洋上風力発電が野鳥に与える影響について学んだ英国視察訪問

自然保護室 浦 達也

日本では、洋上風力発電が近く国内でも普及、発展すると予想されます。特に3月の大震災以降は大きな注目を集めており、政府による実証事業の結果を待たずして、すでに民間事業者が鳥取県や山口県沖で、本格的な沖合洋上風力発電では国内初となる建設計画を進めています。しかし、日本では海鳥の分布や生息状況などで不明な部分が多く、また洋上風力発電の設置が野鳥に与える影響の知見は皆無です。このままでは、それらの知見を把握できないまま国内で洋上風力発電が導入、推進される恐れがあると考えます。そこで私たちは地球環境基金の助成の下、洋上風力発電施設が鳥類に与える影響の情報を収集するため、先行事例が豊富な英国へ視察訪問に出かけることにしました。

  • 期間:2011年1月21日~27日
  • 訪問先と面談者:
    (BirdLife International)Dr. Lincoln Fishpool、Ben Lascelles、Robert Munroe、Beverley Childs、Phil Taylor、Peter Hendley、Hazell Shokellu Thompson
    (英国鳥類保護協会:RSPB)Dr. Rowena Langston、Barrie Cooper、Dr. Sharon Thompson、Dr. Benedict Gove、Dr. Steffen Oppel、Irene Sabiniarz
    (Minsmere自然保護区)Adam Rowlands(RSPB)
    (Scroby Sands洋上風力発電所)Susan Rendell-Read(RSPB)

21日はBLI本部を訪問し、IBAs、Marine IBAsと洋上風力発電、気候変動対策と風力発電および野鳥保護についてお話を伺いました。その中で特に印象に残ったお話は、「アジサシ類の繁殖コロニーから半径5km以内で洋上風力発電を建設すると、その繁殖に影響を与えることが分かっている。」、「風力発電建設にあたっての野鳥への影響評価において重要なのは、個々の鳥への影響よりも、累積的な影響を考慮することである。」でした。訪問時はBeverleyさんがとても親切にしてくださり、居心地よくしてくださいました。機会があればぜひ、再び訪問したいと思います。
22日はMinsmere自然保護区へ訪問しAdamさんから、イングランド地方で陸上風車がそれほど建たず洋上に進出していった理由、周辺海域の海鳥の状況、RSPB-事業者-政府の関係などについてお話を伺いました。
23日はScroby Sandsに行って実際の洋上風力発電を観て、Susanさんから風車の建設がアジサシの繁殖に悪影響を与えた事例、砂の流れが変わってしまったことを伺いました。
24~25日はRSPBを訪問し、Marine IBAs、環境教育、海洋と沿岸の政策(Marine and Coastal Policy)、バイオエネルギーと野鳥保護についてお話を伺い、そしてRowenaさんからは洋上風力発電が野鳥に与える影響について、スライドを交えながらレクチャーを受けました。その中では、アビやクロガモが生息地放棄を起してしまうこと、多数のアジサシが風車に衝突死したこと、ガン・カモ類は障壁効果が生じることを学びました。
その他にNorfolk州北部事務所、Renewable UK、The Crown Estateも訪問し、英国での洋上風力発電の状況や許認可手続き、実際に行われている環境影響調査の方法などについても学びました。そして、全体としては当初の目的どおりの成果が得られる視察となりました。今回の視察訪問で得た成果を活かし、今後の活動につなげていけるように頑張ります。


Scroby sandsにてSuzanさんからお話を聞いているところ


スクロービィ・サンズ洋上風力発電所。この日も冬の英国東部海岸ではよくある霧の日であり、
2.5km先の洋上風車ははっきりとは見えなかった。このような天候の時に、鳥類の衝突事故が起こる危険性が高まる。


RSPBにてRowena氏からお話を聞いているところ

★視察の結果について詳しい報告は、野鳥保護資料集第28集の7章に掲載されています。
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