盛岡市玉山地区の「姫神ウインドパーク」事業の建設区域周辺 における希少猛禽類の保全に関する緊急要望書を提出しました

日野鳥発第2018-084号
平成31年 2月12日

環境大臣 原田義昭 様

日本野鳥の会もりおか
代表 佐賀耕太郎

公益財団法人日本野鳥の会
理事長 遠藤孝一

盛岡市玉山地区の「姫神ウインドパーク」事業の建設区域周辺
における希少猛禽類の保全に関する緊急要望書

 日頃より日本野鳥の会の自然保護活動にご理解とご協力を賜り、深く感謝申し上げます。
さて、岩手県の盛岡市玉山地区から岩手町川口地区にまたがる地域において稼働開始を控えている「姫神ウインドパーク」事業(以下、対象事業という)について、風車の建設区域およびその周辺(以下、当該地域という)に飛来するイヌワシの生息環境を保全するため、対象事業の稼働開始を延期して建設区域でイヌワシに特化した詳細な生息状況調査を実施し、その結果に基づいて対象事業の実施のあり方を再検討するよう、事業者であるエコ・パワー株式会社に対して行政指導をしてくださいますように強く要望いたします。

1. 要望内容
(1)稼働を約2ヶ月後に控えた対象事業の当該地域周辺において、複数のイヌワシによる採餌活動が頻繁に観察されている現状に鑑み、対象事業において事業者が作成した環境影響評価準備書に対して、環境省が平成24年9月21日付けで公表した環境省意見の「項目5. 動物及び植物について」の趣旨に沿って、環境影響を可能な限り回避・低減する観点からイヌワシ等の大型希少猛禽類に特化した生息状況調査を稼働開始に先立って実施するよう、事業者に対し行政指導をしてください。
(2)環境省意見の「項目7. 事後調査結果の公表について」の趣旨に沿って上記(1)にある生息状況調査の結果を事業者に公表させ、イヌワシの生息環境への影響の回避・低減の観点から、調査結果に基づいて事業実施形態の再検討および必要に応じた稼働制限や発電設備の形状の変更等を検討するよう、事業者に対し行政指導をしてください。

2.要望の背景
 岩手県盛岡市北部の玉山地区から岩手町川口地区にかけては山林・牧野・農耕地・河川・湖水等が混在する豊かな自然環境が存在し、特に当該地域は姫神山南麓の標高900m前後の尾根に位置し、外山早坂高原県立自然公園にも隣接しています。従って、この地域では一年を通して多様な野鳥が観察されますが、中でも我が国の天然記念物であるイヌワシをはじめとする希少猛禽類の生息が定常的に観察されている点がおおいに注目されます。そしてこの事は、すでに事業者により実施された環境影響評価によっても詳細が明らかにされております。実際に当該地域は複数のイヌワシが定期的に採餌等の活動を行う重要な場所であり、対象事業の設置工事が完了した現段階においても、施設から至近のところで頻繁にイヌワシの姿を確認しております。(平成30年11月末には風力発電施設のすぐそばを「つがい」と思われる2羽のイヌワシが飛翔している様子も写真撮影されております)。
 イヌワシは環境省によるレッドリスト2018の中で「絶滅危惧IB類」に指定され、かつ絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律でも国内希少野生動植物種に指定されている鳥類であり、日本全国でおよそ400羽が生息すると推定されています。そして、自然環境の豊かな岩手県にはそのうちの約20%の生息が確認されており、岩手県内のイヌワシの生息地保全は日本国内のイヌワシの種の維持のためにも重要かつ不可欠です。しかし、山の稜線沿いの比較的低空を滑空することを主とするイヌワシの行動様式は、風力発電施設における風車の設置場所やブレードの高度と重なり合います。実際に2008年9月には岩手県の釜石広域ウインドファームでバードストライクによるイヌワシ成鳥1羽の死亡が確認されており、この事故はイヌワシが風力発電施設を回避しながら生息しうる可能性が低いことを示唆しています。
そのような過去の教訓が生かされないまま当該地域で風力発電施設の稼働が開始された場合は、当該地域に定常的に生息するイヌワシの採餌活動や繁殖活動の阻害要因となり、さらには衝突死等の事故の要因ともなりうるなど、様々な影響の発生が懸念されます。
 私ども日本野鳥の会は、これからの日本のエネルギー資源として風力や太陽光等の自然エネルギーの積極的利用を基本的に賛成していますが、それらの設置や運用が自然環境に大きな負荷を与える恐れがある場合には、その負荷を可能な限り回避、低減するように設備の内容や稼働形態・稼働期間等を見直すべきであると考えております。そのような観点に基づき、日本野鳥の会もりおかは対象事業の実施者であるエコ・パワー株式会社に対し、本年春にも予定されている対象事業の稼働開始の一時延期および当該地域周辺のイヌワシの詳細な生息状況調査の早急な実施を求めるとともに、引き続きその調査結果にもとづいて風力発電施設の存在する状況のもとでも十分なイヌワシの生息環境の保全措置が講じられよう、稼働制限や設備の形状の変更等の検討を含む事業実施形態の見直しを強く求めています。