プレスリリース 2016.11.01

2016年11月01日

苫小牧東部開発地域(苫東地域)で、今年も7種の希少鳥類を確認
~タンチョウの飛来は4年連続~

 日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリは、今年の繁殖期(4~8月)に実施した苫東地域での調査で、昨年に続き国内レッドリストの絶滅危惧ⅠB類を3種、同Ⅱ類を2種、準絶滅危惧を2種、計7種もの絶滅のおそれのある鳥類の生息を確認しました。中でもタンチョウ(絶滅危惧Ⅱ類)は、同地域において4年連続となる飛来確認です。
 このことから、同地域にはウトナイ湖や釧路湿原などのラムサール条約湿地に勝るとも劣らない、重要な野鳥生息地としての環境が残っていることを再確認できました。
 当会では毎年、同地域で調査を行い、希少鳥類の生息地としての重要性を訴えており、2014年に同地域の一部は、河道内調整地(遊水地)の予定範囲に含まれることが決定しています。当会では今回の調査結果をもとに、引き続き、同地域の貴重な自然環境の保全について、関係者へより一層の働きかけを行うと共に、同地域がラムサール条約湿地に登録されるよう、今後も活動して参ります。(これまでの保全活動については、別紙資料2をご参照ください。)
 なお、情報公表によって希少鳥類の繁殖へ悪影響が及ばないよう、発表をこの時期といたしました。また、詳しい確認位置等の公表は控えさせていただきますのでご了承ください。

確認された希少鳥類について

 絶滅危惧ⅠB類のうち、シマクイナは繁殖期に確認されているのが日本国内では釧路湿原や仏沼(青森県)など限られた地域のみ、という非常に希少な鳥類です。苫東地域では5年連続での確認となりました。今回は調査地点において最低でも9羽の声を確認したことから、複数のシマクイナが同地域で毎年繁殖している可能性は非常に高いと考えられます。また、アカモズは3つがい6羽以上を確認しました。昨年に比べて1羽少ないものの、ここ数年記録のなかった場所で、新たに1羽を観察することができたのは成果でした。さらに、絶滅危惧Ⅱ類のタンチョウは、一昨年の若鳥1羽、昨年の成鳥1羽と若鳥1羽に続き、今回は弁天沼周辺において最多で成鳥2羽を確認しました。タンチョウの飛来はこれで4年連続となり、また、4月から5月までの間に姿もしくは声を計9日も弁天沼周辺で確認することができました。このことから、勇払原野は同種の重要な生息地になりうると考えられ、弁天沼周辺が繁殖地となる可能性はますます高まったと言えます。なお、確認した鳥類についての詳細は、別紙資料1をご参照ください。


タンチョウ(2016年5月1日 北沢宗大氏撮影)


問い合わせ先

日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリ

担当:
中村 聡(なかむら さとし)
瀧本宏昭(たきもと ひろあき)
電話:0144-58-2505または080-2872-2709


別紙資料

今回の調査で確認された希少鳥類

絶滅危惧ⅠB 類

シマクイナ(ツル目クイナ科 全長12 .5cm)

  • シベリア南東部やモンゴルなどで繁殖し,日本には主に冬鳥として水田や湿地に渡来するとされる。アジア周辺には1万羽未満しか生息しないと考えられているが、生息状況はわかっていない。


アカモズ(スズメ目モズ科 全長20cm)

  • もともと生息が局所的で個体数が少ないうえに近年減少し、2006年の環境省第3次レッドリストで、準絶滅危惧からランクが上がった。
  • 夏鳥として九州~北海道の原野、灌木のある草原、河川敷等で繁殖し、東南アジア等で越冬する。
  • 近縁種のモズより自然度の高い場所に生育するため、生息地や個体数が少ない。


チュウヒ(タカ目タカ科 全長:オス48cm、メス58cm)

  • 繁殖地のヨシ原が開発等で減少し、現在全国での推定生息つがい数は約30~40。
  • 主に夏鳥として、北日本の平地の草原、湖沼や河川敷周辺の湿原で繁殖し、本州中部以南で越冬する。
  • 当地域内では2000年代以降6つがい前後が繁殖していると推定され、まとまった繁殖つがい数および生息数を維持していることから、日本の重要な繁殖地のひとつと考えられる。

絶滅危惧Ⅱ類

タンチョウ(ツル目ツル科 全長:140cm)

  • 主に北海道東部の湿原で繁殖し、冬は鶴居村などの給餌場に集まる。
  • 一時は絶滅したと考えられ、1924年の再発見以来、地元の方々の保護活動が奏功し、現在は約1500羽まで回復している。
  • 個体数の回復に伴い、近年は十勝川流域やサロベツ原野でも繁殖するなど、分布域も拡大しつつある.近い将来、苫東地域で繁殖する可能性が高く、同地域は北海道西部における個体数や分布域回復の基盤となる可能性がある。


オジロワシ(タカ目タカ科 全長:オス80cm、メス90cm)

  • 北海道の北部や東部などで少数が繁殖するが、多くは冬鳥としてユーラシア大陸東部より渡来し、海岸、河口、湖沼に生息する。
  • 近年、苫小牧地方でも周年観察されるようになり、繁殖していると推測される。


準絶滅危惧

マキノセンニュウ(スズメ目センニュウ科 全長12cm)

  • 2012年8月の環境省第4次レッドリストで新たに掲載された。
  • 繁殖環境である低茎湿生草原が減少する中、苫東地域は道内でも特筆すべき生息密度であると推察される。
  • 夏鳥として北海道の海岸草原、湿原、牧草地で繁殖する。越冬地は東南アジア。

オオジシギ(チドリ目シギ科 全長30cm)

  • 弁天沼では2001年8月に400羽以上が確認されており、秋の渡りの前に集結し、栄養補給をする場所として知られている。
  • 北海道の草原では夏鳥として普通に繁殖するが、国内でも世界的にも分布が局所的で個体数が少ない。越冬地はオーストラリア。


写真提供)
シマクイナ:宮 彰男氏、アカモズ・チュウヒ・オジロワシ・オオジシギ:新谷幸嗣氏、
タンチョウ:ウトナイ湖サンクチュアリ、マキノセンニュウ:渡邉智子氏、
注)写真の無断転載は固くお断りします。使用については、必ずご相談ください。なお、画像はデジタルデータで提供が可能です。

参考
環境省レッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)におけるカテゴリー(ランク)の概要 ※環境省HP より

  • 絶滅危惧ⅠB 類(EN):近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
  • 絶滅危惧Ⅱ類(VU):絶滅の危険が増大している種
  • 準絶滅危惧(NT):現時点での絶滅の危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種


別紙資料2

日本野鳥の会の、苫東地域での自然環境保全活動

 勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられています。原野を構成する湿原の面積は、過去90 年で約8分の1に著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしています。一方、同所では1960 年代の高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートしました。しかし、その後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700ha の土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっています。
 当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000 年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめ、2006 年に「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を発行しました。以来、希少種の調査や弁天沼周辺での自然観察会を通じ、同所一帯の保全活動を行っています。近年の主な活動は以下の通りです。

・2006年
苫東地域におけるアカモズ生息状況調査を実施し、同地域がアカモズの国内有数の繁殖地である可能性が明らかになった。
・2006年
弁天沼周辺のブロッコリー畑等の土地利用の変化が鳥類相に与える影響調査を実施し、同所における耕作地化は、草原性鳥類の繁殖を阻害し個体数を減少させるだけでなく、一帯の鳥類相をも変化させてしまう可能性があることが明らかになった。
・2006年~
弁天沼周辺での自然観察会を毎年実施。
・2007年~
苫東地域におけるシマアオジの生息状況調査を毎年実施し、道内各地の生息記録が途絶える中、同地域には継続して渡来していることが明らかになった。
・2008年
北海道知事宛てに「弁天沼周辺の土地利用に関する要望書」を提出。
・2009年
勇払原野で衛星電波発信機によるチュウヒの行動圏追跡調査を実施し、同種の繁殖期の行動範囲や生息に重要な環境が明らかになった。
・2012年
日本野鳥の会3支部との連名で、北海道知事宛てに「苫小牧東部開発地域内の鳥獣保護区指定に関する要望書」を提出。
繁殖期における希少鳥類の生息状況調査を毎年実施。結果を記者発表。

この他、「安平川下流域の土地利用に関する連絡協議会」(北海道主催。2008 年5月設置)委員として、安平川下流域の治水対策としての河道内調整地(遊水地)計画に対し、希少鳥類の生息環境保全の観点から意見を述べています。 2014年秋には、弁天沼周辺約950ヘクタールが河道内調整地(遊水地)となることが決まりました。

以上

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