(仮称)会津若松みなと風力発電事業環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年3月1日

160-0022 東京都新宿区6丁目27番地30号
新宿イーストサイドスクエア6階
株式会社イメージワン
代表取締役 新井 智 様

日本野鳥の会会津支部
支部長 満田信也
969-0806 福島県会津若松市宝町2-7

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤孝一(公印省略)
141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

「(仮称)会津若松みなと風力発電事業環境影響評価方法書」に対する意見書

貴社が作成された(仮称)会津若松みなと風力発電事業環境影響評価方法書に対し、環境保全の立場から下記のとおり意見を提出いたします。

(1)対象事業実施区域及びその周辺における鳥類の生息状況について

(仮称)会津若松みなと風力発電事業環境影響評価方法書(以下、方法書という)について、貴社が設定する対象事業実施区域及びその周辺(以下、計画地という)は、環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠB類かつ国内希少野生動植物種に指定され、福島県のレッドリストにも絶滅危惧ⅠB類として掲載されているクマタカの生息地と重なることが予想されることから、風力発電施設(以下、風車という)の建設により衝突死(以下、バードストライクという)および生息地放棄が発生する可能性が高いと考える。また、計画地にはサシバやハチクマなどの希少猛禽類の渡りの経路が存在するが、それに対しては障壁影響等が発生することが懸念される。

配慮書に対する意見書で、クマタカの生息状況の確認と猛禽類の渡りに関する調査について、私ども2団体では精度の高い調査を要望した。方法書によれば、希少猛禽類調査は「繁殖期と非繁殖期に実施し、各月1回3日間程度、繁殖期は2年間調査を実施する」としている。先ず、調査内容を具体的に示すべきである。繁殖期と非繁殖期の調査期間を明示し、全体で調査を何回実施するのかも明示すべきである。調査地点は11か所あるが、最低でも3日間ずつ11地点同時に行うべきである。
渡り鳥と希少猛禽類観察の定点からの可視領域が、計画地全体をカバーしていない。それのため鳥類への影響を評価する基礎データとしては不十分であり、調査自体の信頼性を損ねる可能性があるため、観察地点の配置の見直しを要望する。

また、一般鳥類の現地調査について、生物多様性の観点から計画地とその周辺に生息する鳥類全体の生息環境や生物多様性も評価すべきである。そのため、一般鳥類の調査も重要である。任意観察調査で、春夏秋冬の4季と繁殖期のテリトリーマッピング法調査を実施するとしているが、具体的な実施時期と回数を明示すべきである。5月は繁殖と渡りの時期でもあるので、他の時期より詳細な調査が必要で、この月は週に2回程度の調査が望ましい。

渡り鳥の調査について、方法書では冬春及び秋の3季に定点観察法で調査を実施し、秋の3か月間は各月複数回実施としているが、調査頻度の詳しい明示がない。渡り鳥の種類、個体数、時期は年による変動があり、対象区域におけるピークを把握することが難しいので、3日間連続の観察を月に4回の調査を2年間実施することを求める。レーダー調査を活用し、夜間の小鳥類の渡りの状況を把握することも要望する。

(2)方法書における影響評価について

背炙山地区には、南北の尾根沿いに大規模風力発電事業として、既設の「会津若松ウインドファーム」(エコパワー社)、計画中の「(仮称)クリーンエナジー会津若松風力発電事業」(クリーンエナジー合同会社)と「(仮称)会津若松ウインドファーム増設事業」(コスモエコパワー(㈱)社)、および貴社が計画中の「(仮称)会津若松みなと風力発電事業」、さらに南隣の山の尾根には既設の「郡山布引高原風力発電所」((㈱)グリーンパワー郡山布引)もあり、これらすべてが、猪苗代湖西岸から南岸の山の尾根上に並び建つという状況が生まれようとしている。一方で布引高原を除いて、計画地はクマタカなどの希少猛禽類の貴重な生息地となっており、高密度で繁殖している。国内では風車建設によりクマタカやハイタカなど希少猛禽類のバードストライクや生息地放棄が起きており、本事業が実施されるとクマタカなどの希少猛禽類にバードストライクや生息地放棄などの影響が生じ、さらに累積的影響として本事業によるもののみでなく近傍の既設風車でも影響が生じることが予測される。

計画地にサシバやハチクマなどの希少猛禽類等の渡りルートもあるので、事業の実施が障壁影響を生み出し、これらの渡り鳥が風車を大きく迂回し、迂回した先の既設風車群によりバードストライクが発生することも考えられる。貴社における環境影響評価ではこれら複数の事業が一体のものとなって生じる累積的影響を適切に評価し、地域全体の環境影響、特に希少猛禽類に対する影響が最小になるよう、影響の回避低減策を講じるべきである。計画地およびその周辺においては、いわゆる発電所アセスのガイドラインにあるような一般的な環境影響評価だけでなく、計画地の環境について知見を持つ利害関係者や専門家とも十分に協議したうえで、実施する調査の内容を決定されることを求める。貴社においても、風車の建設にあたっては、鳥類の生息状況を十分に把握し、地域の優れた自然環境と生物多様性が失われないよう適切な対応をとることを強く求める。

貴社の計画地の近くの既設風車でコウモリ類の衝突死事例(バットストライク)が発生したという報告がある。方法書で捕獲調査や音声モニタリング調査を実施するとしているが、コウモリ類の特性を踏まえ、風速と衝突頻度の関係についても調査、予測及び評価を行うことを求める。

(3)鳥類以外への影響について
①生態系の保全について

計画地の面積範囲の一部が日本森林浴の森100選にも選ばれている会津東山自然休養林と重なっており、風車の建設により、休養林として保全されている豊かな森林生態系が崩壊、または改変される恐れがある。そのことは森林保護を謳っている自然休養林としての存在意義が損なわれることになるため、休養林と重なる地域対象区域から除外することを強く求める。

さらに計画地の範囲に、地域住民の重要な水源や災害防止を担っている保安林が含まれている。この保安林は生物多様性保全を目的としている会津山地緑の回廊に繋がっている。風車の設置による保安林の改変および影響を受ける緑の回廊における上記の機能低下を避けるべきである。計画地には、絶滅危惧ⅠB類に指定されているクマタカの複数つがいが、高密度で生息している可能性が高い。生態系の頂点に立つクマタカ等の希少猛禽類は、餌動物となる多くの野生生物を育む豊かな自然環境に支えられているので、森林伐採や土地の改変が行われれば、餌となるノウサギ等の減少により、クマタカ等の生息地が奪われることとなる。計画地には優れた自然が多く残されており、環境省、林野庁が推進する生物多様性保全の観点からも極めて損失が大きいと考えられる。風車の設置予定範囲及び工事用道路等の改変地域を明確にし、評価するための方法を具体的に示すべきである。本事業については、生物多様性保全の観点から、中止も含めて事業規模を大幅に見直すことを要望する。

②累積的影響について

計画地の近傍には、前述のように、他社の既設風車と大規模な増設計画、またもう一つの他社の建設計画がある。それらが計画通りにすべて建設されると多数の風車が背炙山の尾根上に南北に並ぶことになり、生物多様性の保全と維持を目的として設置された緑の回廊が、環境改変により分断され、回廊の設置当初の趣旨が大きく損なわれる恐れが極めて大きい。貴社の計画地において単独で行う環境影響評価だけで評価できない累積的影響について、既設の風車及び計画の存在も含めて一体的に影響評価を行う累積的環境影響評価の適切な実施を強く求める。

③景観について

計画地がある背炙山は会津若松市の市街地の東に位置し、歴史的にも著名な観光施設の鶴ケ城の借景となっている。風車が建設されると尾根には人工物が並ぶことになり、歴史的な自然景観や観光価値も同時に損なわれる。評価は設定した主要眺望点からの垂直視野角で行うとしているが、背炙山から磐梯山方向や猪苗代湖の眺望を風車が損ねる可能性もあり、水平視野や市民の心情に対する影響も含めて適切に評価すべきである。また、フォトモンタージュ等を用い風車の建設の前後でどのように景観が変わる予定であるかを示し、準備書作成前に広く市民の意見を聴取するなどして、評価を行うべきである。さらに、送電線及び系統連携地点については、詳しい説明がない。送電線が山林に設置されると自然景観を阻害する可能性があり、大型風車の設置計画でもあるので、景観への影響を最小限にとどめるために建設位置や規模の再検討を求める。

④一般利用者への配慮について

計画地の一部はハイキング、自然観察などで、多くの一般市民に親しまれている。その工事中および完成後も市民の継続的な利用を促進できるように配慮すべきである。

⑤地域住民への配慮事項について

計画地には、赤井城跡の歴史的遺構があり、計画地を含む背炙山には、若松と湊地区を結ぶ生活道路があり、歴史的著名人も利用した記録がある。民俗的な見地から地元住民の意見を聴取するなど、事前調査を十分に実施するよう努めるべきである。

以上