(仮称)肥薩ウインドファーム 環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年2月28日

電源開発株式会社
代表取締役 渡部 肇史 様

日本野鳥の会熊本県支部
支部長 田中 忠 (公印省略)
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熊本県熊本市北区八景水谷3-7-38

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一 (公印省略)
〒141-0031
東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル

(仮称)肥薩ウインドファーム 環境影響評価方法書に対する意見書

貴社が作成された(仮称)肥薩ウインドファーム発電事業に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対し、下記のように意見を提出いたします。

(1)対象事業実施区域とその周辺の自然環境および鳥類全般について

方法書に記載されている対象事業実施区域(以下、計画地という)とその周辺は熊本県と鹿児島県の県境となっている稜線を含む一帯であり、森林性鳥類と草原性鳥類の両方が生息し、鳥類を頂点とした食物連鎖の中で豊かな生態系および生物多様性が維持されている場所であり、熊本県にとっても自然環境保全上において貴重な地域である。

熊本県側の計画地は、里山から植林地、自然林及び茶畑等の丘陵地であり、この地で発生する斜面上昇風や上昇気流を利用してクマタカなどの猛禽類をはじめ、多くの鳥類がはるか昔から生活を営み、命をつないでいる場所である。また、麓の湯出地区にある湯の鶴温泉は、平家の落人が川岸の温泉の湯でツルが傷を癒していたのを見つけたことに起因している。計画地は鹿児島県の出水平野で越冬するツル類の主要な移動経路ではないが、山口県や高知県との往来で飛行する際の利用が考えられる地である。なおかつ、森林性のヤマドリやカケス、オオルリをはじめ、草原性のホオジロ類、夏鳥のホトトギスなどが生息するなど、複合的な環境要素も併せ持つ地域である。また計画地の周辺には石坂川、芦刈川、頭石川、招川内川、軸谷川、田原川、坂元川の源流があることから、水源涵養保安林となっており、豊かな自然環境の中で、鳥類をはじめ、昆虫や爬虫類、両生類、哺乳類など数多くの生物が生息している場所である。貴社の事業は、近年、日本で減少しつつある里山から自然林にかけての分水嶺を有する貴重な稜線一帯にかけて計画されているため、鳥類への影響は極めて大きいと言わざるをえない。

方法書の4章・4-16(188)ページからの「事業実施想定区域及びその周囲の重要な動物の生息状況(鳥類)」では、15目34科100種の鳥類が選定されているが、前述のホトトギスなどの記載がない。重要種以外にも一般種の生息状況を適切に把握したうえで影響を評価し、また、予測される影響を回避できるよう、質、量ともに十分な調査を実施するために、調査方法等を以下のように再検討する必要がある。

(2)環境影響について

方法書の4章・4-38ページからの「(3)評価」で、芦北海岸県立自然公園にも注視している点は望ましい。特に計画地西部に位置する芦北海岸県立自然公園の森林は、海の栄養源となるミネラル分を作り出し、川の流れとともに海岸部の芦北海岸県立公園の海に養分を補給するという重要な役割を果たしている。その多様な環境の中に水俣鳥獣保護区があるため、その環境は保全しなければならない。また、出水小学校鳥獣保護区や高川鳥獣保護区についても同様に自然環境を保全する必要がある。

さらに、「今後具体的な環境保全措置を検討する。」とされ、その留意事項として、「生息が確認された重要な種に対して環境保全措置を検討する。」とされているが、重要種だけでなく一般鳥類も含めて具体的な保全措置について記載すべきである。さらに、「資材の搬出入は極力既存道路を活用し土地の改変及び樹木の伐採面積の最小化を図る。」とされているが、樹木伐採地や道路拡幅後の法面の植栽種についても十分な配慮が必要である。植栽等の植物種によっては二ホンジカが好んで食べ、結果的にシカを誘引して個体数が増加し、現存のササなどを食べつくすことが危惧される。特に熊本県中央部から南部にかけてはスズタケなどがシカによって食べつくされ、ウグイスやコマドリなどの繁殖環境が消滅しているところがある。それらについても十分に調査し、食物連鎖による鳥類等のすみかを奪うことがないようにしなければならない。

(3)経済産業大臣と県知事意見の順守について

方法書の5章と7章に記載されている、経済産業大臣と鹿児島県および熊本県の知事意見を順守した調査を行うことは必須である。特に経済産業大臣は「累積的な影響」を挙げ、「他の事業者との情報交換等に努め、累積的な影響について適切な調査、予測及び評価を行い、その結果を踏まえ、風力発電設備等の配置等を検討すること」と述べている。しかし、貴社は事業者見解として「公開情報収集を行い、可能であれば他事業者との情報交換に努め、累積的影響について、必要に応じて調査、予測及び評価を行い(以下略)」と述べるなど、累積的影響評価の実施には極めて消極的であると言わざるを得ない。貴社は海外事例を参考にするなどして累積的影響の予測および評価を行い、計画地の周辺に他事業が存在することにより生じる鳥類をはじめとした自然環境への重大な影響を回避するための方針や方法を示すべきです。また、クマタカの生息、サシバ等の猛禽類やツルの渡り経路についても、「鳥類への影響を極力低減」ではなく、回避する方法を記載すべきである。

熊本県知事は、「まず住民との十分なコミュニケーションに努めること」を意見している。貴社は、配慮書に対して87件もの意見が提出されていることを重く受け止めるべきで、当該事業は住民を第一に考えて検討すべき重責を担う事業であり、建設の可否を再度、十分に検討すべき事業である。

鳥類についても「水俣市の過去の調査結果から、クマタカとサシバの十分な調査」の必要性を知事は意見している。そのため貴社は、計画地が希少鳥類にとって重要な繁殖地となっているという視点を踏まえ、質、量ともに十分な調査を実施し、鳥類への影響を回避することが必須となる。特に貴社は「調査、予測、評価手法の検討を行う」としているが、検討ではなく、どのようにそれらを行うかの綿密な記載を方法書に記載する必要がある。

鹿児島県知事は、「インターネットでの継続閲覧」を求めている。しかし貴社は「積極的な情報公開及び説明に努めます。」と記載しているだけで、インターネットでの継続閲覧の記載がないことは極めて不十分である。

(4)鳥類調査の方法について

方法書6章では、一般鳥類の調査として定点調査と任意調査を考えているが、十分な調査を行うと述べられていることから、他の事業者も実施している例があるように、計画地に存在する環境要素を概ねカバーできるようなポイントセンサス調査およびラインセンサス調査も併用する必要がある。特に近年になって個体数が減少していると言われる夏鳥のアカショウビンやヤイロチョウ、サンコウチョウなどが繁殖していないか、十分に留意して調査すべきである。

また定点調査では、鬼岳北側方向の畑地と森林の調査地点が設定されていないが、計画地における鳥類の生息状況を詳細に把握するために葛渡までを補完する調査が必要である。さらに渡り鳥調査については、鬼岳の北西部に調査地点がないことで見落としが発生する。

計画地にはクマタカが生息していることから、方法書ではクマタカを上位種とし、典型種にヤマガラを挙げている。しかし、各々1種では、森林全体の生態や保全のあり方を予測、評価するには無理がある。計画地周辺には水田を有する貴重な里山環境が多くあり、クマタカだけでなくサシバやツミ、ハチクマが繁殖する可能性があるなど、希少猛禽類が繁殖していることも視野に入れて、繁殖期には繁殖ステージごとに連続した日程で終日調査等を実施するなど、それらの繁殖状況を詳細に把握する必要がある。特に森林で新しい命をつないでいる野鳥たちの環境を保全すべき観点からも、より多くの種について詳細な調査をすることが重要である。

さらに、計画地にはサシバ、ツミ、ハチクマ、ノスリなどの渡り経路が存在する可能性がある。また前述の通り、ナベヅル・マナヅルの移動経路がある可能性もあり、詳しく調査する必要がある。ツル類の移動経路の存在が認められれば、そこでの風車建設は避けることが必須である。

なお、クマタカをはじめサシバやトビ、ノスリ、チョウゲンボウなどの斜面上昇風や上昇気流を利用して獲物をとる猛禽類が計画地やその周辺を利用しているため、風車建設の影響を評価するためには、充分な空間飛翔調査等を実施し、高さ150m以上にも及ぶ風車建設による鳥類への影響を適切に評価する必要がある。
鳥類が夜間も移動していることは広く知られるようになっているが、計画地でも夜間に鳥類が飛翔する可能性があることから、渡りの時期などにレーダーを用いるなどの夜間調査を実施したうえで、風車建設による鳥類への影響を評価すべきである。特に、繁殖期にはヨタカやフクロウ類、冬期にはコミミズクやトラフズクなどが計画地を利用していないかを調査する必要がある。

計画地周辺には貴社の他に、矢筈岳、大関山、球磨村、宮ノ尾山にかけて計画地が設定されている風力発電事業がある。自社の計画地における影響評価を実施するだけでなく、他社とも互いに十分に情報を共有して累積的影響を評価するという視点で、繁殖する希少種はもちろんのこと一般種や渡り鳥等を含めて風車の建設がこの地域一帯の鳥類に与える影響を評価すべきである。

(5)アセス図書の縦覧方法について

アセス図書は、環境影響評価法により定められているとは言え、縦覧期間が1~1.5か月と短く、また、縦覧場所も限られており、インターネット上で閲覧は可能であるが、印刷ができないことが多いのは不便である。数百ページもあるアセス図書を縦覧場所、またはパソコン上のみで閲覧しながら意見書を作成することは、現実的ではない。縦覧期間が過ぎてしまうと作成した意見書の内容の誤りの有無をアセス図書と整合して確認することもできない。アセス図書の内容が、実際の計画地の状況と齟齬がないかを地域住民や利害関係者等が精査できることが、環境影響評価の信頼性を確保し、地域との合意形成を図るうえで不可欠である。そのため、縦覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などでアセス図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。なお、すぐにはアセス図書を常時公開することは難しいようであれば、多くの事業者が実施しているように、関係する自然保護団体等に紙媒体でのアセス図書を提供すべきである。

以上