稚内市・豊富町における風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書を提出しました

日 野 鳥 発 第 116 号

「稚内市・豊富町における風力発電事業に係る環境影響評価方法書」に対する意見書

平成28年2月15日 提出

  ①日本野鳥の会道北支部 支部長 小杉 和樹
ご 芳 名 ②公益財団法人日本野鳥の会 理事長 佐藤 仁志
 
  ①〒097-0401 利尻郡利尻町沓形字富士見町
ご 住 所 ②〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
 
  ①0163-84-3145  
ご連絡先(電話番号) ②03-5436-2633  

ご意見とその理由

(1)事業全体に関する総論
 対象事業実施区域(以下、「実施区域」という。)の設定の見直しを行うべきである。なお、今回、貴社が実施区域に指定した稚内市・豊富町の内部および近接する地域では、既に他の事業者が風力発電事業を計画しており、一方、貴社においても今後、幌延町や天塩町に於いて、事業実施を想定していることから、それぞれの事業案件毎の環境影響評価だけではなく、宗谷・留萌地方全体(稚内市・豊富町・幌延町・天塩町)全体での風力発電事業計画を公表した上で、各事業間の複合的かつ累積的な影響等も方法書に含め、宗谷・留萌地方全体の広域的な視点にも重きを置いた実施区域の見直し、除外の検討をすべきである。

(2)実施区域について
 実施区域とその周辺地域では、チュウヒといった絶滅危惧種や、ノスリの複数つがいが繁殖している。特にチュウヒは国内の繁殖つがい数が80程度と、希少性が高く、また、近年は繁殖個体数が減少傾向にあることから、国内希少野生動植物種に指定される可能性の高い種である。また、海外ではチュウヒが風車に衝突死した事例があることからも、実施区域での風車の建設は、チュウヒの生息に少なからず影響を与える可能性があると考える。
 また、抜海から稚咲内にかけての海岸からサロベツ原野の東側に広がる森林地帯は、ハイタカなどの希少猛禽類や森林性鳥類の移動経路を含めた利用が多く、このため、実施区域での風力発電施設の建設は、これらの鳥類に大きな影響を与える可能性が考えられる。
 そして、抜海周辺の海域と、幕別平野など内陸部を結ぶ地域は、周辺に生息する鳥類の移動経路ともなっている。さらに、実施区域は、秋に宗谷岬と結んで日本海沿岸を南下する渡り鳥の経路と重なっている。
 ついては、実施区域での環境影響評価は、これまでに貴社が行ってきた調査内容に捉われず、あらためて慎重に行い、適切かつ十分な影響評価を行うべきである。
 これらのことから、実施区域での風力発電施設の建設は、多くの渡り鳥や、チュウヒを含めた周辺に生息する鳥類に衝突死または障壁影響といった影響を及ぼす恐れがあるため、想定区域から除外すべきである。

(3)鳥類調査法について
1)ルートセンサス法について
・1つのコースにつき、出現種数が飽和する4~6回のセンサス(植田 2006)を行うことで1回の調査とし、2年間実施すること。
2)ポイントセンサス法について
・調査は毎月実施し、特に繁殖期など計画地で鳥類の種数または個体数が増える時期には、月に2回以上の調査を実施すること。これは、近年の研究により、調査回数を重ねる方が、重ねない場合に比べ、風車に対する鳥類の衝突確率の計算結果において低い数字が算出される傾向がある(Douglasら 2012)ことが分かってきたことによる。
3)鳥類(渡り鳥)の調査について
①調査は3・4・5・9・10・11月に行うこと。これは、計画地では11月も一般鳥類や海ワシ類の渡りが観察されていることによる。
②1週間連続した観察を1回の調査として月2回、または3日間連続した観察を1回の調査として月4回、2年間実施すること。これは、渡り鳥の種類や個体数、時期等には年による変動が見られ、記載されている調査頻度では、年ごとの変動および計画地における渡り鳥のピーク状況を把握することが難しく、より正確なデータを確保するのが難しいと判断されることによる。
③水平・垂直回しを含めたレーダー調査を活用し、計画地における海ワシ類およびその他猛禽類と夜間の小鳥の渡り状況を把握すること。これにより、鳥の種類は分からなくても、おおよその個体数と飛行高度を把握することで、計画地が野鳥の渡り経路になっていないか、飛行高度等からみてバードストライクが発生する危険性がないか確認することが可能となる。
4)鳥類(希少猛禽類)の調査について
・希少猛禽類の繁殖が確認された場合には、繁殖期から幼鳥の分散開始までにおいて月に2回以上の調査を実施すること。その必要性は、上記2)後段の理由に同じ。

(4)その他
1)本件のような大規模な計画においては、調査方法および調査結果の評価等に関する有識者検討会を開催、協議すべきである。
2)計画地周辺には準絶滅危惧種の鳥類オオジシギが多数繁殖している可能性がある。オオジシギはでディスプレイフライトを含む繁殖行動からバードストライクに遭う可能性が高いと考えられ、実際に、国内でもこれまでに複数のオオジシギが犠牲になっている。そのため、オオジシギの繁殖の有無、繁殖確認位置や行動、飛行高度の確認に最大限努めること。
3)本計画地は既に他事業者が計画を進めている計画地に近接していることから、鳥類および景観に対して、他の事業者による事業計画内容との複合的な影響について十分な調査を行うこと。
4)風車設置による景観への影響について、北海道北部の景観がきわめて人工物の少ない自然度が高いものであることを十分に認識し、単に数値化した評価にならぬよう調査を行うこと。