(仮称)大関山風力発電事業環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年2月1日

ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社
代表取締役 中川 隆久 様

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一(公印省略)
〒141-0031
東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル

(仮称)大関山風力発電事業 環境影響評価方法書に対する意見書

貴社が作成された(仮称)大関山風力発電事業に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対し、下記のように意見を提出いたします。

(1)計画地周辺の自然環境および鳥類全般について

方法書に記載されている対象事業実施区域(以下、計画地という)およびその周辺は森林性鳥類と草原性鳥類の両方が生息し、鳥類を頂点とした食物連鎖の中で豊かな生態系および生物多様性が維持されており、熊本県の自然環境保全上において貴重な地域である。

計画地は大関山を中心とした稜線地帯であり、この地で発生する気流を利用してクマタカなどの猛禽類をはじめ、さまざまの鳥類がはるか昔から生活を営み、命をつないでいる場所である。なかでも森林性のヤマドリやカケス、オオルリをはじめ、草原性のホオジロ類、夏鳥のカッコウなどが生息するなど、高原地帯に特有の環境要素も併せ持つ地域である。また、計画地の周辺地域には佐敷川と湯浦川の源流があり、鳥類をはじめ、昆虫や爬虫類、両生類、小動物など数多くの生物が生息している。貴社は、当該事業を大川特例休猟区の北側全面をさえぎる形で計画しているため、鳥類への影響はきわめて大きい事業であると考える。

方法書の3章にある「動物の生息の状況」では、文献調査から17目57科260種の鳥類が確認されている。なかでも重要な種として14目33科81種が選定されているが、重要種以外にも一般種の生息状況を適切に把握したうえで影響を評価し、また、予測される影響を回避・低減できるよう、質、量ともに十分な調査を実施するために、調査方法等を下記のように再検討する必要がある。

(2)鳥類調査の方法について

方法書では、計画地にサシバ、ツミ、ハチクマ、オオタカ、ノスリの渡り経路が存在する可能性があげられているが、計画地周辺には水田を有する貴重な里山環境が多くあり、サシバ、ツミの繁殖やハチクマの繁殖の可能性など、希少猛禽類が繁殖していることも視野に入れて、繁殖期には繁殖ステージごとに連続した日程で終日調査等を実施するなど、それらの繁殖状況を詳細に把握する必要がある。

また、クマタカをはじめとした希少猛禽類の空間利用状況調査を実施し、高さ150mにも及ぶ風車建設による鳥類への影響を評価する必要がある。さらに、鳥類が夜間も移動していることは広く知られるようになっているが、計画地でも夜間に鳥類が飛翔する可能性があることから、渡りの時期などにレーダーを用いるなどの夜間調査を実施したうえで、風車建設による鳥類への影響を評価すべきである。

計画地周辺には貴社の他に、亀嶺峠、矢筈岳、球磨村、宮ノ尾山にかけて計画地が設定されている風力発電事業の計画がある。自社の計画地における影響評価を実施するだけでなく、他社とも互いに情報を共有して累積的影響を評価するという視点で、繁殖する希少種はもちろんのこと一般種や渡り鳥等を含めて風車の建設がこの地域一帯の鳥類に与える影響を評価すべきである。

(3)環境影響の考え方について

方法書の4章にある「総合評価」では、動物に対する重大な環境影響の回避又は低減できる可能が高いと記載されているが、貴社は今のところ、具体的にどのような影響の回避・低減策を取り得るのか、方法書に記載すべきである。

(4)経済産業大臣と県知事意見の順守について

方法書の5章と7章に記載されている、経済産業大臣と県知事の意見を順守した調査を行うことは必須である。特に経済産業大臣は「クマタカの衝突事故と移動阻害」「サシバの渡り経路」を取り上げ、県知事は「譲葉鳥獣保護区」が計画地に隣接していることから「直接改変がなくても計画地の動植物への影響について適切な予測、評価を行うこと」を意見している。計画地が鳥類にとって重要な繁殖地となっているという視点を踏まえ、質、量ともに十分な調査を実施し、鳥類への影響を回避することが必須である。

(5)鳥類の調査時期について

方法書の6章にある表6.2-19「一般鳥類の繁殖調査時期」では、4月中旬から6月中旬にかけて留鳥および夏鳥の繁殖期の調査が計画されている。しかし、計画地での鳥類の繁殖の最盛期は7月中旬まで続くと考えられる。その点を踏まえると、繁殖後期となる6月下旬から7月中旬にも調査を実施するよう、調査時期を見直す必要がある。特に近年個体数が減少していると言われる夏鳥のアカショウビンやヤイロチョウ、サンコウチョウなどが繁殖していないか、十分留意して調査すべきである。また、クマタカやサシバだけでなく、トビやノスリ、チョウゲンボウなどの上昇気流を利用して獲物をとる鳥が計画地やその周辺を利用しているため、その利用状況を確実に把握することが、バードストライク回避の観点から重要となる。
なお、夜間調査においては、繁殖期にはヨタカやフクロウ類、冬期にはコミミズクやトラフズクなどが計画地を利用していないかを調査する必要がある。

(6)アセス図書の縦覧方法について

アセス図書の閲覧は、環境影響評価法により定められているとは言え、縦覧期間が1~1.5か月と短く、また、縦覧場所も限られており、インターネット上で閲覧は可能であるが、印刷ができないことが多いのは不便である。数百ページもあるアセス図書を縦覧場所、またはパソコン上のみで閲覧しながら意見書を作成することは、現実的ではない。縦覧期間が過ぎてしまうと作成した意見書の内容の誤りの有無をアセス図書と整合して確認することもできない。アセス図書の内容が、実際の計画地の状況と齟齬がないかを地域住民や利害関係者等が精査できることが、環境影響評価の信頼性を確保し、地域との合意形成を図るうえで不可欠である。そのため、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。すぐにはアセス図書を常時公開することは難しいようであれば、多くの事業者が実施しているように、関係する自然保護団体等に紙媒体でのアセス図書を提供すべきである。

以上