よみがえれ! 豊葦原(とよあしはら)の鷹「チュウヒ」

チュウヒ写真:岡田宇司

肉食の猛禽類(もうきんるい)※は、その地の食物連鎖の頂点にたつ「王者」。
しかし、人間による自然環境の改変には無力であり、狩りや子育ての場所を次々と奪われ、多くの種が絶滅の危機に追いやられています。

日本で子育てをする猛禽類では、山岳森林地帯にすむイヌワシ・クマタカの危機的状況が知られていますが、葦(あし)原(ヨシ原)をはじめ湿地や原野にすむチュウヒは、その存在も絶滅の危機にあることも、ほとんど知られていません。

日本野鳥の会による全国調査では、日本で子育てをするチュウヒの数は、いまやイヌワシ・クマタカよりも少ないことが明らかになっているのです。

※肉食で、鋭いくちばしと爪をもつ、タカ目、ハヤブサ目、フクロウ目の鳥類の総称

チュウヒ<タカ目タカ科/絶滅危惧IB類(EN)>

写真:岡田宇司

翼をV字にして低く滑空し、地上の獲物を探す。やや平面的な顔は、フクロウ類のように集音効果が高い。春先にはらせん飛行や宙返り、空中でのエサの受け渡しなど多彩な求愛飛行をみせ、海外でチュウヒのなかまは「スカイダンサー」とも呼ばれる。

これ以上失えない、チュウヒが舞う湿地や原野

古来より「豊葦原の瑞穂の国」と呼ばれた日本――水辺に広がる豊かな葦原(ヨシ原)は、日本の原風景でした。その上を滑るように舞うチュウヒは、日本でただ1種、ヨシ原で繁殖する希少な猛禽類です。しかし、近年は減少が心配され、当会が実施した全国調査(2018~2020年)では、チュウヒの推定繁殖数は140つがいのみ。国内で繁殖するワシ・タカ類で最も数が少なく※1、絶滅の危機にあることが判明しました。

チュウヒの繁殖分布マップ

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その背景にあるのは、ヨシ原のような湿地の激減です。「不毛の地」と考えられていた湿地は、農地、宅地、工業用地にするため次々と埋め立てられ、この100年で全国的に6割も消失※2。チュウヒは、北海道に残った原野、埋立地に再生したヨシ原、農地開発をまぬがれたササ原など、わずかな場所をたよりに繁殖していました。ところが、この場所さえも、太陽光発電や風力発電の施設建設のため、奪われています。

風力発電とチュウヒ写真:岡本勇太

湿地や原野は、水質浄化や炭素固定など人にも有用な機能を持ち、野鳥をはじめ多くの生きものたちが息づく生物多様性の宝庫です。この環境の食物連鎖の頂点にいるチュウヒは「アンブレラ種」といわれ、チュウヒを守ることは、アンブレラ=傘を広げた下にいる無数の動植物と、それらを育む広大な湿地や原野を守ることにつながります。

当会は、これまで取り組んできたチュウヒの保護活動を加速させ、まずは北海道に残された重要な繁殖地の保全を推し進め、チュウヒがくらす湿地や原野と、その生物多様性がこれ以上失われないよう尽力していきます。湿地や原野にチュウヒが舞う、日本の原風景を未来に伝えるために、どうかご支援ください。

※1:亜種のぞく。イヌワシは推定150~200つがい、クマタカは推定約900つがい(レッドデータブック2014環境省編)
※2:国土地理院「湖沼湿原調査」(2000)

チュウヒが舞う湿地や原野を未来に伝えるために、
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当会の取り組み

1.今ある繁殖地を守る!~サロベツ原野の保全をめざして~

2016年の当会調査で、北海道・サロベツ原野がチュウヒの日本一の繁殖地だと判明してから、地元の認定NPO法人サロベツ・エコ・ネットワークと保護活動を進めてきました。

2018年からは、地域の協力を得るため住民向け勉強会や報告会を開催し、2020年からは、行政機関と繁殖状況を共有して開発行為を未然に防ぎ、繁殖成功率を向上させています。

今後はより強力な保全策として、当会独自のチュウヒのための野鳥保護区の設置も視野に入れて、地域の方々と、チュウヒが舞うサロベツ原野を守る活動を続けていきます。

チュウヒ報告会会場のようす第4回チュウヒ報告会(2021年、豊富(とよとみ)町)では当会理事長も登壇

2.繁殖に適した環境を増やす!~海外の先進事例に学ぶ~

北海道・勇払(ゆうふつ)原野には、チュウヒの繁殖に適したヨシ原が残り、毎年10~15つがいが巣作りしています。当会は、直営サンクチュアリを拠点に保全活動に取り組み、2014年に、このヨシ原を含む950haが工業の誘致対象から外れ※、保全に向けた大きな一歩となりました。

イギリスでは、世界的な鳥類保護団体RSPBが、ミンズミア地方の湿地を野鳥保護区にして、ヨーロッパチュウヒを、ミンズミアの1つがいから全英300つがいにまで回復させました。この事例に学び、環境改善による繁殖適地の拡大をめざしていきます。

※2014年に安平(あびら)川下流域を「河道内(かどうない)調整地」(遊水地)とする整備計画が正式決定された

ミンズミアRSPB Minsmere Nature Reserve(Suffolk, UK)

チュウヒが育つと、小鳥たちも育つ!

近年の研究で、チュウヒの繁殖成功率が高い湿地では、他の小鳥たちの繁殖成功率も高いことが報告されました※。チュウヒを守ることは、同じく湿地や原野で繁殖し、現在数が減りつつあるウズラ、アカモズ、シマクイナ、オオヨシゴイ、マキノセンニュウなど多くの野鳥を守る助けにもなると考え、当会や当会支部などの民間が国に働きかけました。その結果、2017年にチュウヒは国内希少野生動植物種に指定され、法的な保護の対象となりました。

※:Senzaki et al. 2015


シマクイナ(絶滅危惧ⅠB類)/写真:宮彰男

アカモズ(絶滅危惧ⅠB類)

マキノセンニュウ(準絶滅危惧)


チュウヒが舞う湿地や原野が、これ以上失われないように。
当会の自然保護活動に、ぜひご支援をお願いします。

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