世界一斉個体数調査(2011年)

2011年4月15日

2011年クロツラヘラサギ世界一斉個体数調査の結果

日本クロツラヘラサギネットワーク・日本野鳥の会

 東アジアの各国が協力して毎年1月に実施されているクロツラヘラサギの世界一斉個体数調査結果がこのほどまとまりましたのでお知らせします。
 この調査は、世界的な絶滅危惧種であるクロツラヘラサギの最新の越冬個体数と分布を知るために日本、韓国、中国、香港、台湾、ベトナム、タイ、カンボジア、フィリピン等東アジア一円の自然保護団体が参加して実施しているものです。
 2011年の調査は1月21日~23日に行われました。日本では日本クロツラヘラサギネットワークの会員や日本野鳥の会の各地の支部の皆さんに呼びかけて、九州・沖縄を中心に各地で実施しました。
 以下、世界全体での結果報告について、事務局である香港バードウォッチング協会から出されたまとめ(英文)の翻訳を紹介し、次に日本における結果について報告します。

1.2011年クロツラヘラサギ世界一斉個体数調査結果の概要

香港バードウォッチング協会

  • 2011年のクロツラヘラサギ世界一斉個体数調査は1月21日~23日に行われた。この調査は、約2,000羽しか生息していない世界的な絶滅危惧種である水鳥、クロツラヘラサギの最新の越冬個体数と分布を知るために実施している。
  • この調査は、西日本、朝鮮半島南部、中国南部の沿岸(台湾、海南島を含む)、北ヴェトナム、タイ、カンボジア、フィリピン等東アジア一円に散在している生息地を対象にした。
  • 今回の調査では1,848羽が確認された。これは前年の調査(2010年2,347羽)を21%下回っており、1993年にこの調査が始まって以来、最大の減少値であった。前年比で減少が見られたのはこれで4回目である。
  • 台湾は843羽で、最大の越冬地であったが、前年からの減少数も437羽で他の越冬地に比べて最大であった。香港と深セン(シンセン)を含む后海湾地域(米埔(マイポ)自然保護区を含む)では前回の調査より51羽少ない411羽が確認された。しかし2番目に大きな越冬地であることには変わりはなかった。
  • 日本、ヴェトナム、マカオでは前年に比べてわずかに増えていた。しかし、この数は主要越冬地である台湾、后海湾、中国本土の減少数を補うほどではなかった。
  • ヴェトナム、カンボジアといった南の地域において、少数の増加が見られたのが特徴的であった。カンボジアはこの調査では初めて記録された地域で、調査期間中にクロツラヘラサギに装着した衛星発信機からの電波が受信されており、調査が終わってから目視により確認された。このことから、何羽かのクロツラヘラサギは、この冬の厳しい寒さにより、通常より南の地域で越冬している可能性を示している
  • 今回の記録個体数の減少について、2010年夏の繁殖成績があまりよくなかったという報告があるので、それも関係している可能性がある。
  • 今年の調査による越冬数の大幅な減少の理由はまだわかっていない。台湾では初冬に多くの個体が記録されたが、その後、渡去した。クロツラヘラサギの死体がたくさん見つかった記録はなく、鳥たちはこの冬中に「消えてしまった」のである。后海湾での減少理由も不明である。香港での厳しい冬と関係があるのではないかと推測されている。
  • クロツラヘラサギは、1993年の約300羽から、2010年に約2,300羽まで増加し、この冬に約1,800羽と落ち込んだ。保全活動は1995年に活動計画(アクションプラン)が作成された時から実施されている。2010年に、保護活動の計画を改訂した新アクションプランが発表された。今冬のクロツラヘラサギ減少は、絶滅の危機を完全になくすのは、依然としてまだまだ先のことであるということを示唆している。
  • 生息地の破壊と劣化は、クロツラヘラサギにとって依然として主な脅威であろうと思われ、この地域の沿岸湿地は海南島、マカオ、韓国のように、開発によって破壊されている。狩猟が行なわれている場所もあり、ヴェトナムでは、地元民が食料として捕獲した11羽のクロツラヘラサギが、救助された例がある。開発圧と生息地の劣化は香港で越冬するクロツラヘラサギにとっても脅威である。
場所 2010年調査 2011年調査 前年比
台湾 1,280 843 - 437 (34%)
后海湾(香港、深セン) 462 411 -  51 (11%)
中国本土 234 198 -  36 (15%)
日本 258 270 +  12 (5%)
ヴェトナム 46 49 +  3
マカオ 39 49 +  10
韓国 27 26 -  1
タイ 1 1 変化なし
カンボジア 0 1 + 
合計 2,347 1,848 - 499 (21%)

(日本語訳 公益財団法人日本野鳥の会)

原文のリリース元
香港バードウォッチング協会(香港観鳥会、Hong Kong Bird Watching Society)

2.日本におけるクロツラヘラサギ一斉調査の結果

日本クロツラヘラサギネットワーク・日本野鳥の会

  • 日本におけるクロツラヘラサギの世界一斉調査は、日本クロツラヘラサギネットワークと日本野鳥の会が会員や連携している団体に呼びかけて実施した。
  • 2011年1月21~23日に、合計で77人以上が参加し、7県44カ所において、合計207羽のクロツラヘラサギを確認した。
  • また調査期間外の1月25日に、沖縄県沖縄本島で23羽(一斉調査日の記録より3羽多い)、石垣島で10羽の参考記録がある。前年西表島では越冬は確認されなかった。
  • 日本では他地域のような減少は見られず、前年の記録より11羽多い数字となった。県別に見ると、福岡県の82羽が最も多く、次いで1羽差で熊本県の81羽、鹿児島県の44羽が上位であった。前年と比べると、福岡県と熊本県の順位が逆転している。
  • 日本における生息状況は比較的安定していると思われるが、博多湾人工島のように、生息環境の人為的改変(埋立て)によって急速に越冬数を減らした場所もある。
  • 日本における脅威の特徴として、釣り糸・釣り針による死傷や、電線への衝突が原因と思われる怪我による死傷が観察されている。日本での越冬数の増加によって、かえってこのような死亡が増えてしまうことのないように、関係者の協力が必要とされている。

図1 日本におけるクロツラヘラサギの記録数の推移

図2 クロツラヘラサギの記録個体数の県別の推移

表 県別に見たクロツラヘラサギの記録数の推移