(仮称)宗谷岬風力発電事業 更新計画 計画段階環境配慮書を提出しました

平成30年12月26日

株式会社ユーラスエナジーホールディングス  御中

「(仮称)宗谷岬風力発電事業 更新計画 計画段階環境配慮書」について以下のとおり意見書を提出いたします。

特定非営利活動法人サロベツ・エコ・ネットワーク
代表理事 吉村 穣滋
(北海道天塩郡豊富町字豊富東2条5丁目)

風力発電の真実を知る会
代 表 佐々木 邦夫(公印省略)
(稚内市はまなす2丁目7番18号)

道北の自然と再生エネルギーを考える会
代 表 富樫 とも子(公印省略)
(北海道天塩郡幌延町字下沼853番地1)

日本野鳥の会 道北支部
支部長 小杉 和樹 (公印省略)
(北海道利尻郡利尻町沓形字栄浜142 佐藤里恵方)

北海道ラムサールネットワーク
代 表 小西 敢 (公印省略)
(北海道厚岸郡浜中町琵琶瀬60 NPO法人霧多布湿原ナショナルトラスト内)

公益財団法人 日本野鳥の会
  理事長 遠藤 孝一 (公印省略)
(東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル)

■基本的な考え方
 利尻礼文サロベツ国立公園と宗谷丘陵には、どこまでも何もない平原やそこから眺める雄大な利尻山や遠くに見えるサハリンの景観を求めて多くの人が訪れます。また渡り鳥にとっては国内有数かつ国際的にも重要な渡り経路となっています。特に水鳥にとっての国際的に重要な中継地であるラムサール条約登録湿地や重要野鳥生息地(IBA)があります。
 私たちは風力発電施設(以下、風車という)の重要性は理解していますが、他の事業を含めると全体として宗谷地方を覆うような風車建設計画には様々な問題点があると考えます。加えて、現状ではこれらの地域において、渡り鳥の生態等について明らかになっていない点が多いです。
 このような中で、急激な風車建設の集中により、今後永きにわたり、宗谷地方における自然環境の観光資源を含めた資質を損なう恐れが大きいと懸念します。
 風車の建設により、地域の自然環境にとって大きな影響が懸念されるため、協議会などの開かれた場で、地域住民や関連団体が内容を充分に理解したうえで、時間をかけて風車建設の是非を協議すべきと考えます。

■縦覧方法
 環境影響評価図書の公開、地元環境保全団体への説明、一般住民への説明、事業に対する理解が不十分なため、事業実施後に混乱が起こることが懸念されます。

1.周知
 環境影響評価図書の縦覧と意見書募集の周知は、貴社のホームページに限らず、回覧やポスター掲示、チラシ配布、関係機関のHP上掲載などの協力を得ることで、より多くの人に周知するよう努力すべきです。

2.縦覧場所
 環境影響評価図書の縦覧場所が土日・祝日夜間に閉鎖されている役場等に限られているため、平日の日中に仕事をしている住民などが閲覧する機会がありません。土日・祝日夜間に開館している公共施設を縦覧場所として選択すべきです。

3.オンラインの閲覧方法
 縦覧期間のみのインターネット上の閲覧はインターネットエクスプローラーだけでなく、他のブラウザでも可能となった点では以前と比較して改善されました。しかしながら、依然としてダウンロードや印刷ができません。数百ページもある環境影響評価図書を、PC上のみで閲覧しながら、意見書を作成することは、現実的な方法ではありません。電子閲覧が図書の内容が実際と齟齬がないか精査することは、影響を適切に評価するうえで非常に重要です。このため閲覧期間に限らず随時、公共施設やインターネットで閲覧可能にすべきです。図書の信頼性の確保するためには、透明性・公平性が不可欠です。

■関係者への説明
 環境影響評価の専門員や現場担当者が、地域の自然環境に詳しいサロベツ・エコ・ネットワークに事業内容について個別に説明すべきです。環境影響評価を行う目的の一つは、地元への説明責任を果たし、事業に対し理解を得ることです。合意形成のためには、情報の共有を行うことが不可欠ですので、私たちに図書を提供してくださいますようお願いします。

■全体的な調査
 既存の宗谷丘陵の風車は環境影響評価が現在の制度になる前に建設されたものです。現行の制度と比較すると十分な環境影響評価が行われていませんので、新規事業の同等のものとして扱うべきです。そのときに行った環境影響評価の結果を図書に載せたうえで、現状と比較し、評価を検証すべきです。そして、そのときに調査をしなかったすべての項目を評価対象にすべきです。また、既存の風車を取り壊した段階で、その存在による影響を評価するため、1年程度風車がない状態で調査すべきです。

■景観
 日本最北の地である宗谷岬は、日本屈指の観光地です。宗谷丘陵は北海道遺産である周氷河地形と宗谷海峡とサハリンが眺望可能な素晴らしい景観がある場所で、風車の存在はそぐいません。風力事業を推進している稚内市は風車を景観の一部として宣伝してますが、サロベツと同様に巨大建造物が何もない風景こそが宗谷丘陵の景観的な価値を高めます。このため、この丘陵のスカイラインから突き出た風車の建設は避けるべきです。
 景観は環境影響評価で垂直見込み角のみによって評価されていますが、この地方では広々とした風景そのものに価値があるため、圧迫感の有無による評価基準は適切ではありません。「視認可能な垂直見込み角1度以内では何本並んでいても問題ない」という判断基準は科学的根拠に乏しい主観的な指針に過ぎず、この地域の景観の価値を無視しています。風車は水平に複数が並んでいると一体のものとして見えるため、1本1本の高さではなく、全体的な水平見込み角によって評価すべきです。水平見込み角によって評価すれば、各眺望点からは風車の存在は広々とした景観に対して重大な影響を及ぼしていることが明らかになるはずです。景観の評価は難しいため、古い一つの指針に依存するのではなく、地元観光業者や自然保護団体などから意見を聞きながら、協議会などで議論をし、地域の環境と意向を十分に考慮したうえで、その影響を評価すべきと考えます。
 稚内フットパスは宗谷丘陵の周氷河地形や景観、サハリンの遠望を楽しむために設置された遊歩道です。このため、途中にある展望地を中心に全経路を景観調査地点として設定すべきです。また、調査地点として、宗谷丘陵の半島が一望できる稚内公園も調査対象に加えるべきです。
 事業計画地のかなりの部分が景観上の理由から、稚内市風力発電ガイドラインにより「風車の建設が好ましくない地域」に指定されています。現在風車事業を推進している稚内市の意向に関係なく、そのガイドラインの先見性と普遍的な重要性を理解したうえで、貴社はガイドラインを自主的に遵守し、ガイドライン地域を計画区域から除外すべきです。

■地形
 宗谷丘陵の周氷河地形は保全すべき地形として「日本の典型地形」に指定されています。その地形に手を加えない状態で保全するために、周氷河地形の部分を事業地域から除外すべきです。

■植物
 宗谷丘陵ササ原草原は重要な植物群落として指定されています。それらの植物群落を保全するために、事業地域から除外すべきです。

■鳥類
 宗谷岬周辺は、日本とロシア間を渡る鳥類の主要かつ国際的に重要な渡り経路となっています。多くの鳥類が渡ることが予測されるため、風車による小鳥を含む鳥類への影響は大きいことが予測されます。このため、ゾーニングによりあらかじめ風車の建設を避けるべき場所です。影響の評価に当たっては、レーダーを含む調査を行い、その影響を適切に評価すべきです。

1.オジロワシ・オオワシ
 宗谷丘陵はオジロワシ・オオワシが日本とサハリン間を渡る主要な経路です。春は主にオホーツク海側沿岸を北上しますが、日本海側も北上し、秋は丘陵の尾根上も南下することがわかっています。鳥が風車を避けるのではなく、主要な渡りの経路での風車の建設をゾーニングにより避けるべきです。また、周辺にオジロワシの巣が複数あり、繁殖個体への影響も懸念されますので、影響が大きい場所の風車の建設は避けるべきです。配慮書に記載された表3.1-32および図3.1-33によると、計画地周辺でのオジロワシの衝突は、事業予定範囲の西側に集中しています。風車の数は減りますが、大型化するため、一つ一つの影響は大きくなることが懸念されます。これらのことを考慮して風車の配置を検討すべきです。

2.ガン・ハクチョウ類
 配慮書では事業計画地に生息環境がないため、調査対象外と評価されていますが、ガン・ハクチョウ類は宗谷岬を中心に春と秋の渡りの際に、渡りの経路として利用しており、宗谷丘陵の横断も確認されています。このため、ガン・ハクチョウ類も調査対象とし、夜間に渡るためレーダー調査を含む十分な調査を行った上で評価すべきです。また、現存する風車群がガン・ハクチョウ類に対して、障壁影響を及ぼしていることが懸念されるため、既存の風車を取り壊した後に、1年程度調査を行い、その影響を評価すべきです。

3.カモメ類
 近年北海道のレッドリストに記載されたオオセグロカモメやウミネコは宗谷丘陵沿岸を生息環境として利用しています。春と秋の渡りの季節にはこれらの種は沿岸だけでなく、内陸部を通過することもあります。カモメ類は風車に対する脆弱性が強く影響が懸念されるので環境影響評価にあたっては十分に調査を行ったうえで評価すべきです。

4. 死骸探索調査
 配慮書にはオジロワシのみ過去の衝突記録がありますが、オジロワシだけでなくのすべての鳥類を調査し、影響評価の対象に加えるべきです。

■累積的影響の評価
 現在方法書まで提出されている宗谷丘陵風力発電事業や天北、道北7事業との累積的影響を評価すべきです。これらは既に実施している道北7事業協議会に追加して協議すべきです。

■協議会
 これらの調査結果の評価は、法アセスだけでなく、野鳥保護団体や地元の団体・観光関係者・地元自治体などを含めた開かれた協議会の場で行うべきです。

以上