニワトリなどへの拡大防止は衛生管理で
養鶏場などでニワトリへの鳥インフルエンザ感染防止のためには、その養鶏場での衛生管理、防疫措置が最も重要と考えられます。また給餌場所でも、給餌物や糞が残らないような給餌量制限や清掃、野鳥と人の移動場所を分離して混在しないようにするなどで、ニワトリなどへの感染拡大防止につながります。