(仮称)栗子山風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見書を提出しました

(仮称) 栗子山風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見書

令和元年 8月 2日 提出

項 目 記入欄
氏 名 ①日本野鳥の会山形県支部 支部長 簗川 堅治
②公益財団法人 日本野鳥の会 理事長 遠藤 孝一 (公印省略)
住 所 ①〒994-0081 山形県天童市南小畑4-8-33
②〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
計画段階配慮書についての環境の保全の見地からの意見

この度、貴社が作成された(仮称)栗子山風力発電事業に係る計画段階環境配慮書について、次の通り意見を提出します。

現在、貴社が計画段階環境配慮書(以下、配慮書と言う)を縦覧している(仮称)栗子山風力発電事業について、事業実施想定区域(以下、計画地と言う)に風力発電施設(以下、風車と言う)を建設した場合、環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠB類で山形県の絶滅のおそれのある野生動植物に指定されているクマタカの生息地と重なり、尾根や稜線を利用するクマタカにとって衝突死(以下、バードストライクと言う)が発生する危険性が高い。また、同じ絶滅危惧ⅠB類のイヌワシについて、計画地内での営巣に係るような生息情報はないものの、その行動圏は広く、近隣に生息する個体が餌場として計画地内に飛来する可能性が示唆されており、その場合にはイヌワシのバードストライクが発生する危険性がある。さらに、計画地はサシバやハチクマなど希少猛禽類の渡りルートの一部になっている可能性があり、風車の建設が移動する猛禽類にとってバードストライクや障壁影響による渡り経路の変更といった影響を及ぼすことが懸念される。
配慮書は、専門家へのヒアリングを行って影響を評価しているが、日本野鳥の会会員の情報でも、計画地及びその周囲で複数のクマタカのつがいが生息している可能性が非常に高いことから、影響評価に係る現地調査ではクマタカが繁殖しているものとして、慎重を期してもらいたい。
国内では、クマタカが過去に風車によるバードストライクに遭った事例があることから、計画地に風車を建設した場合、バードストライクの起こる可能性が高い。そのため、クマタカの生息状況の確認および猛禽類の渡りに係る調査について、質、量ともに十分なものを求める。
また、峠は小鳥たちが移動するルートになっており、渡りの時期である春と秋に調査し、重要な種の移動状況を正確に把握した上で、小鳥たちの渡りに影響を及ぼさないよう適切な対応を求めるものである。

理 由

1)配慮書によれば、動物の調査手法は文献その他の資料及び専門家等へのヒアリングにより決定、実施したとある。鳥類相については、環境アセスメントデータベースによると、猛禽類の渡りのルートの一部になっている可能性があり、センシティビティマップでは注意喚起レベルA3となっている。計画地周辺では、クマタカの生息が確認されており、専門家へのヒアリング結果でも、クマタカは必ず出てくると考えたほうが良いとしている。また、イヌワシについても、近隣に生息する個体が餌場として飛来する可能性があるとしている。その結果、バードストライクが発生する可能性があると考える。

(2)配慮書によると、鳥類の重要な種への影響の予測結果があるが、計画地内に主な生息環境が存在し、その一部が直接改変されることで生息環境の変化に伴う影響が生じる可能性があると予測している。
しかし、鳥類への影響は直接改変だけではない。さらに計画地上空を利用する鳥類については、バードストライクだけでなく、「渡り経路の変更(障壁影響)」および「生息地の放棄(事実上の生息地からの追い出し)」といった影響が出ることが予測される。

(3)動物に関しての総合的な評価について、評価結果では「樹林、草地及び水辺(沢等)を主な生息環境とする重要な種及び注目すべき生息地については、事業実施により生息環境の一部が直接改変される可能性があることから、生息環境の変化に伴う影響が生じる可能性がある。また、風力発電機の稼働による衝突の可能性がある。この状況を踏まえ、今後の環境影響評価手続き及び詳細設計において、以下の事項に留意することにより、重大な影響を回避又は低減できる可能性が高い。」とし、留意事項では、「動物の生息状況を現地調査等により把握するとともに、重要な種及び注目すべき生息地への影響の程度を適切に予測し、必要に応じて風力発電機の配置、土地改変及び樹木伐採の最小化等の環境保全措置を検討する。」そして、「土地の改変による濁水等の流入が生じないような計画や工法について検討し、生息環境への影響の低減を図る。」としている。
風車の建設による鳥類の影響は、イヌワシ、クマタカのみならず、ハチクマやサシバなど希少猛禽類の渡りの経路や計画地に生息する重要な種にも大きな影響を及ぼすものであり、バードストライクだけでなく、「渡り経路の変更」および「生息地の放棄(事実上の生息地からの追い出し)」といった影響の回避又は低減策を計画初期の段階から検討すべきである。

以上の理由から、計画地及びその周辺において、いわゆる発電所アセスのガイドラインにあるような一般的な環境影響評価よりも、利害関係者や専門家とも協議したうえで、さらに詳しい調査の実施を求めるところである。
貴社においても、風車の建設にあたって、鳥類の生息状況を的確に把握し、地域の優れた自然環境と生物多様性が失われないよう適切な対応をとることを強く求める。

以上。