(仮称)苫東厚真風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

日野鳥発第2020-037号

令和3年2月19日

Daigasガスアンドパワー
ソリューション株式会社
代表 後藤 暢茂 様

公益財団法人日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

(仮称)苫東厚真風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

現在、貴社が意見募集をしている(仮称)苫東厚真風力発電事業に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対して、環境影響評価法第8条に基づき、環境の保全の見地から下記のとおり意見を述べる。

(1)鳥類保全の観点からの意見

貴社が作成した方法書に示されている対象事業実施区域(以下、計画地という)を含む勇払原野は、これまでに277種の鳥類が観察されている豊かな鳥類相を有する地域である(石城 1987)。

計画地内には、マガン、タンチョウ、シマクイナ、ヘラシギ、オジロワシ、オオワシ、チュウヒ、ハヤブサといった国内希少野生動植物種および天然記念物に指定されている鳥類、およびウズラ、サンカノゴイ、シロチドリ、オオジシギ、ウミネコ、ハイタカ、トラフズク、アカモズなど準絶滅危惧種を含め環境省および北海道のレッドリスト掲載種が生息し、加えて、ガン・ハクチョウ類やシギ・チドリ類の渡り・移動経路とも重なっている(日本野鳥の会 未発表)。

当地域はこれらの鳥類の生息において、国内でも有数の生物多様性ホットスポットになっている。これらのことは、配慮書に対する北海道知事意見や環境大臣意見および経済産業大臣意見、また、専門家等へのヒアリング結果でも述べられている。また、環境省が作成した環境アセスメント環境基礎情報データベースシステム(EADAS)に掲載の「風力発電における鳥類のセンシティビティマップ(陸域版)」でも注意喚起A3等の注意喚起メッシュとして示されている。

このような豊かな鳥類相を有する地域であることから、風車が建設されればバードストライクや障壁影響(風車の存在により移動経路等が変わり、エネルギーロスや生息地利用の変化が生じる影響)が発生する可能性が極めて高い。

たとえばツル科の鳥類について、これまでにタンチョウではまだバードストライクが発生していることは確認されていないが、国外では近縁種のクロヅルで生じていることが確認されている(Munoz 2008a、Portulano 2006))。また、タンチョウは電線等への衝突事例が多く確認されていることから(住吉 1989)、電線や回転する風車ブレードなど視認しづらい人工物への衝突リスクは潜在的に高いと考えられる。さらに、ツル類は生息地放棄の要因となる障壁影響が起きやすい種であるとされ(Hötker et al. 2006)、実際に国内でもタンチョウと同属のナベヅルおよびマナヅルの渡りの時期に障壁影響が発生したことが長崎県で確認されている(浦 2015)。障壁影響を起こしやすい鳥類において、ねぐらと採食場所の間などのように日常的に利用する空間に風車建設地が存在すると、その周辺で利用していた好適地を利用しなくなり、時には従来の生息地とは離れた質の劣る生息地にまで移動してしまうこととなり(Drewitt & Langston 2006)、また、障壁影響が日常的に生じると飛行に係るエネルギー消費が増えるため、結果的に繁殖成功率や生残率を低下させる可能性がある(Masden et al. 2010)。

オジロワシでは海外、国内とも数多くのバードストライクが発生しており(浦 2015)、国内における希少猛禽類の保全上でも大きな問題となっている。

チュウヒについては、国内ではバードストライクが生じている事例は報告されていないものの、生態が近い近縁種のヨーロッパチュウヒやハイイロチュウヒ、ヒメハイイロチュウヒではスペイン(Rivas et al. 2004、Canizares 2008、Munoz 2008b・2008c・2008d、Munoz et al.2009、Ruiz 2008)やアメリカ(Erickson et al.2001、Johnson et al.2001、Smallwood and Thelander 2004、Kingsley and Whittam 2007)、ドイツ(Durr 2004、Kingsley and Whittam 2007)、アイルランド(Wilson et al. 2015)でバードストライクが確認されている。また、浦ほか(2020)では、チュウヒがオジロワシ等の外敵を追い払う時や繁殖期のディスプレイフライト時、日の出後の旋回上昇時、雌雄ペアでの飛翔時に風車に衝突する可能性が高くなる高度で飛翔することが多く、繁殖期のなわばりの範囲内に風車が建設されている場合には、チュウヒのこれらの行動により、バードストライクが発生する危険性が高くなることを指摘している。これらより、チュウヒは風車への衝突リスクが潜在的に高い種であると考えられる。

この他に、国内でバードストライクの事例があるオオワシ、ハイタカ、ハヤブサ、オオジシギ、ウミネコの生息が計画地で確認されている(浦 2015)。

マガンやハクチョウ類などの大型鳥類は、細かい羽ばたきができず空中での飛行操作性が低く、悪天候時は風車を避けるような行動を取りがたく、衝突リスクが高い種である(Gove et al. 2013)。実際に海外ではマガンを含むガン類で多くのバードストライクが発生しており(Rees 2012)、また、風車建設地では風車から半径で平均 373m(146–559m)の範囲で生息地放棄が起き(Hötker et al.2006)、さらに障壁影響も生じやすく(Hötker et al.2006)、風車の建設による影響が大きい鳥類であると考えられる。また、ねぐらや採食場所など、マガンが着地地点から飛び立って、一般的な大きさの風車のローター高である高度120mを超えるには、距離にして4,000m程度かかることが知られており(環境省 2010)、マガンのねぐらや採食場所がある場所から半径4,000m以内に風車を建設すると、バードストライクまたは障壁影響が発生する可能性が高い。ガン・ハクチョウ類の移動経路上に風車を建設した場合に、障壁影響が生じることが国内事例としてすでに確認されていることから(Ura 2017)、計画地を利用するガン・ハクチョウ類においても、風車建設後に障壁影響またはバードストライクが生じると考えられる。

これらを踏まえて希少鳥類等の保全の観点から考えると、風車の建設がこれらの希少鳥類に与える影響は甚大であると予測され、当該地域は風車建設には不適切なことから、計画地として除外されるべき地域である。そのため、本事業は環境影響評価準備書の作成に進まずに、現段階をもって事業を中止すべきである。

(2)希少鳥類の生息地保全の観点からの意見

計画地がある苫小牧市東部から厚真町、およびむかわ町にまたがる勇払原野は、ラムサール条約湿地であるウトナイ湖を有し、また、ウトナイ湖・弁天沼を含む計画地の西側と入鹿別川から鵡川流域に至る計画地の東側の二区域はバードライフ・インターナショナルが基準を定め、(公財)日本野鳥の会が基準A4iとして指定する重要野鳥生息地(IBAs)(日本野鳥の会 2010)、および生物多様性の保全の鍵になる重要な地域(KBA)に選定されている。また、計画地は当会が勇払原野の環境を後世に残し、広域にわたる保全を実現するために提案している勇払原野保全構想の対象エリアに含まれている(日本野鳥の会 2006)。これらの選定区域は、希少種を中心とした野生動植物の重要な生息地として世界中に周知されており(日本野鳥の会 2010)、また、自然度が高い湿原、草原、湖沼等がまとまった面積で存在することから、その隣接地域は選定区域と連続する多様な動植物の生息地となっている。

計画地は勇払原野保全構想の対象エリアに含まれ、ラムサール条約湿地、IBAsおよびKBAに隣接および囲まれる状況となっているが、計画地で風車を建設することは、このような自然保護、希少種保全上の重要な場所に大きな影響を及ぼすことになる。当計画地は、1960年代に始まった土地造成工事後に長年放置されてきたのち、自然が回復し、長年保たれてきた市街地の隣接地域としては非常に豊かな動植物相(石城 2015)を形成しており、計画による自然環境への影響は極めて大きいと予測されることから、計画地として選定されるのには不適切な場所であり、現地調査および環境影響評価準備書の作成に進まず、現段階で事業を中止すべきである。

以下に、現地調査を行う場合の注意点等を述べるが、(3)以降の意見は、前述の立場に立ったうえで方法書の記載内容について意見を述べるものであり、準備書の段階に進むことを容認するものではない。

(3)調査方法全般について

6.2-1(343)から6.2-7(349)頁に、「専門家等からの意見の概要及び事業者の対応」が記載されている。そのうち専門家BおよびCは現地鳥類調査の方法や留意点等を詳しく述べている。鳥類の保全のために実際に希少鳥類等の調査や研究をしている者の意見と考えられることから、貴社が現地調査を実施するにあたっては、専門家BおよびCの意見を検討するだけでなく、実際に取り入れる形で調査を計画、実施し、希少鳥類の繁殖に対し調査実施による影響を与えないようにしながら、希少鳥類等の生息状況に関する詳細なデータを取得すべきである。

(4)個別の項目について
①表6.2-2(20)および(21)について
  • 5.調査期間等-(1)-②鳥類-a.鳥類について、ポイントセンサス調査を4~7月は各月で実施し、5月は2回実施するとあるが、計画地で繁殖する鳥類の種数がもっとも多くなる6月も2回実施すべきである。
    計画地には希少種が多く繁殖するが、希少種は調査中における出現確率が低いため、それらの生息状況を詳しく把握するには、事前に調査日数を設定せず、繁殖期等の一定期間内で鳥類の出現種数が飽和するまで調査を継続すべきである。特にウズラとアカモズが生息する可能性がある環境では、そのように調査すべきである。
  • 5.調査期間等-(1)-②鳥類-b.希少猛禽類について、チュウヒを想定し各月1回3日間の調査を実施するとあるが、貴社もチュウヒを上位性の注目種として選定しているように、チュウヒは計画地ではもっとも生息動向に留意すべき鳥類である。そのため、貴社は各月1回3日間の調査頻度に拘らず、4~8月は各月複数回の調査を実施するなど、現地でのチュウヒの繁殖や出現状況に合わせ、適切な調査頻度で調査すべきである。
  • 5.調査期間等-(1)-②鳥類-eタンチョウについても、上記b.希少猛禽類について述べたことと同様に調査すべきである。
②表6.2-2(22-1)について
  • ポイントセンサス法による調査で重要種(マガン、タンチョウ、シマクイナ、ヘラシギ、オジロワシ、オオワシ、チュウヒ、ハヤブサ、ウズラ、サンカノゴイ、シロチドリ、オオジシギ、ウミネコ、ハイタカ、トラフズク、アカモズ等)が確認された場合、直ちにそれらを対象にした調査(希少猛禽類調査または任意観察調査)を実施すべきである。
  • 希少猛禽類における定点観察法による調査について、設定した観察定点からの視野を示す視野図を作成し、計画地のうち風車設置対象区域がすべて視野に入っているか確認し、もし視野に入っていない場所があれば、観察定点を増やす等の措置が必要である。ここに記載されている調査方法から、貴社は空間飛翔調査を行うことが読み取れるが、そうであれば、すべての風車設置対象区域で空間飛翔調査を実施し、風車設置対象区域全体における鳥類の衝突確率等を計算できるように観察定点を設置しなければならない。
  • 視野の広い地点と移動定点を組み合わせて調査すると記載されているが、移動定点調査を行う調査員であっても、チュウヒの営巣があると考えられる地点から半径500m以内には入らず、視野の広い地点に配置されている調査員と追跡観察を交代すべきである。
  • 渡り鳥における定点観察法による調査については、レーザーレンジファインダーなどの機器を使用して、なるべく正確な飛翔位置や高度を計測すべきである。そのうえで衝突確率の計算や影響を評価すべきである。
③表6.2-2(35)について
  • ③ブレード等への接触-鳥類(猛禽類、渡り鳥)における基本的な予測方法として、年間衝突予測数の算出を環境省モデルおよび由井モデルにより行うとある。しかし、このような鳥類による風車への衝突確率計算モデルは年々新しいモデルが提唱されており、環境省モデルおよび由井モデルのみに拘らず、海外文献も参照して最新かつ正確なモデルでも衝突確率を計算すべきである。
④表6.2-2(42)について
  • チュウヒの餌種・餌量調査(ネズミ類、トガリネズミ類の捕獲調査)について、チュウヒが好む採餌・探餌場所は、単なる餌種や餌量よりも微地形(水路沿い、池沼の縁、植生やその密度の違い等)や季節による餌種の分布状況によって決まるため、図6.2-5(1-1)または図6.2-7(2-1)にある(捕獲)調査地点で調査するだけでは、環境類型ごとのネズミ類やトガリネズミ類の生息密度を把握することはできても、チュウヒの採餌・探餌行動に影響を与えると考えられる環境要因と餌種や餌量とを結び付けて採餌環境の好適性やポテンシャルを把握することはできない。採餌環境の好適性やポテンシャルを正確に把握するには、チュウヒの採餌・探餌行動に影響を与える環境要因と餌種や餌量との関係が把握できるような調査を実施しなければならない。
(5)累積的影響評価について

方法書では、計画地が苫東厚真火力発電所の北側の地域と浜厚真駅から浜田浦駅の間にある海岸部地域の2つに分かれているが、環境影響をそれぞれの地域ごとに評価するだけではなく、これらを一つの計画地として捉えて累積的な影響の評価を具体的かつ慎重に実施することを求める。

以上


【引用文献(アルファベット順)】

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