プレスリリース2018.09.25

(公財)日本野鳥の会は北海道内に生息する
オオジシギの個体数を初めて推定しました
(推定個体数は約 3 万5千羽)

(公財)日本野鳥の会(事務局:東京、会長:柳生博 会員・サポーター数5万1千人)は、減少が懸念されているオオジシギ(準絶滅危惧種 NT)の生息状況を把握するため、北海道内の会員などの協力を得て2018年5月に調査を実施し、約3万5千羽が道内に生息していると推定しました。結果は9月14日から新潟大学で開催された日本鳥学会 2018年度大会にて発表しました。

(1)調査の目的について

オオジシギは環境省のレッドリストで準絶滅危惧に指定されている種で、日本を中心とする極東アジアのみで繁殖し、国内ではその多くが北海道で繁殖する鳥です。繁殖地が北海道を中心とする狭い範囲に限られるため、オオジシギを保護する上で北海道は非常に重要な地域です。しかし、北海道内のオオジシギの生息状況はよく分かっておらず、個体数は減少していると言われています。

実際に、2017年に苫小牧市の勇払原野(ゆうふつげんや)で行なった個体数調査では、2000年と比較して30%ほど減少していました。そこで、現在のオオジシギの生息状況を把握するため、今回、全道でサンプリング調査を行い、その結果からオオジシギ個体数の推定を行ないました。

(2)調査の方法について

国土交通省が整備した土地利用図(国土数値情報 土地利用3次メッシュデータ)を利用して北海道全域を10タイプに区分し、その中からオオジシギの生息の可能性のある土地利用として「河川及び湖沼(河川湖沼)」「荒地」「その他の農用地(他農地、ほかのうち)」「田」「森林」の5タイプを抽出しました。そして、日本野鳥の会の北海道内の 14支部それぞれの活動エリアから平均42メッシュ(道内合計588メッシュ)を選択しました。

調査は2018年5月に、北海道内の日本野鳥の会会員121名が全道で実施するとともに、苫小牧市の勇払原野で地域の親子とオーストラリアの研究者、子どもたち32名で構成された「オオジシギ調べ隊」と当会職員が実施しました。

選択したメッシュで10分間、ディスプレイをしているオオジシギ(オスと仮定)を数えるサンプリング調査を行い、得られたデータから、土地利用区分ごとのオスのオオジシギの平均個体数を求めました。この平均値に、エリア内の各土地利用区分のメッシュ数を乗じてエリアごとのオスの推定個体数とし、全エリアの推定個体数を足し合わせて北海道全域の推定個体数としました。さらに、オスと同数のメスが生息していると仮定し、オスの推定個体数を2倍することでオオジシギの推定個体数としました。

(2)調査結果について

調査を行なった全588メッシュにおける土地利用区分ごとのメッシュ数とオスの平均個体数は以下の通りで、荒地や他農地、河川湖沼で密度が高い一方、森林ではオオジシギの生息密度は低いことが明らかになりました。

荒地には「しの地」「湿地」など、他農地には牧草地、河川湖沼には大規模河川の河川敷のような、オオジシギが好む丈の低い草地が含まれていることから密度が高かったものと考えられます。

図1.土地利用区分ごとのオスの平均個体数(1㎢あたり)

図1.土地利用区分ごとのオスの平均個体数(1㎢あたり)。

また、エリア別の状況では、オオジシギは根室、釧路、オホーツク、十勝などの道東地方にもっとも多く生息すると推定されました。ついで道北や旭川などの道北地方に多く、苫小牧、札幌、江別などの道央が続き、道南では少ないと予測されました。地域ごとのオオジシギの推定個体数は以下の通りです。

表1.各支部の活動エリアごとのオオジシギの推定個体数。

表1.各支部の活動エリアごとのオオジシギの推定個体数。

各エリアの推定密度は北海道東部と北部で高く、道央道南では比較的低いものでした。地図では、赤、橙、黄、緑、青、の順に密度が高いことを表します。

図2.地域ごとのオオジシギの推定密度。道東や道北で高かった。

図2.地域ごとのオオジシギの推定密度。道東や道北で高かった。

(3)調査結果の活用について

環境省のレッドリストでは本州において数が減っているという理由から準絶滅危惧種に指定されているオオジシギは、北海道内でも個体数が減少していると言われていますが、生息状況は良く分かっていませんでした。

今回の調査により、現時点における総個体数を推定したため、今後も数年おきに同様の調査を実施することで、オオジシギ個体数の傾向を明らかにします。もし減少傾向にあることが分かれば、必要な措置を講じるよう国や自治体に働きかけを行ないます。

(参考)他の個体数推定について

道内のオオジシギの個体数推定は、30年以上前の1986年に、オーストラリアの研究者(Naarding 博士)によって行なわれており、繁殖個体数として約3万6千羽と推定されました。今回推定した個体数とほぼ同じですが、調査方法が異なるため単純な比較はできません。

また、ラムサール条約湿地登録などの際に利用される、国際的に認められた資料(Waterbird Population Estimates 第 5 版、Wetland International)では、オオジシギの推定総個体数は2万5千羽から10万羽と幅があります。今回の個体数推定から10万羽はいない可能性が示唆されたため、調査結果が総個体数推定に反映されるよう働きかけを行ないます。

<配布先>道庁記者クラブ、苫小牧市政記者クラブ

【本件に関するお問合せは】

公益財団法人 日本野鳥の会
保全プロジェクト推進室
TEL 03-5436-2634
FAX 03-5436-2635
E-mail:[email protected]
東京都品川区西五反田 3-9-23 丸和ビル
担当:竹前(たけまえ)、田尻(たじり)、浦(うら)


<参考資料>

■道民には身近?オオジシギとはどんな鳥

オオジシギ

オオジシギは、北海道を主な繁殖地とし、本州や九州、またロシア極東の一部でも繁殖が確認されているシギの仲間で、秋から冬にかけて南半球のオーストラリアで越冬します。体長は約30cm、体重は170gほどで、ハトより一回り小さい程度の大きさです。

道内では、畑や牧草地、草原など身近な環境にも生息しているので、オオジシギという名前を知らなくても、春から初夏、草原や湿原の上空でザザザザザーッと大きな音を鳴らしながら急降下を繰り返す鳥といえばお分かりいただけるかもしれません。しかし、身近な鳥であった彼らも、実はいつの間にか数が減っているといわれています。

環境省版レッドリストでは、本州中部で生息地が減少しているという理由から準絶滅危惧種(NT)となっています。また、北海道でも十勝地方で行われた調査で、1978~1991年と2001年を比較して個体数が減少していることが指摘されています。さらに、越冬地であるオーストラリアでも越冬数が減少しているとされていますが、近年は調査が行われていないためよくわかっていません。

また、渡りの主要な中継地も把握されていない中、渡りの際に利用すると考えられる内陸の湿地の減少も懸念されています。

■オオジシギ保護調査プロジェクト

野鳥の種および生息地の保護を通じた生物多様性の保全を掲げる当会は、絶滅危惧種であるシマフクロウ、タンチョウ、カンムリウミスズメ、アカコッコなどの保護事業の実施を通し、森林、湿原、海洋、島嶼という異なる環境の保全を進めています。
2015 年度にウトナイ湖と北海道の自然保護に役立てて欲しいという趣旨でご遺贈があったことから、北海道内に生息する種を対象に新規事業対象種の選定を行いました。

その中で、①世界的に見ても分布域がほぼ北海道のみと非常に狭いこと、②近年個体数の減少が著しく、絶滅危惧度が上がる可能性が高いこと、③草原・原野環境に生息する他の鳥類の保護につながる指標種にもなりうること、④環境選択の幅が狭く、環境変化への柔軟性が低いこと、⑤生息地が開発行為等によって失われやすいこと、⑥ウトナイ湖周辺が非常に重要な生息地であること、などを理由にオオジシギを選定しました。

2016 年から5か年計画で進める当プロジェクトは、明らかになっていないことの多いオオジシギの生態について調査を行い、その結果をもちいて普及活動や生息地の保全を進めて行く予定です。
2016年には、オオジシギに装着した発信機の電波を人工衛星で受信して位置を把握する衛星追跡調査を行い、世界で初めて、オオジシギが北海道苫小牧からニューギニアまでの太平洋上5000キロメートル以上を6日間、ノンストップで渡ることを明らかにしました。

翌2017年には、勇払原野でディスプレイ飛行をしている個体数を数え、過去に行われた調査結果と比較してどの程度減少しているのかを明らかにするための調査を行いました。その結果、ウトナイ湖や弁天沼を含む勇払原野西部で77羽が観察され、107羽が記録された2001年と比較して30羽、およそ30%減少していることが明らかになりました。

3年目となる2018年は、道内の当会連携団体(支部)の協力を得て全道で個体数調査を行い、減少著しいと言われる現在の総個体数の推定を試みました。

同時に、知られているようで知らない鳥「オオジシギ(準絶滅危惧種 NT)」を子供たちに知ってもらい、オオジシギを通じて郷土の自然に目を向け、そこに住む生き物たちの素晴らしさを実感していただくために、小冊子「おかえりオオジシギ」を制作しました。全道の小学4年生全員への配布を目指し、現在までに道内371校、約3万1千人に配布しました。

■プロジェクトのきっかけとなったご遺贈

2015年、長年にわたりウトナイ湖サンクチュアリの活動をご支援くださっていた北海道にお住まいの越崎清司(こしざき きよし)様より、ウトナイ湖サンクチュアリと北海道の野鳥保護のために使って欲しいという趣旨のご遺贈がありました。

日本野鳥の会では、越崎様のご遺志に沿った使途を検討し、道内に生息し現時点で保護が必要な種としてオオジシギを選定して保護プロジェクトを開始することとしました。

【事業に関するお問合せ・取材のお申込みは】
公益財団法人 日本野鳥の会
保全プロジェクト推進室 TEL 03-5436-2634/FAX 03-5436-2635
東京都品川区西五反田 3-9-23 丸和ビル
担当:田尻(たじり)、竹前(たけまえ)

※写真の使用について
プレスリリースで用いた画像、写真のデータは提供可能です。使用される場合には、「日本野鳥の会」のクレジットの記載をお願いします。

ディスプレイを行うオオジシギ

木や電柱のような目立つところなどから飛び立ち、ディスプレイを行うオオジシギ(2017年6月25日、北海道鶴居村)。

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