(仮称)ウインドパーク布引北風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書

令和2年7月17日

株式会社シーテック
代表取締役社長 仰木 一郎 様

日本野鳥の会三重
代表 平井 正志

(公財)日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一

(仮称)ウインドパーク布引北風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書

環境影響評価法第3条の7に基づき、希少鳥類の保護および環境保全の見地から下記の通り意見を述べる。

・クマタカについて
貴社が作成した環境影響評価準備書(以下、準備書という)に示されている対象事業実施区域(以下、計画地という)にはクマタカが3つがい繁殖している。クマタカは過去に三重県内の風力発電施設(以下、風車という)で衝突死(以下、バードストライクという)が起きた事例があることから、本計画地についてもバードストライクが発生する可能性が高い。
風車への衝突確率の計算について、環境省モデルおよび球体モデルを用い、クマタカによる風車への回避率について0.98を採用した場合の数値は、これまでの他事業の準備書での値と比べても、格段に高いものである。準備書には飛翔図が公表されていないが、このように高い値が出るのはおそらく、計画地内におけるクマタカの飛翔密度が高い場所に風車を建設する予定であるためと考える。
環境省レッドリストで絶滅危惧IB類(EN)に指定されるクマタカは、2年に一度、1羽のヒナを巣立たせるのが普通と考えられている。
仮に、今回の準備書で推定した確率どおりにバードストライクが起こると仮定すると、計画地内の3つがいの繁殖が維持される一方、計画地周辺に分散個体を供給することができなくなる可能性が高い。また、クマタカの風車回避率は野外での調査で実証されていないが、実際に国内でバードストライクが起きているオジロワシやチョウゲンボウと同様に0.95を採用すれば、衝突回数は準備書の値の2.5倍となり、クマタカの繁殖に深刻な影響を及ぼすことになると考える。
また、クマタカが風車を忌避することで繁殖を放棄する、あるいは繁殖を継続できたとしても繁殖成功率が落ちる可能性があるが、準備書ではそのことがまったく考慮されていない。さらに、準備書の890ページに記載される「影響は小さい」と判断した理由について、全く根拠が示されていない。
準備書では、「本種の予測には不確実性が伴うため、事後調査を実施する」としているが、事後調査の結果、重大な影響があった場合に、風車を撤去するとの明示が無い限り、不確実性の担保とはならない。
・ヤイロチョウについて
ヤイロチョウは環境省レッドリストで絶滅危惧IB類 (EN)に指定されるが、全国的にみて分布域は局所的でごく限られており、個体数が少ない種である。ヤイロチョウは三重県内でも繁殖している可能性が高いが、情報が極めて少ない。通常は伊勢以南で見られることが多いが、準備書に示された定着例は三重県で最も北に位置する個体と見られ、非常に重要である。夏鳥の定着とは繁殖を意味する以外にないと考えるが、これほど重要な種であるにも関わらず、貴社は繁殖域や行動域など十分な調査を行なっておらず、また、改変区域からの距離すら明示していない。しかしながら、今回の事業全体の改変面積率を根拠に「これらの種への影響は小さいものと予測する」と述べているが、それだけで影響は小さいとする根拠にはならないことは明白である。ヤイロチョウの繁殖する、あるいは繁殖の可能性の高い場所を改変すべきではない。
・希少猛禽類の渡りについて
三重県内陸部でのサシバの渡りのコースは一定していない。三重県を通過するサシバの多くは伊良湖岬を出発し、伊勢方面に上陸するが、その後は風向、上昇気流の有無や強度によりコースを変え、青山高原、その北につらなる山塊、あるいは白猪山山塊などを通過するものと考えられる(当会会報「しろちどり72号」Web上で閲覧可)。したがって、1シーズンのみの観察でサシバの渡りの将来を予測することはできない。年によっては予測を大幅に上回る数が飛来する可能性もある。
ハチクマ、ノスリの三重県内の渡りルートの位置等についてはほとんど知られていなかったが、準備書では相当数の渡りが確認されていることから、計画地はこれらの種にとって重要な渡りルートのひとつになっていると考えられる。
これら猛禽類の渡りについてはバードストライクの発生率のみが解析されているが、障壁影響の発生により鳥が風車を回避するために用いられる余分なエネルギー消費については解析されていない。今回の計画が実行され、かつ長野峠北側に計画中の風車が設置されれば、青山高原三角点近傍から亀山市市境まで約15 kmに及ぶ長大な風車列が立ち並ぶことになり、これらの渡りルートに対し重大な障壁となる。サシバは長大な渡りを行い、沖縄本島から宮古島までは約300kmの無着陸飛行を強いられるなど、風車の存在が渡りの成功率に与える影響は無視できないと考えられる。
・サシバの繁殖について
サシバは近年、国内で個体数を大きく減らしている種の一つであり、2018年に三重県指定希少野生動植物種に指定された。しかし、それにも関わらず、近年は四日市足見川、津市波瀬など、自然エネルギーの導入と利用を名目にサシバ繁殖地が撹乱されており、いくつかの繁殖地が失われようとしている。
・オオタカの繁殖について
オオタカは関東圏では個体数が増加し、国内希少野生動植物種から指定が外されたが、東海や近畿地方では個体数の増加は見られず、三重県ではむしろ減少傾向にあることから(三重県レッドデータブック2015)、三重県内でオオタカの繁殖を維持させていくのは必須である。
また、準備書においてはサシバとオオタカの高度利用域等について解析がされておらず、営巣地から風車までの距離なども公表されていないため、調査が不十分としか言いようがない。繁殖に成功したシーズンを含む複数の繁殖期で調査を行い、高度利用域などの解析結果を明示すべきである。

以上の考察から、今回の計画及び準備書は鳥類への影響を予測および影響回避策を講じるには不適当であり、風車の数を抜本的に減少させ、準備書を提出し直すか、計画を取り下げるべきである。

以上