トップメッセージ 2022年11月

2022年11月1日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

季節の移ろいとともに

秋深くなり、ヒヨドリの群れが、次から次へと南へ向かって飛んでいくのを見る季節になりました。屋久島に住んでいる友人のフェイスブックからは、連日、サシバたちが島のあちこちでタカ柱を作っている様子が伝えられてきます。鳥たちは人間世界のパンデミックも戦争も知らないで、遺伝子にプログラムされた渡りの本能に忠実に従って、北から南に渡っていきます。皆様方のところでは、今年の渡り鳥の状況はいかがでしょうか。

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それにしても今年の夏は暑かったですね。私の住んでいる鳩山町は、取り立ててニュースになるようなこともない埼玉の田舎町ですが、今年はテレビニュースに何回か登場したので、ご存知の方もおられるでしょう。最高気温が40.1°Cという日がありました。そのあと線状降水帯の停滞によって、6時間の雨量が360mmという、これまた観測史上、未曾有の大雨を経験しました。まあ、こんなふうに夏は暑い、冬は寒いという町ですが、それもメリハリがあっていいのではないかと思っております(ここに住めたらどこにでも住める!)。

とはいえ、暑い夏はなるべく涼しいところへと、今年の夏は孫たちと乗鞍岳へライチョウを見に行ったり、奥秩父の渓流でニジマス釣りをしたり、下旬には屋久島へヤマガラの調査でエゴノキとシキミの実を採集に行き、9月には研究室の卒業生と、志賀高原で地元ホテルの自然ツアーのモニタリングに協力、9月末には立山の奥大日岳へ少し早い紅葉を見に行って来ました。

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もうすぐ家の前の空き地にいつものジョウビタキがやってくる季節です。晴れた秋の一日、北から南へ移動している渡り鳥たちに思いをはせながら、のんびり過ごしています。そろそろ冬の探鳥会の準備ですね。


乗鞍岳畳平にて。ライチョウを見に行きました

長い年月を感じさせる、志賀高原のシナノキ

屋久島ではヤマガラの調査を

立山連峰・奥大日岳にて


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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

稲刈りに想う

みんなで稲刈り! 収穫の喜びを体験

今年も稲刈りの季節になりました。
栃木県市貝町の里山に移住して農林業と自然学校の運営に携わるようになって8年。7回目の稲刈りです。赤とんぼが舞う秋空の下、子どもたちも参加してのイベント。鎌で稲を刈り、束ね、そして竹竿に干します。

6月上旬にみんなで田植えをして、4か月。無農薬で育てているので、田んぼの草取りや畦の草刈りなどの作業が大変でしたが、無事にこの時を迎えることができ、ほっとするとともに嬉しさがこみ上げてきます。


6月の田植え。一列になっての手植え

刈り取った稲を竹竿に干す

稲作を始めた頃は、台風で稲が倒れて水浸しになったり、害虫のカメムシが大発生したりして、良い米が収穫できませんでしたが、少しずつ工夫を重ねて何とか美味しい米が安定的に収穫できるようになりました。また、田植えから稲刈りまで年間4~5回の米作りを中心にした「農的暮らし講座」も軌道に乗り、多くの家族のみなさんが参加されるようになりました。

山間の小さな田んぼである谷津田は、多くの生きものが生息する生物多様性豊かな環境である一方、農業生産の場としては厳しい場所ですが、体験活動の場としても活用することによって、農業以外の収入が得られるようになり、何とか維持できる仕組みを作ることができました。

「ネイチャーポジティブ」の推進にむけて

今年12月の生物多様性条約締約国会議 COP15では、2030年に向けた生物多様性の目標などが採択される予定です。その目標の一つに、「ネイチャーポジティブ」があります。聞きなれない言葉ですが、ネイチャーポジティブとは、現在と比較して2030年や2050年までに生物多様性をより豊かにすることを意味します。今までは自然は開発され、生物多様性は失われる一方でしたが、その流れを反転させ、回復させようというものです。

日本において「ネイチャーポジティブ」を実現するためには、里地環境を形成する農村地域において生物多様性の劣化を食い止め、回復させることが大きなカギとなります。

市貝町の里山での取組みは、小さなものですが、日本のネイチャーポジティブの推進に少しでも寄与できればと思っています。


山間の小さな田んぼ「谷津田」


谷津田にやってきた赤トンボ(ナツアカネ)

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