三重県度会町での風力発電計画に対し意見書を提出

三重県「度会ウィンドファーム事業に係る環境影響評価準備書」に対する意見書を提出しました

2012.04.02

 公益財団法人日本野鳥の会(事務局:東京都品川区、会員サポーター数5万人)は、三重県度会町に大規模風力発電施設を建設計画中のエコ・パワー株式会社(代表取締役社長 周布 兼定氏)に対して、建設により希少鳥類の生息環境への影響が危惧されることから、建設の一部見直しや追加調査を要請する意見書を提出しました。要望事項の概要は次の5点です。

  1. 計画地の東側でクマタカが活発に活動するため、少なくとも計画地の東端から8基の風車は建設すべきではない。また、その周辺の尾根では大規模な工事を行うべきではない。
  2. クマタカについて、当初の計画通りに実行した場合の影響予測に加え、計画変更後の予測についても数値を示すなどして、具体的な影響の予測結果を示すべきである。
  3. 風車建設前のサシバの生息状況が風車の稼働によりどのような影響を受けるか予測し、事後調査の実施計画にサシバに関する内容を入れるべきである。
  4. 渡りルートについての評価では、1日だけの調査結果が示されているだけであり、その結果のみで計画地がメインの渡りルートではないと推定するには根拠が不十分である。追加調査を行い、再評価を行うべきである。
  5. ヤイロチョウが一度でも確認された以上、拡幅工事の予定地やその周辺でヤイロチョウが繁殖していないかを確認するため、次の繁殖期に追加調査を行うべきである。

意見書提出先

エコ・パワー株式会社

本件問合せ連絡先

公益財団法人日本野鳥の会(自然保護室・浦 達也)Tel 03-5436-2633

日野鳥発第 93 号
平成24年3月30日

エコ・パワー株式会社
代表取締役社長 周布 兼定 様

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長  佐藤 仁志
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

度会ウィンドファーム事業に係る「環境影響評価準備書」に対する意見書

 この度、貴社が作成された「度会ウィンドファーム事業に係る環境影響評価準備書」について、次のとおり意見を提出します。

  1. クマタカについて
    (1)計画地の南東側に営巣するクマタカについて
     度会ウィンドファーム事業に係る環境影響評価準備書・資料編の資‐60~資‐75で示されているように、計画地の南東側にクマタカが営巣しており、計画地東端の風車から数えて1~8基目までの地域で、活発な活動がみられる。さらに、資料編の飛翔図から作成したメッシュ地図(準備書・本編6-136)では、風車建設予定地の尾根の北側で飛翔頻度が高いことが示されている。おそらくこのクマタカのつがいは、尾根の南側だけでなく北側もなわばりとして活動していると考えられる。
     このような活発に活動する場所に風車を建設した場合、衝突事故が起こる以外にも、営巣放棄を引き起こす、繁殖成功率を低下させる、営巣の中心地と採餌場所を分断させるなど、営巣するクマタカのつがいにとって避けられない大きな影響を及ぼすと考えられる。
     そのため、少なくとも計画地の東端から8基の風車は建設すべきではなく、その周辺の尾根でも大規模な工事を行うべきではない。
    (2)クマタカへの影響の予測について
     準備書・本編7-10の9.1.1では、タカへの影響の予測結果として、「計画段階での変更を行って、改変面積を極力縮小したことによって、クマタカの生息への影響は実行可能な範囲で低減したと予測された」と示されている。本来は、建設前の状況と比べて、風車の稼働がクマタカの生息にどのような影響を及ぼすかを予測しなければならない。しかしながらここでは、方法書に記載された計画と比べ、計画変更後は影響が低減することしか書かれておらず、当初の計画どおり実行した場合の影響予測がどうであったのかが示されていない。ついては、当初の計画通りに実行した場合の影響予測に加え、計画変更後の予測についても数値を示すなどして、具体的な影響の予測結果を示すべきである。
  2. サシバについて
     準備書・本編6-66には、計画地の南側にサシバが営巣しており、計画地の西端から2~8基目までの地域で活動がみられる。今回の予定地は主要な活動場所ではないと思われるが、サシバは絶滅危惧種Ⅱ類とされていることから、近辺で少しでも活動が見られた場合には注意を払うべきである。
    少なくとも、サシバの生息状況が風車の稼働によりどのような影響を受けるか予測し、準備書・本編7-10の9.2の事後調査の実施計画にサシバに関する内容を入れるべきである。
  3. 渡りの調査について
     準備書・本編6-61~6-63に示されている渡り鳥の調査結果について、10月にC地点で630個体、D地点で884個体を観察している。それに対して計画地上空となるA地点では58羽という記録個体数であったことから、ここは渡りのメインルートではないとしている。
     一方、日本野鳥の会三重が本計画地域の南にある藤阪峠で過去5回行なわれた渡りの調査では、そのうち2回で、400羽を越える渡りが記録されている。また、渡りのコースは、その日の風向や風力などによっても変化することから、天候の都合により、渡りルートがCおよびD地点より南寄りに変化した場合、多数の鳥が計画地上空を通過する可能性も考えられる。
     いずれにしろ、本準備書では1日だけの調査結果が示されているだけであり、その結果のみで計画地がメインの渡りルートではないと推定するには根拠が不十分である。
     ついては今後、10月以降に渡るノスリ、ハイタカ、ツミも調査対象に含めて、十分な調査頻度を確保し、飛行高度の計測を含めた追加調査を行い、本計画地域が真にメインの渡りルートになっていないか、再評価を行うべきである。
  4. ヤイロチョウ(絶滅危惧種)について
     準備書・本編6-74で示されているとおり、計画地の北側に伸びる、今回改修し拡幅される予定の林道上でヤイロチョウの生息が確認されている。ヤイロチョウはレッドリストにおいて、環境省では絶滅危惧ⅠB類、IUCNではVulnerable(Ⅱ類)に指定されている希少な鳥である。また、ヤイロチョウは全国でも分布域が限られ、生息数もごくわずかであり、三重県内でもほとんど繁殖記録がない。ヤイロチョウの生態は十分に把握されていないが、ほとんど人の手が入っていない広い常緑広葉樹林で繁殖すると考えられている。今回観察された場所は林道を拡幅予定の地点であり、ここがヤイロチョウの繁殖地であれば、工事で受ける影響は重大であると考える。
     そのような絶滅危惧種であるヤイロチョウが一度でも確認された以上、拡幅工事の予定地やその周辺でヤイロチョウが繁殖していないかを確認するため、次の繁殖期に追加調査を行うべきである。なお、ヤイロチョウの繁殖が確認された場合、影響の予測を行い、その結果に応じた影響緩和策を講じるべきである。

以上