「銭函風力開発建設事業に係わる環境影響評価書案」に対する意見書を提出

日野鳥発第42号
平成22年10月21日

銭函風力開発株式会社
取締役社長 松島  聡 様

日本野鳥の会小樽支部
支部長 梅木賢俊
北海道小樽市富岡1-13-10

日本野鳥の会札幌支部
北海道札幌市中央区大通西17丁目1
支部長 山田三夫

財団法人 日本野鳥の会
会長 柳生 博
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

「銭函風力開発建設事業に係わる環境影響評価書案」
に対する意見書

 この度、貴社が作成された「銭函風力開発建設事業に係わる環境影響評価書案」について、次のとおり意見を提出しますので、よろしくご検討ください。

 なお、北海道小樽市銭函のウインドファーム計画策定にあたり、環境影響評価書案を提示し、意見を公募される機会を設けられたことを評価しております。

  1. 猛禽類について
     別添の「資料編(種類別猛禽類確認結果)」にある絶滅危惧ⅠB類/国内希少野生動植物種/天然記念物のオジロワシおよびオオワシ、準絶滅危惧のミサゴ、トビ、ノスリの確認位置をみると、あきらかに飛行コースの障害となり、また飛行高度から、衝突の危険性が非常に高いと考えられます。また、環境影響評価書案(以下、評価書案)の中にあるミサゴ、オジロワシの予測結果では、「風車への衝突については留意する必要がある」と記されております。
     このようなことから貴社は、既に当該計画の建設予定地が風力発電施設(以下、風車)の建設に適切ではないと認知しているのではないかと考えます。
  2. オジロワシをはじめとした猛禽類と新川河口について
     オジロワシをはじめとする猛禽類が確認された位置に、新川河口があります。新川水系及びその西側直近の星置川は、9月から翌年1月にかけ1,000尾近くの遡上が確認されている(札幌市豊平川さけ科学館)、サケ・マスの遡上河川です。サケの遡上期にはその残滓が、また春には、自然産卵されて、孵化・成長した稚魚が降下し、これらが猛禽類をはじめとした鳥類の餌となっています。
     越冬期には、オジロワシは採餌のために石狩川河口地域から新川及び星置川河口へ飛来します。しかし、計画地の海岸はその飛行ルートにあたるため、風車への衝突の危険性が非常に高いと考えられます。
  3. 希少猛禽類に対する調査不足について
     希少猛禽類であるオジロワシとオオワシが冬期間、越冬地に安定して棲息するのは、1月後半から2月後半です。オジロワシ・オオワシ一斉調査がこの時期に行なわれるのは、そのためです。しかし、貴社が行った猛禽類を対象とした調査では、1月及び2月は含まれていません。このことは、調査上、重大な誤りと考えます。そこで、1月及び2月に再調査を行なわなければ、風車設置が希少猛禽類に及ぼす影響を適切に評価できません。
  4. 予防原則の遵守について
     北海道内において風車建設後、これまでにオジロワシ・オオワシの衝突事故は17例発生しています。そのうち14例が日本海沿岸地域で起きています。また、うち1例は当該計画地に近い、石狩市民風力発電所で起きたものです。
     貴社の調査結果でも明らかなように、当該計画地ではオジロワシの飛行が多数みられ、また既存の事例からも、当該計画地で風車を建設することは特にオジロワシの衝突死の発生確率を高めると考えます。予防原則を遵守するならば、当該計画地は風車建設に不適であると考えられます。
  5. 絶滅危惧ⅠA類シマアオジについて
     評価書案の129ページの図によれば、6月3日~6日の調査において、シマアオジの成鳥オスが確認されています。また、日本野鳥の会札幌支部の会員により、銭函5丁目の草原において、2009年8月13日にシマアオジの幼鳥メスが確認されています。6月初旬はシマアオジの繁殖前期にあたり、さらにほぼ同じ行動圏において、前年に繁殖個体の幼鳥が確認されていることから、この地域でシマアオジが繁殖活動を行っていることは間違いありません。風車の建設予定地は、シマアオジの行動圏(40,000~70,000㎡)と重なっており、風車建設による環境悪化や生息地の改変などがシマアオジの繁殖に重大な影響を及ぼすおそれがあります。そのため、シマアオジが確認された場所から周囲400m~700mにある3~8号機については、風車の建設計画を見直す必要があります。
  6. 絶滅危惧ⅠB類アカモズについて
     129ページの図によれば、アカモズが12か所で計16羽の棲息が確認されており、親鳥の給餌や餌運び行動、さらには繁殖した幼鳥と共に行動しているところも確認されています。また、2009年に日本野鳥の会札幌支部の会員により、2つがいのアカモズの繁殖を確認しています。アカモズはここ数年急速に生息数が大きく減少していますが、北海道内でこれほど多数のアカモズが広範囲に繁殖する場所は今のところ、当該計画地以外にはありません。ここに風車を建設すれば、工事車両や関係者の出入り、環境悪化や生息地の改変により、生息地が壊滅的な打撃を受けるおそれがあります。そのため、アカモズの行動圏テリトリー(150~200m)にあたる1~3号機、7~8号機および10~15号機については、風車の建設計画を見直す必要があります。
  7. 天然記念物マガンについて
     129ページの図によれば、マガンの群が2度にわたり、石狩湾新港内の海側から1号機および2号機の風車建設予定位置の上空を通過し、東方向に飛翔しています。マガンの飛翔高度は、美唄市宮島沼の観察や福井県あわら市における(財)日本野鳥の会による調査結果などによれば、高度30mから150mの範囲の飛行が一般的です。そのため、マガンの飛翔コースと重なる1~2号機を建設した場合、マガンが衝突死する可能性があるので、1~2号機の風車建設を見直す必要があります。
  8. 鳥類の主要な移動ルートとなっている海岸沿いの範囲について
     8ページおよび12ページの地図をみると、1~8号機の建設位置から南側500mに、連続して工場の建物が立ち並んでいます。このため、海岸沿いを南下する鳥類の群や猛禽類などの大型鳥類のほとんどは工場の高い建物の上空を通過するのを避け、飛行コースを建設予定地のある海岸寄りにとっています。144~152ページにある猛禽類の行動範囲も、ほとんどは工場の建物のある場所を避け、建設予定地となっている狭い海岸沿いの範囲内を飛行せざるを得ない状況となっています。以上のことから、1~ 8号機の風車建設予定地は大型の鳥類の飛行コース上にあり、風車建設によりそれらが衝突死する可能性が極めて大きいため、1~8号機の風車建設計画を見直す必要があります。
  9. 環境影響評価書案における評価予測の矛盾と破綻について
     評価書案において、淡水沼を含む新川河口地域は、ガン・カモ類、ワシ・タカ類及びシギ・チドリ類の採餌、休息等の場として評価されています。
     そして、評価予測の結果、主に猛禽類ミサゴの生態に着目して、生息に及ぼす影響を最小限にとどめたいとの観点から新川河口地域における風車建設の見直しを行っています。
    一方、風車建設計画地北東端に隣接する石狩湾新港の港湾用途区域(新港の南西端地区、風車建設計画区域外)は、廃棄物処理用地(40.8ha)、土砂処分用地(28.7ha)とされる区域で、用途区分の性格上、沼や湿地、干潟の状態を呈して水鳥類等にとって良好な生息環境となっています。
     したがって、そこは新川河口域と同様にガン・カモ類、ワシ・タカ類及びシギ・チドリ類の採餌、休息等の場として当該地域における重要な場所となっています。
     これらの鳥類のうち、シギ・チドリ類、ガン・カモ類は、採餌や春秋の渡りの時期には夜間に飛ぶことが多いことから、石狩湾新港南西端の廃棄物処理用地等に隣接して建設が計画されている風車については、評価書の調査結果からも予測できるように、これら鳥類にとって大きな障壁となり、衝突死を引き起こすおそれが高いと考えられます。
     評価書案では、新川河口地域については、「新川右岸側に存在する池の周囲に計画していた3基については、環境調査結果と有識者の意見等を踏まえて動植物に対する影響を可能な限り低減するため、建設計画から外して最終変更案とした」と記載されていますが、石狩湾新港側に建設する風車が抱える立地上の影響については、新川右岸の評価予測と同質のものであり、評価書案のとおり建設を進めることになれば評価予測に矛盾を生じ、評価予測は破綻していると考えます。計画の見直しが必要です。
  10. 草原性鳥類、森林性鳥類に及ぼすバードストライク以外の影響
     風車建設によって直接失われる面積は8.7haと算定されていますが、一つ一つの風車がもたらす影響は、単に施工改変された土地やバードストライクだけにとどまるものではありません。
     鳥類に関する影響については、ここ数年、日本鳥学会会員による風車建設後の調査が行われており、風車建設がもたらす影響が明らかにされてきています。
     武田恵世(2010 日本鳥学会2010年度大会講演要旨集:84)によると、風車建設後の森林と対照区の森林で繁殖期の調査をおこない比較検討した結果、「(前略)生息密度は約1/22であった。すなわち、建設後少なくとも11年では年月と共に鳥類が増えていることはなく、風力発電機の影響を受けない、あるいは順応している個体は非常に少ないままであると考えられる。野鳥は騒音を発生する人工建造物にある程度順応性があり、鉄道や高速道路、空港周辺に野鳥が多い場所があることはよく知られている。しかし、風力発電機には順応していない理由は、稼働の日変動、年変動が極めて大きく、稼働中も風波と呼ばれる風向、風速の変動による変化が大きいこと、また、特殊な騒音、特に低周波音の影響や、ストロボ効果の影響などが考えられる。風力発電機の鳥類の生息への影響は極めて大きく、風力発電所の立地には慎重な検討が必要であると考えられる。」と述べています。
     風車の建設計画がない六線浜周辺とその北東及び南西に連なる砂丘列の草地(風車建設地)や低木疎林は一連の環境であり、ノビタキ、ホオアカなどが生息するとともに、アカモズが生息、繁殖しています。第6項でも述べているとおり、六線浜の北東部及び南西部の区域で風車建設が行われた場合、現在、急速に個体数が減少しているアカモズにとって、その影響は極めて大きいと考えられます。
     砂丘草地を採餌環境とする絶滅危惧ⅠB類チュウヒ、ハイイロチュウヒやノスリなどの猛禽類にとっても影響は大きいと予測されます。
     また、砂丘列の後背林であるカシワ林には、森林性鳥類が生息していますが、風車建設によって、鳥類の生息密度が低下し、やがては森林生態系に大きな影響を及ぼすと考えられます。
     上記の場所における風車建設は、砂丘生態系全体に重大な影響を及ぼすことが予測されるものであることから、計画の見直しが必要と考えます。

以上