第 I 章 日本野鳥の会の考え方

1.「野鳥も人も地球のなかま」

 人類は、誕生以来、さまざまな生きものと共に生きてきた。この長い歴史の中で、人間が自然と切り離しては存在し得ない基本的な関わりが形成された。その後、農業や工業を発達させることによって自然を破壊するという他の生きものにみられない力や技術を人間は行使してきた。しかし、進化の歴史の中で培われた自然への想いは、自然破壊が進む中でそれを抑止する効果として大きく関わってきたのではないかと考えられる。人間の自然に対するこの基本的な関わりは、今日までわれわれの心に脈々と生きている。そのため個々のケースでその表れ方は異なっても、時代を越えて自然保護の思想形成や自然を守る原動力となっているものと考える。
 第一次産業は自然との調和の中で安定して続けられていたが、近代国家へと脱皮成長するとともに、その安定に破綻をきたしていった。この過程は、欧米の産業革命にみられるように、無尽蔵とも思えた自然資源の過度の利用を引き起こし、その結果、自然の破壊に対する反省から自然を守るべきだとする近代的自然保護の考え方が出てきた。
 我が国では明治維新後、封建領主により守られていた大型の鳥獣類が乱獲により激減した。さらに、人間活動の拡大により自然環境の破壊も進行していった。今日の自然保護の考え方を述べる時欠かせないのは、一つの先駆的な動きとして1930年代から始まった野鳥に対するものである。当時、野の鳥を捕ったり、飼ったり、撃ったり、食べたりするのが、社会一般の風潮であった。これに対して野の鳥を自然にあるがままに親しもうと、1934年に創設者中西悟堂によって日本野鳥の会が設立された。この考えは、野鳥が第一次産業に有益であるというよりは、むしろ野鳥や自然に対する感性的な関わりを指向したものである。
 日本の自然環境は、戦後復興の経済優先政策によって大規模に荒廃していった。それにともない、野鳥の生息地が急速に失われていった。そのため、野鳥を守るにはまずその生息地である自然を守るという考え方が発展し、自然保護の考え方の重要な柱の一つとなっていった。そうした中で保護の活動を強化するために、日本野鳥の会は財団化され、社会的な役割をより強く担う組織へとなったのである。
 相次ぐ大規模開発計画などにより生活環境の悪化は人体への脅威とさえなり、公害や自然破壊が顕著となった。1970年頃から深刻な公害を契機として環境全般に対する関心が高まり、一般市民の参加する自然保護が芽生えた。学術的な価値は少なくとも、人間の生存に基本的に必要な環境として身近な自然を守ろうとする考え方が強まっていった。身近な環境問題としての自然保護の声は、自然破壊に対応してますます大きくなっていった。
 さらに1970年代のエコロジー運動の世界的な展開の中で、身近な問題から発展してより包括的な環境という共通の認識と理解がもたれるようになった。一方、宇宙から人間が初めて見た「ひとつの地球」を実感し、「かけがえのない地球」の世界的なコンセンサスも得られていった。つまり、自然保護から身近な環境問題、さらに地球規模での環境問題まで相互に関連しているという認識のもとで、自然と人間との関係をいかにより良いレベルで保つかという意識が不可欠となっていったのである。
 野鳥も人も「ひとつの地球」の仲間なのである。この考え方は、日本野鳥の会の創設当時の精神に通ずるもので、今日の保護運動の根底に受け継がれ、地球環境時代の自然保護の考え方として顕在化したものと考えられる。すなわち、人間と自然の長い関わりの歴史が形成した一体感を基礎に、地球規模の視点を持ちつつ人間を主体として判断し、自然と人間とが一体となって共存できる豊かな環境づくりを目指す考え方が、21世紀を越えて続けられるのであろう。

2.日本野鳥の会の理念

(1) 理念の明文化に際して
   日本野鳥の会は、1934年の発足当初から、創設者中西悟堂が唱えた「野の鳥は野に」という自然を本来のままに保護する主張を一貫して掲げてきている。以来、探鳥会をはじめ野鳥とその生息地を守る幅広い運動の実践には、自然の中で野の鳥と親しむことこそ野生の生きものと人間の関係における本来の姿であるという基本的な考えが、脈々と流れている。地球規模での自然環境問題に対しても、日本野鳥の会の根本的な主張はいささかもその輝きを失ってはいない。
人類の将来がかかっている自然との共存という今日的かつ永遠の命題に対して、会員や支部の役員・リーダーの皆さんの理解と協力を得て、日本野鳥の会の活動はますます発展し社会に対する重要性を増して、その責任はさらに重くなってきている。また、本会の活動を支援する層は年々厚くなり、関係者も多様化してきた。そこで、日本野鳥の会の発足当時の考え方やこれまで会として主張してきたことを集約し表現しなおして、本会の活動がどんな思想哲学に基づいて展開されているのかを誰の目にもわかるようにまとめて明文化したのが、以下の理念である。
(2) 理念の全文
   人間を含むすべての生きものは、過去40億年の進化の所産であり、この地球上で等しく生存する権利をもっている。私たち人間は、同じ地球環境に生きる一員としてこれら諸生物の生命を尊重しなければならない。自然は、人間の判断を超越して善悪虚偽のない、あるがままの姿で存在している。そこに自然のもつ根源的な価値があり、それ故にこそ、自然は人間が人間らしく生きるために大切な心の糧の源泉となっている。一方、自然界は、いろいろな生物とそれをとり巻く無機環境との複雑で微妙な相互関係の上に成り立っている。人間の無謀な環境破壊によってその相互関係を乱せば、自然界全体のバランスを大きくくずし、ひいては私たち人間自身の生存をもおびやかすことになる。人間は、適切な価値判断に基づき、自然を賢明に、永続的に保護し利用することによって、諸生物を含めた自然との共存をはかるべきである。
以上の基本的な認識にたち、日本野鳥の会は、野鳥を通して自然に親しみ自然を守る運動を展開していく。数ある生きものの中でも、野鳥はとりわけ人の目をひきやすく、いつでもどこでも老若男女の別なく人々の関心を呼び起こしやすい。国境を越えて渡り、大空を自由に翔ぶ鳥の姿は、万人の認める自由のシンボルである。また、野鳥は、姿や鳴き声、生態の千変万化によって人の心を和ませ、人間文化の創造の源ともなっている。野の鳥を野に守ることは、ほかの多くの生きものや、それらが生きる自然環境を守り、さらには私たち人間が安らかに暮らせる環境をつくり出すことにもつながる。日本野鳥の会は、このような考えと活動を世に広め、多くの賛同者を得て、自然と人間が共存する豊かな環境をつくることに貢献する。
(3) 理念の要旨(理念を一文で端的に表現して使う場合)
   『日本野鳥の会は、自然を尊び守り賢明に利用することが人類の存続と幸福にとって不可欠であるとの認識にたち、野鳥を通して自然に親しみ自然を守る運動を、社会の信頼を得て発展させることによって、自然と人間が共存する豊かな環境をつくることに貢献する。』
(4) 理念の解説
   日本野鳥の会の総ての活動が根源的にはどのような思想哲学に基づいているのかを述べたものが、理念である。その意味するところを共通のものとして認識できるように、以下に、理念の本文を追って解説することとしたい。
1) 生命の尊重
   生態系の重要な構成要素である生きものは、この地球上で40億年もの間、進化の流れのなかで歴史的に一体となって存続してきている。いかなる生命も、生命ひとつに軽い重いの違いはない。限りある地球上で、すべての生きとし生けるものが共に等しく生きる権利をもっているのである。自然界の一部であり、動物界の一員である私たち人間は、あらゆる生物の生命を大切にすべきである。
(a) 生命についての基本的な認識が、理念で最初に取り上げられている。それは、生命あるもの総てを尊重するということである。しかし、人間が生存するために一獣一鳥一虫たりとも捕ってはいけないということではなく、無闇に殺生してはいけないということである。
(b) 理念から展開されるものに、自然の中で捕食されたり傷ついたりしている生きものを、どう考え扱ったらよいかがある。日本野鳥の会は、自然界では、ひとつの生命が他の生命を育てていく食物連鎖が現実の姿である点を認識し、この生きとし生けるものの生と死の日々の生きざまをありのままに直視することが、ひとつの生命への基本的な態度とするものである。その上で、かわいそうだと思う憐れみの情、人間の自然な感情についても充分に配慮すべきである。
(c) 日本野鳥の会では、総ての生命を基本的に尊重するのであるが、野鳥を始めとしたあらゆる種を、特に人為的に絶滅へと追い込むことから守っていく。
2) 自然そのものの価値の認識
   自然は自然そのものであり、あるがままの姿で存在している。その自然には、人間の知識や感情での判断や解釈を超えた世界がある。人間自身が左右し得ない次元でのこれら自然がそのままに存在していることにこそ、自然の醸しだす根源的な無形の価値を認めることができる。その無形の価値は、いつのまにか、おそらく人間の進化のレベルでの長い関わりの結果、人間と自然とが一体化して、人間にとって欠かすことのできないものとして産み出されてきたものである。
 人間が人間らしく生きることは誰しも望むものである。そのためにも、心の健康は不可欠である。幼児の成長過程においても、また、人間が充実した生活を送るためにも必要とされる情緒的精神的な心の糧の大部分は、自然そのものに親しみ、心の琴線に触れることによって培われる。それは人工的な環境からは得にくいものだけに、この無形の価値を生みだす自然そのものを大切にしなければならない。
 日本野鳥の会は、これら人間のつくり出し得ない価値を産み出すあるがままの自然を、いつまでも大切に守るべきであると考える。
3) 自然には謙虚に
  地球上では、あらゆる生物同士が、また無機環境と、相互に複雑に関連し微妙な均衡を保って生存している。人間も例外ではなく、その生存と生活を自然に依存している。
 諸生物が、人間には無い、または人間が及ばない能力を秘めている一方、人間は他の動物に見られない畏敬の念、精神性や美意識、能力や技術などを持ちあわせている。科学技術の高度な発達により、人間は、自然や自らの生活環境すら改変し破壊する能力を手中にしている。さらに、人間は、他の生物を移植したり、遺伝子操作や核融合をしたり、宇宙空間に飛び出したり、自然界では起こり得ない実験を可能にしたりする技術力を持つようになった。これら人間のみが持つ力を欲しいままにして自然を破壊すれば、自然界全体のバランスを大きくくずし、自然資源ベースや生活環境を悪化させ、ひいては私たち人間自身の生存をも脅かすことになる。
(a) 地球の生態系そのものが宇宙からの影響を受けており、宇宙無くして地球の自然は語れない。しかし、理念では、地球そのものを、生態系の概念でも、人間の活動の場としても、一つの現実的な“有意の単位” として捉えている。
(b) 人間の英知、科学の力で知り得た自然は、自然界のわずかな部分と見るべきである。日本野鳥の会は、「自然の征服」といった不遜な表現とは無縁な、謙虚な態度で未知の世界が多く残されている自然に接すべきであると考える。
(c) 科学技術の進歩は、少なくとも一面では人間の生活にとっては有利な結果をもたらすことは否定し得ないが、科学技術をもって地球の限りある自然を無謀に破壊すれば、自然と人類の未来にとって、計り知れないマイナスの結果をもたらす恐れがある。日本野鳥の会は、人間のみが持つ能力を行使する責任を自覚し、自然を破壊や汚染から守り、自然の「健康管理」に最大限の注意と関心を払うべきであると考える。
(d) 自然環境をひとたび破壊したら、バランスのとれた複雑な生態系を本来の姿として再現させることは、高度の科学技術や限りなき時間と労力と資金などをつぎこんでも、極めて困難である。しかし、環境破壊が地球規模で急速に進むなかで、日本野鳥の会は、可能な限りの「自然」を復元する努力を払う必要があると考える。
4) 自然の賢明な活用
  他の生物と同様、人間も生活の場と生存のための資源を自然に依存しており、自らを自然から切り離しては生存し得ない。従って、人間や他の生きもののために、私たちはまず第一に自然の原状を維持するよう努めるべきである。その上で、心に傷みを感じる生物としての人間の適切な価値判断に基づき、感謝の気持ちを忘れないで、自然と自然資源を賢明に、永続的に活用させてもらうのである。
 日本野鳥の会は、科学的な、客観的な、また心を込めた適切な価値判断の域を越えて、無秩序にまた無制限に自然を改変、破壊してはならないと考える。自然保護団体として、常に自然を守る立場から発言、行動するものである。限られた狭い国土で次々と進む止めどなき開発に対し、「これ以上の開発はやめるべきである」を前提とし、地球規模での新しい環境倫理と経済秩序を目指すべきと考える。
 開発などによる自然改変の度合を計り知る尺度とするためにも、原生の姿をとどめる自然、質量ともに十分な代表的な生態系のサンプルとなる自然が確保されている必要がある。また、生態系の復元を可能にする知識や技術をより高いレベルへ引き上げるためにも、自然の構造や機能を解明する本来の自然が残されていなければならない。「まず自然ありき」を認識し、改変された自然環境を復元によって少しでも取り戻すための自然本来の機能を活用する方策も重要であると考える。
5) 自然と人間との共存
人間は諸生物を含めた自然との一体となった共存を図るべきである。
 地球上の生物の共存には、共生、寄生など間接、直接のかかわり合いから無関係に共存する場合まで多様な関係がある。自然との一体となった共存は、40億年の自然の歴史のなかで培われてきた諸生物や水や空気などすべてのものとの調和のとれた不可分な関係を保つことである。
6) 野鳥を通して地球を見る
  これまでに述べた基本的な認識に立って、日本野鳥の会は、野鳥を通して自然に親しみ、自然を守る運動を展開する。
 日本野鳥の会の活動の直接の対象に野鳥が選ばれたのは、理念本文の後段に述べているように、野鳥は種々の生きものの中でも、姿や声が極めて魅力的であるばかりでなく、芸術や文化など人との関わりにおいて特徴的な点が多いことによる。さらに大切な点は、「野の鳥を野に」守ることは、他の多くの生きものたちも住む自然の環境をも維持することになる。また、人間が人間らしく存在できる安らかな生活環境をつくり出すことにもつながる。
 人類共通の財産として地球上の自然を守ることには、誰もが反対し得まい。とりわけ生態系の一員として重要な構成要素である野鳥は、その保護の活動を社会で効果的に展開できる可能性が高い。また、多くの野鳥が渡りをして各国の関心の的となるので、地球規模での環境保全のシンボルとして国際的にも共通して受け入れられる。自然や生きものを対象として保護の道を歩む団体のなかで、日本野鳥の会は野鳥を通して自然を守る活動を展開するのである。
7) 地球規模での豊かな環境をめざして
  日本野鳥の会は、野鳥を通して自然に親しみ自然を守る運動を、社会の信頼を得て世に広め、多くの支援賛同のもとに、自然と人間とが一体となって共存する豊かな地球環境をつくり出すことに貢献する。
(a) 自然と人間との共存を実現するのに幾つかの進め方が考えられる。日本野鳥の会は、野鳥から始めて、野鳥や人間も含めた他の生きものの住み家である自然をみつめ、地球や宇宙への視点をも踏まえて自然を守る活動を進め、人類の究極のテーゼ・自然との共存を目指すのである。
(b) 地球環境とは、野生の生きものや人間が一体となって地球規模で共に生きていける豊かな環境のことである。日本野鳥の会は、地球規模でのそうした共存の舞台をより多くつくり出す幅広い活動に貢献するものである。
(c) 自然と人間との共存の道を選ぶことは、人類に与えられた使命であり、現代と同時に後の世代に対しても、この使命を伝えていく責任がある。日本野鳥の会はこの使命と責任を自らに課すものである。生きとし生けるものの生活基盤である自然を守る活動を続けることが、ひいては人間性豊かな社会をつくることになり、究極的には人類の永続、自由と平和と幸福につながることになると信ずる。

3.日本野鳥の会の考える自然保護

日本野鳥の会の考える自然保護とは、自然と人間との一体的共存の実現を模索する「自然環境保全」を基本的な考え方とする。自然環境保全とは、自然を本来あるべき健全な安定した状態で保護し、自然を尊びつつ、適切な価値判断に基づいて、賢明に、永続的に活用し、また改変された自然を元に近い状態に復元することによって、自然と人間との一体的共存を図る総括的な概念である。
一体的共存の実現手段の主要なものとして、自然の保護、改変された自然の復元、そして自然環境の維持と活用の3点が挙げられる。これらの手段のうち、目的に沿って最も適した方法を選択し、組み合せ、または使い分けて実行すべきであると考える。
(1) 自然の保護
日本野鳥の会は、野鳥も人も住める豊かな自然環境の保全を第一に考える。それは、当然、安定した多様な生態系を守ることである。野鳥と人との関わりを見ると、野鳥の存在は人にやすらぎ感をもたらすことが知られている。野鳥たちの生息環境を守ることは、人間にとっても望ましい生活環境をつくることになるという基本的な考えに基づいて、野鳥とその生息する自然を一体として守るのである。
あらゆる地域の自然のほとんどが開発その他の人間の影響を受けて改変され、孤立、分断された状態になりつつある実状から、日本野鳥の会は、残された自然は基本的に総て守るべきものとの立場をとる。特に緊急に守るべき地域は手遅れにならないよう積極的に守っていきたい。
1) 守るべき自然環境
  残された自然のなかでも、ある地域に本来存在する原生自然、人為圧の少ない二次的自然、このような自然をまず大切に守り、その自然の本質が損なわれないようにして後世に残していく自然の保護こそが、最も重要と考える。とりわけ生態系の「生きた標本」としても、わずかしか残されていない原生自然環境は総てそのままに最優先して保全し、あらゆる開発から守っていきたい。
 原生自然が人との関わりの強まるにつれてその姿を変えてしまった二次的自然環境は、野生生物や自然環境としての豊かさ、地域の生活や文化との結びつき、そして人間と自然との基本的なあり方などの判断基準に基づき、守っていくべきと考える。
 原生自然と相対する都市の自然環境も無視できない。特に都市住民の生活と関わりの深い自然も、後世に引き継ぐべき自然として保護の対象に考えている。
2) 守るべき野鳥の生息地
  野の鳥を野に守ることは、野鳥とその生息環境を一体として守ることである。健全な生態系が維持されれば、他のあらゆる生きものも守られるのである。日本野鳥の会は、なかでも種や生態系の存続が危ぶまれる希少な野鳥の生息地保全には、特に強い関心を払うものである。一度失われた生命体やさらに複雑な均衡を保つ生態系を人間が再創造することは不可能であるからである。
 さらに、普通に数多くみられる種であるが故に注目されないうちに、開発などで生息地が破壊され激減することのないよう、普通種の生息地の保全にも注意を払う必要があると考える。
(2) 改変された自然の復元
  残された自然を保護すると同時に、自然とはもはや言えないような改変・破壊された環境に人手を加えて自然を取り戻す方法も、必要と考える。原生自然環境と比べて人の関わりが強くなってしまった環境を出来る限りその地域のもとの自然に近い姿に戻していくのである。複雑で微妙な生態系の機能をも含めた自然環境を、科学技術の力で再現させるのは極めて困難ではあるが、次善の策として、日本野鳥の会は復元方法に期待を持って進めていきたい。
 この方法では、最低の努力目標を、生態学の知見に基づいてその土地固有の自然の状態に極力近付けることに置くべきである。まったくその地域に関係のない”自然”を人間が勝手に”復元”することは厳に慎まねばならない。従って、外来種の人為的な移入は、原則として特に禁止すべきであると考える。
 復元を意図する環境の当初の状態や復元の目的設定によって、復元の方法も異なったものとなる。単に人為圧を除くだけでは十分ではない場合もあり、自然の遷移にゆだねたり、人為的に遷移を促進したり、意図的に遷移のある段階を維持する場合もある。特に、特定の種に着目して保護対策が取られる時には、差し迫って必要とされる環境条件を整えることが、まず優先されるものと考えるのである。
(3) 自然環境の維持と活用
  日本野鳥の会は、基本的には自然をあるがままに保護していく。そして、保護された地域の自然を守る目的が何であるかによって、自然環境に必要最小限の手を加え、維持および活用する場合があると考える。
 保護されている自然地域の開発は当然許されない。そのような保護された地域は、一般に考えられている利用の見地からは一見無駄に寝かせているかのようにみえる。しかし、日本野鳥の会は、保護すること自体が、長期間の公益的な視点から、その地域の最良の”利用”であると考える。その上で、さらに必要であれば、自然の理解を深め一層多くの自然を守っていく力となる人々を育てるための環境教育や調査研究の場として、また自然や野鳥に親しみ、精神のリフレッシュなどの機会として、自然を不用意に損ねない範囲で自然環境の積極的な”利用”を計ることもある。その際に望まれる観察路や展望塔、ネイチャーセンター等の施設の必要性やその規模は、自然環境の質の維持、目的効果、環境条件等を考慮して判断されることが重要であると考える。