(仮称)天竜風力発電事業環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年2月26日

JR東日本エネルギー開発株式会社
代表取締役社長 中島 等 様

日本野鳥の会遠江
代表 増田 裕 (公印省略)
静岡県袋井市砂本町3-12

公益財団法人日本野鳥の会
理事長 遠藤孝一 (公印省略)
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

「(仮称)天竜風力発電事業 環境影響評価方法書」に対する意見書

日本野鳥の会遠江、および(公財)日本野鳥の会は、地球温暖化対策および代替エネルギーとして実用的な技術レベルに達している風力発電をはじめとした自然エネルギーを積極的に導入していくことに賛成しています。ただし、風力発電の導入にあたり、野鳥など野生生物の生息に悪影響を及ぼし、現状の生物多様性に大きな影響を与えるのは本末転倒であり、生物多様性の危機のうち第4の危機(地球温暖化による地球環境の変化による危機)への対応によって第1の危機(開発や乱獲による種の減少・絶滅、生息・生育地の減少)を招くべきではないと考えています。

貴社が作成した環境影響評価方法書(以下、方法書という)に示されている対象事業実施区域(以下、計画地という)とその周辺は、風力発電施設(以下、風車という)の建設による影響を受けやすく、環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類および国内希少野生動植物種、天然記念物に指定されているイヌワシとクマタカの生息地であり、サシバやハチクマ等の希少猛禽類の渡り経路となっています。これらのことは、当会の調査等により継続的に確認され(添付クマタカ資料参照)、また、配慮書に対する経済産業大臣意見でも述べられており、環境省が作成した環境アセスメント環境基礎情報データベースシステム(EADAS)にある風力発電における鳥類のセンシティビティマップ(陸域版)でも「注意喚起A3」のメッシュとして示されています。

浦(2015)および武田(2013)によると、イヌワシやクマタカの風車に衝突死するバードストライクが発生していることがすでに国内で確認されています。また、風車の稼働によるクマタカの営巣地放棄については、三宅(2020)で報告されています。さらに、国内でも風車建設によりサシバおよびハチクマの渡りに障壁影響が生じていることがUra(2017)で報告されています。

上記を踏まえて希少猛禽類の保全の観点から考えると、風車の建設がこれらの鳥類に与える影響は甚大であると予測され、当該地域は風車建設には不適切であり、計画地として除外されるべき地域であると考えます。そのため、本事業は現地調査の実施、および環境影響評価準備書の作成に進まずに、現段階をもって事業を中止すべきです。

なお、下記の(1)から(6)の項目は前述の立場に立ったうえで方法書の記載内容に対して意見を述べるものであり、現地調査の実施および準備書の作成に進むことを容認するものではありません。

(1)対象事業実施区域の選定方法について

貴社は計画地の位置を選定するにあたり、浜松市が平成31年3月に公表した風力発電ゾーニング計画に基づく陸上風力発電ゾーニングマップを活用したと考えます。そのマップの中でBエリアに指定されているNo.4、No.6、No.7を、また、EADASにある鳥類のセンシティビティマップ(陸域版)で注意喚起A3のメッシュに指定されているエリアを計画地に含んでいます。しかし、これらの場所は風車の設置可能エリアではなく、立地にはクリアすべき課題があり調整が必要なエリア(Bエリア)および重要種が生息するために風車の建設には注意を要するエリア(A3)です。そのため、貴社は、これらのエリアを計画地から除外することを念頭に、再度、計画地の設定のあり方について浜松市およびその他の利害関係者と協議を行い、その結果によっては事業の撤回も検討すべきです。

(2)専門家等へのヒアリングの結果について

方法書6-11(343)から6-12(344)ページにかけて、3名の専門家による助言等の内容が記載されています。EADASのセンシティビティマップにもあるように、計画地周辺にはイヌワシが生息している可能性があるにもかかわらず、専門家等はそのことについてまったく言及していません。そのため、貴社は計画地周辺におけるイヌワシの生息状況についての助言をいただくことができる専門家等にもヒアリングを行い、計画地の位置や希少猛禽類調査の方法の妥当性について意見を得るべきです。

(3)希少猛禽類調査について
【イヌワシについて】

方法書の6-34(366)から6-38(370)ページにかけての「動物に係る調査、予測及び評価の手法」の中に希少猛禽類調査の方法が記載されており、そこには、猛禽類の保護の進め方(改訂版)を参照し、希少猛禽類の調査範囲はクマタカを想定し対象事業実施区域から1.5kmとすると記載されています。しかし、EADASでは計画地がイヌワシの生息地となっていることが推測されており、また、計画地が含まれるメッシュの北および東に隣接するメッシュはイヌワシの生息確認区域となっています。そのため貴社は、計画地にイヌワシが生息していることを想定して、希少猛禽類調査の方法を再検討したうえで、方法書を再度作成し直すべきです。そうすると、調査範囲は対象事業実施区域から1.5kmではなく、計画地が含まれる10km四方のメッシュ全体になります。

【クマタカについて】

既存文献および当会が所有する調査データにおいても、計画地がクマタカの生息地と重なっていることを確認しています。しかし、これらはクマタカの生息状況の把握を目的とした調査結果ではないため、計画地とその周辺におけるクマタカの詳しい生息状況が判明している訳ではありません。そのため、準備書の作成に向けては計画地におけるクマタカの生息状況や行動を詳細に把握する必要があり、計画地のようにクマタカの生息密度が高い場所では、つがいが谷ごとに行動圏を持つことが知られていますので、貴社は水系ごとに生息の有無等を確認する必要があります。具体的には、風力発電機設置予定区域にかかわる7つの水系のそれぞれで生息状況調査を2営巣期に渡り実施する必要があります。水系ごとに観察定点を設置し、月3回以上、時間帯は9~16時とし、必要に応じて早朝の時間帯を加えて調査を実施することを求めます。

(4)渡り鳥調査について

計画地における渡り鳥調査は、サシバやハチクマなど猛禽類の秋の渡りが中心対象になりますが、猛禽類の渡りは日による通過個体数の変動が大きいため、方法書に記載されている1回2日間とする月2回の定点観察調査では不足しています。そのため、計画地を利用する渡り鳥の状況を詳細に把握するためには、9月中旬から10月中旬は毎日8時から16時の8時間の連続調査を2シーズンは実施する必要があります。観察定点には、風力発電機設置予定区域を見晴らせる竜頭山山頂と山住家老平を含めるようにすべきです。

(5)一般鳥類調査について

任意観察法について、調査は風力発電機設置予定区域のみで実施すればよいですが、常光山周辺の自然林、山住神社付近の植林地、井戸口山から県民の森までの3エリアに分け、自然林と二次林を含むように観察定点を設置して、調査を実施することを求めます。特に常光寺山付近は自然林が広く残っている区域であり、風車の設置による環境改変が大きくなると予想されるため、BACI(Before–After Control Impact)と呼ばれる風車建設の前後影響比較のためにも、詳細な調査を実施することを求めます。なお、常光寺山付近での任意観察調査の期間は2年間とし、毎月実施することも求めます。

(6)住民説明会の実施について

貴社はアセス法に基づいて計画地のある地域で住民説明会を実施することが義務づけられていますが、現時点では説明会の開催が設定されていません。貴社は、オンライン形式など対面によらない方法でもよいので早急に住民説明会を開き、地域住民との円滑なコミュニケーションを図るべきです。アセス法の趣旨を蔑ろにしてはいけません。

以上


【引用文献】

  • 三宅 武.2020.風力発電開発で営巣地を放棄したクマタカ.野鳥841(2020年1月号):26-27.(公財)日本野鳥の会,東京.
  • 武田恵世.2013.風力発電機の鳥類の繁殖期の生息密度への影響.日本鳥学会誌62(2):135-142.
  • 浦 達也.2015.風力発電が鳥類に与える影響の国内事例.Strix 31:3-30.
  • Ura T., Kitamura W., Yoshizaki S. 2017. Case examples of barrier effects of wind farms on birds in Japan. Conference on Wind energy and Wildlife impacts 2017 Book of Abstracts:246-247.