勇払原野を支える美々川の自然環境を守る

美々川

2026年3月23日

当会直営サンクチュアリ「ウトナイ湖サンクチュアリ」では、ウトナイ湖を含む勇払原野の自然環境保全に取り組んでいます。ウトナイ湖にそそぐ美々川は、ウトナイ湖の生命線であり、タンチョウやオオハクチョウなど多くの野鳥を支える重要な自然環境が残されています。しかしこれまで市街化調整区域として自然環境が保たれてきたこの美々川の河畔で、開発が可能となるように規制緩和が行われようとしています。日本野鳥の会では、ウトナイ湖をはじめ勇払原野の自然環境を支える美々川の保全のための働きかけを行っています。

美々川周辺で都市計画の変更が進められています

美々川に迫る開発の危機

規制緩和ゾーニングの位置図
規制緩和ゾーニングの範囲図。赤色のエリアが都市計画の変更範囲[大きな図でみる(PDF/237KB)]

美々川周辺の「美沢地区」は、今のところ原則として建物の建設が制限される「市街化調整区域」に指定されています。そのため、結果的に開発がされにくい区域でもあります。しかし現在、千歳市への次世代半導体工場の進出を契機に、この地域に大規模な半導体関連の物流倉庫や事務所等を建設できるようにする「(仮称)美沢地区土地利用方針」が苫小牧市によってまとめられ、土地利用の規制緩和が進められています 。この規制緩和が承認された場合、これまで残されてきた美々川周辺の豊かな自然を切り拓くことが可能になり、環境が改変される恐れが高まります。

この方針案は、事前の市民に対する説明や意見聴取の機会が十分に行われないまま、2026年1月21日の苫小牧市都市計画審議会において、1回の審議で承認されてしまいました。市街化調整区域については原則として北海道知事に権限があるため、現在は北海道の審議に入る段階になっており、方針案について広く一般からも意見を募る「パブリックコメント」を2026年3月11日~4月10日まで募集中です。

重要な野鳥の生息地の消失と、ウトナイ湖への脅威

規制緩和に基づいて土地改変が実行されると、生態系に次のような影響を及ぼす恐れがあります。

環境改変による希少鳥類の生息環境消失

美々川流域は、準絶滅危惧であるタンチョウの越冬期のねぐらとして利用されています。また今後、道央・道南地域への分散が進んでいるタンチョウの繁殖が今後期待される湿原でもあります。

国道36号線と美々川の間にある「河畔林」は、人工的な騒音や光から遮蔽するブラインド効果の役割を果たしています。この「物理的・視覚的なバッファー(緩衝帯)」として機能している河畔林が物流倉庫建設のために伐採されれば、警戒心の強いタンチョウや渡り鳥たちが、休息地や餌場を利用できなくなることが危惧されます。


多様な河畔林の役割
美々川で採餌をしているタンチョウ
美々川を利用するタンチョウ
オジロワシ
美々川の河畔林を利用するオジロワシ

ウトナイ湖への水質汚濁リスク

計画地は上下水道が未整備のエリアです 。そのような環境下で大規模な事業活動が行われれば、事業に起因する排水や、森林伐採に伴う土砂が地下水脈や表流水を通じて美々川に流入し、ひいては下流にあるウトナイ湖の水質や湿地生態系に多大な影響を及ぼす恐れがあります。

コウホネとカヌー
コウホネの咲く川をカヌーでくだる
イトトンボ類
水辺ではイトトンボ類などさまざまな生きものが確認されている


北海道や苫小牧市の自然環境保全策との矛盾

現在、北海道(胆振総合振興局)によって、「美々川自然再生事業」が進められています 。また、苫小牧市が策定した「生物多様性地域戦略」では、美々川はラムサール条約湿地のウトナイ湖と同じ保全を目指すゾーンに組み込まれており、市としても自然共生サイトへの登録を促進することが明記されています。

今回の美々川の河畔において開発を容認することは、この自然を保全し回復させる取り組みと矛盾するものです。今回のような方針の変更手順が容認されてしまった場合、他の自然豊かな地区においても、容易に開発を可能にする規制緩和ができてしまいます。

ウトナイ湖を中心に未来のために保全すべき「4つの重点ゾーン」

当会では、ウトナイ湖周辺の生態系の連続性が保たれるように自然環境を保全し回復させるため、希少鳥類が利用しているエリアのほか、今後利用が期待される生物多様性の保全上、重要度が高いと考えられるエリアを、ウトナイ湖流域の「重点ゾーン」として定めています。今回、都市計画の変更が進められているのは、このうち極めて重要な「美々川ゾーン」に該当します。


Source: Esri, Maxar, Earthstar Geographics, and the GIS User Community

美々川ゾーン

ウトナイ湖に注ぐ主要河川。タンチョウの越冬地・ねぐらであるとともに、新たな繁殖地としての期待が高まっていますが、上流部の開発による水質・水量への影響が強く懸念されています。

勇払弁天沼周辺ゾーン

全域が工業地域に設定されているものの広大な湿原・草原環境が残っており、チュウヒやタンチョウが繁殖しています。弁天沼周辺の一部区域は北海道の河道内調整地の整備が進められており、当会ではこの区域内の保全を行政に訴えています。河道内調整地外については昨今、開発計画の数が非常に多いエリアですが、地域産業との共生・両立を図るため、より多くの自然環境が残るように事業者と調整を進めています。

勇払川上流ゾーン

支笏湖付近の山から流れるウトナイ湖への重要な河川。上流部は河畔林が発達し、下流部は湿原が広がっており、今後のシマフクロウの分布拡大経路としての潜在性が高い地域です。

ウトナイ湖ゾーン

マガンやヒシクイ、ハクチョウ類や多くのカモ類が飛来する国際的に重要なラムサール条約湿地。継続的なモニタリングと保全が不可欠な中核エリアです。また、湖畔にはネイチャーセンター(当会)・野生鳥獣保護センター(環境省・苫小牧市)・道の駅があり、市民や観光客に自然環境を伝える舞台にもなっている。

皆さんの意見を行政へ!パブリックコメント募集

皆さんの意見を北海道へ!パブリックコメントが始まりました
行政の手続きに意見を反映させるためには、市民をはじめとする道内外の多くの皆さんの声が必要です。北海道が策定する「苫小牧圏都市計画 都市計画域の整備、開発及び保全の方針」の中間見直しに伴い、本件についてのパブリックコメント(意見募集)が行われています。

意見を投稿する意味

パブリックコメントは、行政が方針を決定する前に、広く一般から意見を募る公式な制度です。美々川周辺はラムサール条約湿地ウトナイ湖の生命線であり、苫小牧という一市域の問題にとどまらず、国際的に守るべき日本の重要な自然環境です。もちろん北海道外にお住まいの方でも意見を提出することができますので、ぜひ意見を提出してください。

「美々川とウトナイ湖の自然を守るためこうしてほしい、こうしたほうがいい」といった皆さんの一つひとつの声が、行政を動かす大きな力になります 。ぜひ、たくさんのご意見をお寄せください 。

パブリック・コメント制度について(e-Govパブリック・コメント/デジタル庁)


日本野鳥の会の活動

ウトナイ湖サンクチュアリとは
1981年に当会が日本で初めて設置した直営のサンクチュアリです。北海道苫小牧市の勇払原野の一角にあり、ガン・カモ類をはじめ、多くの渡り鳥が飛来するこの場所は、ラムサール条約湿地にも登録されています。また東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(EAAFP)の重要生息地ネットワークにも参加しています。当会がネイチャーセンターを拠点として自然保護活動をつづけています。

重要野鳥生息地(IBA, Important Bird and Biodiversity Areas)/JP026 ウトナイ湖・勇払原野