第 III 章 日本野鳥の会の活動と基本方針

1.日本野鳥の会の自然保護活動

 日本野鳥の会は、自然保護の重要性を理解する全国各地の会員・支部・支援者がそれぞれの立場で力を合わせ、野鳥を通して自然保護の推進を図る民間の団体である。活動の組織的な基盤は、全国各地の会員によって構成される支部と、役職員などによって構成される本部である。この両者の活動を有機的、民主的に結合し、総合的に保護活動を推進していく。活動の多くは、ボランティアとしての会員の参加を得て展開される。
 日本野鳥の会の自然保護活動は、次の5項目を柱に広範多岐にわたって展開される。人々の幅広い支援・協力を得て、具体的な保護策の推進や保護政策の検討・提言、保護対策を実現するためのキャンペーン展開を行なう「自然保護の社会的活動」、一人でも多くの人に野鳥や自然と親しみ、理解してもらうために、その美しさ、愛らしさ、素晴らしさへの感動を直接経験できるふれあいの場を設け、社会に対して日本野鳥の会の自然保護の考え方を広め、自然を守ることの理解者や支援者、会員を増やす「普及活動」、また、活動を客観的に進めるための自然および社会科学的データを収集する「調査研究活動」、そしてこれらの活動を支える財政基盤を作る「企画事業活動」や組織を強化するための「総務活動」である。これら諸活動は、日本野鳥の会の目的を達成するための重要な構成要素であり、それぞれが互いに密接に結び付けられている。
 普及活動と自然保護の社会的活動は、活動内容の捉え方がやや類似する場合もある。しかし、普及活動は、人々に自然保護の考え方を正しく理解してもらい、幅広い保護の支援者層を作ることが最終目的である。自然保護の社会的活動は、重要な野鳥生息地を保全し希少鳥類などを保護するような具体的な保護施策の実現などが最終目的となる点で、内容が異なっている。
 自然保護活動を責任をもって進める上で必要な資金は、日本野鳥の会では基本的には会内外の募金や収益事業などを行なって独自に調達するものとする。つまり、財政的に自主独立の「自立主義」を貫くこととする。これは、日本野鳥の会が自然保護のために自由で忌憚のない発言と制約されることのない独自の活動を続けていく上で、必要なことである。
 各々の活動内容は本部事務局各部の組織的な役割分担とは必ずしも一致しないことに留意して、ここではそれぞれの活動の基本的な方針を次に述べる。

2.自然保護の社会的活動

(1) 目的
   野鳥は生態系の中で高次消費者の性格を持ち、多くの野鳥が生息することは、そこに豊かな自然が存在することを意味している。従って、野鳥を保護することは、豊かで多様な自然を保護することにつながる。さらに、自然界の有機的共同体の一員である人間の健全な暮しを守ることになる。
 一方、自然保護が制度として十分に取り入れられていない状況では、保護活動の一端として社会及び諸制度を変革しないと、自然環境の破壊を防ぎ自然保護を積極的に進めることは困難である。
 日本野鳥の会は、個人と組織の力によって、少しでも多くの自然が守られるような社会体制を作り、野鳥や他の多くの野生生物の住む生息地や生態系を守ること、また、改変破壊された自然の回復にも積極的に関わること、そして、野鳥と自然と人間とのよりよい状況を実現することを自然保護の社会的活動の目的とする。
(2) 地域的範囲
   基本的には日本を中心とする地域である。この地域には、日本の渡り鳥が渡って行くロシア極東やアジア各地が含まれている。実際、日本で繁殖する多くの鳥が非繁殖期を過ごすアジア諸国での自然破壊が激しいこと、日本で越冬する冬鳥の繁殖地ロシア極東・シベリアも開発されていくこと、また、それらの破壊に日本などの先進国が深く関わっていること、さらに、地球規模の環境問題は一国の力では解決出来ないことなどから、国際的に保護活動を展開する必要性が高まり、会の保護活動の地域的範囲もその必要性と判断に応じて関係諸国に拡大される。
(3) 基本方針
   『日本野鳥の会は、自然を尊び守り賢明に利用することが人類の存続と幸福にとって不可欠であるとの認識にたち、野鳥を通して自然に親しみ自然を守る運動を、社会の信頼を得て発展させることによって、自然と人間が共存する豊かな環境をつくることに貢献する。』
1) 分かりやすい自然保護を進める
   地球規模に達した環境問題に人々の関心が高まり、今まで以上に様々な分野から多くの人々が自然環境保全のための活動に参加している。一方では、問題解決のためにかなり専門的な知識も要求される。このように不特定多数の人々が参画する状況下で効果的に運動を進め、成果を挙げるために、だれにでも分かりやすい自然保護を進めることが基本になる。そのために、一つ一つの保護活動を計画する初期の段階から将来を見通して、十分に保護計画の検討を行うこと、活動の展開理由や意義などの基本的な考え方、運動の目的や進め方などを一貫してはっきりと分かりやすく示し、参画する人々に正確に伝えること、そして、専門的な内容も分かりやすく広報して理解を深めるように努める。
2) 開かれた自然保護運動とする
  開かれた自然保護運動とする 日本野鳥の会の保護活動は、ウトナイ湖サンクチュアリの設置・運営やカスミ網の法規制運動などでも示されるように、全国の会員や多くの支援者などに支えられて成果を挙げているのが大きな特徴である。従って、いつでもより多くの人々の積極的な参画が得られるように、だれでもが参加しやすい運動の組み立てを常に計ること。
 また、全国の会員を中心として世論を起こし、広く社会に呼び掛け、自然保護の全国運動を展開して広範な保護問題を解決するために、賛同するだれもが自由に参画出来る運動であること。
 さらに、自然保護の団体間でも上述の趣旨を活動方針とし、日本やアジアの自然保護関係団体が協力し会えるように、その運動がいつでも、どこでも、どの団体に対しても開かれていることを原則とする。
3) 対話を重視する自然保護を進める
   自然保護の問題は、個人や企業などの思惑や利益と直接に関係するものも多く、関係者全員が納得するような解決方法を見いだすことは困難な場合が多い。保護を目指すものと開発を指向するものの意見が食い違うのは、ある意味では当然のことである。保護を目指す人々の運動論には多様性があってしかるべきであるが、日本野鳥の会では対話を重視する姿勢で自然保護を進める。つまり、あらゆる人々に自然保護を考え、会の主張を説明してもらう機会を提供する意味で、まずは話し合いの席に着き、会の主張を説明して公に広めること、そして出来る限り自然保護のために建設的な解決を見るように努力することを基本的な姿勢とする。
4) 責任ある自然保護活動を展開する
   日本野鳥の会は、保護活動の展開にあたって、社会からの正当な批判は謙虚に受け止め、また自らは責任ある発言をし、行動する。自然を守れ、守ろうと主張するときには、主張する内容に責任を持ち、また決着が着くまで継続的に保護活動を展開することに責任を持つべきであると考える。
5) 問題解決へ積極的に貢献する
   日本で最初に環境問題が注目された1970年代は、保護に関する問題点の指摘がまさに保護団体の重要な役割であった。それにより、社会に環境問題の存在そのものを気付かせる必要があったからである。今日では、環境問題については行政や企業なども相当の関心を示してはいるが、専門の保護団体がその解決方法に関して何ら発言しないのであれば、望ましい解決は期待し難い。従って、日本野鳥の会は、問題指摘のみではなく、問題解決のため積極的に貢献することを保護活動の基本方針とする。場合によっては、計画に真っ向から反対せざるを得ない場合もあるだろうが、解決策が考えられた場合にはそれを単に提案するだけではなく、自らが募金などにより資金を集めたり、知識・技術・労力などを提供したりして、解決に向けて極力貢献する。
6) 科学的資料に基づく論理的な展開を図る
   野鳥や自然の保護を遅らせた原因の一つに、政治的、経済的な判断やその力だけが先行し、判断の基礎となる野鳥や自然に関する科学的なデータの不足が挙げられる。自然保護の対策や施策を適切に進める場合、自然の現状、社会的や経済的な状況、そして心情的な問題などを総合して極力論理的に判断が下されなければならない。日本野鳥の会は自然保護の判断や決定が自然科学的・社会科学的な資料に基づき、論理的に行なわれるよう努力すること、また、会の保護運動は常にこれら科学的な資料を指針として推進する。
7) 現地主義をとる
   地域の自然保護運動については、地元の保護関係者の考え方を尊重する現地主義を採ることを基本方針とする。この際、地元と会の意見が異なる場合には、極力話し合いにより双方の理解と納得で活動を進める。国際協力においても同様で、それぞれの国の状況や考え方に応じて活動の内容や進め方を決定する。
8) 自然保護に貢献しない地域振興には参画しない
   地域振興には、自然環境を著しく破壊する場合もあれば、その地域の自然環境の特性を最大限生かして自然と人間との共存を目指すものもある。日本野鳥の会は、自然保護に貢献しないと判断される地域振興には、参画しない。
9) 行政や立法府へ積極的に働きかける
   日本野鳥の会は、その活動が特定の政治的な、或は行政的な判断や圧力などで歪められることなく、自主性を保って活動を進める。行政とは、必要とあらば対立もあり得るが、常には協力する柔軟性をもって対応する。保護施策の推進は、最終的には行政に対して実施を要請することが多くなるため、行政機構に対して自然保護の推進を積極的に働きかける。また、立法府に対しても、政治的には中立の立場から積極的に対応し、立法府の中に自然保護の理解が深められ、具体的な施策の推進が図られるような活動をすることとする。
10) 企業との協力関係は会の目的に照らして判断する
   日本野鳥の会は、会の目的に合致した場合には、特定の企業に偏ることなく、企業との協力関係を持つ。それらの企業が支援、協力と引き換えに会の目的に反する企業活動を行ったり、会の活動に圧力を加える意図の判明した場合などには、はっきりと発言し、保護の立場を貫くこと。
11) 国内団体間の連携を進める
   自然保護という困難な目的を達成するためには、自然保護や環境問題への積極的な貢献を図ろうと活動している多くの団体間で、経験の交流や連携活動が必要である。従って、日本野鳥の会は、それぞれの団体がお互いの個性を尊重し、立場の違う主張も相互理解のもとに、必要に応じて保護の共通の目的のために連携して行動する。
12)  環境問題が地球規模で論じられ、また、その早急な解決が望まれていることから、日本野鳥の会が保護活動を進めるに当たっては、国内の保護団体のみならず、広く国際的な機関団体と密接な連携を保つこととする。
 日本と渡り鳥を通じて結ばれ、歴史的文化的に密接な関係にあるアジア諸国の保護団体などとは、特に連携・協力の強化に努力する。
(4) 内容
1) 自然保護の社会的活動に関する全体の方針策定
   当面解決を迫られる保護問題の取り組みと同時に、長期的且つ全国的国際的な視点から、保護活動を展開するのに必要な基本方針を策定する。
2) 自然保護に関する資料と情報の分析
  調査研究活動によって収集、蓄積された資料・情報を分析する。その判断結果を保護活動に活用する。
3) 保護活動戦略の策定
(a) 活動対象の抽出
  保護活動を長期の視点で効果的に実施していくために、優先的に保護すべき種や地域、優先的に取り組むべき保護問題を全国レベルで総合的、体系的、計画的に抽出する。
(b) 保護活動の効果的な展開方法の検討
  保護運動の展開にはさまざまな方法が考えられるが、具体的な目標を設定し、限られた人材、物資、資金、情報、時間などの範囲内でより効果的な活動方法を明かにする。
4) 具体的活動の推進
(a) 活動実施のための体制作り
  具体的な保護運動や保護事業に関わる、人材、物資、資金、情報を含めた体制を作る。
(b) 独自の運動を展開する
  サンクチュアリの設置や土地の買い上げなど、日本野鳥の会の総力をあげて独自の活動を展開する。
(c) 社会への働きかけ
  運動が広い支持を得て進展するよう、直接またはマスコミなどを通じて社会へ働きかける。
(d) 行政、立法府などへの働きかけ
  運動の内容によっては、行政や立法府などへも働きかける。
5) 活動の結果と将来展望
(a) 評価
  保護活動が一段落する毎にその評価を行い、それを基にその後の展望を検討する。
(b) 報告と謝意
  日本野鳥の会の保護活動は多くの方々の支援協力を得て進められるため、運動の節目節目にはお世話になった関係者に報告とお礼をする。
(c) フォローアップ
  環境管理、監視追跡など、目標を達成した後のフォローアップを続ける。
(d) 広報
  保護活動の成果を報告書などで記録に残し、また機関誌、マスコミなどを通じて運動の意義を含めて広報する。

3.普及活動

(1) 目的
   普及活動の目的は、人々が野鳥を通して自然の素晴らしさに接し、自然のしくみに興味関心を示し、人間と自然との関わりを尊重する人々を増やすことである。さらに、自然保護問題や環境問題を考え、それを人間自身の問題として捉えて自然を守ろうと動機づけられる幅広い層の人々を増やすことも、重要な目的である。究極的には、「野鳥も人も地球のなかま」で表現されるような考え方を広め、そのために行動する人々が増えることにつながる。
 消費活動などで人々が少しづつ環境に与える影響の蓄積が大規模な環境汚染や自然破壊を起こしてきた実情から、私たち一人ひとりのライフスタイルの在り方が大きく問われている。これを本会の普及活動の目的に照らした場合、野鳥を通しての環境教育により、個人の段階で実行できるライフスタイルの変革に取り組む人を増やすことを意味する。
(2) 対象
   国民一般を基本的な対象とする。さらに、海外については、それぞれの国の保護団体や政府などを対象として、普及活動を間接的に支援する。
(3) 地域的範囲
   日本を基本として普及活動を展開する。しかし、国境を越えて自由に行き来する渡り鳥の保護には国際協力が不可欠であり、国際的に日本の役割が大きく期待されていることから、渡り鳥を通じて日本と関わりのある総ての国、特にアジア諸国、極東地域を重視する。但し、必要に応じてその他の国、地域に対象地域を拡大する。
(4) 内容
1) 野鳥や自然に接し親しむことを普及するための基本的な内容として
(a) 人々が自然のすばらしさに気付き、感銘すること
(b) 人間は自然と一体不可分のものとして存在すること
(c) 人々が生まれながらに持っている自然性を取り戻すこと
2) 野鳥や自然に関する知識を普及する基本的な内容として
(a) 野鳥を始めとしたいろいろの生物は、相互に、そして空気や水、土などの無機的な環境とも関わり合いながら存在していること
(b) 人間もそうした地球生態系の一員であること
3) 野鳥や自然を守る理由や方法を普及する内容として
(a) 会の理念が意味するものや会の自然保護の考え方、また個人個人が力を合わせて行動しなければならないことの理解を深めること
(5) 方法
   上述の内容を普及させるためには、人々が野鳥や自然の素晴しさ大切さに共感し、だれもが参加して自然保護活動の出来るような、機会や場を提供すること。また、自然と人間が共存するというコンセプトを共有する人々を増やしたり、会の活動に関連する知識や情報を提供することが挙げられる。そのための方法は時代とともに発展、改革されていくであろうが、会の創設以来各地で続けられている探鳥会のように、野外で実際にその機会や場を設定したり、サンクチュアリでの自然解説を実施したり、会誌「野鳥」などの出版物、視聴覚教材、イベントなどを通して行うのが基本である。
 普及活動の目的を達成するにあたっては環境教育の視点を重視する。野鳥を通しての環境教育のプロセスは、個人が野鳥に親しむことに始まり、野鳥を通してまわりの生きものとのつながりを観ること、そして自然界の相互関係を読んで、自然環境への興味を増していくことである。さらに、そうした自然への人間活動の影響にも関心を持つようになり、自然保護・地球環境問題への理解も深まり個人として「守ろう」と行動を起こす気持になること、である。この一連のプロセスには、野鳥とそれをとりまく総ての生きものや環境の問題が含まれるため、人々に広い視点と関心を持ってもらうことができる。従って、会の活動として地球環境のあらゆる問題に全般的に取り組まなくとも、個人個人の関心のレベルに応じて地球規模での環境問題にも取り組んでみようとする人を増やしていくことになる。野鳥を通した環境問題に積極的に理解と関心を示して行動する人が増えれば、環境に配慮したライフスタイルをとる人や地球環境の問題にも理解をもって行動を起こす人も増え、それは自然と人間との共存を目指す会の目的とも合致するのである。
 さらに、普及活動を広域的かつ継続的に進めるために、野鳥を通した環境教育の視点に着目して指導出来るリーダーの育成が重要である。また、サンクチュアリなどのフィールドを活用して得られる自然観察や解説の成果の一般化、教材化を行い、普及活動の内容や手法を一層充実させることが必要である。

4.調査研究活動

(1) 目的
   野鳥は、食物連鎖の頂点近くに位置する生態系内の高次消費者の性格を持つ。従って、野鳥が自然な生活を営める環境を保護するための調査研究は、多様な動植物が生息する自然環境を保護することに貢献する。そのような保護に役立つ調査研究が、日本野鳥の会の自然保護活動を進めるにあたっての基礎となる。自然科学による分析が、自然保護活動の目標を設定したり、具体的な対策を実施したりするために不可欠なのである。
 一方、自然保護活動は、社会活動として地域住民や広く一般の人々からの支持がなければ成功できない。従って、効果的に活動を進めるためには、地域や社会一般の価値観を形づくっている政治や経済、歴史、文化、民俗などについての調査、分析も必要である。
 日本野鳥の会の調査研究は、自然保護活動を行うにあたって、その目標設定や具体的な保護対策立案の基礎となる野鳥や自然環境についての自然科学的な資料や、野鳥と自然と人間活動との関係などについての人文・社会・文化的な資料を収集、分析、活用し、野鳥と自然と人間とのよりよい在り方を探ることを目的とする。
(2) 地域的範囲
   日本国内のほか、渡り鳥を中心に日本の野鳥保護との関わりや、日本との経済・文化活動などとの関係が深いアジア、太平洋地域を主な活動範囲とする。ただし、調査研究手法の開発などで必要があれば、さらに広い地域をも含めて活動する。
(3) 基本方針
   野鳥や自然環境及び社会環境の動静を把握し、人間活動が野鳥や自然に及ぼす保護上の問題点を整理、分析して、問題解決のための対策を立案すると同時に、保護活動の効果を評価する。自然保護活動の基礎となるこのような調査研究は、全国各地で必要とされている。このため、日本野鳥の会は、全国の支部や会員が積極的に調査研究活動を行えるような体制を整え、そのもとに会員参加による調査研究も展開する。また、関係各機関との共同研究も積極的に行う。
 調査研究の成果はいろいろな機会を利用して世に報告し、関連の問題が生じている場所で活用していく。
(4) 内容
  上記の方針に基づき、主として以下に述べる調査研究活動、調査研究体制の整備、報告を行う。
(1) 調査研究
1)‐1 自然科学的な調査研究
(a) 鳥類の重要生息地の監視
  鳥類の繁殖や越冬、渡りの中継地として重要になっている森林や湿地などの生息地について、鳥類の生息状況と環境の現況について継続的に調査し、変化傾向を把握する。環境については、地形や植生、水質など、その地域の環境特性を特徴づける諸条件を中心になるべく広く把握する。重要生息地としては、原生環境や大規模生息地、稀少種の生息地に加えて、開発が進行して相対的に重要となった大都市周辺の緑地なども含む。
(b) 鳥類と環境との相互関係に関する研究
  各地の事例の分析や各種鳥類の生態や行動、渡りなどの情報から、鳥と環境との諸関係を調べ、鳥の個体群や群集が維持されるのに必要な環境の諸条件を明らかにする。
(c) 希少種など生息状況の保全が必要な種の生態や行動に関する研究
  個体数の減少が著しく絶滅の恐れのある種や、開発などによる環境変化で生息状況に影響を受けている種について、分布や個体数、食物や採食行動、繁殖行動、社会構造、渡りなどを調べ、各種が生存のために必要とする諸条件を明らかにする。
(d) 鳥類の生息状況の保全のための研究と技術開発
  上記(b)および(c)の結果から、植生や地形など鳥類の生息環境保全のために必要な環境の維持方法や、都市地域などで喪失した自然環境の復元に関する理論や技術を研究開発する。また、保護区の設計計画や環境管理計画の立案などに協力しながら、生息環境保全のための実験も行う。
(e) その他、目的を達成するために必要とされる調査研究を行う。
1)‐2 社会・人文・文化的な調査研究
(a) 野鳥や自然と人間との関わりについての調査研究
  自然保護のためには、野鳥や自然と人間との関わりの基本的原理を認識し、理解することが大切である。従って、自然の価値・質の認識と評価、自然とのつきあい方、自然と人間との共存の在り方などについて調査研究する。
(b) 野鳥や自然の保護の課題に関する調査研究
  保護の問題や課題に関して取り組む際の考え方、方針、活動展開を明確にするため、問題の経緯や内容を整理分析する。この分野には、埋め立て、開発などの人間の自然への干渉、野鳥の減少や絶滅の原因、人為的な野生生物の移入や帰化生物、狩猟のあり方や制度、野鳥の商取引、野鳥による被害問題、給餌のあり方など、多岐にわたるものが含まれる。
(c) 自然保護の制度や体制に関する調査研究
  法律改正などの積極的な提言を行って基本的、長期的な自然保護活動の基礎を固めるため、現行の法体系及び立法行政の在り方について、外国の事例なども含めて調査研究を行う。
(d) 自然環境を保護するための社会学的調査研究
  自然科学的な調査研究の結果と密接に結び付いて、自然環境を守るための具体的事項に関し社会的な側面から調査研究を行う。例として、保護区、サンクチュアリなどの在り方、設計、管理運営;自然環境管理の手法や計画;その実施に伴う社会、経済、政治的側面の調査研究;国・地方自治体の定める土地利用計画や開発の実施状況の把握と将来計画の予測などがある。
(e) 野鳥や自然にやさしい技術開発の調査研究
  野鳥にやさしい環境作りや保護のための具体的な技術開発を進める調査研究を行う。これには、建造物のガラスの反射による野鳥への影響防止、野鳥による種々の被害防除、ミニサンクチュアリの設置や管理、人工給餌や植栽管理、音声やデコイなどによる野生生物の誘致、夜間照明の影響防止、航空機や高速車両などとの衝突防止、野生生物にやさしいU字溝の設置など問題解決への技術的側面の調査研究が主となる。
(f) 自然保護活動の方針、戦略に関わる調査研究
  日本野鳥の会としての自然保護活動に関して広く長期的な観点からその方針や戦略を立てるのに必要な調査研究を行う。国際・国内の人口・経済・政治・文化・生活水準などの推移、自然資源の消費・保全・管理レベル、世論の動き、政策内容と決定過程の研究、保護関連法律の検討、政財界・企業の動向、一般の人々の嗜好傾向など、広範な分野を取り上げ、情報を分析して会の方針、戦略の策定に役立てられる。
(g) 自然保護活動の進め方、運動論に関する調査研究
  自然保護活動を効果的に、効率的に進めるために必要な調査研究を行う。これには、探鳥会などの催しの企画運営や野外指導技術、野鳥を通した環境教育の在り方と普及、会員増加と退会防止、組織運営、活動資金の確保、マーケットリサーチと商品開発、活動成果の評価と広報などが含まれる。
(h) 自然保護思想や自然保護運動の歴史に関する調査研究
  自然保護の思想や運動などを分析、評価し、将来のより効果的な自然保護活動に生かすための調査研究を行う。
(i) その他、目的を達成するために必要とされる調査研究を行う。
2) 調査研究体制の整備
   各地で会員や支部などによる調査研究が活発に行われるように、人材育成のための研修会などを実施して、調査方法や解析方法を広めたり、内外の文献や資料を整理し、過去に行われた調査研究や他地域との比較を行なうため以下のことを実施する。
(a) 人材の養成
  個人や支部で調査研究を行うことのできる人材を育成する研修会を全国各地で実施し、調査研究法の普及を図る。また、大学院生や大学生など、現在調査研究に従事している若い研究者を対象とした、研修、指導の機会をもうける
(b) 文献資料の収集管理
  国内外の鳥類や生態学、自然保護に関係する学術雑誌や報告書、研究書、また社会科学分野の関連文献などを収集整理し、調査研究やその普及に活用する。
(c) 鳥類の生息状況と生息環境、保護活動のデ-タベ-ス作成
  本会が実施した調査結果や会員からの報告をまとめ、保護活動や調査研究活動に必要なデ-タベ-スを作成する。
3) 報告
   会員や職員の研究成果を公表できる機会を充実させたり、自然保護や環境保全関連の団体や研究者などに研究成果を広く伝えるために、以下のことを行なう。
(a) 研究誌の発行
  日本野鳥の会の事務局や支部、会員などが実施した調査研究の成果を公表するために、研究誌「Strix」などを発行する。それらに収録する論文は、鳥の生態にかかわるものや、自然保護活動の必要性や実施例について述べたものなど、会の調査研究の目的を達成する内容とする。
(b) 学会などでの発表
  鳥類学関係者や自然保護、環境保全に従事する研究者や技術者に広く成果を知らせるために、鳥類学、生態学、環境保全学、環境教育に関連する学会の大会などに参加し、また、学会誌などに論文の成果を発表する。
(c) その他の報告
  日本野鳥の会の会員に対しては、会の会誌を通して報告する。社会一般に対しては、調査研究の成果をわかりやすく広めるため、雑誌や新聞の記事、原稿や取材依頼、講演会の講師依頼などに協力する。

5.企画事業活動

(1) 目的
   自然保護団体の諸活動を進めるに当たって、理念や方法論を充分に検討しなければならないことは当然であるが、これと並んで重要なことはその活動を実施するに当たっての資金確保の方法論と活動である。従って、日本野鳥の会は企画事業活動を会の主要な活動の一つとして位置付け、会の自然保護の諸活動や組織運営の資金を調達すること、また、商品およびその販売などを通じて普及活動を側面から支援することをその目的とする。
(2) 対象
  会員及び広く一般を対象とする。
(3) 地域的範囲
  活動の地域的範囲は特に定めない。日本と、保護団体の企画事業活動支援を目的としてアジア諸国を主な活動範囲とする。
(4) 基本方針
   日本野鳥の会は自然保護団体であるから、一般の営利企業と異なる明確な方針と方法論が必要である。つまり、野鳥や自然に関する書物、物品の販売、様々なイベントなどの企画は自由に考えるべきであるが、それがいかに収益につながる可能性があっても、趣旨目的が自然保護と対立するものは会として実施しない。また、販売物やイベントの多くは野鳥や自然保護に関わるものであるため、それらに自然保護に関するメッセージや入会促進などを可能な限り積極的に取入れたりして、販売物やイベントそのものに自然保護の普及活動の視点を活かした企画事業を進める。
(5) 内容
1) 野鳥や自然保護に関する出版物の企画、発行、販売
2) 野鳥や自然保護に関する物品の製作、販売
3) 保護活動の募金などキャンペーンの企画、実施
4) その他

6.総務活動

(1) 目的
   自然保護の社会的活動、普及活動、研究活動、企画事業活動という日本野鳥の会の自然保護活動を効果的に進めるには、自己研鑽を奨励し、優れた人材を育成すると共に、その人材が活躍出来る組織を確立する必要がある。従って、日本野鳥の会の総務活動は、上述の4活動を支え、会の活動が効率よく円滑に進むように活動の取りまとめや調整を図り、また全国の支部・会員との連絡調整を行う。さらに、会の活動が正しく理解されるための広報を行い、また活動が効率的に進むよう関係団体などとの日常的な連絡調整を目的とする。
(2) 対象
  主な対象は役員、職員、支部、会員などであるが、内容によっては一般、他団体も対象となる。
(3) 地域的範囲
  特に定めない。
(4) 内容
1) 役員との連絡調整
2) 支部、会員との連絡調整
3) 事務局内の総合的な調整
4) 職員研修
5) 関係団体との連絡調整
6) 情報収集、広報サービス
7) その他

1992.9.11.完