プレスリリース 2017.11.10

苫小牧東部開発地域(苫東地域)で、
今年もアカモズ、シマクイナ、チュウヒなど7種の希少鳥類を確認

 日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリは、今年の繁殖期(4~8月)に実施した苫東地域での調査で、昨年に続き国内レッドリストにある絶滅危惧ⅠB類を3種、同Ⅱ類を2種、準絶滅危惧を2種、計7種もの絶滅のおそれのある鳥類の生息を確認しました(別紙資料1参照)。このことから、同地域に希少鳥類の生息環境が残されていることが再確認されました。
 絶滅危惧ⅠB類のチュウヒは、9月21日に種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)の一部が改正されたことで、国内希少野生動植物種に加わりました。その理由としては、開発などによる環境悪化により、繁殖が確認されなくなった場所が増えていることが挙げられています。繁殖個体は国内に約90つがいのみと推測されている中で、苫東地域では今年も数つがいの繁殖行動を3カ所で確認し、複数が繁殖しているものと考えられ、これは同地域の自然環境を保全する意義を裏付けるものと言えます。
 当会では毎年、苫東地域で調査を行ない、希少鳥類の生息地としての重要性を訴えており、今回の調査結果をもとに、2014年に河道内調整地(遊水地)となることが決定している同地域の一部も含め、ラムサール条約湿地に登録されるよう、今後も保全活動を進めて参ります。(これまでの活動については、別紙資料2をご参照ください。)
 なお、情報公表によって希少鳥類の繁殖へ悪影響が及ばないよう、発表をこの時期といたしました。また、詳しい確認位置等の公表は控えさせていただきますのでご了承ください。

確認された希少鳥類について

 絶滅危惧ⅠB類のシマクイナは、昨年と同じ調査範囲において、6年連続で昨年と同数の少なくとも9羽の声を確認しました。アカモズは、昨年と同じ場所に2つがい、昨年は観察されなかった1か所でも繁殖行動が確認され、最大3つがい6羽が生息していることがわかりました。
 準絶滅危惧のオオジシギついては、当会の保護調査プロジェクトの一環として勇払原野で5月に行なった調査の結果、個体数が2000年と比較して約3割減少していることがわかりました。その原因の一つは、繁殖場所である草地の消失や樹林化が挙げられます。
 今回確認された希少鳥類7種のうちオオジシギを含む6種は、湿地または草地に生息する鳥類であり、これら希少鳥類の生息環境を将来にわたり保全していく必要があります。なお、確認した鳥類についての詳細は、別紙資料1をご参照ください。

問い合わせ先

アカモズ(新谷幸嗣氏撮影)
アカモズ(新谷幸嗣氏撮影)

日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリ
担当:中村 聡(なかむら さとし)
瀧本宏昭(たきもと ひろあき)
電話:0144-58-2505または080-2872-2709

今回の調査で確認された希少鳥類

絶滅危惧ⅠB 類

シマクイナ(ツル目クイナ科 全長13cm)

シマクイナ

  • 繁殖期にはシベリア南東部やモンゴル,勇払原野や青森県仏沼などで観察記録がある。日本では主に湿地や水田に渡来するとされている。アジア周辺には1万羽未満しか生息しないと考えられているが、生息状況はわかっていない。


アカモズ(スズメ目モズ科 全長20cm)

アカモズ

  • もともと生息が局所的で個体数が少ないうえに近年減少し、2006年の環境省第3次レッドリストで、準絶滅危惧からランクが上がった。
  • 夏鳥として九州~北海道の原野、灌木のある草原、河川敷等で繁殖し、東南アジア等で越冬する。
  • 近縁種のモズより自然度の高い場所に生育するため、生息地や個体数が少ない。

チュウヒ(タカ目タカ科 全長:オス48cm、メス58cm)

チュウヒ

  • 主に、北日本の草原、湖沼や河川敷周辺の湿原のヨシ原などで繁殖し、本州中部以南で越冬する。国内繁殖数は90つがいのみと推定され、著しく少ない状況にある。
  • 当地域内では2000年代以降6つがい前後が繁殖していると推定され、日本の重要な繁殖地のひとつと考えられる。
  • 平成29年に「国内希少野生動植物種」に指定され、種の保存法の法令に基づき保護される対象種となった。

絶滅危惧Ⅱ類

タンチョウ(ツル目ツル科 全長:140cm)

タンチョウ

  • 主に北海道東部の湿原で繁殖し、冬は鶴居村などの給餌場に集まる。
  • 一時は絶滅したと考えられ、1924年の再発見以来、地元の方々の保護活動が奏功し、現在は約1800羽まで回復している。
  • 個体数の回復に伴い、近年はサロベツ原野やむかわ町周辺で繁殖するなど、分布域も拡大しつつある.近い将来、苫東地域で繁殖する可能性が高く、同地域は北海道西部における個体数や分布域回復の基盤となる可能性がある。
  • 平成5年に「国内希少野生動植物種」に指定され、保護増殖事業が進められている。

オジロワシ(タカ目タカ科 全長:オス84cm、メス94cm)

オジロワシ

  • 北海道の北部や東部などで少数が繁殖するが、多くは冬鳥としてユーラシア大陸東部より渡来し、海岸、河口、湖沼に生息する。
  • 近年、苫小牧地方でも周年観察されるようになり、繁殖していると推測される。
  • 平成5年に「国内希少野生動植物種」に指定されている。



準絶滅危惧

マキノセンニュウ(スズメ目センニュウ科 全長12cm)

マキノセンニュウ

  • 2012年8月の環境省第4次レッドリストで新たに掲載された。
  • 繁殖環境である低茎湿生草原が減少する中、苫東地域は道内でも特筆すべき生息密度であると推察される。
  • 夏鳥として北海道の海岸草原、湿原、牧草地で繁殖する。越冬地は東南アジア。


オオジシギ(チドリ目シギ科 全長31cm)

オオジシギ

  • 繁殖期における勇払原野での個体数調査では、2000年には108個体が確認されたが、2017年の調査では77個体となり、約3割数が減少していた。
  • 弁天沼では2001年8月に合計400羽以上が確認されており、秋の渡りの前に集結し、栄養補給をする場所として知られている。
  • 北海道の草原では夏鳥として普通に繁殖するが、国内でも世界的にも分布が局所的で個体数が少ない。越冬地はオーストラリア。

写真提供)シマクイナ:宮 彰男氏、アカモズ・チュウヒ・オジロワシ:新谷幸嗣氏、タンチョウ・オオジシギ:ウトナイ湖サンクチュアリ、マキノセンニュウ:渡邉智子氏

注)写真の無断転載は固くお断りします。使用については、必ずご相談ください。なお、画像はデジタルデータで提供が可能です。

参考)
○絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)
○環境省レッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)
カテゴリー(ランク)の概要 ※環境省HP より

  • 絶滅危惧ⅠB 類(EN):近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
  • 絶滅危惧Ⅱ類(VU):絶滅の危険が増大している種
  • 準絶滅危惧(NT):現時点での絶滅の危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種

日本野鳥の会の苫東地域での自然環境保全活動

 勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられています。原野を構成する湿原の面積は、過去90 年で約8分の1に著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしています。一方、同所では1960 年代の高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートしました。しかし、その後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700ha の土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっています。
 当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000 年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめ、2006 年に「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を発行しました。以来、希少種の調査や弁天沼周辺での自然観察会を通じ、同所一帯の保全活動を行っています。近年の主な活動は以下の通りです。

  • 2006年 苫東地域におけるアカモズ生息状況調査を実施し、同地域がアカモズの国内有数の繁殖地である可能性が明らかになった。
  • 2006年 弁天沼周辺のブロッコリー畑等の土地利用の変化が鳥類相に与える影響調査を実施し、同所における耕作地化は、草原性鳥類の繁殖を阻害し個体数を減少させるだけでなく、一帯の鳥類相をも変化させてしまう可能性があることが明らかになった。
  • 2006年~ 弁天沼周辺での自然観察会を毎年実施。
  • 2007年~ 苫東地域におけるシマアオジの生息状況調査を毎年実施し、道内各地の生息記録が途絶える中、同地域には継続して渡来していたことが明らかになった。しかし、2012年の1羽を最後に、それ以降確認されていない。
  • 2008年 北海道知事宛てに「弁天沼周辺の土地利用に関する要望書」を提出。
  • 2009年 勇払原野で衛星電波発信機によるチュウヒの行動圏追跡調査を実施し、同種の繁殖期の行動範囲や生息に重要な環境が明らかになった。
  • 2012年 日本野鳥の会3支部との連名で、北海道知事宛てに「苫小牧東部開発地域内の鳥獣保護区指定に関する要望書」を提出。繁殖期における希少鳥類の生息状況調査を毎年実施。結果を記者発表。
  • 2014年 弁天沼周辺約950ヘクタールが河道内調整地となることが決定
  • 2016年 弁天沼で行った調査でオオジシギの渡りルートの一部を解明
  • 2017年 勇払原野でオオジシギの個体数調査を実施。2000年と比較し、個体数が約3割減少していた。減少している場所は多くが樹林化しており、草地を維持していく必要があることが分かった

この他、「安平川下流域の土地利用に関する連絡協議会」(北海道主催。2008 年5月設置)委員として、安平川下流域の治水対策としての河道内調整地(遊水地)計画に対し、希少鳥類の生息環境保全の観点から意見を述べています。

以上

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