プレスリリース 2006.05.09
日本野鳥の会が北海道苫小牧市周辺の勇払原野の保全構想を策定
2006.5.9
(財)日本野鳥の会(本部:東京、会長:柳生博 会員数4万6千人)は、ウトナイ湖サンクチュアリを含む勇払原野の調査結果に基づき、この地域の保全に関する独自の構想を策定し、「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」として発行した。勇払原野の大半は苫小牧東部開発地域であるが、未利用地が多く、鳥類調査の結果、釧路湿原やウトナイ湖に匹敵する豊かな自然環境であることが明らかになった。調査結果を元に、勇払原野を広域的に保全・再生していく構想を提唱した。また、様々な立場の利害関係者が参加して、生態学的な視点から保全計画を協議する場の設置を提案している。(報告書の入手先はこちら)
■背景
勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられている。約3万6千haの原野を構成する湿原の面積は過去50年で著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約登録湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしている。当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめた。
■勇払原野の歴史と現状
勇払原野は台地、砂丘、湿原、湖沼と複雑な環境を持ち、先住のアイヌ民族により川を利用した太平洋側と日本海側を結ぶ交通の要衝として、またサケやシカ等の資源に恵まれた土地として自然と共存した文化があった。勇払原野の開拓は江戸時代後期からで、農業開拓は湿地と霧、火山灰土に阻まれあまり進展しなかった。その後1960年代からの高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートした。しかしその後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700haの土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっている。
■鳥類調査の結果
当会が2000年~2003年に調査を行った結果、センサス等の鳥類相調査から、勇払原野で記録された野鳥は276種で、国内で記録されている野鳥の約半数を占め、釧路湿原やサロベツ原野で行われた類似の調査よりも種類数が多く、環境も多様性に富んでいることが示唆された。併せて釧路湿原と同様に森林と湿原を併せた環境を持つことが特徴であることが明らかになった。
苫小牧東部開発地域にかかるエリアで行った重点的な調査では、この地区がウトナイ湖に匹敵する希少な野生鳥獣の生息域であり、かつての勇払原野の面影を残す景観的にも優れた、豊かな自然環境であることを確認した。希少種を対象とした調査では、15種類以上の希少種が確認された(別紙参照)。このうちシマアオジ、チュウヒ、サンカノゴイ、オオジシギ、ガン類については
c3細な調査を行い、苫小牧東部開発地区がシマアオジとチュウヒにとって重要な繁殖地であること、ガン類やオオジシギについてはラムサール条約湿地の基準となる生息数を満たしていること、オオジシギの生息個体数は国際的な水鳥保護ネットワークの参加基準を満たしていることが明らかになった。
■勇払原野の保全構想
勇払原野の今後の保全を考えるにあたり、鳥類調査の結果を総合して検討した結果、ヨシ原、湿地林等の低湿地を中核とした環境に希少種を含む鳥類が分布しており、こうした低湿地を中心とした保全が必要であることが明らかになった。そこで、勇払原野の特性を保つ特に重要な3つのコアエリア(美々川・ウトナイ湖、静川・弁天沼及び周辺草地、厚真・鵡川及び植苗・早来地区)の環境を維持することを軸として、原野環境を広域的に保全・再生していくことを提唱した。
勇払原野の法令等による指定は断片的で、生息地の分断化も進んでおり、このままでは開発の進展により勇払原野の特性が失われてしまうおそれがある。水系全体の保全と生息地の連続性の再生をめざし、勇払原野全体の一体的な保全をはかるための保全計画立案が今後必
?である。このため、様々な立場の利害関係者が参加して、生態学的な観点から保全計画を協議する場の設置を提案する。
■今後について
今後はこの報告書を活用した保全を目指し、関係者への働きかけや市民向けのシンポジウムなどを行っていく。
- 本件についての問合せ先
- 財団法人 日本野鳥の会 サンクチュアリ室
ウトナイ湖サンクチュアリ担当 原田修
〒059-1365 北海道苫小牧市植苗150-3
TEL 090-8929-5027
参考資料
勇払原野で記録のある希少鳥類
No | 種名 | 学名 | 調査期間中の 記録種 |
環境省 RDB |
北海道 RDB |
IUCN RDB |
1 | カンムリカイツブリ | Podiceps cristatus | VU | |||
2 | サンカノゴイ | Botaurus stellaris | ○ | EN | EN | |
3 | オオヨシゴイ | Ixobrychus eurhythmus | ○ | EN | NT | |
4 | コウノトリ | Ciconia boyciana | ○ | CR | EN | EN |
5 | マガン | Anser albifrons | ○ | NT | NT | |
6 | ヒシクイ | Anser fabalis (serrirostris) | ○ | VU | NT | |
7 | (オオヒシクイ)※ | Anser fabalis middendorffi | ○ | NT | ||
8 | コハクチョウ | Cygnus columbianus | NT | |||
9 | オシドリ | Aix galericulata | NT | |||
10 | シノリガモ | Histrionicus histrionicus | NT | |||
11 | ミコアイサ | Mergus albellus | VU | |||
12 | ミサゴ | Pandion haliaetus | ○ | NT | VU | |
13 | ハチクマ | Pernis apivorus | ○ | NT | NT | |
14 | オジロワシ | Haliaeetus albicilla | ○ | EN | EN | NT |
15 | オオワシ | Haliaeetus pelagicus | ○ | VU | EN | VU |
16 | オオタカ | Accipiter gentiles | ○ | VU | VU | |
17 | ハイタカ | Accipiter nisus | NT | VU | ||
18 | ケアシノスリ | Buteo lagopus | NT | |||
19 | ハイイロチュウヒ | Circus cyaneus | NT | |||
20 | チュウヒ | Circus spilonotus | ○ | VU | VU | |
21 | シロハヤブサ | Falco rusticolus | NT | |||
22 | ハヤブサ | Falco peregrinus | ○ | VU | VU | |
23 | エゾライチョウ | Tetrastes bonasia | DD | NT | ||
24 | ウズラ | Coturnix japonica | DD | NT | ||
25 | ナベヅル | Grus monacha | VU | VU | ||
26 | タンチョウ | Grus japonensis | ○ | VU | EN | EN |
27 | クイナ | Rallus aquaticus | NT | |||
28 | ヒメクイナ | Porzana pusilla | NT | |||
29 | オオジシギ | Gallinago hardwickii | ○ | NT | NT | |
30 | ケイマフリ | Cepphus carbo | VU | VU | ||
31 | ヨタカ | Caprimulgus indicus | NT | |||
32 | アカショウビン | Halcyon coromanda | NT | |||
33 | クマゲラ | Dryocopus martius | ○ | VU | VU | |
34 | オオアカゲラ | Dendrocopos leucotos | N | |||
35 | アカモズ | Lanius cristatus | ○ | NT | NT | |
36 | シマアオジ | Emberiza aureola | ○ | NT | NT |
CR:絶滅危惧IA類,EN:絶滅危惧IB類,VU:絶滅危惧II類,NT:準絶滅危惧,DD:情報不足,N:留意種
(※ヒシクイのみ亜種によって環境省RDBのランクが分かれているため亜種別に記述)
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PDF 勇払原野の保全構想策定に関するプレスリリース