プレスリリース 2012.02.13
2012年2月13日
日本野鳥の会と同会苫小牧支部及び札幌支部、室蘭支部は北海道に対し、
苫小牧東部工業開発地域内の鳥獣保護区指定に関する要望書を提出しました
(公財)日本野鳥の会(事務局:東京、理事長:佐藤仁志、会員・サポーター数約5万人。以下「当会」)と日本野鳥の会苫小牧支部(事務局:苫小牧市、支部長:盛田徹)、日本野鳥の会札幌支部(事務局:札幌市、支部長:山田三夫)日本野鳥の会室蘭支部(事務局:登別市、支部長:篠原盛雄)は、2012年2月13日付で北海道知事宛に苫小牧東部工業開発地域(以下「苫東地域」)内の弁天地区を絶滅のおそれのある鳥類の生息地として保全を求める要望書を提出しました。同地区は工業開発地域にありながら未利用地として残され、かつての勇払原野の面影を残す北海道独特の景観として、また絶滅のおそれのある鳥類26種類の生息地として、生態系保全の観点からも大変重要な地域です。現在、道で策定中の第11次鳥獣保護事業計画および安平川水系河川整備計画のなかで、保全の取り組みの具体化を求めるものです。
要望書の概要
以下の2点です。
- 弁天沼周辺と安平川(下流右岸)湿原の低湿地について、鳥獣保護区特別保護地区に指定し、絶滅のおそれのある鳥類の保護と生息環境の保全に努めること。
- 安平川河川整備計画における河道内調整地(遊水地)の設定および管理について、治水と湿地環境の保全の両立を図ること。
背景
勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられています。原野を構成する湿原の面積は、過去90年で約8分の1に著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしています。一方同所では1960年代の高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートしました。しかしその後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700haの土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっています。
当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめ、2005年に「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を発行しました。以来、希少種の調査や弁天沼周辺での自然観察会を通じ、同所一帯の保全活動を行っています。
弁天沼周辺の鳥類について
当会の調査結果より、同所(弁天地区)がウトナイ湖に匹敵する希少な野生鳥獣の生息域であり、かつての勇払原野の面影を残す景観的にも優れた、豊かな自然環境であることを確認しました。具体的には、絶滅のおそれのある希少鳥類が26種類確認されました(参考資料1参照)。このうちシマアオジ、チュウヒ、アカモズ、オオジシギにとって重要な繁殖地であること、サンカノゴイについては周年生息し繁殖の可能性もあること、オオワシやオジロワシは合わせて50羽以上が冬期に利用すること、シマクイナについては繁殖期では国内2ヶ所めの記録であること等が明らかになっています。
今後について
北海道が現在作成中の安平川水系河川整備計画の基本方針では、遊水地を活用した湿地環境の保全の視点が述べられています。また平成22年に北海道が策定した生物多様性保全計画では、「北海道の特徴的な自然景観である湿原」と「希少生物の生息環境」が保全対象として謳われています。弁天地区は、これらの政策の具現化に必要かつ不可欠な地域であると考えています。
今後はこの要望書や当会の勇払原野保全構想に基づき、安平川の治水計画においても、苫東地域全体の土地利用計画においても、北海道独特の自然景観とその生物多様性の保全を目指し、現在ある貴重な財産を失うことのないよう、また新たな価値を付け加えて、産業と自然環境の保全が両立していけるよう、関係者への働きかけを行っていきます。
<本件に関するお問い合わせ>
公益財団法人 日本野鳥の会 サンクチュアリ室
ウトナイ湖サンクチュアリ担当 原田修
〒059-1365 北海道苫小牧市植苗150-3 TEL 0144-58-2505
【資料】苫小牧東部開発地域 弁天地区で記録のある希少鳥類
No | 種 名 | 種の保存法 | 文化財保護法 | 環境省レッドリスト | 北海道レッドリスト |
1 | サンカノゴイ | EN | EN | ||
2 | オオヨシゴイ | EN | R | ||
3 | コウノトリ | 国内希少種 | 特別天然記念物 | CR | EN |
4 | マガン | 天然記念物 | NT | R | |
5 | ヒシクイ | 天然記念物 | R | ||
(亜種ヒシクイ)※ | VU | ||||
6 | (亜種オオヒシクイ) ※ | NT | |||
7 | ミコアイサ | VU | |||
8 | ミサゴ | NT | VU | ||
9 | ハチクマ | NT | R | ||
10 | オジロワシ | 国内希少種 | 天然記念物 | EN | EN |
11 | オオワシ | 国内希少種 | 天然記念物 | VU | EN |
12 | オオタカ | 国内希少種 | NT | VU | |
13 | ハイタカ | NT | VU | ||
14 | ケアシノスリ | R | |||
15 | ハイイロチュウヒ | R | |||
16 | チュウヒ | EN | VU | ||
17 | ハヤブサ | 国内希少種 | VU | VU | |
18 | エゾライチョウ | DD | R | ||
19 | ウズラ | NT | R | ||
20 | タンチョウ | 国内希少種 | 特別天然記念物 | VU | EN |
21 | クイナ | R | |||
22 | ヒメクイナ | R | |||
23 | シマクイナ | EN | R | ||
24 | オオジシギ | NT | R | ||
25 | アカモズ | EN | R | ||
26 | シマアオジ | CR | R |
CR:絶滅危惧IA類,EN:絶滅危惧IB類,VU:絶滅危惧II類,NT:準絶滅危惧,DD:情報不足, R:希少種
(※環境省レッドリストは亜種によってランクが分かれているため亜種別に記述)