(仮称)由利本荘洋上風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見書

令和2年8月17日

日本風力開発株式会社
代表取締役社長 塚脇 正幸様

日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐々木 均
秋田県横手市前郷一番町1-21

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

日本雁を保護する会
会長 呉地正行
宮城県栗原市若柳川南南町16

(仮称)由利本荘洋上風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見書

貴社が計画されている(仮称)由利本荘洋上風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に関して、鳥類の保全の観点から下記の通り意見を述べる。

対象事業実施区域(以下、計画地という)に設定されている海域(以下、当該海域という)は、海鳥の重要生息地(マリーンIBA)の指定海域と重複していること、渡り鳥の重要な経路と重なっていること、計画地の周辺で繁殖する希少猛禽類であるミサゴの採餌海域となっていることなどから、鳥類の保全の観点から考えて、計画地から除外されるべき海域である。この海域であえて事業を進めようとするのであれば、鳥類および海洋生態系に対する影響を限りなくゼロにするものでなければならない。
これを実現するためには、綿密な調査に基づいた環境影響評価を行ったうえで風車の設置基数や配置を検討すべきである。
貴社の計画は、当該海域ですでに事業を進める他社と比べても風車のサイズが一回り大きいため、その他社の計画と比べても鳥類への影響はより大きなものになると危惧するものである。そのため、先行する他社が行った以上の綿密な環境影響評価および現地調査の実施を求める。
以下に鳥類を中心に注意すべき項目と、調査における注意点を述べる。

ガン・ハクチョウ類の渡り

  • 配慮書図3.1-5(1)によれば、計画地はオオヒシクイ・コハクチョウの渡り経路と重なっているが)、実際にはこれに加えてマガン・オオハクチョウも相当数渡ることが地域住民および当会会員により観察されている。
  • 由利本荘市内各地(大内地区・子吉地区・西目地区等)の田畑やため池の大堤はガン・ハクチョウ類の渡りの中継地としても利用されている。洋上を通る群が休息・滞在のために子吉川河口付近等から内陸に入ったり、逆に滞在している群れが移動のために洋上に出たりすることが頻繁に観察されている。離岸距離が近い計画地での風車の建設は、この動きを阻害する恐れがある。
  • ガン・ハクチョウの渡りは、最近2年間は降雪量の減少の影響で渡りの時期に変化が起きている。当会が把握しているデータでは由利本荘市付近におけるガン・ハクチョウ類の春の渡りのピークは2019年および2020年とも2月中旬から下旬であり、3月上旬にはほとんど終了していた。調査期間の設定は、その年の天候等をみながら現地の状況に即して臨機応変に行うべきである。
  • ガン・ハクチョウ類の秋の渡り時期は10月から11月下旬がこの数年での傾向である。ただし、秋は計画地周辺に長く滞在する群も存在し、日によって行動や天候等が違うことで飛翔高度やルート選択が変わることが多いため、秋は計画地周辺で複数回の調査を実施して、ガン・ハクチョウ類の飛翔状況をよく観察すべきである。
  • 12月~2月の越冬期は天候や降雪量によって由利本荘市を含む越冬地と中継地の大潟村を頻繁に往来することがあるため、越冬期においてもガン・ハクチョウ類の飛翔状況をよく観察すべきである。この時期には希少種であるハクガン及びシジュウカラガンの往来が複数回観察されており、特にシジュウカラガンはその個体数が年々増加してことから、それらを見落とさないようによく観察する必要がある。
  • 本支部会員は、建設予定地に隣接するにかほ市の漁港に、天然記念物のコクガンが冬季渡来することを確認している。このガンは主に海域を生息場所としており、風車による被害が生じることが危惧される。

カモ類の渡りについて

  • 当該海域は多くのカモ類の渡り経路になっていることが、当会会員により確認されている。この中には海ガモだけでなくオナガガモ・マガモなどの淡水ガモが多数含まれている。当該海域でのカモ類の渡りは11月に多くなるが、かつてはこの海域で11月の狩猟解禁に合わせて沖合でのマガモ猟が盛んに行われていたとの狩猟関係者の証言もあることから、当該海域はカモ類にとって重要な渡り経路になっている可能性がある。カモ類は渡る個体数の多さ、休息のために飛行の途中で着水するなど、飛翔高度を頻繁に変える(0m~200m)という飛び方の特徴から、洋上風車の影響を大きく受けることが予想されるため、カモ類も調査項目の対象に含め、適切な影響評価を行うべきである。

カモメ類について

由利本荘市沖には、ハタハタの卵であるブリコを採食するために冬期にカモメ類が集まり、大群を形成する。当該海域に飛来するカモメ類で大部分を占めるオオセグロカモメおよびウミネコは近年、個体数の大幅な減少が報告されており1)、北海道では準絶滅危惧種に指定されている。
カモメ類は世界的にもバードストライクが発生しやすい種群であることが知られるが、主要な越冬地である北海道~東北の日本海側に洋上風車が建設されれば、オオセグロカモメやウミネコなどの飛行が阻害されるほか、バードストライクが頻発する可能性がある。これ以上の希少なカモメ類への人為的影響は最小限に抑える必要があることから、当該海域に洋上風車を建設することは望ましいものではない。
また。工事中の騒音や水の汚濁、稼働後の潮流の変化によりハタハタの産卵に影響が出ることが懸念される。これについても調査して影響を予測すべきである。

その他海鳥について

計画地はアビ、オオミズナギドリ、多くの海鳥の生息地・採餌地と重なっている。またアジサシが渡りの時に通過するのも目撃されている。これらの鳥の渡りの時期を把握し、飛翔実態を調べるべきである。

ミサゴについて

  • 当該海域の沿岸部は環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指定されているミサゴの繁殖地になっており、当該海域は複数のつがいや幼鳥、亜成鳥にとって重要な採餌場所となっている。日本でも複数羽のミサゴがバードストライクに遭っており、由利本荘市内沿岸でも1件風車による衝突例がある(2018年)。ミサゴはバードストライクの発生率が高い鳥類であると考えられることから、ミサゴが利用する海域には風車を建てるべきではない。
  • 子吉川河口は計画地周辺に生息するミサゴの利用頻度の高い場所である。それらミサゴの採餌場所を確保するため、特に河口周辺には風車を建設すべきではない。

ハヤブサについて

  • 当該海域の沿岸部は環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されているハヤブサの繁殖地になっており、当該海域は重要な採餌場所となっている。特にハヤブサは洋上を渡る小鳥類を頻繁に狙うことが知られており、バードストライクに遭う危険性がある。

その他重要種について

由利本荘市及び隣接するにかほ市にはナベヅル、マナヅル等のツル類が度々立ち寄っており、洋上を飛翔してきている可能性がある。また、春季の飛島で毎年確認されるヤツガシラが由利本荘市でも確認されたことがあり、飛島経由で洋上を飛翔している可能性が高い。これらの渡り鳥についても調べるべきである。

調査時間と天候について

  • 鳥類の渡りは夜間にも行われるため、貴社はレーダーを利用するなどして夜間にも渡り鳥調査を実施すべきである。
  • ガン・カモ・ハクチョウ類およびカモメ類等の水鳥は晴天時に飛行するとは限らず、むしろ強風時・荒天時によく飛翔する傾向がみられる。そのため、貴社は荒天時にも調査を実施すべきである。また、晴天時と荒天時での飛翔状況の違いを把握すべきである。

調査機器について

  • 沿岸からの観測の際には通常の双眼鏡・望遠鏡に加えて、対象物までの距離、仰角、対象物の飛翔高度等を算出することが可能なレーザー測距機等を使用することが望ましい。

予測評価と環境保全措置について

配慮書4.3-38(308)に「影響の程度を適切に予測し、必要に応じて環境保全措置を検討する」とあるが、具体的な保全措置を明記することを求める。

協議会の開催について

上記で述べた調査の結果から得られたデータを地元団体や鳥類保護関係者および鳥類や風力発電の専門家等と共有し、風車の設置位置を決定するための公開の協議会を設けることを求める。

環境に貢献することを理念と掲げる風力発電事業であるからこそ、本計画の実施が由利本荘の海洋生態系に影響を与えないよう、全力で取り組んでほしい。なお、この意見は概要にまとめる際に原文のまま採用することを希望する。

以上

1)
論文名 Long-term declines in common breeding seabirds in Japan(日本における普通海鳥種の長期的減少)
著者名 先崎理之1,照井 慧2,富田直樹3,佐藤文男3,福田佳弘4,片岡義廣5,綿貫 豊6(1北海道大学大学院地球環境科学研究院,2ノースカロライナ大学グリーンズボロ,3山階鳥類研究所,4知床海鳥研究会,5NPO法人エトピリカ基金,6北海道大学大学院水産科学研究院)
雑誌名 Bird Conservation International(鳥類保全学の専門誌)
DOI 10.1017/S0959270919000352
公表日 2019年8月28日(水)(オンライン公開)