プレスリリース 2009.08.06


愛知県内の16野鳥保護団体の連絡協議会と(財)日本野鳥の会、日本湿地ネットワークが連名で愛知県・トヨタ自動車に対し里山環境を破壊する研究開発施設用地造成事業の見直しを要望

2009.08.06

愛知県野鳥保護連絡協議会
21世紀の巨大開発を考える会
財団法人 日本野鳥の会
日本湿地ネットワーク

 愛知県野鳥保護連絡協議会(事務局:愛知、議長:大羽康利、加盟団体16)、21世紀の巨大開発を考える会(事務局:愛知、会長:織田重己)、財団法人日本野鳥の会(事務局:東京、会長:柳生博、会員・サポーター数約5万1千人)、日本湿地ネットワーク(事務局:埼玉、代表:辻淳夫)は、8月6日までに、愛知県ならびにトヨタ自動車に対して、愛知県豊田市と岡崎市にまたがる豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業の計画地におけるミゾゴイ等の絶滅危惧種の保護施策と同事業の見直しを求める要望書を提出しました。また環境省に対し、本件に関する愛知県への助言を求めました。

 これは、愛知県野鳥保護連絡協議会加盟団体の21世紀の巨大開発を考える会と日本野鳥の会愛知県支部が、現在、環境影響評価のため各種調査などが進められている「豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業」計画地内において、絶滅危惧種の野鳥ミゾゴイの繁殖中の2巣と7羽の生息を確認したことに伴うもの。本年7月8日にミゾゴイの巣1巣、親鳥2羽、ヒナ3羽の計5羽の生息を確認し、さらに、7月15日、別の1巣を確認しました。この巣は途中で営巣放棄されていたと見られますが、雌雄2羽の存在が推測されます。

 この事実に基づき、同協議会らは8月4日付けで愛知県とトヨタ自動車に提出した「豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業計画地の生物多様性の保全に関する要望書」の中で、国際的な自然環境保全の見地から、同事業計画による里地・里山環境の破壊を回避し、環境破壊といった悪影響のない代替地の検討・確保を求め、また愛知県に対しては同計画地内の湿地のラムサール条約湿地への登録の検討を求めました。そしてこの件に関する公開での説明および協議の場の開催を併せて求めています。また環境省に対しては8月6日、生物多様性条約第10回締約国会議開催にあたり、同条約の精神、生物多様性国家戦略に基づく絶滅のおそれのある種の保存及び里地里山の保全の観点、及びラムサール条約に基づく湿地保護の観点、そして生物多様性基本法の制定を踏まえて、愛知県が生物の多様性に及ぼす影響を回避する施策をとることができるよう、助力を求めました。

ミゾゴイ

全世界で1,000羽程度しか生息していないと推定されており、これまで日本以外での繁殖の確認事例はない。フィリピンなどから日本に春先に渡来し、繁殖活動を行なったあと、秋にフィリピンなどに渡去する。環境省レッドリスト(2006)、および愛知県レッドデータブックでは、絶滅のおそれが高いとして、絶滅危惧IB類とされている。
従来は山林で繁殖すると考えられていたが、里山の林で営巣し、周辺の草地や水田、果樹園等で採食することが最新の研究で明らかになってきている。したがって、森林と草地、水田がセットになった環境を保全しないと、生存できないと思われる。

ラムサール条約

水鳥の生息地として、全生息個体数の1%以上の生息が確認されれば、条約登録地として保全の対象地域に指定できる。
ミゾゴイに関しては、現在、生息数は少なくとも600羽とされており、6羽以上の生息が確認されれば条約湿地の登録用件を満たすと考えられる。

豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業

  • 愛知県東部の豊田市と岡崎市の下山地区において愛知県が研究開発施設用地を造成する計画で、総面積660ha(東京ドーム141個分)。
  • 現在の改変予定面積280ha(当初410haから、2008年9月に縮小を発表)、2010年着工予定。
  • 愛知県企業庁が用地買収、造成を行った後、トヨタ自動車が購入し、テストコース、研究棟、実験棟、厚生施設などを建設する計画となっている。
  • 現在の計画は、テストコースは6キロの周回路、2キロの直線、4キロの周回路など14コース
    研究者だけで5,000人、その他の就労者と合わせて6,000人が就労予定(参考:下山地区の5月1日現在の人口は5383人)
  • トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)から30分以内の距離にあり、この距離が同地選定の最大の理由とされている。
  • この開発により、30種以上の絶滅のおそれのある種を含む里山の生物の生息する、良好な生息環境が破壊されると考えられる。
  • 同地では約30年前にトヨタ自動車が独自で開発計画を立てたが、この時は地権者の大反対にあい頓挫した経緯がある。

◎経過(愛知県企業庁の発表資料より)
2008年9月1日 絶滅危惧Ⅱ類のサシバやハチクマ(いずれも猛禽類)の繁殖が確認されたため、改変面積を410haから280haに縮小。
2008年12月3日 計画地内にてレッドリストに記載されている種を30種確認。
2009年1月16日 計画地の9割で土地売買契約を結ぶ(前年8月より買収交渉開始)
2009年2月23日 計画地(豊田市側)の買収契約96%完了(豊田市議会より)
2009年4月17日 企業庁が設置した「自然環境保全技術検討会」の初会合が実施される

愛知県野鳥保護連絡協議会

1992年8月発足し、現在は以下16団体が加盟(順不同)
日本野鳥の会愛知県支部・岡崎野鳥の会・三河湾水鳥調査会・西三河野鳥の会・海上の森自然観察会・藤前干潟を守る会・名古屋鳥類調査会・尾張野鳥の会・渥美自然の会・愛知生物調査会・カラスの弁護人ネットワーク・パンダクラブ愛知・三ヶ根ハヤブサを守る会・21世紀の巨大開発を考える会・汐川干潟を守る会・扇子山タカの渡り観察グループ

豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業については、2008年1月7日と2009年3月19日に愛知県に対して里山環境の保全を求める要望書を提出している。
議長 大羽 康利 渥美自然の会
加盟団体の「21 世紀の巨大開発を考える会」は2007 年11 月1 日発足。以来、一貫して豊
田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業問題を追究している。
ホームページ http://bio-diversity.info/
会長 織田 重己

ミゾゴイ繁殖確認の経緯

21世紀の巨大開発を考える会と日本野鳥の会愛知県支部は、愛知県が現在環境影響評価のための各種調査を実施しているのと平行して、「豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業」対象地内において、絶滅危惧種の野鳥の調査を実施。
 本年4月からは、断片的な観察記録が得られていたミゾゴイについて、繁殖の可能性が高いことをつきとめ、重点的に調査、観察を重ねた。そして本年7月8日にミゾゴイの巣1巣を事業予定地内で確認し、親鳥2羽、ヒナ3羽の計5羽の生息を観察。その後同月22日にヒナが無事、巣立ったことを確認した。
さらに、先の場所から離れた同事業予定地内において7月15日、別の1巣を確認。7月30日に繁殖途中で営巣放棄されたことを確認したが、先の巣とは別の雌雄2羽の存在が推測された。従って、同計画地内には今年、最低7羽のミゾゴイが生息していると推定できる。

営巣が発見された絶滅危惧IB類のミゾゴイ(ひな)。


(写真提供 21世紀の巨大開発を考える会)

★この撮影にあたってはミゾゴイの保護に十分配慮して行い、またその後の無事の巣立ちを確認しています。



日野鳥発第23号
2009年8月4日

愛知県知事  神田 真秋 様

21世紀の巨大開発を考える会
会長  織田 重己
愛知県野鳥保護連絡協議会 
議長  大羽 康利
財団法人 日本野鳥の会
会長  柳生 博
日本湿地ネットワーク(JAWAN)
代表  辻 淳夫

豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業計画地の
生物多様性の保全に関する要望書

 日頃、環境行政にご理解・ご尽力いただき感謝申し上げます。
 さて、貴県において推進されている豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業計画地において、この度、私どもの調査により、絶滅のおそれのある鳥類(環境省
2006、愛知県 2009共に絶滅危惧ⅠB類)であるミゾゴイの繁殖が確認されました。ミゾゴイは地球上に1,000羽程度しか生息していないと推定されており(IUCN
2009)、日本でのみ繁殖が確認されている国際的に貴重な種です。ラムサール条約の登録基準6(水鳥の1種の個体群の1%以上を定期的に支えている湿地)をクリアする個体数は6羽とされています(Wetlands
International 2006)。今回の私どもの調査では、少なくとも7羽の生息を確認しており、ラムサール条約湿地への登録基準をも満たす貴重な湿地を含む里山環境であることが改めて確認されました。
 その他、絶滅危惧Ⅱ類(環境省 2006、愛知県 2009共)で猛禽類のサシバも事業計画地内で繁殖しています。ミゾゴイ、サシバは湿地(水田を含む)、草地、森林がセットになった里山環境に生息しますので、全国的に減少しているこれらの種の生息環境が、当該地では良好に維持されており、これらを破壊しないことが必要です。ミゾゴイは3年に一度程度、巣の位置を変えると考えられる観察事例があるため、その保護のためには、今回発見された営巣地付近だけではなく、湿地(水田を含む)、草地、森林がセットになった環境を計画地一帯で保護しないと、種の保存には到らないと思われます。
 愛知県野鳥保護連絡協議会は既に本年3月19日に、代替地の検討・確保を進め、本事業計画による里地・里山環境の破壊を回避することについて要望をしておりますが、更に上記のことを踏まえ、次のように要望いたします。

  1. 豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業計画地が貴県および環境省の指定した絶滅危惧種の重要な生息地であることを踏まえ、国際的な自然環境保全の見地から、このような影響のない代替地の検討・確保を進め、本事業計画による里地・里山環境の破壊を回避してください。
  2. ミゾゴイの生息状況を精査し、計画地一帯を「豊田の里山湿地」といった名称でラムサール条約湿地へ登録することを検討してください。
  3. 以上のことについて、公開での説明および協議の場の開催してください。

 貴県において2010年に開催される生物多様性条約第10回締約国会議を迎えるにあたり、従来の計画を再考しない限り、貴県が日本の自動車産業と共に生物多様性保全について国際的な批判を浴びることになるであろうことを、私どもは憂慮しております。生物多様性基本法の制定も踏まえて、生物の多様性に及ぼす影響を回避する施策となるよう、英断をくだしていただくことを切に希望しております。


日野鳥発第24号
2009年8月4日

トヨタ自動車社長  豊田 章男 様

21世紀の巨大開発を考える会
会長  織田 重己
愛知県野鳥保護連絡協議会 
議長  大羽 康利
財団法人 日本野鳥の会
会長  柳生 博
日本湿地ネットワーク(JAWAN)
代表  辻 淳夫

豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業計画地の
生物多様性の保全に関する要望書

 日頃、自然環境の保全にご理解・ご尽力をいただき感謝申し上げます。
 さて、愛知県が計画し御社において造成後の土地利用を計画されている豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業の計画地において、この度、私どもの調査により、絶滅のおそれのある鳥類(環境省
2006、愛知県 2009共に絶滅危惧ⅠB類)であるミゾゴイの繁殖が確認されました。ミゾゴイは地球上に1,000羽程度しか生息していないと推定されており(IUCN
2009)、日本でのみ繁殖が確認されている国際的に貴重な種です。ラムサール条約の登録基準6(水鳥の1種の個体群の1%以上を定期的に支えている湿地)をクリアする個体数は6羽とされています(Wetlands
International 2006)。今回の私どもの調査では、少なくとも7羽の生息を確認しており、ラムサール条約湿地への登録基準をも満たす貴重な湿地を含む里山環境であることが改めて確認されました。
 その他、絶滅危惧Ⅱ類(環境省 2006、愛知県 2009共)で猛禽類のサシバも事業計画地内で繁殖しています。ミゾゴイ、サシバは湿地(水田を含む)、草地、森林がセットになった里山環境に生息しますので、全国的に減少しているこれらの種の生息環境が、当該地では良好に維持されており、これらを破壊しないことが必要です。ミゾゴイは3年に一度程度、巣の位置を変えると考えられる観察事例があるため、その保護のためには、今回発見された営巣地付近だけではなく、湿地(水田を含む)、草地、森林がセットになった環境を計画地一帯で保護しないと、種の保存には到らないと思われます。
 愛知県野鳥保護連絡協議会は既に本年3月19日に愛知県に対し、代替地の検討・確保を進め、本事業計画による里地・里山環境の破壊を回避することについて要望をしておりますが、更に上記のことを踏まえ、次のように要望いたします。

  1. 豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業計画地が愛知県および環境省の指定した絶滅危惧種の重要な生息地であることを踏まえ、国際的な自然環境保全の見地から、御社の事業をこのような影響のない代替地に変更することにより里地・里山環境の破壊を回避してください。
  2. 以上のことについて、公開での説明および協議の場の開催してください。

 愛知県において2010年に開催される生物多様性条約第10回締約国会議を迎えるにあたり、従来の計画を再考しない限り、御社の事業が生物多様性保全について国際的な批判を浴びることになるであろうことを、私どもは憂慮しております。私どもは御社が生物多様性ガイドラインを公表され、また御社が加盟される(社)日本経済団体連合会からも生物多様性宣言が宣言されましたことを歓迎し、たいへん注目しております。生物多様性基本法の制定も踏まえて、本件に関する事業が生物の多様性に及ぼす影響を回避する事業となるよう、英断をくだしていただくことを切に希望しております。


日野鳥発第25号
2009年8月6日

環境大臣 斉藤鉄夫 様

21世紀の巨大開発を考える会
会長  織田 重己
愛知県野鳥保護連絡協議会 
議長  大羽 康利
財団法人 日本野鳥の会
会長  柳生 博
日本湿地ネットワーク(JAWAN)
代表  辻 淳夫

豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業計画地の
生物多様性の保全に関する要望書

 日頃、環境行政にご尽力いただき感謝申し上げます。
 さて、愛知県において推進されている豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業計画地において、この度、私どもの調査により、絶滅のおそれのある鳥類(環境省
2006、愛知県 2009共に絶滅危惧ⅠB類)であるミゾゴイの繁殖が確認されました。ミゾゴイは地球上に1,000羽程度しか生息していないと推定されており(IUCN
2009)、日本でのみ繁殖が確認されている国際的に貴重な種です。ラムサール条約の登録基準6(水鳥の1種の個体群の1%以上を定期的に支えている湿地)をクリアする個体数は6羽とされています(Wetlands
International 2006)。今回の私どもの調査では、少なくとも7羽の生息を確認しており、ラムサール条約湿地への登録基準をも満たす貴重な湿地を含む里山環境であることが改めて確認されました。
 その他、絶滅危惧Ⅱ類(環境省 2006、愛知県 2009共)で猛禽類のサシバも事業計画地内で繁殖しています。ミゾゴイ、サシバは湿地(水田を含む)、草地、森林がセットになった里山環境に生息しますので、全国的に減少しているこれらの種の生息環境が、当該地では良好に維持されており、これらを破壊しないことが必要です。ミゾゴイは3年に一度程度、巣の位置を変えると考えられる観察事例があるため、その保護のためには、今回発見された営巣地付近だけではなく、湿地(水田を含む)、草地、森林がセットになった環境を計画地一帯で保護しないと、種の保存には到らないと思われます。
 上記のことを踏まえ、私どもは愛知県と造成地の利用を行なう予定のトヨタ自動車に対し、このほど別紙のような要望書を提出し、里山環境の保全に影響のない代替地の検討・確保による本事業計画による里地・里山環境の破壊を回避と、ラムサール条約湿地の登録の検討について要望しました。

 貴省におかれましても、生物多様性条約第10回締約国会議を開催するにあたり、同条約の精神、生物多様性国家戦略に基づく絶滅のおそれのある種の保存及び里地里山の保全の観点、及びラムサール条約に基づく湿地保護の観点から、本事業についてご関心を持っていただき、生物多様性基本法の制定も踏まえて、愛知県が生物の多様性に及ぼす影響を回避する施策をとることができるよう、貴省からのご助力をお願いいたします。


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