堺第7-3区埋立地に繁殖するチュウヒの保護に関する要望書を提出

 当会は2010年10月6日、絶滅危惧種のチュウヒが繁殖する堺第7-3区産業廃棄物埋立処分場跡地における「共生の森」事業の計画を見直していただくよう、大阪府知事に要望書を提出しました。文書は日本野鳥の会大阪と連名によるものです。大阪府堺市にある埋立地を植栽し森林化する計画に対し、大阪湾岸に本来あった環境であり、現在の埋立地に残る湿地と草原を生かした計画へ見直していただけるよう、チュウヒを中心とした湿地・草地の生物多様性の保護の観点から、要望書を提出しました。

日野鳥発第38号
2010年10月6日

大 阪 府 知 事
橋 下 徹  様

日本野鳥の会大阪
代 表  平 軍 二

財団法人 日本野鳥の会
会 長  柳 生  博

堺第7-3区産業廃棄物埋立処分場跡地で生息・繁殖するチュウヒの保護に関する要望

 日頃は、「大阪府環境基本条例」の理念であります「自然と共生する豊かな環境の保全と創造」の実現のために、様々な環境施策を推進いただき感謝申し上げます。
 さて、大阪府が産業廃棄物の広域処分場として、1974年から30年にわたり280ヘクタールに及ぶ広大な海面を埋め立て造成した堺第7-3区産業廃棄物埋立処分場(以下、堺第7-3区)は、埋め立て完了後の裸地から草地への植生遷移、沈下による湿地の出現といった変遷を経て湿地および草地環境が出現しており、現在は湿地・草地生態系の頂点であるチュウヒなど、草地環境を好む野鳥の重要な生息地となっています。
 生息するためには広い草地環境と、そこに育まれる豊かな生物多様性を必要とするチュウヒ(環境省レッドリスト:絶滅危惧ⅠB類)は、国内における繁殖地が局地的で少なく、繁殖つがい数も非常に少なく(およそ60つがい)、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」で保護指針が打ち出されているイヌワシ、クマタカ、オオタカに比べても、国内での絶滅の危険がより差し迫っていると考えられる猛禽類の一種です。
 堺第7-3区は府下で唯一のチュウヒの繁殖地であり、私どもの調査により、2006年に営巣と1羽のヒナの巣立ちを初めて確認し、引き続き2007年には2羽のヒナが巣立ち、2009年には1羽のヒナが巣立っています。
 大阪府の沿岸部は本来、干潟や湿地、草原が存在する環境でした。そして、堺第7-3区の埋め立て完了後に形成された湿地や草地は、それらに近いものです。しかし、2004年から始まった堺第7-3区での「共生の森」事業(対象:約100ヘクタール)では森林環境の創出が偏重され、現在の堺第7-3区を特徴づけている大阪府沿岸部の本来に近い草地環境を削減する計画となっています。そのためこの計画は、堺第7-3区の特色を失わせ、さらに現在生息している多くの絶滅危惧種の生息環境を奪うものになっています。
事業計画では、生物の生息に配慮して水辺エリアや草原エリアとして約30ヘクタールが残される計画となっていますが、木曽岬干拓地など他の場所での繁殖例から考えても、草地生態系の頂点であるチュウヒが生息し、繁殖していくには十分な広さではありません。「共生の森」事業による植栽が進みチュウヒが好む草地環境が徐々に減少している中、2008年と2010年には繁殖が確認できず、2009年は1つがいしか繁殖できませんでした。このように生息環境の減少にともないチュウヒの繁殖状況が悪化している中、このまま事業が進みさらに草地環境が減少すれば、堺第7-3区でチュウヒが生息できなくなってしまうことが危惧されます。

 私ども日本野鳥の会では、絶滅の危機に瀕するチュウヒの保護を進めるために全国各地のチュウヒの生息状況を調査し、行政によるチュウヒの保全対策の実施や、市民の手でチュウヒの生息環境を守る仕組みをつくっていこうと取り組んでいるところです。そのような活動の中で私どもは、堺第7-3区のチュウヒの危機的な状況と保全の重要性を認識しました。そのことに鑑み日本野鳥の会は、堺第7-3区においてチュウヒを頂点とした湿地や草地を中心とする生物多様性の保全、創出をすすめることが不可欠であると考え、以下のとおり要望いたします。

1  「共生の森」事業を進めるにあたり、事業地では大阪府の元々の沿岸部の生態系である草地環境が回復し高い生物多様性を保っていることを認識し、チュウヒの繁殖する湿地はもとより周辺部の草地環境をできる限り保全、維持、創出するなど、草地の生態系や生物多様性およびチュウヒの保護について考慮してください。

 大阪府内はもとより国内においては、森林環境に比べ、草地環境の減少割合は著しく、明治・大正期には国土面積の11%あった草地は現在、3%にまで減少しています。そのような状況の中、大阪府内で回復した草地の生態系や生物多様性の保全のために、埋立地に現存する湿地や草地環境を維持し、新たに創出する意義は非常に大きいと考えます。森づくりを主体とした計画から当地の立地特性を活かしたチュウヒを頂点とする湿地や草地の生態系の維持や創出を考慮した計画へ方向転換し、下記に示した提案について取り組んでいきたいのでお願い申し上げます。なお、提案内容を吟味、検討および実行する場合は、より広い見識を反映させ、開かれた活動となるために、市民参加型で行われるように配慮してください。

(1)堺第7-3区内でのチュウヒの生息可能エリアの確保、拡大を図るための提案

  • 残された湿地環境と草地環境を維持、保全する。
  • 植生遷移による森林化を避けるために定期的に草刈や低木の伐採を行う。
  • チュウヒの営巣環境を維持するため水位調整を人為的に行えるようにし、チュウヒの好む新しいヨシの生育が可能となるように区域を定めて年毎にローテーションしてヨシ原の刈り取りを行うなど、ヨシ原の適正な管理を行う。

(2)多くの生き物が生息できる多様な.草地、湿地環境を創出するための提案

  • 湿地を生き物のあふれるビオトープとするため、Z池、Q池に抽水植物群落、浮遊植物群落、沈水植物群落などの多様な植生を創出する。
  • 降雨等により池の水位が増加した場合であっても、一定規模の泥湿地が確保されることが必要なため、Z池、Q池の形状を緩傾斜とし、特に水鳥の採餌や休息の場として利用できる泥湿地を創出する。
  • チュウヒの狩り場としての機能を高める効果が期待されるため、ヨシなどの草丈の高い植物で覆われた浮島をQ池やZ池に複数個所創出する。
  • 昆虫の好む実や花をつける草本類(在来種)を植え、生物の多様性の創出を図る。
  • 南港野鳥園や湾岸部の埋立地などチュウヒが広域に利用する環境の保全や回復を図る。

2  堺第7-3区がチュウヒをはじめとする希少鳥類の生息地となっている状況を考慮し、当該地を鳥獣保護区特別保護地区などに指定してください。

 2006年以降、これまで堺第7-3区では120種にも及ぶ野鳥が確認されています。チュウヒ以外にもツバメチドリやコアジサシ、セイタカシギなどの水辺に生息する絶滅危惧種が繁殖するほか、湿地では、シギやチドリなど多くの渡り鳥が渡りの中継地として利用するなど、大阪府内有数の野鳥生息地となっています。またタカの仲間やコミミズクなど生態系の上位に位置する猛禽類をはじめ、大阪府のレッドデータブック記載種が46種記録されていることも特筆に値します。

3  堺第7-3区が大阪府内唯一のチュウヒの繁殖地であることを認識し、次世代に伝えてください。

チュウヒを守ることが、そのくらしを支える湿地や草地に生きるたくさんの命をはぐくむことになります。当地において、チュウヒのくらす環境を保全していくためには、「共生の森」事業にかかわる行政、企業、NPO、NGO、市民などが「大阪府内唯一のチュウヒの繁殖地である堺第7-3区の環境を次世代に伝え、残していく」という目標を設定し、共有化することが必要不可欠であると考えます。

 今年は「国際生物多様性年」です。今月、名古屋市で生物多様性条約締約国会議(COP10)が開催されます。これを機に、国が策定した「生物多様性基本法」「生物多様性国家戦略2010」を受けて、埼玉県、千葉県、愛知県、兵庫県、長崎県などいくつもの自治体が生物多様性の保全に向けた戦略を策定されています。大阪府におかれましても堺第7-3区を生物多様性保全のホットスポットと位置づけられ、チュウヒをはじめとする多様な生きものが生息できる環境の保全と創出に取り組んでいただくことを切望いたします。

※添付資料 「残せるか チュウヒの聖地を 大阪に」 2010.7 日本野鳥の会大阪
むくどり通信No209 特集「生物多様性の保全 堺第7-3区のチュウヒの保護」 2010.9 同

本件連絡先:日本野鳥の会 大阪(担当:清水) 天王寺区清水谷6-16NEXT21 TEL06-6766-0055(火・金)
(財)日本野鳥の会 自然保護室(担当:浦) 東京都品川区西五反田3-23 TEL03-5436-2633


大阪・堺第7-3区埋立処分場跡地の現在の様子。計画通り進めば、チュウヒが営巣するここも植栽され、森となる。
大阪・堺第7-3区埋立処分場跡地の現在の様子。計画通り進めば、チュウヒが営巣するここも植栽され、森となる。