プレスリリース2018.10.03

(公財)日本野鳥の会は(仮称)五島市沖洋上風力発電事業の環境影響評価の再調査・再評価及び事業の中断を求めます

(公財)日本野鳥の会(事務局:東京、会長:柳生博 会員・サポーター数5万1千人)は、全国に89の連携団体を擁し野鳥・自然環境の保全活動を進めています。近年は、風力発電や太陽光発電に関わる事案が多く自然保護上の大きな課題となっております。現在、縦覧中の「(仮称)五島市沖洋上風力発電事業 環境影響評価書」に対して、鳥類への悪影響が予測されることから、環境影響評価の再調査・評価及び事業の中断を求める意見書を環境大臣、経済産業大臣、戸田建設㈱に提出しました。

(1)当事業計画について

長崎県五島市沖に戸田建設㈱は洋上風力発電施設(浮体式 9基設置。2100kW 8基、5200kW 1基)建設予定。現在、「(仮称)五島市沖洋上風力発電事業 環境影響評価書」が10月4日まで縦覧中である。

(2)提出の理由について

当事業は、アセスメント上の意見書提出期間はすでに終了しているが、地元の鳥類研究者の最近の調査により、カツオドリの集団生息地が計画地に隣接していることが明らかになった。また、計画区域及びその周辺区域には、カンムリウミスズメ(環境省レッドリスト:絶滅危惧Ⅱ類)、オオミズナギドリ、ウミネコなどの海鳥が生息しているが、建設時の攪乱や風発施設の追い出し効果等が懸念される。

当計画区域の上空は、秋に九州から西進してくるハチクマの主要な渡り経路であるが、調査が不十分で、ブレードにハチクマなど希少猛禽類の衝突が懸念される。環境影響調査が不適切・不十分であり再評価、もしくは事業の断念を求めるものである。

<配布先>環境省記者クラブ

【本件に関するお問合せは】

公益財団法人 日本野鳥の会
自然保護室 TEL 03-5436-2633/FAX 03-5436-2635
E-mail:[email protected]
東京都品川区西五反田 3-9-23 丸和ビル
担当:葉山、大畑


日野鳥発第 2018-060 号
平成 30年10月3日

環境大臣
原田義明 様

公益財団法人日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一

「(仮称)五島市沖洋上風力発電事業 環境影響評価書」に対する意見

この度、戸田建設(株)が作成した「(仮称)五島市沖洋上風力発電事業 環境影響評価書」について、次のとおり意見を提出します。

現在、縦覧中の「(仮称)五島市沖洋上風力発電事業 環境影響評価書」について、対象事業実施区域(以下、計画区域)に洋上風力発電施設(浮体式 9 基設置。2100kW 8 基、5200kW1 基)が建設された場合には、ブレードに海鳥やハチクマなど希少猛禽類の衝突が発生することが懸念されます。その事由は以下のとおりです。環境影響調査が不適切・不十分であることから、事業の再評価、もしくは断念を求めます。

経済産業大臣より、評価書の変更を要しない旨の通知(確定通知)が出てはいますが、これは評価書に記載されたものに追加の環境保全措置を講じることを妨げるものではないと考えます。

また、環境省においては、レッドリスト等掲載種ではない場合でも、海鳥の集団渡来地の評価についての見解を示すことが必要と考えます。

1. 海鳥の衝突

1)カツオドリ

計画区域の南西約 4km に位置する立島の岩礁において、通年 100 羽前後のカツオドリが生息していることが福江島在住の研究者により確認されている。その数は最大約 200~300羽(2017 年 11 月 25 日)にもなり、本種が立島を休息地として利用していることは明らかである。

本種は、インド洋、南大西洋、太平洋西部および中東部、カリブ海などに生息・繁殖し、全世界での推定個体数は約 200,000 羽とされている。現時点では環境省レッドリストには入っていないが、国内では小笠原諸島、草垣群島、仲ノ神島、伊豆諸島、硫黄列島、尖閣諸島など主に日本南部に生息し、繁殖地も限られている。周年観察される立島の個体群は、その状況下で貴重な存在と考えられる。また、立島での繁殖の可能性(確認された場合、日本での北限繁殖地)も示唆されており、モニタリングを行うことが必要である。

この立島は、計画区域に約 4km と近い。本種の採餌距離はコロニーから約 70km とされており、仮に繁殖していた場合には計画区域の海域は採餌場として利用されている可能性が高いことから、採餌中に風力発電施設のブレードに衝突することが懸念される。計画区域及びその周辺のカツオドリの利用海域についてより詳しい調査を行うべきである。更に発電施設の漁礁効果があった場合には、その危険性は増大すると考える。

環境影響評価の過程では、カツオドリについて重要種としての判断はくだされていないため、衝突確率や生息地(利用海域)の放棄について評価が行われていないが、国内北限の利用海域としての評価は行われるべきであったと考える。

2)その他の海鳥

計画区域及びその周辺区域には、その他に、カンムリウミスズメ(環境省レッドリスト:絶滅危惧Ⅱ類(VU))、オオミズナギドリ、ウミネコ等が観察されている。これらの種は、カツオドリ同様に、周辺海域を採餌や移動に使っており、建設時の環境攪乱や風発施設の追い出し効果等が懸念される。そのため、これらの種について行動範囲、採食海域、繁殖地の有無などを十分に調べ、モニタリングすることが必要である。

2. 猛禽類の渡りに対する影響

計画区域の上空は、九州本土から秋に西進してくるハチクマの主要な渡り経路となっている。ハチクマの渡り時期の鳥類調査は、9 月下旬に 1~3 日、各日の午前中に数時間しか実施されておらず、調査が不十分であると考えられる。

本種は、通常、海抜数 100mの上空を渡るが、悪天候の場合には飛翔高度を下げて数 10m の高さで飛翔することがあり、海水面からの風車高(2100kW:96m、3200kW:153m)に重なり、衝突が懸念される。そのため、異なる気象条件のもとで、福江島への飛来数や飛翔高度等を調べ、影響の程度を把握することが必要である。ハチクマなどの猛禽類の渡りについては十分な調査を継続的に行い、個体群への影響の有無をモニタリングすることが必要である。

以上

<参考資料>

■カツオドリ

カツオドリは全長約 70cm。翼開長約 145cm になる大型の海鳥である。黒褐色の体に、腹部と翼の下面の一部は白い。オスは目の周りの皮膚が露出した部分が青色、メスは黄白色をしている。メスの方がひとまわり大きい。

インド洋、大西洋、太平洋、カリブ海などの熱帯・亜熱帯の海洋に分布し、国内では、伊豆諸島、小笠原諸島、南西諸島、硫黄列島、草垣諸島、八重山諸島、尖閣諸島、トカラ列島などで繁殖する。

島嶼部の海岸の崖や岩棚に集団で営巣し、枯草や枝などで皿状の巣をつくる。主に小魚やエビ、イカなどを食べ、海上を飛びながら食べものを発見すると急降下して海中に飛び込み、潜水して捕まえる。


撮影:上田浩一
■カンムリウミスズメ

カンムリウミスズメは、体長約 23cm、体重約 160g のウミスズメ科の海鳥。推定個体数は 5 千~1 万羽程度で、IUCN で VU に、環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定され、国の天然記念物にも指定されている。

日本近海と韓国南部、日本海北西部に分布し、本州中部以南および韓国南部の離島や岩礁で繁殖する海鳥で、主要な繁殖地は宮崎県枇榔島、次いで、伊豆諸島である。繁殖期は 2 月~5 月で、離島の岩と岩の隙間、スゲ類の根元などに 1~2 卵を産み、雌雄交代で抱卵する。孵化後、雛は親鳥に誘導されてすぐに海上に出て給餌を受ける。非繁殖期には、太平洋沿岸を北上し、8 月には北海道やサハリン沿岸にも達する。


撮影:(公財)日本野鳥の会
■ハチクマ

ハチクマは、全長約 60cm の中型の猛禽類で日本には夏鳥として渡来し、主に本州中部から北海道にかけて繁殖をしている。環境省レッドリストでは準絶滅危惧種(NT)となっている。

ハチ類を餌にすることに適応しており、ハチ類の他にカエル類や鳥類も餌としているが、雛に約 6 割の割合でハチの幼虫を与えている。本州中部・北部で繁殖した個体は 9 月から渡りを開始し、九州の五島列島などから東シナ海を越え、中国東部を南下し、インドシナ半島、マレーシア半島を経由し、スマトラ等で越冬する。

事業計画のある福江島は、ハチクマの日本最大の集結地であり、9 月から 10月にかけて九州へと移動してきたハチクマは、この福江島から東シナ海を超えて東南アジア方面に渡る(下図参照)。福江島への渡来数は約 10,000~20,000 羽と推定されている。


出典:Higuchi, H. 2012. Journal of Ornithology 153 Supplement:3-14
樋口広芳 2014.日本の鳥の世界.平凡社.

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