(仮称)上勇知ウィンドファーム事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書を提出しました

平成29年11月16日

エコパワー株式会社  御中

「(仮称)上勇知ウィンドファーム事業に係る環境影響評価準備書」について以下のとおり意見書を提出いたします。

特定非営利活動法人サロベツ・エコ・ネットワーク
代表理事 吉村 穣滋
(北海道天塩郡豊富町字豊富東2条5丁目)

日本野鳥の会 道北支部
支部長 小杉 和樹
(北海道利尻郡利尻町沓形字栄浜142 佐藤里恵方)

北海道ラムサールネットワーク
代 表 小西 敢
(北海道苫小牧市植苗150-3 日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリ内)

ゆうち自然学校
代 表 伊藤 輝之
北海道稚内市大字抜海村字上ユーチ原野1099番地4

道北の自然と再生エネルギーを考える会
代 表 富樫 とも子
北海道天塩郡幌延町字下沼853番地1

■基本的な考え方
 利尻礼文サロベツ国立公園とその周辺には、国内最大の高層湿原があり、どこまでも何もない平原やそこから眺める雄大な利尻富士の景観を求めて多くの人が訪れる。また鳥類をはじめとする国内を代表する貴重な野生生物の生息地であり、渡り鳥にとっては国内有数で国際的にも重要な渡り経路となっている。特に水鳥にとって国際的に重要な中継地であるラムサール条約湿地や重要野鳥生息地(IBA)がある。
 私たちは風力発電の重要性は理解しているが、他の事業を含めると全体としてサロベツを取り囲み、宗谷地方を覆うような風車建設計画には様々な問題点があると考える。加えて、現状ではこれらの地域において、水鳥をはじめとした渡り鳥の生態について明らかになっていない点が多い。
 このような中で、急激な風車建設の集中により、今後永きにわたって利用可能な利尻礼文サロベツ国立公園とラムサール条約登録湿地や、その周辺の自然環境の観光資源を含めた資質を損なう恐れが大きいと懸念する。
 風車建設は、地域にとって大きな影響があるため、協議会などの開かれた場で地域の団体と議論が行われ、地域住民やサロベツとその周辺の利用者が内容を充分に理解したうえで、時間をかけて建設による影響を検証すべきと考える。

以下、準備書の個別内容についての意見を述べる。

■縦覧方法と住民説明会
 縦覧や住民説明会の周知が不十分であるため、事業に対する理解が不十分であり、事業実施後に混乱が起こることが懸念される。

1.周知
 縦覧と意見書募集の周知は、こちらで把握する限り、新聞広告とホームページでの紹介のみだった。エコパワーのホームページ内には説明会開催の案内が見当たらず、新聞の広告を見落とした場合、事業車に問い合わせる以外に説明会の存在を知る術がない状況だった。実際に、こちらで把握している限り、周辺自治体の一般住民で、事業そのものや縦覧・説明会について把握している人は、当方で把握している限り一人もいなかった。稚内市で開催された説明会には関係者以外の一般参加者はいなかった。このため、新聞広告に限らず、回覧やポスター掲示、チラシ配布、関係機関のHP上掲載などで協力を得ることで、より多くの人に知ってもらうよう努力するべきである。

2.縦覧場所
 縦覧場所が、土日祝夜間に閉鎖されている役場等に限られているため、平日の日中に仕事をしている住民などが閲覧する機会がない。土日祝夜間に開館している公共施設を縦覧場所として選択するべきでる

3.オンラインの閲覧方法
 縦覧期間のみインターネット上で閲覧可能であるが、ダウンロードや印刷ができない。数百ページもある図書を、PC上のみで閲覧することは現実的な方法と言えない。実際には、事業に特別興味がある人しか閲覧していない状況と考えられる。縦覧期間終了後に、事後に図書の内容が実際と齟齬がないか精査することができないことは、影響を評価するうえで問題であるため、閲覧期間に限らずいつでも公共施設やインターネットで閲覧可能にすべきである。

4.説明会
 説明会の日程は平日の夜間だったが、より多くの参加を期待するならば、休日の日中又は休日の夜間を選択すべきである。また、説明会に図書が用意されていなかったため、図書の内容を確認しながら、説明を聞き質問することができなかった。このため、説明会では閲覧用の図書を用意するべきである。

■関係者への説明
 地元の環境保全団体であるサロベツ・エコ・ネットワークと日本野鳥の会道北支部に対して、準備書の提供と事業の説明がなされたことを評価する。

■稚内市のガイドライン
 事業地の大半は稚内市の風車に関するガイドラインで法規制により建設が困難な場所、自然保護から建設が望ましくない場所に含まれており、環境保全、景観形成の観点から事業車が自主的に遵守することが求められてる。我々はこのガイドラインの先見性を高く評価している。ガイドラインは社会情勢の変化によって変更される記載されていたが、その景観の重要性は普遍的なもので、社会情勢の変化によって影響されないものである。従って、事業者は現在風力発電事業を推進している稚内市の方針に惑わさせることなく、その重要性を理解したうえで、自主的にガイドラインの重要性を理解したうえで遵守し、風車の建設を避けるべきである。

■改変
 道北7事業では、新たな林道を造成して建設する部分の風車が取りやめになった事例がある。このため、新たに林道を新設して建設するT17-T20は事業区域から除外するべきである。

■騒音
 風車による低周波騒音による人や家畜への健康被害が懸念される。海外では、これらの被害が認められている事例もある。また、その影響は人によって個人差があることが知られており、敏感な人がいないか把握しておく必要がある。今後、風車による人畜への健康被害が発生した場合、事業者による補償内容について、事前に取り決めておく必要がある。

■景観
 大沼バードハウスとメグマ沼からの沼や湿原と利尻富士からなる風景は、稚内市の代表的な景観であり、巨大な人工物がない湿原・丘陵そのものが重要な景観である。しかし、大沼バードハウス、メグマ沼木道や利尻富士とその周辺の眺望が売りのアトリエ華(喫茶店)、自然の景観の中で保育を行っている勇知自然学校からの景観調査は行われていない。このため、これらの場所を景観調査地点として追加し、その結果を評価するべきである。特に、メグマ沼からの景観には利尻富士の景観に風車が重なる恐れがある。これらの場所からの利尻富士とその周辺の眺望範囲を事業地から除外するべきである。
 大沼バードハウスやふれあい公園から見た大沼の周りを囲う丘陵は大沼と一体の景観として重要なものである。このため、この丘陵のスカイラインから突き出た風車の建設は避けるべきである。景観の評価は垂直見込み角のみによって評価されているが、この地方では広々とした景観に価値があるため、圧迫感の有無の評価基準はそぐわない。風車は水平に複数が並んでいるように一体のものとして見られるため、1本1本ではなく、全体的な水平見込み角によって評価するべきである。水平見込み角によって評価すれば、各眺望点からは風車の存在は広々とした景観に対して重大な影響を及ぼしていることが明らかになるはずである。
 サロベツ湿原センターの木道から事業地は視認できない場所があるが、旧サロベツ原生花園はビジターセンターが取り壊され木道が撤去された後も、バス停や駐車帯があるため、多くの人が道路沿いから高層湿原と人工物がない景観を見に来る。サロベツ湿原センターから道路沿いを歩いて散策する人もいる。ここからはサラキトマナイの風車が視認できるが、事業地はここより近く、風車も大きいのでより大きく見えることが予測される。このなにもない湿原の景観は、サロベツを代表するものである。実際にそれを目的に毎年多くの来訪者が訪れ、リピーターも多い。この景観にスカイラインから飛び出る形で風車が建設されると、小さくしか見えないとしてもその景観の価値が損なわれ、観光資源とし損なわれることが懸念される。このため、旧サロベツ原生花園から視認できる場所は事業地から除外するべきである。

■鳥類
1.オジロワシ・オオワシ
 オジロワシは年間衝突予測確率が高いため、少ない調査日数に基づいた調査結果による予測評価の不確実性を補うために、安全面をとって、衝突可能性が高い風車は事業から除外するべきである。事業地周辺にオジロワシが繁殖している場合、風車の衝突や移動阻害を避けるために、安全面から巣から少なくとも半径2kmを事業地から除外するべきであり、少なくともその圏内にあるT14-T16は事業から除外するべきである。秋から春にかけて、オジロワシ・オオワシが越冬場所として高頻度に利用する場所も事業地から除外するべきである。

2.ハイタカ
 海外の事例ではハイタカの巣から1km以上を事業地から避けることが求められているため、ハイタカの巣に近いT14-T16は少なくとも事業から除外するべきである。

3.ガン・ハクチョウ類
 事業地内はガン・ハクチョウ類がロシアから日本に渡る上での主要なフライウェイである。図書の飛翔経路には飛翔軌跡に個体数が表示されていないので、適切に評価ができない。空間的な利用頻度をメッシュ地図(目視による飛翔軌跡の位置不確実性からメッシュの大きさは大きめにするべきである)により示したしたうえで、影響を評価するべきである。
 事業で行われた調査日数と我々が独自に行った結果と比較すると、調査日数の割に確認数が少ないので、影響を評価するのに十分な調査結果が得られていないと考えられる。その原因として、春の調査では1回目の調査時期が早すぎ、4回目と補足2回目の調査時期が遅すぎたこと、秋の調査では4回目の調査時期が遅すぎたことが挙げられる。加えて、調査日数が少ない状況で、調査日が連続しており、風、視界、気温などの渡り調査に適した気象条件の日を選んだ調査を行わなかったことが挙げられる。調査結果では種ごとに評価しているが、同様な渡りの動きをするため、合わせてガン・ハクチョウ類としてひとまとめにして累積的な衝突率として評価するべきである。大沼・サロベツ間は、条件によっては一日中渡り続けることがあるが、現状の調査日数と方法による結果ではそれ見逃した可能性が高い。また、風車の視認が難しい夜間にも渡ることが知られているため、日中の調査のみの評価は不十分である。以上から、実態が過小評価されていると考えられ、マガンやコハクチョウの年間衝突予測確率より実態はかなり高いことが予測される。これらの評価の不確実性を考慮するために、安全面をとって評価し、少しでも影響あると判断された場所に位置する風車は事業区域から除外するべきである。また、仮に風車を避けたとしても、高頻度に利用される場所では障壁影響が大きくなるため、事業地から除外するべきである。

4.小鳥の渡り
 宗谷地方は、日本とロシアとの間を渡る小鳥類の主要な国際的渡り経路となっている。近隣の地域の事例を見ると、多くの小鳥が特に秋に海岸沿いを渡っていることが予測される。普通種であっても、個体数が多ければ衝突や移動阻害などの大きな影響が懸念されるため、その影響をレーダー調査等によって評価し、影響が大きい地域は事業地から除外するべきである。

■哺乳類
 現状の調査方法ではコウモリの生息の実態を把握するには不十分である。事業地内の森林でコウモリ類が多く生息する場合は衝突の恐れがある場所は、事業地から除外するべきである。

■事後調査
 事業地はガン・ハクチョウ類の主要なフライフェイに位置するため、事後調査にガン・ハクチョウの渡り調査を加え、渡り経路の変化やバードストライクを把握する必要がある。また、タンチョウも今後生息範囲を拡大する可能性があるため、事後調査に加える必要がある。
 現状の評価では他事業者の風車が建設されないことを前提としているため、他事業の風車が建設された時点で調査をやり直し、累積的影響を評価し直すことが必要である。これらの調査方法は鳥類の専門家や地域の環境保全団体などの有識者と協議の上、決定するべきである。
 希少猛禽類の繁殖成績は年により変動があるため、1年間では影響を把握するのは不十分であるため、事後調査は2年以上行うべきである。
 死骸調査の調査範囲は、死骸が風で飛ばされる恐れがあるため地上からブレード先端までの高さより広めに設定するべきである。死骸調査の調査員は発見精度と識別精度を高いことが必要であるため、鳥類や哺乳類調査の経験がある者が行い、調査の透明性を高めるために、環境保全団体などを始めとした第3者の立ち会いを認め、独自に調査を行うことを了承するべきである。
 景観はフォトモンタージュ結果と実際に齟齬がないか検証するために、事後調査を行うことにより検証するべきである。

■累積的評価
 道北エナジーによる風車建設予定地(勇知と川西)事業地と三浦電機による建設予定地(勇知)が近隣にある。その位置は一度公開されたものであり、エコパワーはその位置を把握しているはずである。これらの場所で風車が建設される可能性がある以上、これらの事業を累積的影響の評価に加えるべきである。事業地は春秋の日本の主要渡り経路である大沼サロベツ間のガン・ハクチョウ類のフライフェイの中心に位置し、そこに風車が建設されることによる移動阻害は大きいと考えられる。実際には気象条件により渡りの経路は変動するため、2.5kmの幅に渡りの経路を押し込めることは鳥類の渡り行動を変えることを意味し、逆に道北エナジーの道北7事業や三浦電機等よる多くの風車の建設により、風車を避けた鳥類が移動経路として当事業地域に集中し、影響が増大する恐れがある。従って、提案されている配慮措置は不十分であるため、累積的影響の評価を、道北7事業などの他事業者の事業や地域の団体を含めた協議会の場で行うべきである。
 景観による影響も他の事業の風車が集中することによって累積的影響が増大することが懸念されるため、累積的評価を行うべきである。

■協議会の設置
 これまで、地元の団体などと十分な協議が行わなかったため、合意形成が不十分である。今後の調査や影響の評価と環境保全措置などの検討は、各専門の有識者や地元の環境保全団体・観光関係者などが参加する公開された協議会を設置し、十分に話し合った上で行うべきである。