環境保全と両立するオリンピックの開催を求めて

葛西臨海公園の自然を守ろう!

「東京のオアシス」として市民に親しまれる葛西臨海公園が、2020年オリンピックの東京招致計画のなかで、競技会場として浮上しています。しかしそのために、野鳥をはじめとする豊かな自然環境が破壊されてよいのでしょうか。東京支部は財団事務局と連携し、それに反対する取り組みをしています。

日本野鳥の会東京   代表(当時) 中村一也
(2012年野鳥誌12月号に掲載された記事より、一部改変)

東京随一の野鳥の宝庫

 東京都の東端、千葉県との県境に位置する葛西臨海公園は、東京湾に面した広大な敷地を誇り、年間を通じて数・種類ともに、東京で最も多くの野鳥に会うことができます。
 食物連鎖の上位に位置する野鳥の数や種類が多いということは、自然が豊かであるなによりの証拠です。また、渡り鳥にとって重要な繁殖地・中継地・越冬地のすべての要素を持ちあわせており、「自然環境のバロメーター」としても機能していると思います。
 東京湾の干潟や浅瀬は、江戸時代以降の埋め立てによって、その約9割が失われてしまいましたが、当地の海辺では、浅海域、潮間帯、干潟、アシ原、氾濫原、草原、樹林帯が連続しています。このように連続性が残る環境は大変貴重で、環境省の「日本の重要湿地500」にも選定されています。

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柳池での自然観察会 (写真提供 鳥類園友の会)

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葛西の冬の風物詩 スズガモの群れ (写真提供 日本野鳥の会東京支部)

オオタカの若鳥
オオタカの若鳥。冬場葛西では、一日で6~7種見られることもある (写真提供 福山和夫)

競技場建設の変更要望書を提出

 この貴重な場所に、東京都は2020年に開催されるオリンピックの東京招致計画において、カヌー・スラロームの競技場を建設しようとしています。もしそうなれば、貴重な緑地の約3分の1が失われることになります。東京支部はオリンピックの招致自体に反対するものではありませんが、このような大きな自然破壊を看過するわけにはいきません。
 そこで、8月23日、招致委員会理事長と東京都知事あてに、「都立葛西臨海公園での2020年東京オリンピックカヌー競技場建設の変更についての要望書」を、財団事務局との連名で提出しました。

2016年招致計画時のカヌー競技場イメージ
2016年招致計画時のカヌー競技場イメージ(招致委員会2016立候補ファイルより)

建設予定地
建設予定地(DEXTE-K が作成)

豊かな生態系を奪わないで

 葛西臨海公園の年間来場者は、320万人(平成23年)にもおよびます。市民が気軽に訪れて、自然にふれることのできる憩いの場としての役割も担ってます。
 原生の自然ではなく造成された場所ではありますが、開園から24年を経過し、土壌も植生も豊かになり、多様な生態系が形成されています。226種の野鳥のほか、昆虫140種、クモ80種、樹木91種、野草132種を記録しています。そのなかには、トラツグミ、チョウトンボ、コガネグモ、ウラギクなど東京都23区では絶滅危惧種に指定されている生物26種も含まれています。
 もし計画通りに進めば、2017年には着工となります。競技場建設により都内屈指の豊かな自然環境が破壊されることは、生物多様性を保全するという我が国の国家目標に反することにもなります。
 近接した中央防波堤埋立地などには広大な未利用地が存在し、より競技場建設に適した候補地が存在しています。
 環境負荷がより少ない場所に変更するよう、今後も東京都と招致委員会に対し、積極的に働きかけていきます。

◆葛西臨海公園で見られる野鳥
春秋には、シギ・チドリやオオルリ、キビタキ、ノゴマなどの旅鳥が多く通過する。夏にはセッカやオオヨシキリの声がにぎやかで、2年前から絶滅危惧種のコアジサシも営巣するようになった。冬はアオジやクロジ、トラツグミのほか、チュウヒ、オオタカなどの猛禽類がよく見られる。カンムリカイツブリの越冬地としては世界最大級で、万を超えるスズガモの群れは見事だ。

オリンピックと環境

自然保護室室長 葉山政治
 世界最大規模のスポーツイベントであるオリンピックの開催には、競技場や選手村の建設、廃棄物の処理など、大きな環境負荷がともないます。今夏開催されたロンドン五輪では、CO2削減を考慮した施設づくりや廃棄物処理の取り組み、会場周辺の緑地や野生生物の生息地の整備などが報道されていました。
 世界的な環境問題への関心の高まりのなかで、オリンピック憲章では、IOC(国際オリンピック委員会)の使命と役割のひとつとして、「環境問題に関心を持ち、啓発・実践を通してその責任を果たすとともに、スポーツ界において、特にオリンピック競技大会開催について持続可能な開発を促進すること」と掲げています。「持続可能な開発」とは、将来の世代の利益を損なわない範囲で環境を利用していこうという意味です。
 東京でも、オリンピックが開催されれば、それなりの環境負荷が発生するでしょう。招致委員会では、既存施設を活用することによって、なるべく環境負荷を抑える方針だということです。ここでいま一度、葛西臨海公園の自然が与えてくれる恩恵を、将来にわたって引き継ぐための知恵が求められています。